ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

508.英雄に憧れた男と憧れられた男

 真面目とか、良い奴とか、散々言われて育った。

 でも、体良く利用されているという疑念もあって……それを確信させてくれたのが、始まりの村で聞いたギルマスの言葉だった。

 僕はずっと、多くの人間を見下していた。

 でも、自分は見下される側ではないと思っていた――なのに、ギルマスは僕も……奴等と変わらないと断じたんだ。

 僕が見下し続けて来た奴等と――

 でも、もう理解しては居るんだ。マーレちゃんとキューリちゃんを売り死なせた時点で……僕は。

「アテルさんの言うとおりだ……」

 僕は、ギルマスに嫌われる程度の人間だ。


●●●



「舞え踊れ――――”雄偉なる精霊と――つるぎは千代に”」


 肘から先の左腕が竜の頭を模した甲手と一体化し、赤眼持つ白竜のような異形の腕へ。

 この手に握る“名も無き英霊の劍”が、手に入れる際に消えてしまった“ダンサーズ・マスターソード”の刀身に銀の刃と黒い蔦を絡ませたような装飾を刻んだ――赤い柄の白き美剣と成る。

「”竜王剣”! “大地王剣”! “波動王剣”! “振動切断剣”!」

 四つのスキル剣を呼び出し、“雄大なる精霊と剣は千代に”の効果、“剣踊けんよう”で性能を底上げ。

「――ぁぁぁぁああああああッッッ!!!」

 リョウの血の太刀から、莫大な血の奔流が放たれる。

「……そんな」

 だがそれも、俺が交差させて配置した“波動王剣”と“大地王剣”によって難なく防がれた。

 更に、“竜王剣”と“振動切断剣”を飛ばしてリョウに斬り付かせる。

「僕はッッ!!」

 奔流を解いて、再び幾本の鞭と成し、対抗してくるリョウ。

「“光線魔法”――アトミックレイ!!」
「――“黒呪い”」

 四振りの剣を血で弾いた瞬間に意表を突こうとしたのだろうが、青白い原子の光は俺の白き戯れの剣に全て吸収される。

「……な」
「“黒呪い”は“黒精霊”の言わばつい。仲間ではなくそれ以外の魔法を吸収して纏う」

 魔神・呪い竜のデータによって“黒精霊”が変質したであろう能力。

 “黒竜霊”のような上位互換ではないためか、この剣は“黒精霊”も使用可能。

「返すぞ――ハイパワースラッシャー!!」

 原子の光を乗せた斬撃を――薙ぎ放つ!!

「――“魔力砲”!!」

 桃色の光芒で打ち消している間に、光芒側面と並走――スキル剣でリョウを狙わせる。

「くッ!!」
「“突進”――ハイパワーストライク」

「――――グハッッ!!!」

 血の鞭がスキル剣に対処した一瞬の隙を突き、俺はリョウの胸を鎧ごと……“雄大なる精霊と剣は千代に”で貫いた。

「……ぁ……本当……に……僕……を……」

 太刀を落とし、身体を支える力が抜けていって……重くなっていくリョウ。

「ハァー……ハァー……ギルマスは……僕のこと……嫌いでした……か?」
「……気持ち悪いとは思ってた」

 リョウの身体が……光に変わり出す。

「ハハ……やっぱりギルマスは……格好いい……なぁ…………」
「お前は、お前の道を進めば良かったんだ」

 これじゃあ、俺がまるで……リョウの道を……生き方を……。

 俺の肩に置かれたリョウの震える手の感触が消え、やがて……預けられた重みも消えていった。

「…………ごめん」

 俺と関わらなければ……お前は。


○”ブラッディーコレクション”を手に入れました。
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             :


●●●


『線路、及びモンスター除けの復旧が完了ー。復旧が完了ー。これより、街の修復を始めまーす』

 気が抜けるアナウンスが鳴り響くと、視界のモンスター達が光となって消えていき、壊れた街並みもあっという間に元通りに。

「ハアハア、これで……ようやく」

『突発クエスト・復旧まで耐え凌げるか……クリアだ。これにて、突発クエストを終了する』

 アナウンスが終了を宣言した途端、いきなりチョイスプレートが展開される。

○復旧への貢献報酬である“複製のメダル”×3をお渡しします。
○脱出報酬である“オールランクアップジュエル”×3を受け取りました。

「“複製のメダル”……ですか」

 効力は後で確認するとして。

「リューナ、そっちは全員無事ですか?」
「こっちはなんとか。そっちは?」
「私達なら大丈夫だけれど……」

 全員大した怪我は無さそうだけれど……ボロボロだ。

 残り三日と半日で四十ステージまで行かなきゃならないのに、まさかこんなにも疲労させられるなんて。

「取り敢えず、まずはご主人様達と合流しましょう」

 きっと、凄く心配しているでしょうから。


◇◇◇


『……“雄偉なる大地母竜の永劫回帰”に、“雄偉なる精霊と剣は千代に”……か。まさか、自力でSSランク武器を手に入れるとは』

 大規模アップデートの際に身体に流入したデータを利用して、新しいSSランクを生み出すなど……。

 しかも、実質二種のSSランクを所持しているような物と来た。

『逆境を力に換える理……まさしく、高次元の魂を持つ者の所業』

 しかも、神代文字を刻めるというおまけ付き。

『SSランクの真髄は

 前者の大地を支配する力は、本来は“エンド・オブ・ガイアソード”にのみ持たせていた能力。

『我々が神代文字に対抗するために用意した物を、こんな形で利用するとは』

 しかも、もっとも伸び代のある“ブラッディーコレクション”がユウダイ・コセの手に。

『……だが、考えようによっては悪くない。SSランクを所持するコセが参加するというだけで、突発クエストの難易度を上げられるからな』

 あのガキには問題ないレベルでも、果たして他の者達にはどうかな?

『そうなると、合流を阻むためにピーターくんの大規模突発クエストを許可したのは早計だったか』

 さて、どう転ぶやら。


●●●


「……まずいな」

 トゥスカ達と合流してから“神秘の館”へと戻ってきたけれど……全員くたびれていて、今日の攻略を断念した方が良いと判断せざるを得ない状況だと判明する。

「すみません、ご主人様」
「トゥスカのせいじゃないさ……けれど、間に合わないかもな」

 この先を知るヒビキさんとジュリーの予想では、俺達ならなんとか期限までに四十ステージに辿り着けるだろうという物だった。

 丸一日潰した場合、期限までに辿り着くのはまず不可能だろう。

 もし間に合わなかったなんてことになれば、《ザ・フェミニスターズ》と共に行動しているメルシュ達が危険に晒されるかもしれない。

 なにより、アヤナとルイーサが……。

 かと言って、くたびれている皆を今すぐ攻略に参加させるのは危険すぎる。

「ギオジィ! こうなったらさ、元気な私達だけで進んじゃおうよ!」

「なにを言ってるの、クレーレ!」

 慌てるトゥスカ。

「四人だけでだなんて、幾らなんでも危険すぎます!」
「この先で、突発クエストを仕掛けられないとも限らないんだぞ!」

 ウララさんとリューナまで否定派か。

「……いや、俺のパーティーだけで先行する」

「ユウダイ様、さすがに私も反対です」
「そうよ、無茶が過ぎるってば!」

 マリナはともかく、ナターシャにまで反対されるとは。

「なにを騒いでんの?」

 三十五ステージを攻略しているはずのメルシュ達が戻ってくる。

「ちょうど良かった。メルシュ、お前に訊きたいことがある」

 幾つか確認したのち、俺はなんとか皆を説得して――で先行することを納得させるのだった。

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