ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

490.食糧庫と冷凍庫

「ここが食糧庫パントリー

 豚コックを殲滅してから奥に進んだ先にあったのは、バカみたいに巨大な食糧保管庫。

「無駄すぎじゃないかしら~」

 棚は二階分程の高さがあり、なんのためにこんなに広いのか理解できない。

「色々置いてあるな。酒とか肉とか……ここにある物は回収出来るそうだが、さっきの殺人コック共を見た後だと気が引けるな」
「特にお肉は、でぇすねー」

 メグミちゃんとクリスちゃんは、この場所の食べ物を回収するのは嫌みたい。

「まあ、これはゲーム的に用意された物なんだし、本物じゃないでしょ。それに、後でチョイスプレートを見て名前を確認すれば、それがヤバい物なのかは分かるじゃない」
「貴重なサブ職業が手に入るそうですし、さっさと済ませましょう」
「だな」
「はぁい」

 リンピョンちゃんの説得もあって、四人で棚の食糧を回収していく。

○”Lvアップの実”×6を手に入れました。
○”万能樹液”×12を手に入れました。
○”不浄な眼球”×4を手に入れました。
○”聖者の遺骨”×6を手に入れました。
○”硫黄”×7を手に入れました。
○”黒色火薬”×9を手に入れました。
            :
            :

「稀に良い物もあるみたいだな。不気味な物も多いが」
「そう言えば、調合の素材になる物が色々置いてあるって言ってたっけ」

 メグミちゃんの言葉に、メルシュちゃん達が話していた内容を思い出す。

「サトミ様、アレを」

 リンピョンちゃんが教えてくれた方向で光が輝きだし――私に向かって飛んできた!?

「もしかして、もう全部回収し終えたの?」

「上の方、リンピョンが頑張ってまぁしたよぉ」

「えへへ」

 クリスちゃんに褒められて、嬉しそうなリンピョンちゃん。

「確か、”猟師”と”漁師”に、”採取師”のサブ職業だったか」

 私の手の中にあるのは、三枚の青いメダル。

「どういう物ですかぁあ?」

「”猟師”は、陸上生物モンスター、飛行生物モンスターを倒した時に、素材入手率を百パーセントにしてくれる物よ」
「魚と書く方の”漁師”は、水中生物モンスターに対して効果を発揮するんだったか」
「”採取師”は、植物系モンスターに対してでしたっけ」

 つまり、この三つのサブ職業は直接的な戦力アップには繋がらないのよね~。

「序盤は一番楽なルートとは聞いていたが、ここで大体三分の一だったか」
「じゃあ、ここからが本番でぇすね!」
「ええ、気合を入れて行くわよ!」

 四人で、食糧庫の奥の扉を潜――ッッ!!

「「「「寒ッ!!」」」」

 扉を超えた途端に一気に景色が変わり、冷気が吹き荒れる薄暗い場所に!?

「サトミ様、扉が!」

 勝手に閉じた挙げ句、内側のハンドルが回って凍結してしまう!

「閉じ込められてしまったみたいね」
「この寒さ、早くこの場所を抜けないと凍死しそうだ」

 いきなり空気が冷たくなったせいで一気に肺が凍えたようで、息苦しいし喉も痛い。

 呼吸を浅くし、肺の凍えが和らぐのを待つ。

「ここは……もしかしてぇ、冷凍庫?」

 フックで天井から吊された大量の巨大肉塊のせいで、奥が見渡せない。

「この肉塊、いったいどれだけ巨大な生物の物なんだか」

 長さ五、六メートルはありそうだけれど、形はバラバラ。不自然な程統一性が無いわね。

「私が先頭で進む。リンピョンは殿を頼む」
「了解」

 メグミちゃんを先頭に、私、クリスちゃん、リンピョンちゃんの順で肉塊同士の隙間を進むことに。

 クリスちゃんは、奇襲を警戒してか隠れNPCとして元々持っていた装備、”薔薇騎士の剣”と”薔薇騎士の盾”に持ち替えていた。

「……不気味な程静かね」

「前は私が確実に対処する。サトミとリンピョンは側面からの奇襲に気をつけてくれ」

 盾使いであるメグミちゃんはこういう時、本当に頼りになるわね!

「――なにか居る!」

 私の後ろにいたクリスちゃんが、突如として警戒の声を上げた?

「……居なくなりまぁした」
「どんな奴だった?」
「黒い、不気味な人型でぇした」

 そう言えば、この冷凍庫に出没するモンスターについてメルシュちゃんから聞いていなかったような……。

「……気配が増えてきています。囲まれるのは時間の問題でしょう」
「仕方ない――囲まれる前に一気に駆け抜けるぞ!!

 メグミちゃんを筆頭に、四人で駆け出す!

「――ぁ」

 薄らと凍っていた床を思いっ切り踏んでしまったみたいで、前のめりに転倒――していく最中、頭の上をなにかが薙いだ?

「――”ウィクショナリー”です!!」

 クリスちゃんの切羽詰まった声にようやく、自分が間一髪助かったという事実に気付く。

「く!!」

 顔まで黒尽くめの人型モンスターによる斧の一撃を、私の代わりに盾で防いでくれるクリスちゃん。

「――”万変の霧”!!」

 背後からクリスちゃんを刺突剣で攻撃しようとした別の”ウィクショナリー”の攻撃を薄紫の霧で止め、続けて鞭のように振るわせて退けた!

「……囲まれちゃったか」

 メルシュちゃんもリンピョンちゃんも、前と後から仕掛けてきた黒尽くめに襲撃されている。

「なに!?」

 メルシュちゃんが驚いたかと思えば、私達の前から一斉に……黒尽くめ達が肉塊の影に姿を消した?

「まさか、ヒット&アウェイ狙いか?」
「ちょっと厄介ですね」

 それから数分間警戒を続けるも、仕掛けて来る気配は無し。

「焦らせまぁすね。三十ステージに入ってから、モンスターの行動が少し複雑化している気がしてまぁしたが」
「このまま留まっていても、寒さで体力を奪われる。とにかく注意して進むぞ」

 メグミちゃんの言うとおりだけれど……。

「このお肉が邪魔だけれど、確か壊せないんでしたよね?」

「ええ、そのはず…………」

 なんとなく、”紺碧の空は静寂を願いて”に三文字刻んでみる。

「サトミ、なにをするつもりだ?」
「ちょっとした思い付きよ」

 文字を刻んだ時の冴え渡るようなあの感覚を、もっと広範囲に広げられればってね。

「……なるほど」

 単なる思いつきだったけれど、集中すれば霧越しに気配を掴む事が出来そうかしら?

「リンピョンちゃん、私に”同調”を」
「ありがとうございます! ――”同調”!」

 何故かお礼を言われてしまったけれど……うん、良い感じ。

「私の合図に任せて。それじゃあ、進みましょうか」
「で、どうするつもりだ?」
「黒尽くめが出て来ても、メグミちゃんとクリスちゃんはその場から動かないでちょうだい」
「私達で捕まえてみせますから」

 ”同調”により、私とリンピョンちゃんの感覚は共有されている。

「分かった」
「オー、楽しみでぇす」

 フフ、見てなさい。

「さっきのこけた借り、絶対に返してやるんだから!」

「……サトミがぁ、勝手にこけてまぁしたよね?」

 そんな事実はないわよ、クリスちゃん!

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