ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

489.マジック・オーバーラップ

「コックの戦場……ね」

 エントランスから正面を選んで進んだ私、リンピョンちゃん、メグミちゃん、クリスちゃんで目にしたのは、忙しなくなにかを調理している小太りのコックさん達。

 着ている物は黄ばんでしまったかのような色合いで、厨房の小汚さもあって田舎のレストランを連想させられる。

「チトセ達の城の厨房って、こんなに汚かったか?」
「ううん。とても衛生的だったし、そもそも広さや置かれている物、厨房その物がまるっきり違うわ」

 この前パーティー用の料理を“吸血皇の城”で作ったから、メグミちゃんの疑問にハッキリと答えられる。

「ていうか……」

 天井から生えてるフックに掛かっているアレって……最初はウィンナーかなにかに見えていたけれど。

「おい! 肉が足りねーぞ!」
「出汁用の骨もだ! さっさと食糧庫パントリーから持って来い!」
「ソースに使う酒と血、いったいいつになったら届くんだ!」

 一見、真面目に料理をしているように見えるけれど……。

「ソースに血?」
「一応、世界中に血を使った料理はあるわよ」

 そんな料理が作られるようになった経緯は想像出来ないけれどね。

「テメーら、揃いも揃って文句ばっかり言いやがって! 材料ならそこにあんだろうが!!」

 ――コック達が、一斉に私達を見た!!?

「へー――私達を餌だって言いたいんだ」

 アヤちゃんが殺されたって聞いてから、私の暗いスイッチが入りやすくなっている気がする。

 悲しいんじゃない、苦しいんじゃない……ただ、なにかが漠然と虚しいだけ。

 私にとって、アヤちゃんてなんだったのかな? ……て。

「私がやるわ」

 杖の先端に盾が括りつけられたような紺碧色の大杖、“紺碧の空は憂いて”を手に前へ。

「大人しく食材になれぇぇ!!」

 フライパンやら庖丁を持って襲い掛かってくる、汚い豚みたいに脂ぎったコック共。

 アヤちゃん達を殺した女も、目の前の豚共みたいに勝手な理屈で襲い掛かってきたって聞いた。

 しかも、再度襲ってきた挙げ句にリョウ君に殺されたとも。

「アヤちゃん――“分離”」

 一瞬、光が杖を包み込んだ直後、私は””に三文字刻んだのちに効果を使用――杖に付いている鏃のような盾を”思考操作”で操り、コック共の腹や顔を貫かせ……全て絶命させた。

「戻りなさい」

 カシュンという音と共に、盾が杖に連結される。

「……やっぱり、虚しいわね」

 どうしたって、一度失った物は取り返せない。

 友達の命……母への憧れも。

「ここには大した物は無さそうだし、とっとと先に進みましょうか」

「そ、そうだな」
「さすがです、サトミ様!」
「サトミ……おっかないでぇす」

 メグミちゃんとクリスちゃんは、いったいなにを怯えているのかしら?


●●●


「“二重魔法”、“氷河魔法”――グレイシャーバレット!!」

 左右から迫る食人花を、無数の氷水で凍らせていくメルシュ。

「“天元侵蝕”」

 凍らせきれなかった分は、ナノカとクマムちゃん、カナ達が駆けながら武器で対抗してくれる。

「まずい、後ろからも来てるわ!」
「”二重魔法”、“氷炎魔法”――アイスフレイムバレット!!」

 振り返って、青い炎の群れを発射――触れた植物達を凍らせていく!

「ナイスよ、ナオ!」
「当然!」

 カナに褒められて嬉しくなっちゃう!

「もうすぐだ余!」
「――魔法だと!?」

 前を塞ぐように成長して来た薔薇のような食人花達が、魔法陣を展開して――

「“怨霊鎌”――“古代車輪術”、オールドローリング!! “飛剣・靈光”!!」

 青紫のオーラ纏う黒鎌を作り出して、武術スキルを適用されながら左に投げ、右には青の斬撃を飛ばして一掃してくれるカナ。

 普段はあんななのに、戦闘に関しては頼りになるな。

「クマム、援護するから扉を開けて!」
「はい! “竜巻噴射”!!」

 足裏から巻き起こる螺線風により、クマムちゃんが先行。襲いかかろうとする食人花達を、メルシュが器用に魔法で迎撃していく!

「ナオ、最後にデカいのお願い!」
「あいよ!」

 言葉少ないメルシュの意図が、なぜか手に取るように判る。

 やっぱり、文字を引き出せるようになればなるほど察しが良くなっている気がするな。

「急いで!」

 クマムちゃんがドアを開けてくれた直後、私は”氷炎の競演に魅せられよ”と”氷炎の感情を思い知れ”に同時に六文字刻む!

「武器交換――”マジック・オーバーラップ”」

 ”栄光の杖”を、先端に銀灰のカメラのような物が取り付けられた杖に持ち替える!

「”氷炎の競演”――”三重魔法”、”氷炎魔法”」

 氷粉と火花を放出し――三つの魔法陣に、神代文字の力と一緒に流し込んでいく!

「食らえ!!」

 扉を潜った瞬間に振り返り、私の新たな杖を突き出す!!


「――――アイスフレイムバーン!!」


 Sランクの”マジック・オーバーラップ”の効果、”重複法陣”により三つの魔法陣が重なり合い、強大な水色の魔法陣を――本来の三倍の威力の凍結炎を、庭園全体へと放射!!

「ハアハア」

 青い炎が全てを凍らせていく景色は、クマムちゃんとナノカによって閉じられた扉により……遮られた。

「ハアハア、ハアハア」
「凄い威力でしたね、ナオさん」

 クマムちゃんが……膝を付いた私に手を差し伸べてくれる。

「パズルゲームで、メルシュが手に入れてくれたこの杖のおかげだね」

「”重複法陣”は常時発動している効果だから、使い勝手は悪いけれどね」
「確かに」

 威力よりも数や範囲を優先したい場合は、わざわざ他の杖に持ち替えなければならない。

「確か、重ねる数に制限は無いんでしたか」
「うん。多重魔法系で出した魔法陣を、全て強制的に重ねてしまうから」
「私の”殲滅のノクターン”より消費MPが多い代わりに、時間帯制限を受けず、理論上の最大威力も上なのよね」

 カナの持ってる”殲滅のノクターン”て、夜に使用すると魔法の威力が二倍になるんだっけ。

 私達って、基本的に夜出歩いたりしないけれど。

「ところで、ここは図書館ですか?」

 庭園の先にあった建物内部を見渡したクマムちゃんが、メルシュに尋ねる。

「吸血皇の書庫っていう設定だよ。頑張れば、魔法使い専用武具である本、Sランクを何冊でも手に入れられる場所」

 下から上まで、三、四階分くらいの高さがありそうな棚が、この広い部屋の壁を覆っていた。

「もの凄い蔵書の数だけれど、まさかこの中から探すわけ?」

 カナさんでも呆れ顔。

「それは大丈夫。理由は、白い大理石の床より先、紅いカーペットに足を踏み入れれば分かるよ」

「「「うん?」」」

 メルシュがぼかす時って、大抵ろくでもないことが起きるような……。

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