俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド

1-17【コボルトの報復】

俺は魔女の束縛からインプの手によって解放されると、やっとのことで生臭い地下室を出る。

インプの野郎は仕事が終わるとさっさと魔界スーパーにたまごを買いに行ってしまった。

出来ることなら目的のたまごなんて売り切れていればいいのにさ。

それよりも──。

上の階は派手に燃えていた。

家に火が付けられている。

火の広がりは早く、室内のあちらこちらが燃えていた。

家全体が燃えているに近い。

煙りも酷い。

大炎上だ。

「やばいな!」

俺は焦った。

煙りが目に染みるし喉も痛くて呼吸もしんどい。

それでも慌てて出口を探す。

本当は衣類を調達してから家を出たかったのだが、この炎では堪らない。

衣類を探している余裕はなかった。

何せ全裸に炎は、かなり熱い。

俺だって裸のまま丸焼きにはなりたくない。

とにかく俺は燃え上がる家の中からの退避を優先させた。

そして、出入口は直ぐに見つかる。

そこには一人のおっさんが倒れていた。

右肩から背中に掛けて、刃物でザッパリと切られている。

おっさんは、目を見開いたまま驚愕の表情で死んでいた。

おそらく一撃で絶命したのだと思われる。

そして、おっさんの死体に躊躇する俺の肩に火の粉が振ってきた。

「熱ッ!」

上を見れば天井全体に炎が拡がっている。

頭や肩の素肌が熱でヒリヒリしてきた。

俺は火の熱と煙りから逃れようとしゃがみながら移動した。

「ゲホゲホッ、これはマジで不味いぞ!」

俺は炎から逃れるために、おっさんの遺体を跨いで外に飛び出した。

全裸のままでだ……。

外は夜だった。

辺りを見回せば、他にも燃えている家が何軒かあった。

すると背後の家の天井が崩れ落ちる。

「あ、危なかった……」

あと少し家から飛び出すのが遅かったらペチャンコになった上に丸焼けだっただろう。

それよりもだ。

なんだか村の中が騒がしい。

あちらこちらから悲鳴が聴こえて来る。

女性の悲鳴、子供の鳴き声と様々であった。

そして、月明かりに人々が騒がしく走り回る影が映る。

消火作業に励んでいる様子ではない。

その影の正体は、コボルトたちが逃げまどう村人たちを武器を振り回しながら追い回している光景だった。

殺意に狂うコボルトたち。

丸腰の村人たちは、ただ必死に逃げまどうだけである。

コボルトたちは無抵抗な老人でも構わず殺していた。

慈悲の心もありゃしない。

剣で切り、槍で刺す光景は、まさに戦場の風景である。

いや、戦場でもないだろう。

これは一方的な殺戮だ。

戦いにすらなっていない。

俺はとりあえず武器になるような物を探す。

とある家の壁際に沢山の薪が積まれていた。

その横に薪割り用の斧が置いてあったので、俺はそれを取って武装する。

全裸のままでだ……。

そして、子供を追いかけていたコボルトに向かって走り出す。

追われている子供は、泣きながら必死に逃げていた。

その子は昼間の一人だった。

あの鼻垂れ小僧である。

コボルトは子供を追いかけ回すのに夢中で、横から走り寄った俺に気付いていなかった。

すると終われていた鼻垂れ小僧がコケて倒れてしまう。

その子供を狙ってコボルトがショートソードを高く振りかぶる。

子供を殺す気だ。

「させるか!」

俺は全力で薪割り斧をコボルトの背後から頭部に振り下ろす。

「おらぁッ!!」

「キャン!」

不意打ち成功である。

全力で打ち下ろされた薪割り斧は、コボルトの頭を一撃でカチ割った。

頭を割られたコボルトは、噴水のように血飛沫を上げながら倒れて死んでしまう。

「はぁはぁ、まずは一匹……」

鼻垂れ小僧は尻餅をついたまま全裸の俺を呆然としながら見上げている。

何が起きたのか理解出来ていない表情だった。

「大丈夫だよな?」

俺が訊くと鼻垂れ小僧は、無言のまま一つ頷いた。

「いいか、坊主。どこか目立たないところに隠れてろ」

そう言うと俺は周囲を見回した。

「よし、次に行くか!」

俺は全裸でもコボルトが相手なら楽勝で戦えると感じたのだ。

しかも勝てる。

なんの根拠もないが、そう感じたのである。

防御の装備は要らんだろう。

武器だけでも俺のほうが強いと予感したのだ。

そして俺は、薪割り斧を犬の頭から引っこ抜くと、落ちていたショートソードも拾う。

「魔力感知!」

スキルを使った俺はショートソードやコボルトの死体を見るが、魔力の反応は何もなかった。

僅かな輝きもない。

「ちぇ、しけてるな」

今倒したコボルトはマジックアイテムを持っていないようだった。

ハズレである。

俺が舌打ちを溢していると、仲間が殺られるのを見ていたコボルトたち三匹が、俺に向かって走り出して来た。

「ヤバイ、気付かれたか。もっと不意打ちで数を減らしたかったんだけどな」

コボルトたちは仲間を殺されて怒り心頭のようだった。

狂犬の形相である。

そもそもこの襲撃も、昼間に仲間を殺されたからだろう。

俺にだ………。

そう、コボルトを最初に殺めたのは俺である。

きっとこれは、その報復の襲撃だ。

この村への攻撃は報復戦だろう。

村は俺のとばっちりを受けたのかも知れない。

コボルトたちは村人の誰かに仲間を殺されたのだと、勘違いしているのだろう。

だとするならば、俺には責任がある。

ここでコボルトたちと戦う義務がある。

例え、全裸でもだ!

俺はこちらに向かって走って来るコボルト三匹を、堂々と全裸で待ち構えた。

凛と表情を引き締めると、薪割り斧とショートソードの二刀流で待ち受ける。

「来いや、ゴラァ!」

俺は一つ気合いを声に出す。

そして、残り五メートルぐらいのところでコボルトの一匹に薪割り斧を投げ付けた。

薪割り斧はザクリとコボルトの胸に突き刺さる。

斧がヒットしたコボルトは、もんどりうって倒れ込んだ。

それっきり動かなくなる。

先手必勝の一撃必殺だぜ。

これであと二匹だ!

「うしゃあ、行ける行ける!」

そして、順々に迫るコボルト二匹。

二匹目がショートソードを頭より高く大きく振りかぶったので、俺は素早く腕を限界まで長く伸ばしてショートソードの切っ先をコボルトの胸に突き立てた。

切ると突く。

リーチが一緒でも早いのは突きである。

故に俺の攻撃のほうが先に命中した。

ショートソードの刀身がコボルトの胸に深々と突き刺さる。

手応え有りだ。

背中まで貫通したのが、刺さった長さで分かった。

持っていたショートソードを手から落としたコボルトの重心が、俺のショートソードにのし掛かって来る。

絶命したと分かるぐらいの重さだった。

それよりも、重いし邪魔だ。

その間にも三匹目のコボルトが走り寄って来る。

これは不味いぞ。

刺さったショートソードを抜くよりも、こいつが落としたショートソードを拾ったほうが早そうだったので、俺はショートソードが刺さったままのコボルトの死体を、三匹目に目掛けて蹴り跳ばした。

仲間の死体を避けたコボルトが、僅かに動きを止める。

俺はその隙に、落ちていたショートソードを拾い上げた。

そして、三匹目のコボルトに振るう。

三匹目のコボルトは俺の一太刀をショートソードを盾に使い受け止めた。

ここで、鍔迫り合いが始まる。

だが、こっちは一人だったから呑気に力比べをしてもいられない。

新手が来る前に勝負を決めたい。

なので、一気に攻める。

俺は全力でコボルトを押した次の瞬間にショートソードを引いて身体を横に逃がした。

すると、勢い余ったコボルトが前につんのめる。

更に俺は下段の前蹴りでコボルトの膝関節を外側から蹴り飛ばしてやった。

その下段のトーキックでコボルトの姿勢が大きく揺れたのだ。

コボルトが倒れそうなぐらいふらつく。

その隙に俺はショートソードでコボルトの横腹を切りつけた。

しかし、一撃では決まらない。

傷は浅い。

更にコボルトはよろめくが倒れなかったので、俺は止めの一振りを繰り出した。

コボルトの喉仏を横振りのショートソードでカッ切る。

すると俺の手にサクリと肉を切り裂く鋭利な感触が伝わってきた。

「決まっただろう!」

喉を切られたコボルトは、鮮血を散らしながら苦しそうに倒れ込んだ。

間違いなくの致命傷。

俺の勝ちである。

その時であった。

頭の中に女性の声が響く。

【おめでとうございます。レベル4になりました!】

よし、レベルアップだ。

コボルト一匹が25点の経験値のはずだから、四匹倒して100点だな。

すると現在の経験値トータルは200点のはずである。

ステータス画面を出して確認するまでもない。

て、ことはだ。

レベル5になるのに、あと200点ぐらい稼げば良いのだろう。

合計の経験値が400点ぐらいあれば、次のレベルアップの妥当な数値のはず。

と、なるとだ。

あとコボルト八匹分かな。

まだ辺りには暴れ回っているコボルトたちが沢山居る。

これなら今晩中にレベル5まで達成できそうであった。

レベルアップしながら村を救う。

まさにこれが一石二鳥だぜ。

俺は村人を追い回しているコボルトを、逆に襲うために追い回した。

そして村人を狩るのに夢中なコボルトたちを背後から逆に襲いまくったのだ。

バックスタブスキルが何度も成功してスムーズに狩りは進んだ。

その結果、ばたばたとコボルトたちを狩って行く。

もう食べ放題のようにコボルトたちを狩りまくりだった。

全裸で……。

とにかくだ、レベルアップして、確実に強くなっている実感はあった。

無双は楽しいよね。

これが俺の求めていた無双バトルの異世界転生だぜ。


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