ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

484.聖女レイナ

『変異種を倒すには、デッドリーシャークの群れを突破しなければならないか』
「空で高機動戦闘が行えるのがコトリさんくらいである以上、地上から攻めるべきでしょうね」
「厄介なのは、猛毒か」

 レイナとザッカルのパーティーと合流したのち、攻略法を話し合っていた。

 コトリというのが変異種にひと泡吹かせたからなのか、デッドリーシャーク共は変異種周辺に集まって襲ってこなくなっている。

『ディア。奴等の猛毒は、この”紫紺の抗体ローブ”で防げるか?』
「最初の十秒を耐えられれば」

 俺の使用人NPCから、望ましい言葉が返ってくる。

「おい、まさかお前!」

『ここに居る全員で多方向から仕掛け、手薄になった変異種を俺が叩く』
「キクルさん、また自分だけ危険な真似を!」
「お前が行くなら、私も行くぞ!」

 レイナとグダラが騒ぎ出す。

『落ち着け。お前達が毒を浴びたらどうする。それに、俺が変異種に接近するのを失敗する恐れだってある。その場合、空からレイナに仕掛けて貰いたい』

 おそらく、この中でもっとも高い火力を出せるのはレイナ。

 魔法使い職であり、魔法を強化する高ランクアイテムをもっとも所持しているからな。

『コトリ、俺が近付けないと思ったらレイナと一緒に空から攻めろ』
「その命令口調は気に入らないけれど、まあ、乗ってあげるよ」
『助かる』

 これで、討伐の目処は立ったか。

「テメーから、一番危険な二重の囮に立候補するとはな」

 ザッカルが、ニヤニヤしながら話し掛けてきた。

『……気楽なんだよ、その方が』

 誰かが危険な目に遭うくらいなら。

「お前、良い男だな。俺がコセの女じゃなかったら、お前の女になってやっても良かったと思えるくらいに」

 ――ザッカルの言葉に反応するように、空気が重くなった!?

『つまらない冗談は止めてくれ』
「冗談のつもりはねぇーけれどよ。お前、グダラ達と結婚はしねーの?」

 ――――やめろやめろやめろやめろ!! その話を蒸し返すな!!

 コセの奴がその手の話題を出した後、俺がどれだけ大変な目に遭ったと思っている!!

『い、色恋に興味が無いんだ』

「興味が無くても、婚姻の指輪はあった方が良いだろう。本気になられるのが嫌なら、NPCの奴等と結婚すりゃ良いんだから」

『…………』

 グダラ達からの重圧が!!

『頼むから、勘弁してくれ』

 俺は、そういう関係が怖いんだ。

「まあ、そんなに気負うなよ。デッドリーシャークは全部俺が請け負ってやっから」

『はあ?』


●●●


「グダラ達に気を遣ってやったつもりだったんだが、失敗か」

 コセみたいにはいかねーな。

「それじゃあ、派手に開戦の合図と行こうか!!」

 エレジーとアルーシャの三人組に別れた俺のチームが、最初に仕掛けることになっている!

 “万の巨悪を穿て”に九文字を刻み、力を集約!!


「――“万悪穿ち”!!」


 砂の中を泳ぎ回っている毒鮫共に、俺の渾身の万撃をぶち込んでやる!!

「来た来た来た!」

 何匹ぶっ殺してやったか知らないが、奴等の縄張りを突いた俺へと、生き残ったデッドリーシャーク共が一斉に押し寄せて来る。

「ざ、ザッカルさん、本当に大丈夫なんですか!?」

 慌てているエレジー。

「お前は、自分が毒液を浴びない事だけ考えてろ――今だ、アルーシャ!!」

 俺の目の前の砂地が、下からの“砂漠魔法”により大きく吹き飛び――デッドリーシャーク共が弾き上げられてきた。

 やったのは、”サンドシャークのスキルカード”により“砂泳ぎ”を得ていたアルーシャ。

 砂の中深くで機を覗っていた俺の使用人が、砂中から魔法を放ってくれたってわけだ。

「装備セット2――“絶滅”――――ハイパワーハープン!!」

 手にした“絶滅の剣槍”の力を使用し、空中で身動きが制限されたデッドリーシャークの横っ腹を――投げはなった黒き剣槍で貫き仕留める。

 すると、他に打ち上げられていた個体が一斉に消失していく。

「経験値を捨てる事になっちまうから、あんまし使いたくなかったが」

 この猛暑の下じゃ、時間を掛けるほど命取りだからな。

「後は任せたぞ、お前ら」

 全力で文字の力を引き出したのもあって、全身から力が抜けていく。


●●●


「ザッカルさん!」

 膝を付いたザッカルさんに、慌てて駆け寄る。

「クエスト終わるまで、ちょっと休むわ」

「わ、分かりました」

「よくやった、私の主よ」

 砂から出て来たアルーシャさんが、何故か偉そう。

 布を被って横になるザッカルさんを見て思う…………付いていけないって。

「……リョウ様」

 私達が憧れて付いていこうとしたギルマスの仲間達は……規格外過ぎる。


 あの人達が居る領域は……遠すぎます。


●●●


『本当に、全滅させられるとはな』

 絶滅シリーズ。メリットよりも経験値が手に入らなくなるデメリットの方が大きいため、俺のようなガチ勢には忌避されていた系統武器。

『現実とゲームは違うか……ククク!』

 俺は、この世界に来られて良かった。

『この世界は神ゲーだな! “魔蠍魔法”――スコーピアス・フェイズアーマー!!』

 濃紫の光鎧を周囲に展開し、肩辺りから蠍の光鋏、臀部から蠍の光尾、太股から跳躍に優れた三本光脚を展開!

 砂地を高速で移動し、奴の居る場所へと向か――

『――“跳躍”!!』

 勘一発、下から飛び出してきた鮫、変異種の強襲を回避!

『初見なら死んでたかもな――“魔蠍技”、スコーピアスニードラスト!!』

 奴が墜ちて姿を眩ます前に、紫白の巨針を飛ばして横っ腹を貫かせる!!

『“飛王剣”!!』

 派手に紫の血を撒き散らしながら落下していく鮫モンスターに斬撃を放ち、その腹を掻っ捌く!!

 血飛沫を浴びながら、砂地に倒れ伏した奴へと歩みを進める。

『毒を浴びたのは初めてだが……こういう感じなのか』

 寒気と気怠さが襲ってきたが、”紫紺の抗体ローブ”による解毒が始まったのか、すぐに身体が熱くなってきた。

『……へー』

 奴の皮膚が蠢いて、デッドリーシャークが生まれ飛んで来る。

『“可動”』

 この手にある、斧であり剣でもある”変幻蟲の巨剣斧”の効果を使用――機械仕掛けの刀身が動き出し、左右先端にある白い刃部分が意志を持ったように、紫の機械部分が触手のごとく伸縮。蟲の顎のように蠢き出す。

『狩れ』

 勢いよく触手部が伸び、砂地を隠れ泳ぐ鮫、二尾を両断。

 最後の個体も、食らい付いてきた瞬間に切り払い――Sランク武器の切れ味に任せて二枚に捌く。

『……先に動かれたか』

 空を、天馬が駆けていくのが見えた。


●●●


「任せて良いんだっけ?」

 有翼お馬さんを操るコトリさんに、尋ねられる。

「はい、任せてください!」

 キクルさんにばかり、負担を掛けさせるわけにはいかない!

「武器交換――“勇ましき愚者の行軍”」

 “武魔の聖杖”から、御旗を掲げる女性の上半身が描かれたレリーフが先端に取り付けられた――銀細工だらけの白き杖をこの手に!

「――私に力を!!」

 青白い文字を六文字刻む!


「”晄竜魔法”――サンライトドラゴバイパー!!」


 ”晄王竜”のサブ職業に込められし魔法を行使――恒星の光の化身を顕現し、変異種へとぶつけます!!

「ハアハア、ハアハア」

 巨大紫鮫の姿は、綺麗さっぱり消えていく。

『と、突発クエスト……変異種を討伐せよ……クリア!!』

 どこからともなく聞こえてきた終了の合図に、安堵の息を吐く私がいた。

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