ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

458.完膚なきまでに

『もう……殺じでぐれぇ……』

 ウララにより、ジャッカル獣人に対して、既に十分以上は暴行と回復が繰り返されていた。

 さすがにやりすぎじゃないのか、という声が見学席から微かに聞こえてくる程に、この勝負は凄惨。

『生きてる価値のな無い雑魚が』

 ウララのこの殺気は、どこか懐かしさすら憶えるな。

『もういい』

 ウララが、黄金の悪魔を消した?


『“六重詠唱”、“雷雲魔法”――サンダークラウズスプランター!!』


 六つの魔法陣から放たれた黄雷は、いけ好かない獣人の男を跡形もなく消し炭にした。

『《獣人解放軍》の選手、カザルフの死亡を確認! 勝者、《龍意のケンシ》のウララ!!』

 オリョウの宣言に、歓声を上げる者は一人も居ない。

「……私は」
「お疲れ」

 戻ってきたウララは意気消沈としており、コセは軽く労うだけ。

 今は、あまり触れない方が良いと判断したか。

「あ、あの人は!」
「私達を捕らえた、長尾驢カンガルーの獣人」

 両腕にレッドピンクの甲手を嵌めた大斧使いの女は、ノーザンとトゥスカにとって因縁のある相手らしい。

「よし、私が行くか」

 あんなバカでかい質量の武器、私以外の面子が対処するのは難しいだろう。

「気を付けてな、リューナ。セクハラはするなよ」

 コセに釘を刺された!

「私だって、時と場合くらい考えるは!」

 幾ら敵だからって、許可も無く胸を揉んだりケツを撫でたりしない!

 “終わらぬ苦悩を噛み締めて”を握り、舞台の上へ。

「へー、結構強そうな女が出て来たじゃん」

「生意気な女だな」

 嫌いじゃないが。

「両者、名乗るでありんす」

「戦士、エリューナ」
「カンガルーの獣人、パンカー」

「パンカーVSエリューナ、第二試合――開始!!」

「“瞬足”!!」

 いきなり踏み込んできたか。

「嬲るのは趣味じゃない」

 斧を紙一重で避け、隙を晒した所で喉をかっ切――斧を捨てて避けただと!?

「“闘気拳”!!」

 オーラを乗せた拳を、なんとか躱して後退する。

「斧はブラフで、本当は拳士だったか」
「どっちかって言うと、コッチの方が得意ってだけだけれどな!!」

 息つく暇もない程の連続攻撃に、追い詰められていく。

 ……完膚なきまでに倒せって、話だったよな。

「な!?」

 ――黒を塗りたくったようなシャシュカを捨て――女獣人の腕を取る。

「――ぁぁぁああああああああッッッ!!!」

 投げると同時に、左腕の骨を折った。

「クソが――“獣化”!!」

 身体が変質していく様を見て、一度距離を取る。

「格好いいカンガルーだな」

 纏う武具はそのままに、身長三メートル程の人獣となったか。

『“業火の両腕”!!』

 拳から肩までを火が覆い、一回り大きくしたような炎の甲手を身に着けた?

『これで、テメーのみみっちい投げ技は効かねーぞ!!』

「炎の腕には組み付けねーだろ、って言いたいわけか」

 折った腕も、もう治ってしまったらしい。

 これが、“獣化”の最大の強みである回復能力か。

「なら。装備セット2」

 シャシュカを消し、“軽量のコサックダガー”を左手で逆手持ちに。

 左腰には”アイスナイフ”を。

『そんなもんで、どうにかなるとでも? ――ざけんな!!』

「あまり、手の内を晒すのは好きじゃない――楽に死ねないことを後悔するが良い」

『ほざけ!!』

 振るわれた腕を避け、二の腕を切り付けようとするも――硬質な感触に刃を弾かれる。

 あの炎で覆われた部分は、見た目通り内側が硬くなっているのか。

「なら」

 振るわれる炎腕を避け続け――脇腹や目を斬り付けていく。

『ぅああああ!! お、お前ッ!!』

「生意気な割に、動きは隙だらけだな。身体能力では勝っているのに、私に翻弄されているのがその証拠だ」

『異世界人風情が――このパンカー様をバカにするなぁぁ!!』

 大振りの攻撃により最大の隙を晒した瞬間――右手で“アイスナイフ”を抜き、その巨体の右太股を切り刻む!!

『ぁああああああッッッッ!!!』

 左脚のみで跳躍し、舞台に刺さっていた斧を抜くパンカー。

『ぶっ殺してやるッッ!!』

「とっとと来い」

 この戦いでは、神代文字もユニークスキルも使わない。

『ああああッッ!! “爆裂斧術”――バーストブレイクッ!!』

「――“瞬足”」

 斧が振り下ろされる直前に、前へと踏み込んだ。


「“業王脚”!!」


 腹に蹴りを食らわせ、一瞬身体を浮かせた。

『こ――んのぉぉッッ!!!』

 意地でも食らい付いてくる、その根性だけは認めてやる。

「“心霊術”――ポルターガイスト」

 私の二つのナイフを高速で飛ばし、両目に突き刺す。

『ぁぁあああああああッッッッ!!!』

 痛みに意味もなく暴れ狂うパンカーの背に組み付き、腕を回す。

「試させて貰おうか」

 首の骨を折っても、”獣化”で再生出来るのかどうかを。

『や、やめ――』

 クキャリという子気味良い音と共に、首があらぬ方向へと曲がり……彼女の身体は沈黙した。

 やがてその巨体は倒れ、光へと変わっていく。

「第二試合勝者、《龍意のケンシ》のエリューナ!!」


             ★


「第三試合勝者、チトセ!!」

 薬液で身体を溶かし、像獣人の男との戦いを、あっという間に終わらせたチトセ様。

「「……おっかねー」」

 リューナ様とトキコ様が引いている。

「次は、私が出ても構いませんか? マリナ様」

「うん、大丈夫」

 “反響のステッキ”片手に、舞台に上がる。

 人々の雑多な熱気が、身勝手な念がこの場所には集まっているようで……気持ち悪い。

「僕の相手は鳥人ですか」

 鎧を着ている男が……大剣を手にしている?

「その眼帯は外さないのですか?」
「私は元々目が見えませんので、ハンデなどではありませんよ」
「そんな人間を選手に選ぶとは、コセという男はなにを考えている」

 侮辱が滲んだその言葉に、殺意が芽生える私が居る。

 誰かの事でこんなにも一喜一憂するなんて……そのことが煩わしくも、心地よさすら感じてしまっていた。

「両者、始めてよければ名を」

「烏鳥人のクオリア」
海獺ラッコ獣人のヴェイパー」

「ヴェイパーって……」
「ヴァルカの右腕」
「解放軍の中でも、ヴァルカの次に強いって言う」

 観客達の情報通りなら、とんでもない相手と戦うことになってしまった様子。

「それでは! ヴェイパーVSクオリア、第四試合――開始!!」

「“獣化”」

 いきなり切り札を切り、身体を肥大化させたヴェイパー。

 その圧迫感は、目の見えぬ私にも感じ取れるほど。

『さっきの惨たらしい同胞の殺され方に、さすがの僕も頭に来ている。目が見えぬ相手とは言え、手加減はしな――』


「“六重詠唱”、“瘴気魔法”――――“直情の激発”」


 左腕の装身具、“鬱屈なる感情の発露”に神代文字を九文字刻み――一瞬で練り上げた力を全て、魔法陣に注ぎ込んだ。

「…………へ?」

 完全に消し飛ばしたはずなのに、なかなか勝利宣言をしてくれないオリョウ様。

「あの、決着は着いていないのですか?」

「へ!? ぁ……だ、第四試合勝者、クオリア!!」

「イラッとしたからか、ちょっとやり過ぎちゃいましたかね」

 コセ様は褒めてくれるでしょうか。

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