俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド

5-19【ドラゴンの幽体離脱】

俺が目を覚ますと真っ白な世界に立っていた。

足元は白い霧に覆われているが、熱さも寒さも感じられない。

空も大地も白い。

白いだけの世界だった。

まるで天国に居るようだ。

えっ、天国?

ここが天国なのか~?

あれ、前にも来たことあるような、ないような?

いや、ない。

ないはずだ。

そんな気がするけれど?

デジャブ?

まあ、いいか。

とりあえず俺はどうしたら良いのかな?

三途の川があれば渡れば良いのだけれど、ここにはそれらしき物は見当たらない。

やっぱり川どころか真っ白な雲しか見当たらないぞ。

あれれ、この考えもデジャブ?

あっ、俺、全裸じゃんか?

チンチロリンがブラブラの丸出しだな~。

てへぺろ~。

なんだろう、この呑気な気分はさ?

てか、俺、なんでここに居るんだ?

死んだのか?

いやいや、死んだ話は前の前だぞ。

もう、死んではいないはずだ。

じゃあ、なに?

何があったっけ?

確か、目が覚めたら体の傷が全回復していて、腹が減ってたからチゲ鍋を食べて……。

チゲ鍋?

そこからだ……。

そこから今一ながら思い出せないな?

なんだか怪しくって邪悪な妖精になっていたような……。

あれ、誰か居る?

雲の向こうから、人がやって来るぞ?

一人だな?

なんだろう?

おや~、子供かな?

うん、やっぱり子供だ?

人間の子供が一人で歩いて来るぞ?

何故に子供が、こんな雲しかないような天国に居るんだ?

あれ!?

何か苦しみ出したぞ!!

子供が喉をかきむしりながら苦しんでいる!?

ええっ!?

変わり出したよ!?

変身したぞ!?

なんだ、こいつは!?

子供がゴブリンに変わったぞ!!

しかも俺に襲いかかって来る!?

えい!?

とりゃ!!

ドスコーーイ!!

撃破!!

弱くね?

所詮はゴブリンだよな?

あれ……。

なんだ?

目が……覚める?

暖かいな……。

「こ、ここは……?」

『おはようございます。目が覚めましたか?』

あれ、ドラゴンの幽霊じゃあないか?

なんで俺はソファーで寝てるんだ?

『あなた、これを食べましたね?』

そう言いながらドラゴンの幽霊は、暖炉に吊るされた鍋を指差した。

確かあれはチゲ鍋だな。

旨かったぞ。

『チゲ鍋……。違いますよ。これは私が作っている開発中の新薬です』

新薬?

ニューポーション?

『そう、ポーションです』

チゲ鍋じゃあないの?

『まだ、材料を全部は入れていない物でしたが、この段階で人間が口にすると邪悪なゴブリンに変化するとは思いませんでしたよ』

ゴブリンになる?

言っている意味が分からんな。

『覚えてないのですか?』

ぜんぜん覚えてませんがな?

『お腹が空いているのですか?』

いや、なんか夢の中でチゲ鍋を食べた気がするからいいや。

『まったく、もう』

何故に呆れるのだ、ドラゴンの幽霊?

『そうだ、そろそろですね、そのドラゴンの幽霊って呼び方はやめませんか?』

じゃあ、なんて呼べばいい?

『テイアーでお願いします』

テイアーって、長母音?

「違いますよ」

じゃあ、ティーターンの十二神?

『なんでそれを知ってるの?』

ラノベで読んだことがある。

『ラノベ?』

それは知らないのね。

『あと、もう声が出せるはずですよ』

「マジで!」

あ、出た!?

『心が読まれたくなければ、言葉を使うことですね』

今さらいいや。

『いいの?』

うん、どうせエロイことは考えられないし、バレてることはバレているからな。

『潔いわね。それとも羞恥心が、ないのかしら?』

よく言われるぜ。

『どっちを?』

両方ともかな~。

『なるほど……』

それでだ、テイアー。

改めて言わせてもらうぞ。

『何かしら?』

助けてくれて有り難う。

俺は深々と頭を下げた。

『いえいえ、いいのよ。私にも企みがあってのお助けだったのだもの』

なに、それ?

『私のお願いしますを聞いてくれますか?』

言いながらテイアーは最初に会った時の女性の姿に容姿を変えた。

痩せてて美しいが、貧乳の美女へ。

やっぱり貧乳キャラじゃんか。

それよりだ。

「お願いってなんだよ?」

俺は声に出して訊いてみた。

『私を助けてもらいたいの』

「助ける?」

『正確には、私の身体を助けてもらいたいの』

悩ましげに身体をくねらせるテイアーが色っぽい。

「か、身体ですか!?」

貧乳だけど美人さんなのは間違いないし!!

ぐっはっ!!!

うがぁぁぁあああがあがが!!

おーちーつーけー!!

まーけーるーなー、おーれー!!

ふぅ~~~……。

ぜぇはー、ぜぇはー。

やぁ~べ、血を吐いたわ……。

『ああ、そう言う意味じゃあないのよ』

「どちらかって言ったら、そう言う意味のほうが俺としては嬉しいのだ、がっはぁあ!!」

また、血を吐いちゃったわ……。

あれ、これはチゲ鍋か?

『正確に述べると、私は今現在、身体と精神が別々に行動しているのよ』

「身体と精神が別って、幽体離脱か?」

『それに近いわね』

なるほど、それで幽霊みたいなんだ。

『そこで身体に帰りたいのだけれど、ここ二百年ぐらい、身体の前の通路に英雄クラスのアンデッドが居てね。それが邪魔で身体に戻れないでいるのよ』

「アンデッドなんて自分で蹴散らせばいいじゃんか。お前は最強生物のドラゴン様だろ」

『それが出来ないから、あなたに頼んでるのよ』

「何故に出来ない?」

『私は現在精神だけが動き回ってるの』

「ゴーストなんだろ。見れば分かるが?」

『そして精神だけだと魔法しか使えないの。腕力を有する行動は肉体の役目だから。ドラゴンの体があればブレスだって吐けるんだけどね』

「うむ、それも理解できるが?」

『そして私の使える魔法は幻術や精神攻撃系の魔法のみなの』

「あー、男女に変身とか、スリープクラウド見たいな精神攻撃の魔法ね」

『それだと精神魔法が無効なアンデッドを倒せないのよ』

「なるほど~。なかなか面倒臭い体質だな~」

『しかも、その英雄クラスのアンデッドはマジックアイテムやらを装備しているから、霊体でも傷付けられるの』

「あー、そう言うことか」

『まあ、ざっと言えばそう言うことなの』

「自分の攻撃は効かないけど、相手の攻撃だけは全部喰らうのね』

『そうなのよ。ちょっとしたアンデッドなら魂だけでもやり過ごせるけれど、英雄クラスとなると、ちょっと危険なのよね』

「確かにな。ドラゴンの身体があれば一捻りなのにな」

『うんうん、そうなの。だからあいつらを全員倒してもらいたいの。私が安全に身体まで帰れるようにさ』

「あいつら?」

『そう、英雄クラスのアンデッドは三体居るわ』

「三体もか?」

『私の身体が眠っているエリアに入る通路に三体巣くってるの。最初は誰かがその内に倒してくれるだろうと思ってたけれど、逆に増えたのよね。この二百年の間にさ』

「それは困った話だな」

『もしもそれがあなたに果たせたなら、地上に出てベルセルクの坊やに会ってあげるわよ』

「マジで!?」

『もう、このダンジョンにも千年以上は住んでるから、飽きたしね。身体が戻ったら引っ越しのついでにベルセルクの坊やに会ってあげますとも』

「うし、分かったぜ。その三体の英雄アンデッドは、俺が倒してやるぞ!」

これはこれでミッションクリアに近付いた気がするぜ。

いや、三体の英雄アンデッドを倒さないとならないから、遠ざかったのかな?

まあ、とにかく、進展は進展である。



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