ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

476.悪魔の手先

「まさか、コセ達からパーティーのお誘いとはね」

 コンソールで受け取ったメッセージについて、第二十六ステージの“砂漠の四層都市”内で用を済ませながら考えていた。

「アテル様は出席するのですよね? 他に誰を連れて行くのですか?」

 最速猫獣人であるクフェリスに尋ねられる。

「誰を? 行きたい者は全員連れて行くつもりだったけど?」

 全員で来ても良いと書かれていたし。

「もしかして、罠を疑ってる?」
「いえ、そういうわけでは……ただ、交流を重ねれば重ねるほど、皆に情が湧いてしまうのではないかと」

「……だとしたら、それも運命さ」

 僕が選んだ道が、否定されたというだけの話。

「アテル様……貴男は」
「お前達、さっさと用を済ませないと日が暮れるぞ」

 タイタンの隠れNPC、アシュリーに指摘される。

 他のメンバーは、とっくに下の三層へと移動している頃かな。

「この街は熱いしね――二人とも、警戒態勢」

 大量のNPCの往来の中に一人、こちらに確かに視線を送っている者が居る。

「彼は……」
「アイツか」

 黒い外套で身体を覆いながらこちらを見ていた男は、先日行方不明になったという彼だった。

「君が行方を眩ましたのは知っているよ。例の女を殺したのも」
「……」

 嫌な空気を発している。

「それで、僕等になにか用かな? リョウくん」
「ギルマスに認められているという貴男と……一対一での本気の殺し合いを――装備セット1」

 ――紅の太刀を手にした瞬間、正面から突っ込んできた!!

「――”氾濫調和の大蛇オロチ”」

 腰に差していた“天叢雲の神剣”の柄を握り、攻撃を無力化する白き大蛇を顕現させる。

「アテル様!」
「囲むぞ、クフェリス!」
「――二人とも下がれ!」

 僕のために動こうとしてくれた二人を制止。

「向こうの御所望は僕だ――僕一人で相手をする」

 敵は、SSランクの“ブラッディーコレクション”を持っている。

 SSランク武器の脅威を、肌で感じるまたとないチャンス。

「もう、続けても構いませんか?」

 最初の一太刀以来、攻撃をしてこないリョウ。

「ああ、待たせて悪かったね」

 “アマテルの太陽剣”を抜き、六文字刻む。

「二人を狙わないなら、この勝負を受けようじゃないか」

 大蛇を消し、僕から斬り込む!

「――切り刻め!!」

 血の大太刀から血が踊り出し、無数の鞭となって襲い来る!

「“神代の太陽剣”」

 青白い焔を燃え上がらせ、鞭を燃やし斬っていく!

「な!?」
「“裁きの太陽”!!」
 
 攻撃が手ぬるくなった隙を突き、大火球を剣先から飛ばす!

「“魔力砲”!!」

 火球を搔き消してきたピンクのエネルギー波を、再度発動した“神代の太陽剣”を燃え上がらせて防ぎきる。

「小賢しいね」

 左右から貫こうと回り込んできた血の槍を、文字によって強化された反射神経で見切り、避けきった。

「今のも切り抜けるなんて……」

「SSランク武器を使いこなせていないのかな? まさか、この程度だったりしないよね?」
「ク!! ――これならどうだッ!!」

 僕を覆うように、倍以上の数の血の槍が、先程まで以上の速度で迫る!!

「なるほど、これが!」

 包囲されないよう全速力で駆けながら、青白い焔で対処していく。

 この密度の攻撃を、TPやMPの消耗無く繰り出し続けられるとなると……神代文字を全力で使わないと、下手すれば瞬殺されかねない。

「噂に違わぬ脅威みたいだね、SSランク武具って言うのは」

 もし奇襲を掛けられたら、無抵抗のまま殺されてしまう可能性すらあり得る。

「“瞬足”――“飛王剣”!!」

 瞬間的に狙いを外させた瞬間に斬撃を飛ばすも、攻撃に使用していた血を盾代わりに使って防がれてしまう。

 あまりスマートじゃないけれど、強行突破を試してみようか!

 ――“アマテルの太陽剣”に十二文字を刻む!!


「“太陽剣術”――サンブレイク!!」


 自ら接近――力尽くで、血の盾ごとリョウを吹き飛ばしに掛かる!!

「あああッッ!!」

 余波までは防ぎきれなかったらしく、大きく吹き飛ばされるリョウ。

「身体ごと吹き飛ばすつもりだったのに、まさか耐えられるとはね」

 “エンバーミング・クライシス”というのも、聞いた感じデタラメだとは思ったけれど……応用性の高さを考えると、目の前の“ブラッディーコレクション”の方が脅威度は数段上かな。

「悪いけれど、君はここで殺させて貰う」

 SSランク武器を手に入れられる、またとない機会だしね。

「……僕は……あの時、手も足も出なかったのに……どうして貴男は……」

 ヨロヨロと立ち上がる彼に対し――直感的に警戒心が跳ね上がる!!


「この武器を手にした僕が、持っていない奴に――負けるわけにはいかないんだぁぁぁぁッ!!!」


 眼前を覆うように血が太刀から荒れ狂い、血風の刃が壁のように連なって襲ってきた!!

「――”氾濫調和の大蛇”!!」

 咄嗟に大蛇を盾とするも、大蛇の耐久値があっという間に削られていくのが判る!!

「あああああああッッ!!」

 凄まじい気合……いや、狂気も混ざっているのか。

「昨日、初めて君に会ったとき、なぜコセが君をレギオンに加えているのか解らなかったが――中途半端に善人ぶるような人間だから、斬って捨てづらかったんだろうね
「な……に?」

 血の暴威が止まる。

「僕と彼は根本的に同じだ。だから判る。コセは、君みたいなタイプの人間が嫌いだ」

「だ、黙れ!! ギルマスが僕の事を……そんな風に思うわけ……」

 そこでブレブレに動揺するような人間だから、コセは君を対等な人間とは見なさないのさ。

「僕は……あの人に憧れて」


「なら、会って確かめると良い」


 剣を腰に収める。

「彼が君をどう思っているのか、直接尋ねるんだ。彼が居る三十六ステージまで進んでね」

「…………僕は」

 ヨロヨロと、僕の横を通って去っていくくだらない人間。

「……コセ。僕が認めた人間が、あんな男に情など向けるよ」

 あんな偽善者、本物の悪人に良いように利用されるだけのゴミにしかなれないんだから。

「自分が悪魔の手先にされている事にも気付けないような人間ばかりだから、僕等のような人間が世界に絶望せざるを得ないんだ」

 だからこそ人は、無意識下で滅びを望まずにはいられないんだよ。

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