ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

460.漢の死闘

「ハアッ!!」
「フンッ!!」

 試合開始の合図と共に、互いの武器を正面からぶつけ合う俺とヴァルカ!!

 一瞬の競り合いののち、互いに大振りの連撃を見舞う!

 向こうの方が体格が良いのもあって、押されているか。

「“獣化”」

 黒い巨犬の人獣となり、膂力と瞬発力で圧倒されてしまう!

『とっとと本気を出すが良い。貴様が我が妹の言うような男ならば、この程度ではなかろう』
「……そうだな」

 “振り抜き”、“軸足”などの“大戦士”に含まれた補助スキルを総動員しても、“獣化”したヴァルカには打ち負けている。

「狡いとか言うなよ――装備セット1」

 “サムシンググレートソード”と、“偉大なる英雄竜の猛撃剣”の二刀流となり――神代文字を九つずつ刻む。

『二刀流か、これは想定外。肉を切らせて骨を断ってやるつもりだった――のだがな!!』

 頭上からの振り下ろしを、左手の猛撃剣で打ち払う!

『ク!』
「ハイパワースラッシュ」

 右手の剣で突き込んだ瞬間――自分から身体を前に押し出して、自ら深々と刺された!?

「ガッ!!」
『このまま、ガフッ!! 首を折ってくれる!!』

 “サムシンググレートソード”を手放し――鎧の右腕の装甲に三文字を刻んで、俺の首を絞めている指の骨を折る!

『グゥッッ!!』

「“空衝”!!」

 奴の胸の上で空を跳ぶスキルを足裏から発動――衝撃で、その巨体を押し飛ばす!

 その代わりに、“サムシンググレートソード”が奴に突き刺さったまま離れていってしまった。

『スティール……ダメか』

 剣から光が弾け……ヴァルカのスティールを、グレートソードが無効化した?

 突き刺さっていた剣を抜き、捨て去るヴァルカ。

『まあ良い。そろそろ本気を出そうか」

 人の姿に戻った?

「どうした? さっさと剣を装備し直さないのか?」

「その剣は、もうこの試合では使わない」
「なに?」

 猛撃剣を右に持ち替え、新たに“グレートグランドキャリバー”を装備する。

「その剣はお前に奪われた。だから、俺には使えない」

「……クク――フハハハハハハハ!! くだらぬ事を!!」

 高らかに笑われた!?

「意地かなにかは知らんが、面白い事をほざく小僧だ――気に入った」

 ヴァルカの圧力が増す!!

「だが、我が妹の伴侶に相応しいとは――まだ認められんなぁぁ!! “ニタイカムイ”!!」

 緑のオーラを纏った!

「“ホロケウカムイ”!!」

「な、カムイを同時に!?」

 青と緑の濃密なオーラが、ヴァルカの身体を覆っている。

「なんだ、トゥスカから俺のユニークについて聞いていなかったのか?」
「俺が、聞くのを断ったんだ」

「は? なんのために?」

「アンタは、俺の戦闘スタイルを知らない。なのに、俺だけ一方的に決闘相手の能力を知っているのは不公平だ」

「――ハハハハハハハハハハハハ!! まさか、お前のような異世界人が居るとはな! 俺の妹の目は節穴ではなかったらしい!」

 手にしている黒斧に、九文字刻んだ!?

「まさか、神代文字まで使えたとは」
「俺を、妹に負けたときの俺と思うな。今回ばかりは――一切の容赦はせん!!」

 突っ込んできたヴァルカに対し、俺は剣と鎧に十二文字を刻み――“グレートグランドキャリバー”に文字の力を流し込む!

「おおおおおッッ!!!」
「ぅらあああああッッ!!!」

 文字では勝っているのに、僅かに押されている!!

 二つのカムイと体格の差により、文字の差を覆されているのか!

 なにより、文字を刻めない“グレートグランドキャリバー”の違和感が、“サムシンググレートソード”による二刀流の時よりも動きを悪くしている!!

「“逢魔斧術”」

 ――コイツ、九文字から十二文字に!!


「――オミナスブレイズッ!!」


「“不撓の恵み”!!」

 “グレートグランドキャリバー”の効果により、黄光に包まれている三秒間のみは全ての攻撃を無効化する!

 日に、三度までしか使えない能力。

「“飛王剣”!!」

 刀身を直接斬り付けるつもりで振るい、後退しようとしたヴァルカに斬光の追撃を掛ける!!

「“荒野に落ちる影”」

 斧で切った空間が影に染まり、俺の斬撃を阻んだ!?

「もっとだ、コセ!!」
「望むところだ!!」

 再びの武具の応酬。

「“偉大なる黄金の翼”!!」

 黄金のパーツを背に二つ出現させ、そこからブラウン光の翼を顕現――黄金光振り撒く“飛翔”を、推力に極振りする!!

「なにッ!?」

 駆け引きもなにも無い武具のぶつかり合いに――“グレートグランドキャリバー”は折れ、“偉大なる英雄竜の猛撃剣”は、ヴァルカの斧同様に弾け飛んだ!

「――おおおおおおおおおおッッ!!」
「“殴打撃”!!」

 右腕の神代文字を活性化させ、ヴァルカの拳と殴り合う!!

「「ぐぅうッッ!!」」

「“大地讃頌”!!」

 ――跳躍されて、ほとんど当たる前に逃れられた!

 しかも、アイツの鎧にも文字が!!

「ハイパワースマッシュ!!」
「“剛力竜衝”!!」

 上空からの踵落としに対し、神代の力を流し込んだ左掌を翳し――弾き飛ばす!!

「おおああ!!」

 反動冷めやらぬ間に、尻尾を叩き付けられた!!

 “神代の鎧”――は、無粋だよなぁ!!

 それからはスキルも武具効果も使わず、神代の力を纏わせた拳と脚のみによる肉弾戦へッ!!

 互いに攻撃とガードの瞬間に文字の力を炸裂させて、攻撃力と防御力を高めている!!

 向こうは九文字、俺は十二文字。

 けれど、またしてもカムイと体格の差で押され気味に!!

 皮膚が裂け、骨が軋み、裂傷の熱が痛みと共に込み上げ、蓄積していく鈍痛が肉体の代弁者となり、打ち合うほどに声が大きくなっていく。

 なのに――今この時だけは、少しばかり心地良い!!

「お前に――トゥスカは渡さんッッ!!」


「――――ざけんな、クソ義兄ぇぇッッッ!!!」


 向こうの拳を、“軸足”からの回転で躱しながら懐に入り込み――全力の拳をその腹に叩き込んだ。

「ハアハア、ハアハア」
「……グ――」

 ヴァルカが倒れていき、俺の拳が抜けた場所から……血を派手に撒き散らし、舞台を真っ赤に染め……ヴァルカの身体は、噴き出した血溜まりと共に光へと変わっていった。

「第六試合勝者、《龍意のケンシ》――コセ!!」

「ハアハア、ハアハア」

 勝った……のか。

「す、スゲー」
「まさしく、男同士の死闘」
「……格好いい」

 人々の声が、微かに……クリアに耳に届いてくる。

「これにて、此度の決闘はお開――」


『今から十分後、”突発クエスト・莫大な財宝と栄光を手に入れよ”を開始する!!』


「な……に?」

 まるで、静かな心地のいい熱気が冷め始めた所に……冷や水を浴びせられたような気分だ。


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