俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド

3-10【洋館に巣くうモンスター】

俺は先に進むワイズマンの後ろに続いて冒険者ギルドの二階に登る階段を上がっていた。

俺の微妙な記憶が確かならば『ワイズマン』って単語は『賢者』とか『魔法使い』って意味だったと思ったんだが、このモッチリしたおっさんは商人であって、魔法使いでも賢者でもないよな?

しかも顔からしても威厳が少ないオタク系のデブキャラだ。

なのになんでワイズマンとか格好良く名乗ってるの、このデブはさ?

ただの見栄っ張りなのかな?

まあ、いいか──。

どうせ他人の名前だからな、誰が何と名乗ろうと関係無いか。

そもそも馬鹿親が名付けたキラキラネーム的な名前なら本人に詰みはないしね。

とりあえず俺たち二人はギルマスの部屋を訪ねる。

もっちりワイズマンが扉をノックすると部屋の中から招き入れる返事が聞こえた。

約束通りギルガメッシュは居るようだ。

俺たちは招かれるままに部屋に入った。

するとマホガニーの机の前で、書類の山を前にしたギルマスのギルガメッシュが仕事に励んでいた。

難しい顔をしながら、一枚一枚山詰みの書類に目を通している。

どうやら今日は真面目に仕事をしているようだが、何故かいつもの上半身裸にサスペンダーで乳首だけを隠しているモヒカンルックではなかった。

何故か昨日のウエイトレス姿のままだった。

どうやら変態継続中のようである……。

するともっちりワイズマンが訊く。

「ギルガメッシュ殿、その成りは?」

ナイスである。

俺も訊きたかった疑問だ。

この変態オヤジは何故に着替えていないんだよ。

気に入ったのか?

するとギルガメッシュが眉間を摘まみながら答えた。

「いやな、昨日から一睡もせずに仕事の書類整理をやっていたら、着替えるのを忘れてしまったしだいで」

ワイズマンは顎の贅肉を片手でタプタプと撫でながら問う。

「いやいや、昨日は何してたんですか、変態プレイですか?」

そうだよね……。

昨日の事情が分からない以上はそうなるよね……。

でも、変態に変態とか言われたくないものだ。

それにしてもギルマスは昨日から徹夜で仕事をしてたんか。

きっと、無理して酒場の仕事を手伝っていたんだな。

あれ──?

そういえば、部屋に入って気付いたんだが、パンダの剥製がない?

どこにやったのかな?

台座だけが残されている。

「まあ、私の仕事は後にしようか。まずは三人で依頼の話に入ろうか。二人ともこちらに──」

そう延べるとギルガメッシュが応接セットに俺たち来客を導く。

あらあら、やっぱり今回の依頼にもっちりワイズマンが絡んでいる様子だね。

俺たち三人が応接セットに腰かけると部屋の扉が開いてパンダの剥製がお茶をお盆で運んで来る。

ゴーレムにお茶運びとかさせんなよ。

それにしても、すげーシュールだな。

てか、もっちりワイズマンはパンダがお茶を運んできても動じていない。

不思議じゃあないのかな?

平然としてやがる。

しかもパンダはお茶を運び終わると定位置の台座に戻って剥製らしいポージングを取ってから動かなくなった。

でも、お盆は持ったままである。

やっぱり、あのパンダの剥製が欲しいわ。

いくらぐらいでさ、何処に売っているのかな?

まあ、それは置いといて、なんやかんやで仕事の話が始まる。

「アスラン、もうワイズマン氏とは知り合いのようだね。それなら自己紹介は省こう」

「ああ、さっそく仕事の話に入っていいよ」

「今回の仕事の依頼人は、こちらのワイズマン氏だ」

やっぱり~。

そうだよね~。

「仕事の内容は──」

「それは直接私から話そう、ギルガメッシュ殿」

途中から割って入ったワイズマンが話を引き継ぐ。

「先日の話なんだが、このソドムタウンの近隣に、中古別荘を購入したのだ」

遊びのための拠点作りかな?

「しかし、その中古別荘を改築するために大工に依頼したらだ──」

そこまで語るとワイズマンは一度お茶を啜る。

「改築を依頼したら、なにさ?」

「なんと購入した洋館にモンスターが巣くっているらしく、改装作業が出来ないとのことだ」

俺が手っ取り早く結論を出す。

「早い話が、町外れの空き洋館にモンスターが巣くってるから、冒険者の俺に退治してくれと?」

「そうなるな」

おお、なんとも冒険者らしい仕事だぜ。

こう言うのを俺は求めていたんだよ!

いいぜ!

格好いいぜ!

「引き受けよう!」

「まだ、どんなモンスターが巣くってるかも分からないのにかね?」

「それを調べるのも冒険者の役目だろ!」

「それに、まだ、報酬の話もしてないぞ?」

「報酬など二の次だ。まずは冒険らしい仕事がしたいのだよ、俺はさ!」

「キミは冒険者の鏡だな。気に入ったぞ」

そこで俺のほうから唯一の条件を出す。

「ただし、モンスターが持っているお宝だけは、俺がすべて頂くが構わないかな?」

ハクスラスキルが発動すれば、マジックアイテムが安定量だけ手に入るはずだ。

それは報酬よりも高額になる可能性が高い。

それだけは一人占めしたいのだ。

「ああ、構わない。そもそも洋館は中古で購入してものけの殻だったから、屋敷内にあるものはすべてはモンスターが持ち込んだものだろう。それらの権利はキミに譲渡しよう。どうせガラクタばかりだろうからさ」

普通の考えはそうだろうな。

だが、甘いな!

俺のハクスラスキルはガラクタから高確率でマジックアイテムを掘り出すチートスキルだ。

これが依頼料より高額の報酬になるのだよ。

「流石は慈善家だね。お金にはガメつくないな」

「ただし、報酬の支払いはなしだ」

「むむ~……、やっぱりガメついじゃん……」

「まあ、私とて商人の端くれだ。譲れないこともある」

「そのぐらい譲れよ……」

ここでギルガメッシュが話に加わる。

「まあ、その条件でいいのではないかね、アスラン。キミは冒険が楽しめて、モンスターが残した財宝を頂く。片や、ワイズマン氏は屋敷の掃除が済んで万々歳だ。──だろ?」

「まあ、そうだな」

「うむ、確かに」

しかし、ギルガメッシュが凄んで言う。

「だが、我々冒険者ギルド側としては問題がある」

「それはなにかね、ギルガメッシュ殿?」

「そこには、冒険者ギルドに収める報酬が含まれていないだろ」

「「なるほど」」

それから話し合いが進み、条件が纏まった。

冒険者ギルドへの依頼料はワイズマンが500Gほど冒険者ギルドに払うことになった。

最初は300Gと渋っていたワイズマンも譲歩して500Gに纏まる。

金持ち商人なんだから、そのぐらいケチるなよって感じである。

何が慈善家の商人だ。

メチャクチャにガメついじゃんか。

500Gぐらいさっさと払えよ、もっちり変態め。

ケチるからモンスター付きの事故物件のような中古ハウスを売り付けられるのだ。

ちなみによくよく話を訊いてみたら、訳有り物件を進めて売り付けたのは、不動産屋のミーちゃんらしいのだ。

あんな馬鹿不動産屋のスイッチ娘に騙されるなんて、ワイズマンが大富豪まで上り詰めたのも運だろうさ。

絶対に実力じゃあないよねって俺は予想した。

そして件の洋館の場所は、ソドムタウンの近隣にあるらしいので、これから俺一人で出向いて軽く調査だけでもしておこうかと考えた。

どんなモンスターが巣くってるかによって作戦を考えようと思う。

もしも、ゴブリンやコボルトのようなザコなモンスターなら、そのまま即に退治しても良いだろう。

ザコになら作戦すら必要ない。

とにかくだ──。

俺は件の洋館を目指した。

件の洋館はソドムタウンから1キロぐらい離れた森の中に建っているそうな。

ちゃんと道が続いているから迷うことはなかった。

森の中に入った俺は【気配消し】と【忍び足】のスキルを駆使しながら道を進み、件の屋敷に接近する。

見えて来た洋館は、三階建ての大きな建物で、外から見ただけで部屋の数は20から30ほどはありそうだった。

建物自体は古そうだったが、改装すればいくらでも使えそうな外観である。

俺は警戒しながら洋館に接近した。

まだ、どんなモンスターが巣くっているかも分からないのだ。

この偵察で敵の戦力を、きちんと把握したいものである。

すると、洋館の陰から何かが飛び上がり屋根の上に着地する。

それを見た俺は、思わず本音を口に出した。

「でけ~な~……」

そう、それは大きな赤いドラゴンだった。

屋敷の屋根に止まって居るのは、全長30メートルはあるドラゴンだった。

大きいね~……。

止まった屋根瓦が軋んでいますよ。

それにしても──。

凛々しい翼。

凛々しい体格。

凛々しい赤い鱗。

凛々しい長い首。

凛々しい龍顔。

凛々しい牙。

何を取っても凛々しいビジュアルだった。

たまに口から火を吐いている。

レッドドラゴンかな?

絶対に、屋敷には入りきらないサイズだから、屋敷に巣くっていると言う表現は間違いだろうさ。

だから、この森に巣くっているドラゴンって言う表現が正しかろう。

それ即ち──。

屋敷のモンスターとは別件だよね?

屋敷と関係無いよね?

俺が今回討伐する対象じゃあないよね?

あんなの倒さなくってもいいよね?

戦わなくったっていいよね?

いきなりキング・オブ・モンスターなドラゴン様が現れて、レベル10の若輩な俺と対決しようなんて、無謀な話はないよね……。

そんな、ハードルがメチャ高い試練を神様は与えませんよね。

てーかーよー!

無理だ!

ぜってーに、無理だ!

20メートルの主級リバーボアですらギリギリだったのに、火を吐く30メートルのレッドドラゴンなんて無理だよ!!

ぜってーに、戦わないからな、俺は!!

そんな感じで俺がレッドドラゴンを遠目に観察していると、レッドドラゴンは薄い魔法の光を放ちながらサイズを縮め始める。

その身長は2メートルもない。

なに?

なにが起きてるの?

だいぶ縮まったな……。

すると身体を小さくさせたレッドドラゴンは、屋根から入り口前に着地すると、器用に前足を使って扉を開ける。

そのまま屋敷に入って行った。

まるでマイホームに帰宅するようにだ。

しかも、丁寧に扉まで閉められる。

あー……、住んでるよ。

ここにさ……。

完全に住んでますね……。

あれが今回のターゲットだわ……。

「こ、これは厄介な仕事になりそうだぜ……」



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