俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド

2-9【ミッション失敗】

俺たち四人のパーティーがゴブリン退治の依頼でタババ村を目指してソドムタウンを出発してから初の夜が来る。

パーティーのメンバーは、戦士のクラウド、僧侶のクララ、レンジャーのリックディアスだ。

あれ、ただのリックだったっけな?

まあ、名前なんか何でも良いだろう。

俺たち四人組の初心者パーティーは、殺風景な草原を歩いて進み、何事もなく夜が訪れたので、岩陰にキャンプを張って夜を過ごすことになった。

ここなら風だけは若干だが凌げる。

焚き火を炊いて、そこでリックドムがコーンスープを作ってくれたので皆で温かく頂いた。

あれ、名前はリックディアスだったかな?

まあ、何でもいいか~。

俺たち四人は闇夜の中で焚き火を囲みながら輪になっていた。

だらだらと火に当たりながらコーンスープを啜る。

そうこうしている間に何故かクラウドが剣技自慢を始めたのだ。

すると負けじとクララが神殿では優等生だと自慢を始めたので、俺も負けじとシミターを取り出しマジックアイテムだと自慢してやった。

その間、たいした自慢話がないのかリックはひたすらに聞き役に徹していた。

そして、夜も更けたので寝ることになる

睡眠中の見張りは交代で行うことになった。

一番手をリックが志願したので、次の順番はジャンケンで決めた。

二番目はクララ。

三番目はクラウド。

四番目が俺だった。

見張りの順番が最後なので俺はさっさと寝る。

そして、気が付けば朝になっていた。

朝になり俺が目を覚ますと、異常に気が付いたが、俺は冷静に振る舞った。

皆もだ。

するとクラウドが話し掛けて来る。

「これはどう思う、アスランくん?」

「ああ、俺は以前にも経験があるからな。その時より状況はましだ」

俺たちの会話にクララも加わる。

「でも、これってあんまりじゃないの?」

「僕もそう思うよ」

「まあ、こんなこともあるさ。俺は慣れてる」

「アスランくんは経験豊富だな。僕は冒険すら初めてだから、こんな経験も初めてだよ」

「私もよ」

「でえ、何が原因だと思う。お前らは?」

「おそらく昨日の晩の自慢話が原因じゃあないのかな?」

「クラウド、お前もそう思うか」

「やっぱりシミターの予想金額を述べたのが失敗だったと思うよ、アスランくん」

「お前が言ったんじゃんか、クラウド」

「ああ、そうだね。すまない」

「あそこでシミターの値打ちが5000Gとか言わなければな」

「本当に、すまないと思っているよ……」

「で、アイツの名前はなんだったっけ。リックドムだっけ?」

「違うよアスランくん。リックディアスだよ」

「二人して何を馬鹿を言ってるの。ただのリックよ、リック!」

「どうでもいいや……」

「「「はぁ~~……」」」

俺たち三人は、同時に深い溜め息を吐いた。

その後に青空を見上げて沈黙に静まる。

誰も動かない。

座ったまま黙り込んでいた。

その理由は、リックの野郎に全員の荷物を持ち逃げされたからである。

しかも、全員がロープで上半身を縛られているのだ。

「アスランくん。キミの被害はどのぐらいだい?」

俺は縛られた状態で荷物にすりよると確認した。

「シミターとショートソードに、食料を全部持ってかれたな……」

「僕は武器と防具、食糧と現金を全部だよ……」

「私もメイスに防具、それに装飾品とお金、食糧も取られているわ……」

「お前ら二人は寝る前に防具を脱いでたからな」

俺だけが防具を脱いでいなかったから革鎧は無事である。

「失敗だったわ……」

「それにしても全員根こそぎだな……」

俺の僅かな金だけは手の中に吸い込んであったので無事であった。

だが、目新しい荷物はすべて持っていかれた。

リックディアスの野郎に盗まれたのだ。

持ち逃げである。

「はぁ~……」

俺は火の消えた焚き火の側に放置された食器を眺めながら言う。

「多分だが、昨日の晩飯にアイツが作ったコーンスープに睡眠薬が入ってたんだろうな」

「なるほど、それで僕らは縛られても起きないぐらいに熟睡してたってわけか」

「さて、これからどうするんだ?」

「まずはロープをほどきましょう」

「だな……」

それからしばらくしてクラウドのロープが力任せでほどけたので俺たちのロープもほどいてもらった。

クララが怖い顔で述べる。

「あの泥棒野郎を、早く追い掛けましょう!」

それを俺は止める。

「ダメだ。もう追い付かないな」

「なんでよ。泥棒を逃がすつもり!」

「アイツが食糧を全部持っていったのは、食いしん坊とか、がめついとかじゃあねえよ。俺たちに追跡させないためだ」

「なんでよ!?」

「どう言うことだい、アスランくん?」

ああ、こいつら馬鹿だな。

てか、情報社会でいろんなドラマや物語を見ていないから知識が低いのか。

まさに初心者の冒険者である。

とにかく俺は追わない理由を二人に分かりやすく教えてやった。

「考えてみろ。もしも一日以内に、アイツに追い付けなかったらどうする。食料がなければ飢えるだろ。今ならまだソドムタウンには引き返せる。でも追ってアイツを見つけられなかったら荒野のド真ん中で水もなく放浪するはめになる。それは地獄だぞ」

「なるほど。だから食料まで持ち去ったのか……」

「そうそう、追わずに引き返せって言うメッセージなんだ」

「でも、悔しくないの!?」

まだクララがブヒブヒと怒っていた。

「あの野郎は、もうソドムタウンに戻らない覚悟で裏切ったんだ。もう二度と出合うことはないだろうさ、多分な」

「そうなりそうですね……」

盗まれた荷物を諦めた俺がトボトボと歩き出すとクラウドも続いた。

しばらくして、やっと諦めが付いたクララも続く。

俺たち三人は肩を落としながらソドムタウンに引き返した。

ミッション失敗である。

だが、完全失敗ではない。

俺はソドムタウンに到着したら魔法のバンダナを売った残りの資金を使って、直ぐに冒険の装備を整え直す積もりだ。

そして、直ぐにタババ村に再出発しようと思う。

一日二日の遅れぐらい問題無いだろうさ。

そのぐらいでミッションを諦めたくない。

俺が二人に再出発の件を話して誘ったが、見事に断られた。

クラウドは資金もやる気もなくなったらしく、クララは裏切られたのがショックで精神的に立ち直れないとかだそうな。

まあ、元々は一人で受ける積もりの依頼だったから、二人が居なくても気にはしない。

俺は一度受けた仕事を達成したいのだ。

途中で諦められない。

例え何度も装備を失ってもだ。

前の世界では、夢もなく将来の希望もなく、自然と多くを諦めて過ごしていたのだ。

だから、この異世界では諦めない。

何も諦めたくない。

ここには希望が溢れているのだから───。


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