ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

408.最速猫獣人のクフェリス

「“変幻刃”!」

 灰色の脚甲、“変幻なるキラーグレイブリーブ”の足裏から黒の刃を伸ばして切り上げたけれど、アルファ・ドラコニアンのボディーには掠り傷程度しかつかない!

「“氷蛇”――“氷獄剣術”、コキュートススラッシュ!!」

 距離を取ってから“氷蛇の刀剣”を氷の蛇のようにくねらせ、中距離から仕掛ける!

『くだらないね!』

 翳した腕からなにかを放っているのか、私の”氷蛇”が完全に止められる!

『チ! この程度も満足に止めていられんとは』

 硬直はほんの数秒。動くようになると同時に私の攻撃を避け、不意打ちを仕掛けようとしたチーター獣人のクフェリアの攻撃も対処されてしまう。

『超能力は半減。身体能力と硬度はまだしも、このアバターでは動きがぎこちない。チ!』

「コイツ……」

 コセ達は、こんな化け物と正面から渡り合っていたのか。

 これで弱体化しているって言うんだから笑えてくる。

「……フフフフフ!」

『なにが可笑しい、ラビット』

「ちょうど良い相手だと思って」

 ルフィルに負けて以来、ずっと――私の死力を尽くせるような相手が欲しいと思ってたからさ!!

「クフェリスは休んでて良いよ――“嘆きの牢獄”!!」

 ユニークスキルの力で、絶え間なく氷付けにしようと攻め続ける!

『くだらないと言っている!』

 最初は避けていた蜥蜴野郎も、超能力って奴で迫る凍結のロードを弾き飛ばし続けるように!

 アイツは、コセ達が戦っていたときほど強い不可視の力は使えない――だったら、“嘆きの牢獄”にリソースを割かせれば良い!

「武器交換――“処刑人のカタール”!!」

 “氷蛇の刀剣”よりも突きに優れた、黒い剣に持ち替える!

「“暗殺眼”――“魔光刃”」

 ”処刑人のカタール”の効果で紫光の刀身を生み出し、高速の突きを放つ!!

『――おのれ』

 胸を狙ったけれど、不可視の力によりすんででズラされて右腕に掠っただけに!!

 まあ、本命はこっちだけれどさぁ!!


「“回転”――ハイパワーブーメラン!!」


 左腕の“殺人鬼の円鋸”を隠すように身体を捻りながら――死角より放つ!

「チ! しぶとい」

 脇を数センチ切っただけで、また躱されてしまう。

 今、銀か白の障壁が見えたような……。

「“氷獄剣術”――コキュートスストライク!!」

『図に乗るなよ!!』

 カタールでの攻撃にカウンターを仕掛けられ、腹部に爪が入り込む!

「――ハイパワーローリング」

 貫かれた直後に戻ってきた“殺人鬼の円鋸”改め――“殺人鬼の狂おしや”で、奴の右腕を二の腕部分で切り裂いた!!

『貴様ッ!!』

「ザマー」

 抉り込まれた爪が抜けると……一気に血が体外に。

「“氷獄魔法”――アイスプリズン」

 機械の爬虫類野郎を、氷の檻に閉じ込めてやった。

 今、金色の紋様も見えたような……。

「ハアハア……ハイヒール」

 “嘆きの牢獄”を使い続けたのもあって、MPが心許ない。

 今までのTP回復速度アップ分を、MPに変更したいくらいだ。

「なんて無茶を――リンピョン!」

 クフェリスが警戒の声を上げた途端、私が施した氷の檻が砕け散る。

「やっぱ、あれくらいじゃダメか」

 機械の身体は、生身の時と違って修復されていないみたいだけれど、その代わりに痛みで動きが鈍ることもないみたいだ。

『やってくれたな――獣風情がッッ!!』

「選手交代です、リンピョン」

「……しゃーないわね」

 癖っ毛の金髪を靡かせた、チーター獣人にトドメを譲ってやる。

 薄い花弁に彩られたような、白いブーメランを使う女に。


●●●


「“儚き桜火”!!」

 神代文字の力を流し込み、強化した炎の花弁をV字のブーメランから吹き荒らす!!

『いい加減にしろ!!』

 見えない力で防がれるも、わざと放出し続ける。

 リンピョンの戦いから、奴を攻略するには一定以上の威力を持つ手数が必要と判断!


「“龍転剣”、“天狗手裏剣”」


 空中に二つのブーメランを浮かべ、両方に神代文字の力を流し込むと同時に――思考のみで操る!

 奴には、“白銀障壁”と“黄金障壁”が備わっている様子。

 ならば、武術でも魔法でもない攻撃手段が有効!

「“回転”!!」

『き、貴様ぁッ!!』

 二つのブーメランによる挟撃により、身体を少しずつ削っていく!!

『――舐めるな!!』

 爆発的な不可視の衝撃波により炎とブーメランを纏めて弾かれ、奴が接近するのを許してしまう!!

「ぁあああッッ!!!」

 残っていた左腕で”儚き桜火は燃ゆる”の上から殴られ、逃げ場の無い衝撃が脚に蓄積されるッ!

『躱そうと思えば躱せた。貴様の素早さを封じるには、意表を突くのが一番だったというわけだ――フン!!』

 更なる力を加えられ、膝を付かされてしまう!!

「負け……無い」

 ご主人様の――アテルの結末を見届けるまでは、私は死ねない!!

『な!?』

 “儚き桜花は燃ゆる”に業火の如き火花の奔流が吸い込まれ――桜花弁が散り吹雪く黒き転剣――――“儚き桜花は身命を賭して”へと生まれ変わる!!

『十二文字だと!!?』

 恐怖故か、不意に隙を晒す!!


「“神代の転剣”――“身命の業火”ッ!!」


 赤黒い焰を青白い刃に纏わせ――――アルファ・ドラコニアンアバターへと振り下ろす!!

『や、ヤメロォォッッ!!!』

 見えない力に阻まれた瞬間、無意識に神代の力を炸裂させて突破――機械の身体を……熔かし斬った。

『ほ、本来の身体であれば……貴様らなどにッッ!!』

「殺し、奪い、壊し、消費する事しか出来ない劣等種が、生意気抜かすな」

 何故か、自然と紡がれる冷たい言葉の数々。

「お前達に、生きている価値など無い」

『――貴様ら如きが、我等を愚弄するなぁぁぁッッッッ!!!!』

 負け惜しみを最後に、アルファ・ドラコニアンアバターは消失した。


●●●


「ハアハア、ハアハア」

『チ! ゲームの仕様とやらのせいで、随分耐えるじゃないか』

 遭遇時にアルファ・ドラコニアンアバターと名乗ったロボットが、再び光線銃を構えて撃ってきた!

「“不可侵条約”!!」

 “神の朗読”の効果により、浮かせた全ての魔道書に“締結の聖典”の効果を適用させる!

「ク、終了時間までもう少しなのに」

 そろそろ、MPもTPも限界が近い。

『貴様ら家畜が、ご主人様の手を煩わせるなよ』

「さっきから、意味の分からないことばかり!」

 私もラキも、誰かの奴隷なんかじゃない!!

『黙れ、アクァッホかなにかも分からぬ雑種風情が!!』

 光線を防ぎ続けるも、どんどんTPが削られていく!

「……そんな」

 “神の朗読”の効果が、TPが尽きたことで切れ……全ての魔道書が地べたに落ちてしまった。

『ようやくか、家畜が。つまらない抵抗をしやがって』

 銃口が私を捉えて、光が灯り――死ぬ。


「――“神代の盾”!!」


 いきなり墜落するように飛び込んできた誰かが、光線から私を守ってくれた……?

「間一髪か」

『お前は……同胞殺しッ!!』

「見た目が似ていると思ったら、やっぱりアルファ・ドラコニアンなのか?」

 男の人が、黄金の翼を生やしたままアルファ・ドラコニアンアバターに大剣を突き付ける。

「だったら、遠慮なくぶちのめしてやる」

 ……格好いい。

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