ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

429.神殿の番犬

「ようやく終点か」

 天空廻廊を抜けた先は崖の上で、その上に建っていたのは……白灰色の石のみで出来た神殿?

「嫌な気配がするな」

 エルザがなにか言っているが、私は特に気配などは感じない……厨二病か?

「たくさん出て来たなぁ……出て来ましたね」

 “妖魔悪鬼への憤慨”は既に装備から外しているのに、口調がオラオラ系だったチトセ……やっぱりあっちが本性なんじゃないのか、コイツ。

「さてと」

 現れたクレインハンド、吸血バット、ゾンビ、スケルトン、トレントが一斉に襲い掛かってくる。

「装備セット2」

 チトセが武装を変え、瓶を二つ取り付けられる“ダブルバレル薬液銃”を装備。

「”分離”」

 二つの砲身が着いた薬液銃を二丁拳銃にし、右の銃でゾンビやスケルトンを、左の銃でトレントを攻撃して枯らしていく。

 第三十ステージ、調合師の墓場で私が拾ったAランク武器。

「右が”聖水”で、左が“除草液”みたいですのね」

 ネレイスの言うとおりなら、最初から使う機会が少ない薬液をセットしていたってことになる。

 のほほんとしているようで、結構抜け目ないよな、チトセは。

「アンデッドと植物系以外はお願い!」
「任せろ! “吹雪魔法”――ブリザードトルネード!!」

 数は多いが、出て来たのは雑魚ばかり。

「マスター、コイツらきりが無いみたいですわ!」

「まさか、無限湧きって奴か!」

 雑魚ばかりなら、ネレイスの言う通りの可能性が高い!

「あの遺跡に逃げ込もう! 先に進めば、途中から追ってこなくなるはずだ!」

 エルザが真っ先に駆け出す。

「チトセ、エルザに続け! 後ろは私とサカナで対処する!」

 天空廻廊ではチトセに頼ったからな。ここは私が受け持つ番だ!

「分かりました!」

 四人で敵を蹴散らしながら進んでいると、遺跡前まで辿り着いたエルザの前に――三頭と二頭の黒い巨犬が立ち塞がった!

「オルトロスとケルベロスか――武器交換、“雷鳴の天罰槍”!」

 エルザが黒のジャベリンを、黄雷が凝縮されたような大型の投槍に換えた。


「――“天罰の雷”!!」


 強大な雷を纏わせながら右腕で投げ放ち、二頭タイプの犬を消失させるエルザ。

 しかも、三頭の方も余波でダメージを受けたらしい。

「“空遊滑脱”、“空衝”!」

 三つの口からエルザに火を吐こうとした巨犬へ、空から距離を詰める!


「――“業王脚”!!」


 背中を鯖折りにし、一撃で仕留めきった!!

「“吹雪魔法”――ブリザードダウンバースト!!」

 その後、サカナ達の後ろから迫っていた雑魚モンスター共を凍気の圧力により圧砕! 無事に四人で遺跡へと逃げ込める!

「ハアハア。ここまで安全エリア無しか」

 遺跡内部は暗く、取り敢えずは敵が居る気配は無い。

 遺跡の外の奴等は読み通り追ってこず、姿を消していった。

「エルザ、少し休みましょう。二人の体力がそろそろ限界」
「……チ、仕方ないな」

 サカナの言葉に、渋々従ってくれる。

 父親を殺すのを目的としているという設定のせいか、いつものような冷静さが欠けているエルザ……暴走気味だし、どうなる事やら。

「悪いな、エルザ」

 TPもMPもそれなりに消耗したが、それ以上に体力と集中力を消耗している。

 三十三ステージを超えたあと、ろくに休めなかったのが響いているらしい。

「現在、21:13。時間はまだまだあるけれど、後どれくらい続くのか」

 タフなチトセも、結構参っているようだ。

「だな」

 制限時間十時間という設定を考えると、まだ半分も辿り着けていない可能性すらあるのか。

○“怪物の牛の番犬の指輪”を手に入れました。
○”地獄の番犬の指輪”を手に入れました。


●●●


「……長い」

 一時間以上かけて下水道を抜けた先に広がっていたのは、広大な迷路。

 その迷路を進むこと既に一時間以上……行き止まりに当たっては、何度も引き返していた。

 いつ終わるのかが分からないって言うのは、精神的に厄介だな。

 たまに普通の宝箱や鳥の死骸を見付けるも、大した物は手に入っていないし。

「こっちも行き止まり……なんだ?」

 角を曲がった直後に見えた行き止まりの壁の下に……剣が突き刺さった騎士風の骸骨が。

「スケルトンナイトです。近付けば襲ってきますが、動き出すまではダメージを与えられないので気を付けてください」

 ナターシャが教えてくれる。

「あの突き刺さっている剣は分かるか?」

「“ロイヤルロードキャリバー”、Sランク。大した効果はありませんが、“不壊”と“聖剣”が特徴でしょうか。ロイヤルロード系は、Sランクの中では使用しやすいですし」

「ナターシャの予備武器に、ちょうど良いかもな」

 聖剣なら、ルイーサに渡しても良い。

「“神代の光剣”」

 “偉大なる英雄の光剣”に三文字刻み、柄から青白い刀身を形成。

 通路は狭く、複数人で戦うのに向かないうえ、長物を振り回す余裕も無い。

 この狭さのお陰か、迷路でモンスターに遭遇することはここまでなかったけれど。

「とっとと仕留めてくる。突破してきた時は頼んだ」
「畏まりました」

 角の先に向かうと、カタカタカタという音を響かせ――骸骨騎士が立ち上がり、腹に刺さっていた白銀の剣を抜いた!

『グルワァァァ!!』
「そう来るか!」

 この場所じゃ大剣を振り回せないためか、突きを連続で放って来るスケルトンナイト!

 後退すれば、ナターシャ達を巻き込むことに!

 ――胸の中心への一番鋭い突きを、逆手にした光剣の腹を二の腕の盾パーツで支えた状態で当て受け――白銀の剣を去なしながら距離を詰める!

「“剛力竜衝”!!」

 左手の平をスケルトンナイトの胸の前に翳し、強大な衝撃波を持って鎧ごと粉々に砕く!

「……フー」

 新しい鎧、やっぱり使いやすいな。

「この二の腕のパーツに、こんな使い方があったとは」

 ”神代の光剣”の腹に直接触れるのはまずいし、咄嗟だったとはいえ役に立ってくれた。

 ぶっちゃけ、ちょっとした攻撃くらいしか防げない、大して意味の無いパーツだと思ってた。

「ご無事ですか、ユウダイ様?」
「ああ、問題ない。それより」

 今手に入れたばかりの“ロイヤルロードキャリバー”を、ナターシャに送る。

「ユウダイ様がお使いにならないのですか?」
「俺には、充分すぎるほど剣があるからな」

 “シュバルツ・フェー”が使用不可状態とはいえ、“ヴェノムキャリバー”だってあるし。

「ご主人様のお恵みに感謝を」

 恭しく剣を受け取り、装備するナターシャ。

 俺に対して全肯定と言っても良い、従順な家臣……か。

 メイドが欲しいって感覚は前からあったけれど、なんか違うな。

 どこか、つまらないと感じている自分が居る。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品