ダンジョン・ザ・チョイス
466.痛みの残滓が消えぬ間に
「が、ぁ……」
「キャロ!!」
「「「キャロさん!!」」」
無惨な姿にされたヴァルキリーに、駆け寄る私達。
「マスターとエレジーは……無事……あとは」
全員……殺されたんだ。
数時間前に言葉を交わしたシホ、アヤ、ニシィーも……。
「ハイヒール!」
マーリが魔法を使う。
「こんな状態で回復して……使い物に……ならない」
「だったら、手脚を拾って来てやるよ!!」
ザッカルとキューリが駆け出し、キャロラインの手脚を回収してくる。
「無駄だ」
キャロラインの身体が、光に変わりだした。
「誰か……私を殺せ」
「何を言ってるんですか!!」
「諦めないでください!!」
「このままじゃ私は、あの女の経験値に……アイテムまで与えることに……」
あの女に、力を与えるような真似をしたくないってわけだ。
「頼む……コトリ。お前なら……」
「……分かったよ」
この前手に入れた柄の長い細長な金棒、”生を視ること死の如し”を振り上げる。
「退いて、みんな」
「「……」」
悟ったのか、ケルフェとマーリが離れ、ザッカル達も反対しない。
「恩に……着る」
「“光輝棒術”――シャイニングブレイク!!!」
……キャロラインが光の中に消えたのち、私はチョイスプレートを出して、キャロの装備を手に入れているかを確認した。
「……初めてだな」
殺したくないって思った相手を殺したのは……生まれて初めてだ。
『いったい……なにがあった』
現れたキクル、カオリ達に一通りの事情を説明し、私達はあの女の待ち伏せを警戒しながらボス戦をこなした。
●●●
夜になってから目を覚ました俺は、鍵を使ってメルシュ達と情報交換を行おうとしていた。
「結果的にですが、今回の突発クエストにより、解放軍もレジスタンスも、生き残るためにはいがみ合っている場合ではないという結論に達したようです」
聖地近郊の平原で、カプアとトゥスカが、俺とメルシュ達にクエスト後の事を説明してくれる。
「ウララさんは?」
「……ラキ様が眠っていた部屋に、閉じ籠もったきり……」
双子の弟さんの存在は、協力するに当たって聞いてはいたけれど。
「兄さんは、これからについてご主人様と色々話し合いたいようです」
「明日にでも会いに行こう。時間はタップリあるしな」
俺達はこれから、メルシュ達だけでなく、アテル、キクル、ザッカル達がこのステージまでやってくるのを待つことになるのだから。
「……」
「どうした、メルシュ?」
「……正直に言うよ。今日の夕方頃、アヤ、シホ、ニシィー、キャロラインの四人が、一人の女プレーヤーに殺された」
――心が麻痺する。
「……たった一人に?」
「ボス部屋前で合流しようとリョウのパーティーだけでいたら、SSランク武器を持つ女に……あっという間だったって」
「SSランク……」
二人目の使い手が……現れたって事か。
「“エンバーミング・クライシス”のデタラメな能力を考えれば、彼等だけでは……どうしようもなかったでしょうね」
直接戦ったトゥスカが断言する。
あの時のトゥスカは、俺がアルファ・ドラコニアンを圧倒した時と同種の力を使用していた。
そうでなければ一人では太刀打ちできないほどに、SSランク武器の力はデタラメということ。
「他のメンバーは、無事なのか?」
また気を使って嘘を付かれるんじゃないかと思い、つい問い質すかのようにメルシュ近づ…………。
「手が……入ってる」
魔法の家に……“神秘の館”に戻れるようになっている!!
「……この際だし、それに……もう隠す意味もないか」
「……メルシュ?」
その言葉に、嫌な予感を覚えてしまう。
「大規模突発クエストの時……アオイが死んだよ」
「……へ? だって……あの時、加入しているレギオンメンバーの数は変わらず……」
「マスターには言ってなかったけれど、スゥーシャがスライムの隠れNPCを倒したの。だから、人数は変わっていなかった」
「そんな……」
分かっては居たことじゃないか……いつ、誰が死んでもおかしくないって事くらい。
今まで散々殺されそうになったし、殺して来た。
むしろ、今までが上手く行きすぎていたくらいなんだ。
「……ルイーサやアヤナ、それにサトミ達の様子は」
「ルイーサ達は、引き摺っては居るけれど前を向こうとしていると思う。サトミは……かなりショックだったみたい。メグミとリンピョンは受け止めていたみたいだけれど」
「……そっか」
リューナもチトセも、これまでに仲間を何人も失ったと言っていた。
これは、この世界で攻略を続けていれば……いずれ起こり得たこと。
「メルシュ……もう誰も死なないように、皆を導いてやってくれ」
「……うん」
繋いでいた空間を塞ぎ、勝手に話を打ち切ってしまう。
「ご主人様……」
「ちょっと……独りで考えさせて欲しい」
……現金な奴だよ、俺は。
この世界に来る前は、人類なんて滅べば良いとか思っていたくせに。
夜空に浮かぶ月を見上げ、思う。
後悔しないように、今日を、今を、一瞬一瞬を大切に生きていきたいって。
「カプアさん……この街には、結婚が出来る教会はありますか?」
「え? はい、ありますけれど……」
「ご主人様?」
「俺は……皆を守るためなら、なんだってしたいってそう……決めたんだ」
婚姻の指輪一つで多少なりとも生き残れる可能性が上がるなら……それ以外の事だって、なんだって。
◇◇◇
『生身のアルファ・ドラコニアンを、許可無くクエストに組み込んで良いと?』
管理者メンバーを集め、新しいルールについて説明していた。
『SSランクも含め、これからは君達の判断で用いて構わない。無論、それらを組み込む場合、クエスト報酬やクエスト難易度も上がるだろう。これまで通り、トライアングルシステムの判断に従って調整してくれたまえ』
『オッペンハイマー殿、そこの男に説教しなくて宜しいのですか? 今日の突発クエストで、コセとかいう小僧に十八文字まで刻ませてしまったネイサンを』
『貴様、ミハエル!!』
『問題は無い。幸い、シーカーの方々は理解を示されている。アルファ・ドラコニアンを処分する良い状況が出来上がったと、大いに喜んでいるくらいだよ』
そんな事実は一切無いがね。
『そもそも、そんな事を言ったら、私はここに居る人間の三分の一の首を刎ねなければならなくなってしまうよ』
『な、何故ですか!?』
『突発クエストを仕掛けなかった者達も、仕掛けて力を与えてしまった者達と――罪の重さは同じだと言っているのだよ、私は』
私の圧に、空気が止まる。
『だから、この程度で君達を処罰したりはしないさ。ククククククク!!』
もっと、もっと、もっと、奴等を追い詰めてくれなきゃ困るしね。
私が、真の神を殺すためにも。
『本日の会議は、これにて解散だ』
今夜は久し振りに、幼児の肉を食すとするかな。
「キャロ!!」
「「「キャロさん!!」」」
無惨な姿にされたヴァルキリーに、駆け寄る私達。
「マスターとエレジーは……無事……あとは」
全員……殺されたんだ。
数時間前に言葉を交わしたシホ、アヤ、ニシィーも……。
「ハイヒール!」
マーリが魔法を使う。
「こんな状態で回復して……使い物に……ならない」
「だったら、手脚を拾って来てやるよ!!」
ザッカルとキューリが駆け出し、キャロラインの手脚を回収してくる。
「無駄だ」
キャロラインの身体が、光に変わりだした。
「誰か……私を殺せ」
「何を言ってるんですか!!」
「諦めないでください!!」
「このままじゃ私は、あの女の経験値に……アイテムまで与えることに……」
あの女に、力を与えるような真似をしたくないってわけだ。
「頼む……コトリ。お前なら……」
「……分かったよ」
この前手に入れた柄の長い細長な金棒、”生を視ること死の如し”を振り上げる。
「退いて、みんな」
「「……」」
悟ったのか、ケルフェとマーリが離れ、ザッカル達も反対しない。
「恩に……着る」
「“光輝棒術”――シャイニングブレイク!!!」
……キャロラインが光の中に消えたのち、私はチョイスプレートを出して、キャロの装備を手に入れているかを確認した。
「……初めてだな」
殺したくないって思った相手を殺したのは……生まれて初めてだ。
『いったい……なにがあった』
現れたキクル、カオリ達に一通りの事情を説明し、私達はあの女の待ち伏せを警戒しながらボス戦をこなした。
●●●
夜になってから目を覚ました俺は、鍵を使ってメルシュ達と情報交換を行おうとしていた。
「結果的にですが、今回の突発クエストにより、解放軍もレジスタンスも、生き残るためにはいがみ合っている場合ではないという結論に達したようです」
聖地近郊の平原で、カプアとトゥスカが、俺とメルシュ達にクエスト後の事を説明してくれる。
「ウララさんは?」
「……ラキ様が眠っていた部屋に、閉じ籠もったきり……」
双子の弟さんの存在は、協力するに当たって聞いてはいたけれど。
「兄さんは、これからについてご主人様と色々話し合いたいようです」
「明日にでも会いに行こう。時間はタップリあるしな」
俺達はこれから、メルシュ達だけでなく、アテル、キクル、ザッカル達がこのステージまでやってくるのを待つことになるのだから。
「……」
「どうした、メルシュ?」
「……正直に言うよ。今日の夕方頃、アヤ、シホ、ニシィー、キャロラインの四人が、一人の女プレーヤーに殺された」
――心が麻痺する。
「……たった一人に?」
「ボス部屋前で合流しようとリョウのパーティーだけでいたら、SSランク武器を持つ女に……あっという間だったって」
「SSランク……」
二人目の使い手が……現れたって事か。
「“エンバーミング・クライシス”のデタラメな能力を考えれば、彼等だけでは……どうしようもなかったでしょうね」
直接戦ったトゥスカが断言する。
あの時のトゥスカは、俺がアルファ・ドラコニアンを圧倒した時と同種の力を使用していた。
そうでなければ一人では太刀打ちできないほどに、SSランク武器の力はデタラメということ。
「他のメンバーは、無事なのか?」
また気を使って嘘を付かれるんじゃないかと思い、つい問い質すかのようにメルシュ近づ…………。
「手が……入ってる」
魔法の家に……“神秘の館”に戻れるようになっている!!
「……この際だし、それに……もう隠す意味もないか」
「……メルシュ?」
その言葉に、嫌な予感を覚えてしまう。
「大規模突発クエストの時……アオイが死んだよ」
「……へ? だって……あの時、加入しているレギオンメンバーの数は変わらず……」
「マスターには言ってなかったけれど、スゥーシャがスライムの隠れNPCを倒したの。だから、人数は変わっていなかった」
「そんな……」
分かっては居たことじゃないか……いつ、誰が死んでもおかしくないって事くらい。
今まで散々殺されそうになったし、殺して来た。
むしろ、今までが上手く行きすぎていたくらいなんだ。
「……ルイーサやアヤナ、それにサトミ達の様子は」
「ルイーサ達は、引き摺っては居るけれど前を向こうとしていると思う。サトミは……かなりショックだったみたい。メグミとリンピョンは受け止めていたみたいだけれど」
「……そっか」
リューナもチトセも、これまでに仲間を何人も失ったと言っていた。
これは、この世界で攻略を続けていれば……いずれ起こり得たこと。
「メルシュ……もう誰も死なないように、皆を導いてやってくれ」
「……うん」
繋いでいた空間を塞ぎ、勝手に話を打ち切ってしまう。
「ご主人様……」
「ちょっと……独りで考えさせて欲しい」
……現金な奴だよ、俺は。
この世界に来る前は、人類なんて滅べば良いとか思っていたくせに。
夜空に浮かぶ月を見上げ、思う。
後悔しないように、今日を、今を、一瞬一瞬を大切に生きていきたいって。
「カプアさん……この街には、結婚が出来る教会はありますか?」
「え? はい、ありますけれど……」
「ご主人様?」
「俺は……皆を守るためなら、なんだってしたいってそう……決めたんだ」
婚姻の指輪一つで多少なりとも生き残れる可能性が上がるなら……それ以外の事だって、なんだって。
◇◇◇
『生身のアルファ・ドラコニアンを、許可無くクエストに組み込んで良いと?』
管理者メンバーを集め、新しいルールについて説明していた。
『SSランクも含め、これからは君達の判断で用いて構わない。無論、それらを組み込む場合、クエスト報酬やクエスト難易度も上がるだろう。これまで通り、トライアングルシステムの判断に従って調整してくれたまえ』
『オッペンハイマー殿、そこの男に説教しなくて宜しいのですか? 今日の突発クエストで、コセとかいう小僧に十八文字まで刻ませてしまったネイサンを』
『貴様、ミハエル!!』
『問題は無い。幸い、シーカーの方々は理解を示されている。アルファ・ドラコニアンを処分する良い状況が出来上がったと、大いに喜んでいるくらいだよ』
そんな事実は一切無いがね。
『そもそも、そんな事を言ったら、私はここに居る人間の三分の一の首を刎ねなければならなくなってしまうよ』
『な、何故ですか!?』
『突発クエストを仕掛けなかった者達も、仕掛けて力を与えてしまった者達と――罪の重さは同じだと言っているのだよ、私は』
私の圧に、空気が止まる。
『だから、この程度で君達を処罰したりはしないさ。ククククククク!!』
もっと、もっと、もっと、奴等を追い詰めてくれなきゃ困るしね。
私が、真の神を殺すためにも。
『本日の会議は、これにて解散だ』
今夜は久し振りに、幼児の肉を食すとするかな。
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