ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

412.ネレイスのサカナ

「……戻ってきたのか」

 クエスト終了後、数時間ぶりに鬱陶しい陽射しと熱に身体が晒される。

 ……この手と唇に、まだトゥスカの余韻が残っていた。

「全員無事か?」

「ああ、なんとかな」
「怪我などはありません」
「でも疲れた……」
「SSランク持ちと遭遇した時は、どうなるかと思ったが」

 リューナ、クオリア、チトセさん、エルザは特に怪我もないようだ。

「……」
「マリナ、どうした?」
「ベッツにー」

 妙に大人しくてなにかあったのかと思ったけれど、普通にソファーから立ち上がって部屋の隅へ……なんか怒ってる?

○クエストクリア報酬により、10000000一千万Gが配られます。

 いきなりチョイスプレートが現れた。

○隠れNPC所持者には特典で、“シュメルの指輪”も配布されます。

 契約者であるメルシュは別の空間に転送されただろうけれど、俺もちゃんと貰えたか。

○強キャラ、”アルファ・ドラコニアンアバター”を倒した特別報酬として、オールランクアップジュエルセット×3をプレゼントします。

 鎧の形状が変化したときに戦ったアイツか。

○使用人のチップを以下から選択できます。

★戦闘メイドのAIチップ ★戦闘執事のAIチップ

 迷わずメイドの方を選択。

「あれ?」
「どうした、リューナ?」
「ああ……これを見てくれ」

 そう言い、リューナが自身のチョイスプレートを見せてきた。


○貴方が殺して奪った隠れNPCを召喚しますか?


「リューナ、隠れNPCと戦闘をしていたのか」

「いや、そんなはずは……そう言えば、あの肌が青白い人魚は、どこか人間離れしていたような……」

「召喚したらどうだ?」
「だが、これ以上人数が増えたらパーティーを二つに別けなければならなくなる」

 エルザの言葉に、リューナがそう返す。

「この中で、AIチップを手に入れたのは?」

「俺は手に入れた」
「私もだ」
「私もです」

 リューナとチトセさんも手に入れていたらしい。

「パーティーが増えればルートを選べるから、メリットも大きい。しかも、すぐにでも人員を三人分確保できるんだ。悪いことばかりじゃない」

「そうだな。クオリアに預けた“鳥獣戯画”で、頭数も増やせるし」

 エルザの考えを援護する。

「なるほど……だがまさか、人魚だと思ってたアイツが隠れNPCだったとは」

 リューナがYESを選ぶと、青白い光が集まり――澄み渡るように真っ青な鱗の人魚が出現。

 リューナが言っていた通り、スーシャ達と違って肌が青味を帯びていた。

「隠れNPCのネレイスです。皆様、よろしくお願い致しますわ」

「「「ど、どうも」」」

 優雅に一礼される……最初から俺達に協力する気満々な事に違和感が。

「そう言えば、名前は決めないんですか?」

 つい最近エルザと契約したからか、チトセさんが気付いた。

「私の事はネレイスで構いません」
「お前の名前……サカナなのか」

「「へ!?」」

 驚く俺達に、契約者となったリューナがネレイスの情報を見せてくれる。

「もしかして、前の契約者が付けたのがそのまま?」
「――そうなのよ!! あの男、私が人魚みたいだからって適当に「んじゃ、サカナで」とか言って、本当にサカナって名前にしやがったし!!」

 前の契約者を、相当嫌っていたらしい。

「お前、もしかしてわざと私に殺されようとしていたのか?」
「さて、なんの話かしら」

 道理で、俺達に友好的なわけだ。

「お前、武器はともかくスキルは幾つかあるんだな。隠れNPCは、固有スキル以外はLvアップ時に手に入る物だけだと思っていたのに」

「そこも、今回の突発クエストの特徴よ。マスターは、私が倒された時に所持していたアイテムやスキル、それらを丸ごと手に入れたというわけよ」

 文字通り、他の契約者から隠れNPCをそのまま奪った形になるのか。

「ねー、そろそろ他のステージメンバーの安否を確認してみない?」

 マリナからの提案。

「状況を整理してから、17時に報告しあうことになっている。私達も、それまでに報告すべき事を纏めておこう」

 俺が昨日も気絶していたため、代わりにリューナが仕切ってくれる。

「そう言えばユウダイ、なんか鎧が変わってない?」
「実はな!」

 マリナが指摘してくれたことが、地味に嬉しい!


●●●


「よう、メルシュ。俺達の方は全員無事だぜ」

 ”神秘の館”、玄関のコンソール前にいたメルシュに報告する。

「ザッカル」
「まあ、少なからず怪我した奴は居るんだがな」

 少なくとも、手脚を失うような事にはならずに済んだ。

「……ノーザンも無事だって。ウララが隠れNPCを手に入れたみたいだし、向こうは順調に戦力を充実させることに成功したみたい」
「俺も、新しい鎧や高ランク装備を幾つか手に入れたぜ」

 なんか元気ねぇな、メルシュの奴。

「コセ達は?」
「そっちは、あとで直接話すことになってるよ……」
「……なにかあったんだな」


「アオイが死んだ」


 玄関から現れたルイーサに、いきなり告げられる。

「……本当か?」
「ああ……この目で、その瞬間を見た」

 ルイーサの顔……憔悴しきってんな。

「アヤナの様子はどう?」

 メルシュがルイーサに尋ねる。

「部屋に閉じ籠もったままだ。皆が声を掛けたが、反応はない」

 双子の妹ともなれば、兄弟や姉妹を失うのとも……また違うんだろうな。

「……メルシュ、ザッカル……頼みがある」

 ルイーサが、重苦しそうに口を開く。
 
「頼み?」
「まさか、レギオンから抜ける気か?」
「いや……少なくとも、私は攻略を続けるさ。助けて貰う際に、コセとそう約束したしな」

 ちょっと安心している俺。

「頼みたいのは……コセに、アオイの件を伝えないで欲しいってことだ」

「お前、それでレリーフェが……」

「――コセは!! ……なによりも、トゥスカ達との合流を優先すべきだ。アオイの死を伝えるのは……そのあとでも良い」

 もう、取り返しのつかない事だからか。

「……分かった」
「うん、そうだね」

 やれやれ、俺もコセに隠し事をする側になっちまったか。

「うん?」

 ルイーサの背後から、また誰かが来る。

「ちょうど良かった。メルシュ、話があるんだけれど」

 やって来たのは、スヴェトラーナとルフィル……だけ?


「私達、このステージに残ることにしたから」


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