ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

485.ヘラメイドエルフのヘラーシャ

『と、突発クエスト……変異種を討伐せよ……クリア!!』

「終わったみたいだね」

 コトリさんが高度を降ろし、滝近くに着陸してくれる。

『報酬は、倒されたデッドリーシャーク一体につき10000G。参加者全員に540000五十四万Gが与えられる』

「もしかして、ザッカルさん達が倒した分も合わせて一人一人に?」
「金だけ与えて、良い武具は寄越さないつもりなのかな」
「なるほど」

 コトリさんの言葉に、《龍意のケンシ》がゲームマスター側に狙われていることを思い出す。

 私達の戦力強化を避けるため、大金を代わりの報酬にしようって事ですか。

『変異種を倒した物には、特別報酬が与えられ……以上!!』

 投げ槍に声が聞こえなくなると、滝の色が紫から緑に変わっていく。

「ねーねー、特別報酬ってなんだったの?」

「へ? そうですね」

 皆が集まってくるまでに、ライブラリで確認しておきましょうか。

○“猛毒魔法のスキルカード”×2を手に入れました。
○”アサシン・エルの劇毒服”を手に入れました。
○”紫幻の悪夢に酔い痴れ”を手に入れました。

 なんか、キクルさん向きの装備かも。


●●●


「……ぅ」

「お目覚めになられましたか、大旦那様」

 ベッドの上で眠る俺を覗き込むように声を掛けてきたのは、右が赤、左が青い髪で、首辺りで結んで緩めのカントリーツインテールにしている可憐なエルフ美女。

 左右の頬に小さな三つ編みが掛かった、チトセの使用人NPCであるヘラーシャだった。

 名前は、チトセが半分ふざけて付けた物。

 “淑女な侍女服”だけれど、チトセの意見で胸とか脚とか肩とか、かなり露出するデザインに。

 今回はチトセが積極的に意見を出してくれたから、俺がからかわれる心配は無い……はずだけれど、見た目がちょっと際どすぎる。

 もう、そういうプレイ用のメイド服にしか見えない。

「へと……」
「大旦那様は、例の剣を生み出したのち気を失われましたので、“崖の中の隠れ家”にお運びいたしました」
「ああ、そっか」

 色々思い出してきた。

「トゥスカ達は?」
「……やはり目覚めた時、トゥスカ様やチトセ様が傍に居た方が宜しかったでしょうか?」
「それは……まあ」

 他人が居るよりはな。

「――そんな!!」

 大袈裟に自分の頭を抱え出すヘラーシャ。

「ヘラーシャ?」
「そうですよね……そうですよね。私のような無愛想な使用人より、綺麗な奥様方の方が断然宜しいですよね」

 ……忘れてた。チトセによって、ヘラりやすい性格に設定されていた事を。

 なんでこんな設定にしたんだよ、チトセ!

「まあ、気にしないで」
「こうなれば、もう脱ぐしか……グヘへへへ!!」
「なんでそうなる!」

 下品な笑みを浮かべとるし!


「――ヘラーシャ」


 赤青メイドが肩紐を外しかけた瞬間――部屋の扉がゆっくりと開き……冷たく笑みを浮かべるナターシャがそこに。

「め、メイド長!?」
「メイド長?」

 いつの間に、ナターシャはメイド長になったんだ?

「私よりも先に手を出そうとは、良い度胸ですね」

「……も、申し訳ございませ――いだダダダダ!!」

 ヘラーシャの耳を引っ張り、部屋の外に連れ出そうとするナターシャ。

「あの……」

「すぐに誰か呼んで参りますので」
「あ、はい」

 ナターシャが怖い。

「た、助けてください、大旦那様ぁー!!」

 訴え虚しく、連れて行かれるヘラーシャ。

「年齢設定ではヘラーシャの方が上のはずなのに、むしろ逆に見えたな」

 ナターシャが俺の使用人NPCであるためか、力関係は完全にナターシャの方が上らしい。

「……さて」

 チョイスプレートを操作し、文字化けだった直刀をライブラリで確認。

「まさか、十五番目のSSランクになるなんて」

 強大な力を宿しているらしいSSランク武具。

 果たしてこのイレギュラーな剣、“名も無き英霊の劍”はどんな力を宿しているのか。

「…………効果が……無い?」

 嘘だろ……本当に一つも載って無いぞ!!


●●●


「じゃあ、気を付けて」
「そっちもな」

 天空遺跡の建造物内部にて、レギオンメンバーを二つに別けて進むことに。

 ジュリー、ルイーサ、ユイのパーティーは地下の”研究施設”へ。

 ユリカ、サトミ、私が居るクマムのパーティーは建造物の上、”完成品展示室”を目指す。

「上は、Sが一つにAが二つ、確定で手に入るんだったわね」

 カナが確認してくる。

「うん、その通り」

 全員で、バカみたいに広い階段を上っていく。

「ただ、別々のパーティーが一緒に展示室に入ると、二つのパーティーでS一個のA二個になっちゃうから、注意して」

 そうこうしているうちに、階段を登り切って展示室入り口前へ。

「なんか凄そうなのがガラスケースの中にいっぱい見えるけれど、全部手に入れてくれば良いの?」
「残念だけれど、手に入れられるのは割れたショーケースの中身だけだよ」

 ユリカの質問に答える。

「割れるショーケースはランダム。パーティーが入ると割れだすから、なにが手に入るかは分からない」

「では、パーティーを出来る限り別けますか?」

 クマムの問い。

「そうだね。ただここのショーケース、パーティーが三人以上じゃないと割れないから」

 というわけで、私とモモカとバニラ、クマムとナノカとナオ、ユリカとヨシノとレリーフェ、サトミとクリスとリンピョン、メグミとカナとタマの五パーティーで順に中へ。

「行くよ、モモカ、バニラ」
「うん、メルシュ!」
「アウ!」

 モモカとお手々を繋いで、兵器が並べられた展示室内部へ。

 すると――三十九あるショーケースのうち、ランダムに九つが割れた。

「ガウガウ! グルルルル!」
「モモカ、バニラに大丈夫だって伝えて」
「バニラ、ドードー」
「ガウ!」

 モモカが落ち着いているからか、すぐに大人しくなってくれる野生児バニラ。

「さてと……お、目当ての一つがさっそく手に入った」

 割れたショーケース内にあったのは、刃物だらけのメタリックレッドの鎧、“超赤竜の裂刃装鎧”、Sランク。

「モモカ、この鎧をバニラに装備させて。先にこの腕輪もね」
「うん!」
「キャウ?」

 モモカに渡したのは、魔法使いである私がLv46の選択で手に入れておいた“鎧装備の腕輪”。

 バニラは戦士であるため鎧装備欄は既にある物の、この腕輪により鎧欄が二つになる。

 それでも鎧を二つ装備できるわけではないのだけれど、バニラが装備している”超赤竜の裂孔脚”と今手に入れた”超赤竜の裂刃装鎧”は元々セットで使用する設定のため、問題なく両方装備可能。

 まあ、鎧と脚甲のデザイン次第で、同じ系統装備でなくても可能ではあるけれど。

「ガウガウガウー!!」

「バニラ、私はカッコイイだろー!! だって」

「そ、そうなんだ」

 あのゴリラみたいなガッツポーズを見ると、本当にそう思っている気がしてくる。

「まあ、気に入ってくれたのなら良かったよ」

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