ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

414.豪快な戦闘狂 トキエ

「よう、犬獣人。無事だったかよ」

 いつぞやの聖域で見掛けた気がする褐色女性が、“崖の中の隠れ家”に居る!

「貴女はレジスタンスの……」
「トキエだ。タイキに雇われてやってた傭兵だが、ノーザンに誘われて来てやったぜ」
「今後は、僕達に直接協力してくれるそうです」

 ノーザンが嬉しそうにそう語る。

「衣食住の衣はともかく、食と住は提供して貰うからな。あと、強敵は出来るだけ私に寄越せ。武器も、私向きの物が手に入ったら優先的に貰うぞ」

 なに、この女。

「良かったよ~、トゥスカちゃんが無事でー」

 小柄なウララさんが抱き付いてきた。

 なんというか、年上なのに守ってあげたくなるような愛らしさがある。

「お姉様……本当に良かったですッ!!」

 平静を装っていたノーザンが泣き出し、ウララさんの上から抱き付いてきた。

「私はなんともないから……心配掛けてゴメンね」


「ヴァルカの実の妹なのですから、当然なのでしょうが」


 カプアの言葉に、一瞬空気が凍る。

「ヴァルカの……妹?」

 戸惑うウララさんの目が揺らいでいる。

「知ってたの?」
「今日の大規模クエストで、接触した解放軍の者がそう言っていました」

 再会してからのカプアの妙な雰囲気は、そのためだったんだ。

「そうです……私は、解放軍のリーダーの実の妹です」

「……ハー……そのことに、トゥスカちゃんはいつ気付いたの? 始めからってわけじゃないんでしょ?」

 ウララさんから、剣呑な雰囲気が消える。

「聖域で再会した時です。年が離れていたのもあって、幼い頃に居なくなった兄とは気付きませんでした」

「……もしかして、このゲームに無理矢理参加させられたせいで?」
「そのようです」

 ラテゥラ姉さんの時はともかく、兄さんの時はまだ本当に幼かったから、敢えて誰も私に教えなかったのだろう。

「その兄ですが、解放軍に他種族への攻撃を控えるように命令を出し、聖域や城からの撤退を始めました。暴走する者は居るかもしれませんが、兄さんにはこれ以上争う意志は無いようです」

 さすがに、こんな手の込んだ騙し討ちを実行するような身内だとは思いたくない。

「その心変わりの理由は?」

 トキエが尋ねてくる。

「理由は主に二つ。先日のレジスタンスの襲撃と今回のクエストによる人員の減少。そして、レジスタンスのリーダー、タイキを裏で操っている女が、非常に危険な人物だからです」

「彼が操られている?」
「どういうことですか?」

 キョトンとしているウララさんとカプアに、今日のクエスト中に起きた事を簡潔に伝えた。

「SSランク武器で、死体を無制限に操る女……」
「先日の作戦が、人獣の死体を戦力に加えるための……そんな」

 二人は長く関わっていたからか、かなりのショックを受けている様子。

「……トキエさんの言うとおりでしたね」
「タイキの仲間全員が、素直にそんな女に従うとは思えねー。もしかしたら、数日前には全員……」

「イズミの目撃例はレジスタンスから……その時にはもう、タイキ殿はその女に取り込まれていたのかもしれませんね」

 カプアは、なんとか事情を呑み込めた様子。

「……今日のクエストで、鳥人の幹部は亡くなりました。人魚の幹部とは連絡が付きません。タイキ殿が裏切ったとなると、実質、レジスタンスの過激派は壊滅です」

 カプア自身、ウララと共に先へと進むためにレジスタンス過激派に協力していただけ。

 解放軍が城を開放した以上、争う理由は事実上無くなったということになる。

 あくまで、理屈の上では。

「つまり、もうレジスタンスと解放軍の争いは事実上起きなくなるってわけか。なら、先に進もうとしているお前らと居た方が面白そうだな」

「その前に、そのイズミって女を殺しておかないと危険ね」

 ――ウララさんから不吉な雰囲気が!

「もう日が暮れます。捜索は明日にしましょう」

 カプアが話を終わらせようとする。

「と、ところで……トゥスカちゃんの旦那さんて……ど、どんな人なの?」
「へ?」

 あれ? どうしてウララさんから、乙女な空気感が……?


●●●


○戦士.Lv55になりました。最大スキル数が10プラスされます。

「これは助かる」

 まったく使わないスキルはともかく、状況によっては使いたいスキルがいざという時に使えないのは困っていたし、最近は新しいスキルが手に入る度に頭を抱えたくなっていたからな。

○戦士.Lv56になりました。その他装備がプラス1されます。

 これで、装備できるその他欄が五つになった。

○戦士.Lv57になりました。スキル統合機能を解禁します。

「しまったな。メルシュ達と話す前に確認しておけば良かった」

 疲れてたから、仮眠を優先してしまったんだよな。

 それにしても、Lvが3も上がるなんて……アルファ・ドラコニアンアバターが強かったのもあるだろうけれど、みんな激闘を繰り広げたんだろうな。

「……コセ」

 月明かりがさす部屋に、リューナが厚手の寝間着姿でやってくる。

 この町は砂漠の真ん中にあるらしく、昼間とは打って変わって、夜は初冬くらいまで冷え込むようだ。

「今日……一緒に寝ても良い?」

「うん」

 そう思って待っていたくらいだし。

 横に来て、ベッドに腰掛けるリューナ。

「……ツェツァ達のこと、相当堪えているみたいだな」
「……ガールフレンドで……親友だった。ルフィルとは短い付き合いだったけれど、同士っていう感覚はあったんだ」

 俺の前から、ジュリーやルイーサが何も言わずに去っていったような物なのかもしれない。

 彼女の肩に手を置き、優しく抱き寄せる。

「サンヤから色々聞いた。コセとアテルとかいうのが、成そうとしている事の違いも」

 本当は、三十六ステージに辿り着いてから話す約束だった話。

「スヴェトラーナとルフィルは、世界を終わらせることを望んだ……か」
「二人とも、人類に失望していたからな。私だって、お前が居なかったら滅びを望んだだろう」

 だからこそリューナ達は、腐敗の王都で無差別殺人に手を染めていた。

「俺は、向こうの世界に干渉するつもりは無い。アテル達のように全てを滅ぼされては困るから、敵対する道を選んだだけだ」

 俺の考えを明確にしておく。

「うん……分かってる」

「ただ、どうしたって観測者たちとは敵対することになるだろうな」

 奴等には、なんらかの方法で一矢報いたいところだ。

 ゲームをクリアしたあとでも、間違いなく敵対することにるだろうし。

「私の力は、お前と共にある……コセ」

 見つめ合い、自然に唇が重なって……彼女の肩から寝間着をずらしながら、激しい口付けを交わす。

 首に腕を回され、強く抱き締められるのを合図に――俺はリューナを、ベッドに押し倒した。

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