ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

499.世界の王達の繋がり

「というわけで、死んでしまった私の女達を蘇らせたいのです」

 実験都市は街中でもバイオモンスターが襲ってくるため、タマコさん達、《ザ・フェミニスターズ》の本拠地である魔法の家の領域、“女帝の宮殿”の庭で話し合いをすることにした私達。

 タマコさんの仲間が用意したテーブルを囲いながら私達の半数、生者の大半が椅子に座り、向こうはタマコさんだけ。

 残りは背後に控えており、彼女達の上下関係が見て取れる。

「……あの、ヒビキお嬢様?」
「私は、このレギオンでは新参者。口出し出来る立場にありません」

 私なりの誠意として事実を伝えておく。

「お、お嬢様が下っ端? お労しや……」
「色々ありまして、今は《龍意のケンシ》にお世話になっている状態です。それより、メルシュさん」
「その辺は、後でうちのリーダーと話し合わないとなんとも。ただ、生き返らせれば永久に私達を狙わないんだっけ?」
「ええ……お嬢様が所属するレギオンとは、敵対出来ないと言いますか……」

 お嬢様……ですか。

「私は家と縁を切っているつもりです。それに、ここは異世界。タマコさんが元の世界の関係を引きずる必要はありません」

「ですが……」

「《ザ・フェミニスターズ》。私達が生きてきた環境への反発故、なのではありませんか?」
「それは…………はい」

「もしかして、華族とかいう?」

 ルイーサさんが尋ねてきた。

「彼女の場合は、父が懇意にしていた地元の指定暴力団、そこの組長の娘になります」

「……私は組長の娘だったからまだマシだったけれど、美人局や売春婦に堕とされる女を何人も見てきた。借金や薬で逃げられないようにしたり……身寄りの無い女は足が付きづらいため、外国に売られるケースも……」

 私が物心付いた頃に目の前に広がっていた世界は、生き方を選べない……誰かの手足となり、犯罪に荷担する事でしか生きることを許されない……そんな世界。

 特に女は身体が壊れるまで酷使され、または権力者の愛人にされ、軽い気持ちで踏み入ったら二度と這い出すことすら出来ぬまま、都合が悪くなれば秘密裏に処理される。

 その処理した死体の肉を、どこかで誰が口にしていたとしてもおかしくない。

 ……その事実を、私は立場上知っている。

「それって昔の話? 日本が占領時の頃とか、女が外人相手に身売りせざるを得なかったとかなら聞いたことあるけれど」

 アヤナさんの疑問。

「そう言えば、昭和天皇が人身売買に荷担してたなんて話もありましたね。まあ、あくまで噂ですが――それが事実として、果たして現在の天皇の一族が関わっていないと言い切れるでしょうか?」

 まるで意地悪をするような私の言葉に、自分で嫌になる。

「いや、だって……天皇家って、つまり外国でいう所の日本の王族でしょ? そんな人達が、自国の人間にそんな真似……」
「明治時代、天皇家が朝鮮人と入れ替わったなんて都市伝説があった気がするけれど」

 ジュリーさんからの意外な援護。

「そもそも天孫降臨が、天からやって来た神々によって土着の神々や、そこに棲まう人々を蛮族として征服していく話なんだけれどね。その土地を豊かにするって言う、天啓を受けたからって大義名分でだっけ?」

 稲穂の伝来も、高天原からの恩恵の一つだとされている。

「騎馬民族征服王朝説なんて物もありますね。半島の人間によって、古代の日本が征服されたという」

 天皇家の菊の紋の存在などを考えると、私個人はこの説をあまり信じていませんが。

「古事記の話ですよね? 一応、日本では史実として扱われている神話でしたか?」

 クマムさんの補足。
 
「へ? それじゃあまるで、侵略者が王様になって国の象徴になってるってこと? ……へ?」
「いや、幾らなんでも……」

 ナオさんとアヤナさんには受け入れがたかった様子。

「在日、帰化問わず、日本の政治家や芸能人、有名スポーツ選手の大半が朝鮮人、その二世、三世なのは公然の事実ですよ。特に野球業界は多いとか」
「「そう言えば……」」

 クマムさんとナオさんには、なにか思い当たる節があった様子。

「朝鮮系のマフィアなんて物もありますしね」

 そもそも私の家も、ルーツを辿ればいったいどこに繋がるのか……考えるのはやめましょう、詮無きことです。

「日本の天皇陛下には、イギリス王室を始め、世界中の王族が敬って接する……なんて話もあるよね。現存する中では世界最古、最長の王室だからなんだろうけれど」

 メルシュさんの意味深な発言……なにか知っている?

「いずれにしろ、私達には確かめようのない事です。ですが、日本人は勤勉で従順なため、昔から世界中で人気だそうですよ――奴隷として」

 特に、東北に棲まう日本人は。

「北朝鮮に攫われた日本人が居るというのは、有名な話だな。最高指導者の愛人に日本人が居たって聞いた気が……」

 ルイーサさん、その手の話に詳しかったのですね。

「そう言えば、日本のAVって世界的に人気って聞いたことがある……確かに日本のAV女優は、海外の女優に比べてあまり下品さを感じない」

「「「…………」」」
「ユイ先生……」

「……ん? どうしたの、みんな?」

 なんでそんなことが分かるんですか、ユイ先生は! まだ十六歳ですよね!?

「お嬢様……彼女達は信用して良いのでしょうか? 特に、リーダーのコセとか言う男は……」

 ユイ先生をチラ見しながら、本気で不安げなタマコさん。

「大丈夫ですよ……まあ、その……たぶん」

 日頃の様子を見る限り、女を道具のように扱うような人間ではないとは思いますが……ろくに話した事が無いためか、少々自信がない私が居た。


●●●


「……」
「お前がリョウか?」

 ボス戦を終えて祭壇を下りると、巨漢の獣人に声を掛けられた。

「……そうですが」

 “ブラッディーコレクション”を握る手に、力が込もる。

「義弟、コセからの伝言だ。四十ステージで待つとな」
「ギルマスから?」

 投げ渡されたなにかを掴む。

「……これは?」
「この城の地下への鍵だ。貴様に渡すように頼まれた」
「あの人が、わざわざ僕に……礼を言います」

 ようやく辿り着けたと思ったのに、ギルマスは既に先へ……。

「酷い顔だな、お前」

 横を通り過ぎようとしたら、唐突にそんなことを言われた。

「……関係ないでしょ、貴男には」
「……旅立ったのは今朝。急げば追い付けるかもな」
「……」

 そのままの足で僕は、祭壇から見た石の城を目指す。

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