ダンジョン・ザ・チョイス
437.落ちる影
「“暴風魔法”――ストームダウンバースト!!」
サトミ様の一撃により、ミイラの集団が殲滅される。
「さすがです、サトミ様」
「まあ、それ程でも~」
氷特化の私は、この炎天下では強みが半減……ろくにサトミ様のお役に立てないなんて!
「“泰然なる息吹”!!」
メグミの“泰然なる高潔の息吹”より放たれた風の砲撃は、ミイラの集団を操っていたと思われる魔術師風ミイラに――杖でガードされてしまう!
「“金星砲術”――ヴィーナスキャノン!!」
クリスが黄金の銃、“ゴルドヴィーナス”から放った黄金の熱球が魔術師に直撃し……葬り去った。
「……フー」
やっぱりクリス、なんか変よね?
「クリス、どうかしたの?」
私より先に、モモカが尋ねた。
「へ? 全然なぁんともないでぇすよ! それより、早くモンスター倒して、この暑さから逃げたいです!」
「うん。ここ、凄く暑い!」
どことなく空元気に見えるクリス。
ジュリーがオルフェってのと組んでダンジョンザ・チョイスを終わらせようとしていたっていうのが観測者にバレてるって言いだしたときくらいから、なんか気落ちしっぱなしな気がする。
「こういうのは、コセさんの役目かしらね」
「だな」
サトミ様もメグミも、コセに丸投げするつもりらしい。
「キャウキャウ♪」
戦闘が終わったからか、自分でチョイスプレートを弄って骨付き肉を頬張りだすバニラ……美味そうに喰うな、アイツ。
○”砂漠呪術師の髑髏杖”を手に入れました。
○“砂漠魔法のスキルカード”を手に入れました。
●●●
「“闘気盾”、“守護武術”――ガーディアンシールド!!」
神代文字を全力で六文字刻んでから青白いオーラを“ヴリルの聖骸盾”に纏わせたのち、盾の光属性が反映された障壁を展開――“デザートハンマシャーク”の頭突きを止める!!
隠れNPC、ガーディアンのサブ職業により使用可能な“守護武術”。防御特化とは聞いていたけれど、この大質量の激突すら耐えるのか。
「く!」
でも、押されている!!
昨夜のうちに、“大盾術”と一緒に“踏ん張り”のスキルも手に入れているって言うのに!
「――“猪突猛進”!!」
魔神・突撃猪から手に入れたスキルで、正面から拮抗して見せる!!
「“泥土魔法”、ベリアルロック!!」
サンヤの魔法により、デカ鮫に泥が纏わり付いて動きを完全に止めてくれた!
「“跳躍”――“蓮華仏”」
跳び上がったヒビキが、その背に生み出した炎の蓮華紋より、無数の燃える蓮華を撃ち出して頭上から攻撃。あっという間に燃やし尽くしてしまう。
「さすがはユニークスキルだな」
使いこなしているヒビキもさすが。
「ルイーサ、怪我はありませんか?」
ヒビキに尋ねられる。
「ああ、なんともない」
まだ衝撃を受けた時の強張りが身体から抜けきっていないが、そのうち消えるだろう。
「どうやら、全部倒したみたいだな」
そう言ったフェルナンダの視線を辿ると、滝のエレベーターがあった辺りから光が立ち昇っていくのが見えた。
その光を受けているからなのか、青味を帯びていた滝の色が、鮮やかなエメラルドグリーンへと変わっている。
「とっとと戻りましょう」
率先して行動するアヤナは、以前よりも弱音を吐かなくなり、戦闘にも積極的。
それ故に、探索開始から一時間が経過した時点でもっとも消耗していた。
「……死に急いでいるわけじゃないよな、アヤナ」
誰にも聞こえないくらいのトーンで口にしたが、だからこそその言葉に……虚しさを覚える。
「……今はむしろ、自分の心配をするべきか」
アオイが死んだあの日から私は、どう頑張っても六文字までしか刻めなくなってしまった。
これまでは最大十二文字まで、それも自分の意思で刻めていたのに。
「……こういう鬱屈とした気分は……久し振りだな」
この、出口の無い迷路を彷徨っている気分は。
●●●
第四階層のモンスター狩りを終えたのち、私とシレイアさん、ユリカさん、ヨシノさん、レリーフェさんで滝へと向かって歩いていた。
レリーフェさんは相変わらずなにかを抱えているような気配がするけれど……さすがと言うべきか、ちゃんと切り替えてはいるみたい。
「シレイアさん、なんか嬉しそうだね。レイナって人から連絡が来たから?」
「まあね、否定はしないよ」
昨夜、コンソールの方に彼女達から、《龍意のケンシ》宛にレギオンの参加を打診され、一先ず仮参加して貰うことになった。
まだレギオンリーダーであるコセさんがこっちに戻ってこられないから、正式には加えられていないけれど。
キクルって人には……色々お世話になっているのもあって、半数はレイナ達の参加に賛成みたい。
以前遭遇した時の彼女達の身のこなしから判断して、私も実力的には賛成。
でも、コセさん以外の男が新たに加わるのは……ちょっと嫌かな。リョウって人も、あんまり好きになれないし。
「珍しいね、マスターがそういう顔をするのはさ」
シレイアさんに指摘される。
「へ?」
「いつもは、悩みなんてこれっぽっちも無いって顔でノホホンとしてるのに」
「私……そんなに脳天気に見える?」
「まあね」
じゃあ皆って、私よりも常に思い悩んでるって事?
「ユイ、シレイア! もう全員集まってるみたいよ!」
先頭に居たユリカさんに呼ばれる。
「アイヨー! 走ろうか、マイマスター」
「うん!」
シレイアさんにマイマスターって呼ばれたら……なんか勝手に、口角が吊り上がっちゃった。
●●●
「あ、滝のエレベーターが更に下まで続いてる」
最後に戻ってきたユリカちゃん達が驚いている。
「半日しか通れないから、先に進んじゃうよ」
率先してメルシュちゃんが下へ。
メルシュちゃん、最近はクマムちゃん達ばかり戦わせて、私の活躍する機会が減っちゃってる。
魔神・突撃猪との戦闘後辺りからそうなったような……もしかして、私が十二文字刻めるようになったから?
それとも、“宵闇の暗闘を血で染め上げよ”にこの鎌が進化したからとか?
そんな疑問を抱えていると――あっという間に皆居なくなってる!?
急いで滝のエレベーターに乗り込んで、皆を追う。
「……なんか、ザッカルとコセくんが居なくなってから……」
孤独に感じることが増えたかも。
スヴェトラーナとルフィルも去っていき、アオイちゃんも……。
誰も死なないダンジョン攻略が続いていたせいで、すっかり忘れてしまっていた。
この世界は、いつ誰が殺されてもおかしくないって事実を。
なんだか、無性に誰かに甘えたい。
「また砂漠……というより、荒野か」
アヤナちゃんの独り言。
今のアヤナちゃんは、いったいどういう心境なんだろう。
自分はHSPだと思っていたけれど、人の心を察するのは……本当に難しい。自分の心ですら。
「それで、ここからどちらに行くのですか?」
「どの方向に進んでもボス部屋に辿り着けるんだけれど、運が良ければレアな宝箱に遭遇出来るかもしれないから、パーティーごとに五方向に進んで貰おうと思うの」
タマちゃんの質問に、メルシュが答える。
「まあ、一時間も真っ直ぐ歩けば自然と辿り着けるから。途中で方向転換とかしていると、いつまでも辿り着けなくなる危険性もあるけれど」
「こ、怖いこと言わないでよ、メルシュ」
ナオちゃんが怯えている。
「安心しろ、ナオ。余達、隠れNPCの方向感覚を信じろ余い!」
「メルシュやヨシノならともかく、ナノカはちょっと」
「お前、なんで余だと不安そうなんだよ!」
みんなが笑い、最近立ち込め気味な暗い空気が緩和され――
「……気のせい?」
今一瞬、滝の上の方から微かに気配がしたような……。
サトミ様の一撃により、ミイラの集団が殲滅される。
「さすがです、サトミ様」
「まあ、それ程でも~」
氷特化の私は、この炎天下では強みが半減……ろくにサトミ様のお役に立てないなんて!
「“泰然なる息吹”!!」
メグミの“泰然なる高潔の息吹”より放たれた風の砲撃は、ミイラの集団を操っていたと思われる魔術師風ミイラに――杖でガードされてしまう!
「“金星砲術”――ヴィーナスキャノン!!」
クリスが黄金の銃、“ゴルドヴィーナス”から放った黄金の熱球が魔術師に直撃し……葬り去った。
「……フー」
やっぱりクリス、なんか変よね?
「クリス、どうかしたの?」
私より先に、モモカが尋ねた。
「へ? 全然なぁんともないでぇすよ! それより、早くモンスター倒して、この暑さから逃げたいです!」
「うん。ここ、凄く暑い!」
どことなく空元気に見えるクリス。
ジュリーがオルフェってのと組んでダンジョンザ・チョイスを終わらせようとしていたっていうのが観測者にバレてるって言いだしたときくらいから、なんか気落ちしっぱなしな気がする。
「こういうのは、コセさんの役目かしらね」
「だな」
サトミ様もメグミも、コセに丸投げするつもりらしい。
「キャウキャウ♪」
戦闘が終わったからか、自分でチョイスプレートを弄って骨付き肉を頬張りだすバニラ……美味そうに喰うな、アイツ。
○”砂漠呪術師の髑髏杖”を手に入れました。
○“砂漠魔法のスキルカード”を手に入れました。
●●●
「“闘気盾”、“守護武術”――ガーディアンシールド!!」
神代文字を全力で六文字刻んでから青白いオーラを“ヴリルの聖骸盾”に纏わせたのち、盾の光属性が反映された障壁を展開――“デザートハンマシャーク”の頭突きを止める!!
隠れNPC、ガーディアンのサブ職業により使用可能な“守護武術”。防御特化とは聞いていたけれど、この大質量の激突すら耐えるのか。
「く!」
でも、押されている!!
昨夜のうちに、“大盾術”と一緒に“踏ん張り”のスキルも手に入れているって言うのに!
「――“猪突猛進”!!」
魔神・突撃猪から手に入れたスキルで、正面から拮抗して見せる!!
「“泥土魔法”、ベリアルロック!!」
サンヤの魔法により、デカ鮫に泥が纏わり付いて動きを完全に止めてくれた!
「“跳躍”――“蓮華仏”」
跳び上がったヒビキが、その背に生み出した炎の蓮華紋より、無数の燃える蓮華を撃ち出して頭上から攻撃。あっという間に燃やし尽くしてしまう。
「さすがはユニークスキルだな」
使いこなしているヒビキもさすが。
「ルイーサ、怪我はありませんか?」
ヒビキに尋ねられる。
「ああ、なんともない」
まだ衝撃を受けた時の強張りが身体から抜けきっていないが、そのうち消えるだろう。
「どうやら、全部倒したみたいだな」
そう言ったフェルナンダの視線を辿ると、滝のエレベーターがあった辺りから光が立ち昇っていくのが見えた。
その光を受けているからなのか、青味を帯びていた滝の色が、鮮やかなエメラルドグリーンへと変わっている。
「とっとと戻りましょう」
率先して行動するアヤナは、以前よりも弱音を吐かなくなり、戦闘にも積極的。
それ故に、探索開始から一時間が経過した時点でもっとも消耗していた。
「……死に急いでいるわけじゃないよな、アヤナ」
誰にも聞こえないくらいのトーンで口にしたが、だからこそその言葉に……虚しさを覚える。
「……今はむしろ、自分の心配をするべきか」
アオイが死んだあの日から私は、どう頑張っても六文字までしか刻めなくなってしまった。
これまでは最大十二文字まで、それも自分の意思で刻めていたのに。
「……こういう鬱屈とした気分は……久し振りだな」
この、出口の無い迷路を彷徨っている気分は。
●●●
第四階層のモンスター狩りを終えたのち、私とシレイアさん、ユリカさん、ヨシノさん、レリーフェさんで滝へと向かって歩いていた。
レリーフェさんは相変わらずなにかを抱えているような気配がするけれど……さすがと言うべきか、ちゃんと切り替えてはいるみたい。
「シレイアさん、なんか嬉しそうだね。レイナって人から連絡が来たから?」
「まあね、否定はしないよ」
昨夜、コンソールの方に彼女達から、《龍意のケンシ》宛にレギオンの参加を打診され、一先ず仮参加して貰うことになった。
まだレギオンリーダーであるコセさんがこっちに戻ってこられないから、正式には加えられていないけれど。
キクルって人には……色々お世話になっているのもあって、半数はレイナ達の参加に賛成みたい。
以前遭遇した時の彼女達の身のこなしから判断して、私も実力的には賛成。
でも、コセさん以外の男が新たに加わるのは……ちょっと嫌かな。リョウって人も、あんまり好きになれないし。
「珍しいね、マスターがそういう顔をするのはさ」
シレイアさんに指摘される。
「へ?」
「いつもは、悩みなんてこれっぽっちも無いって顔でノホホンとしてるのに」
「私……そんなに脳天気に見える?」
「まあね」
じゃあ皆って、私よりも常に思い悩んでるって事?
「ユイ、シレイア! もう全員集まってるみたいよ!」
先頭に居たユリカさんに呼ばれる。
「アイヨー! 走ろうか、マイマスター」
「うん!」
シレイアさんにマイマスターって呼ばれたら……なんか勝手に、口角が吊り上がっちゃった。
●●●
「あ、滝のエレベーターが更に下まで続いてる」
最後に戻ってきたユリカちゃん達が驚いている。
「半日しか通れないから、先に進んじゃうよ」
率先してメルシュちゃんが下へ。
メルシュちゃん、最近はクマムちゃん達ばかり戦わせて、私の活躍する機会が減っちゃってる。
魔神・突撃猪との戦闘後辺りからそうなったような……もしかして、私が十二文字刻めるようになったから?
それとも、“宵闇の暗闘を血で染め上げよ”にこの鎌が進化したからとか?
そんな疑問を抱えていると――あっという間に皆居なくなってる!?
急いで滝のエレベーターに乗り込んで、皆を追う。
「……なんか、ザッカルとコセくんが居なくなってから……」
孤独に感じることが増えたかも。
スヴェトラーナとルフィルも去っていき、アオイちゃんも……。
誰も死なないダンジョン攻略が続いていたせいで、すっかり忘れてしまっていた。
この世界は、いつ誰が殺されてもおかしくないって事実を。
なんだか、無性に誰かに甘えたい。
「また砂漠……というより、荒野か」
アヤナちゃんの独り言。
今のアヤナちゃんは、いったいどういう心境なんだろう。
自分はHSPだと思っていたけれど、人の心を察するのは……本当に難しい。自分の心ですら。
「それで、ここからどちらに行くのですか?」
「どの方向に進んでもボス部屋に辿り着けるんだけれど、運が良ければレアな宝箱に遭遇出来るかもしれないから、パーティーごとに五方向に進んで貰おうと思うの」
タマちゃんの質問に、メルシュが答える。
「まあ、一時間も真っ直ぐ歩けば自然と辿り着けるから。途中で方向転換とかしていると、いつまでも辿り着けなくなる危険性もあるけれど」
「こ、怖いこと言わないでよ、メルシュ」
ナオちゃんが怯えている。
「安心しろ、ナオ。余達、隠れNPCの方向感覚を信じろ余い!」
「メルシュやヨシノならともかく、ナノカはちょっと」
「お前、なんで余だと不安そうなんだよ!」
みんなが笑い、最近立ち込め気味な暗い空気が緩和され――
「……気のせい?」
今一瞬、滝の上の方から微かに気配がしたような……。
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