俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド

4-25【雨降る乾燥地帯】

俺が会計士のマヌカハニーさんからの仕事を受けて二日目の話である。

俺は目的地である初心者用ダンジョンを目指して乾燥地帯の広野を一人で旅していた。

今居るのは目的のダンジョンまで、あともう少しぐらいの場所である。

現在のところ、名も知らない森の中だ。

そのネームレスな森の中で足止めを食っている。

足止めの理由は雨だ。

雨が降っているのだ。

ソドムタウンの周辺は乾燥地帯が多い。

あまり纏まった雨が降ることが少ない。

しかし俺が旅立って二日目に雨が降りだした。

しかも、そこそこ強い雨だ。

豪雨に近いだろう。

俺は進むのを諦めて、森の中で雨宿りをして居る。

平たい岩が二枚あり、人の字型に重なって立っている場所を見つけたので、その三角形の中で雨宿りをして居た。

二枚の岩は隙間無く重なり合い雨が入ってこない。

しかも土台も少し高いのか、足元に雨水が溜まらないでいた。

なんとも有難い雨宿りポイントである。

人の字岩から外を見れば、まだ昼ごろなのに辺りは薄暗かった。

森の中とはいえ暗すぎる。

雨雲が太陽を完全に隠しているようだ。

雨のせいか少し肌寒いので、俺は焚き火を炊いていた。

薪ですら異次元宝物庫に沢山保存してあるから、いくらでも燃やし放題なのだ。

えっへんである。

雨の日に乾いた薪が無限にあるなんて便利この上ない。

それにしても──。

もう少しで件の初心者ダンジョン遺跡なのだが、今日はそこまで行けないかも知れないな。

今日はここで時間潰しになりそうだ。

俺だって雨に打たれて旅をするのは嫌だからね。

風邪なんて引きたくない。

そんなこんなで、俺は諦めムードのまま森の中を、ただただ暇そうに眺めていた。

ここ数日間でしばしば、諦めムードが多いやうな気がするな。

気のせいかな~。

そしてしばらくの間、何もない静かな森に雨の音だけが聞こえていた。

もう弟のマヌカビーが消えてから七日が過ぎている。

非常食を持ってたとしても、飢えや喉の乾きを堪えられる期間は過ぎている。

何らかの幸運でもない限り、かなりの高確率で死んでいるだろう。

まあ、生きていればラッキーかな。

俺は異次元宝物庫から件のダンジョンマップが描かれた羊皮紙を取り出した。

マップを眺めながら思ったが、迷うようなダンジョンでもない。

素人冒険者でも、これで迷子はないだろう。

初心者ダンジョンの間取りは十字路が三つ、大小の部屋が七つだ。

今回巣くっていたモンスターはゴブリンだったらしいが、前の初心者パーティーズに壊滅されている。

事件は、その後の探索中に起きたハプニングだ。

本当に思いがけないハプニングだったようだな。

マヌカビーが消えた割れ目はダンジョンの最奥の部屋にあったらしい。

貰って来たマップにもバツのマークがふられていた。

羊皮紙のマップからでは怪しいところは分からない。

やはり現地に入ってちゃんと自分の足を使って調べないとならんだろう。

──に、してもだ。

この雨がやまないと、どうにもならんな。

雨に濡れながら森を進むのは、やっぱり嫌だしさ。

風邪を引いたら嫌だもの。

まさかこんな乾燥地域でこんなに纏まった雨が降るなんて思っても居なかったから、傘もカッパも持って来ていない。

おそらく数年ぶりの大雨なのではないだろうか。

まあ、雨がやまなかったらここで野宿かな。

んん?

なんだ?

俺がぼんやりと考えていると、人の字岩の向かいの森に何かがポツンと踞っていた。

動物だ。

あれは、猿かな?

猿ルルルかな?

ジィーーと踞ってこちらを見ていやがる。

結構な体格だ。

俺より若干小さいぐらいだろうか。

でも、それだと猿にしてはデカイんじゃね。

マントヒヒかな?

いや、日本猿っぽいよな。

そして猿はただじっと踞って俺のほうを見ていた。

なんだろう。

焚き火の炎が怖くて近付けないのかな?

それなら焚き火を絶やさないぞ。

だって猿って結構狂暴なんだもの。

しかもアイツはかなり体格も良いし、流石に怖いわ。

何より可愛くないよ。

んん、尻尾が動いた。

ニョロニョロと……。

なに、あの尻尾?

蜥蜴の尻尾みたいに鱗が貼ってない?

しかも蛇みたいにさ、かなり長いやんけ?

あの猿ってもしかしてさ、モンスターなの?

もう、動物を通り越してモンスターなのかな?

だとすれば、俺を食べようと狙ってますか?

俺は寄り掛けて置いたバトルアックスを手元に動かす。

さて、どうする?

アイツは襲って来るのか?

この辺のモンスター事情は詳しく知らないけれど、初心者パーティーがダンジョンに討伐依頼を引き受けるぐらいの土地だから、モンスターは対して強くもないだろう。

しかも猿ルルルは一匹だしね。

襲われても余裕で討伐できるさ。

なーーーんて、考えながら早くも一時間ぐらいが過ぎました。

それでも俺と猿とのニラめっこは続いていた。

雨はやまないし、猿ルルルはガン見したままだし、流石に気が休まりませんわーー!!

なんですか、アイツは!?

なんかムカつくわーー!!

一時間ですよ!!

なんで一時間も雨の当たるそんな場所から俺をガン見し続けますかね!!

こっちが精神的にやられますわ!!

石でも投げて追っ払ってやろうかしら!

あれーー、この辺には手ごろな石が落ちてませんわ~。

畜生、なんなんだよ!!

あの猿ルルルはよ!!

もしかして俺が気疲れするのを待ってますか!?

上等じゃあねえか!!

受けてやるぜ!!

このままガンの附け合いを受けてやるぞ!!

おらーーーーーーー!!!

そして、二時間が過ぎた。

なーんーでーー!!!

なんで、あの猿ルルルは動かない!?

もう二時間もあのままだよ!?

なに、野生って二時間も雨に当たってても大丈夫なんですか!?

もーーやだ!!

石がないなら魔法でも撃ち込んでやろうかな!!

たぶん魔法なら届く距離だよね!!

俺が魔法を撃とうと手を翳した刹那だった。

俺の背筋にゾワゾワっと寒気が走る。

その理由は……。

なに、あれ……。

猿ルルルの背後で複数の瞳が光る。

森の中から複数の猿ルルルが姿を表したのだ。

その数は三十匹から五十匹は居ただろうか。

その数が元から居た猿ルルルの側に止まりこちらを見ている。

うわ~~~。

数が多いよね~~。

流石にこの数に襲われたら俺一人では対処出来ませんわ~~……。

お願いだから、こっちに来ないでね~……。

あの猿ルルルはいったいなんて言うモンスターなんだろう。

それが分かれば対処の仕方もあるんだけどね~。

でも、あれだけの群れなのに襲ってこないってことは、友好的なモンスターなのかな?

んん、動いたぞ!

最初っから居た猿ルルルが数歩だけ前に出た。

そして、右手を上げる。

うわぁ~~、やばそうだ……。

そして、猿ルルルが吠える

「キィキィーーーー!!!」

「「「キィーーーーー!!!!」」」

どぉわぁーー!!

猿ルルルどもが一斉に走り出しましたわ!!!

やべーー!!

逃げろーー!!!

俺は後方に全力で走り出していた。

流石にあの数とは戦えない。

後方から猿ルルルの大群が追いかけて来る地鳴りが聞こえてきた。

走れ、俺!!

負けるな、俺!!

そうだ新魔法だ!!

「新魔法、オーバーラン発動!!」

【魔法オーバーランLv1】
一分間、レベル回数分だけ、走るスピードがアップする。

「どらーーーーー!!!」

俺は鬼のスピードで森の中を走り抜けた。

速いぞ!

この魔法は、格段に速いぞ!!

追って来る猿ルルルたちとの距離が遠ざかって行った。

これなら逃げきれる!!

っと、思ったころに魔法の効果が切れた。

一分間って短いよね!!

あっちゅ~まだわ!

俺の走る速度が格段に落ちる。

そのまま逃走を続けたが、徐々に猿ルルルたちとの距離が縮まって行った。

「やーばーいーー!!」

あいつら猿ルルルの癖に足が速いやんけ!!

流石は野生だな!!

このままだと追い付かれますわ!!

おお、遺跡が見えて来たぞ!!

ダンジョンに逃げ込もう!!

その時に俺の背中に猿ルルルの手が迫っていた。

そして、俺のローブが猿ルルルに捕まれそうになった瞬間である。

俺はダンジョンにヒョーーンと飛び込んだ。

石畳の上で躓き俺が派手に転んだが、猿ルルルたちは遺跡ダンジョンの中には入ってこない。

牙を剥いて唸りながら入り口の外でウロウロとしている。

「あいつら、この中には入れないのか?」

そう見たいだな~、ニヤリ。

俺は微笑みながら異次元宝物庫からロングボウを取り出した。

ニンマリしながら弓の弦を引く。

「安全なここから遠距離攻撃だぜぇ!」

それを見ていた猿ルルルたちが奇声を上げながら逃げ出した。

雨降る森の中に消えて行く。

辺りに雨が降る音だけが響いていた。

もう、猿ルルルの気配はしない。

ちっ、結局目的地に到着しちゃったよ。

まあ、いいか──。



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