ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

405.大いなる導

「装備セット1」

 武器を“荒野の黄昏の目覚め”のみに限定し――神代文字を九文字刻む!

『その力は……』

 慣れない“獣化”では、兄さんとの体格差もあって不利と判断。

「サブ職業セット1――“ホロケウカムイ”!!」

 青のオーラを纏い、身体能力をスピード重視で強化!

「兄さん――覚悟!」

『フン!』

 スピードで翻弄し、後頭部を取る!

「爆裂脚!!」

 ――屈んで避けられた!

『隙だらけだ!』

 逆に蹴りを入れられ、ブーメランによるガードの上から吹き飛ばされる!

『お前に戦いは向いていない。大人しく俺の傍に居ろ、トゥスカ』

「私は、もう貴方とは家族の縁を切った」

『……それを本気で言っているのなら――俺は、お前を殺さない理由が無くなる」

 姿を、元に戻した?

「なにを……」
「お前がその気なら、本気で相手をしてやる――」

 兄さんの黒い斧に――私と同じように神代文字が九文字刻まれた!?

「この力を使えるのは、解放軍の中では俺だけ。やはり、お前は俺の妹だな」

「……負けない」

 この機を逃せば、兄さんを始末できる機会は二度と巡ってこないのだから!

「“ホロケウカムイ”」

 兄さんも、青いオーラを!

「“三連瞬足”」
「“爆走”!」

 高速で動きながら、兄さんの斧による攻撃を避ける!

 時間を掛けても、不利になるのは私。

「“蜘蛛網”!」

 ナオと同じスキルを! ――でも、動きは止まった!

「――“魔力砲”!!」

 迫る網ごと、兄さんにピンクの砲線を放つ!

「“拒絶領域”!!」

 “魔力砲”が弾かれた!

 けれど、そのスキルならよく知っている!!


「“荒野の風”、“逢魔転剣術”――オミナスブレイズ!!」


 文字の力を最大にし、乾いた暴風と禍々しいエネルギーを纏わせ――“拒絶領域”が消えてから硬直が解けるまでの、一瞬の刹那を狙う!

「ぅおおおおおッッッ!!!」

「“回転術”――ハイパワーローリング!!」

 “二重武術”により、“荒野の黄昏の目覚め”に武術を重ね掛け!!


「――“ニタイカムイ”ッ!!」


 “ホロケウカムイ”の上に、緑色のオーラを重ね掛けした!?

「カムイ系の能力は、同時に適用できないはずなのに!!」


「――オオオオオオオッッ!!!」


 私の正真正銘の全力を……正面から弾き飛ばされた。

「ハアハア。まさか、ユニークスキルまで使わされるとはな」

「ユニークスキル……」

 たった一つしか存在しない、希少で強力で……一人一つしか使用出来ないスキル。

「ユニークスキルの力で、二つのカムイを同時に……」

「“多重神降ろし”だ。実戦で使わされたのは初めてだぞ。さすが俺の妹だ」

 神代文字にユニークスキル……まともにぶつかれば、十二文字刻めるご主人様でも危ないかもしれない。

 そこに、“獣化”が使える獣人の集団が加わったら、《龍意のケンシ》メンバー総出でも……。

「やっぱり、兄さんを倒すチャンスは今しか無い」

「この状況でも諦めない点は――評価してやる!!」

 兄さんの意表を突く瞬発力により、戻ってきた“荒野の黄昏の目覚め”で正面から斧を受けてしまう!

「く!!」

 元々パワー重視の兄さんが二つのカムイを纏ったことで、力では完全に太刀打ち出来なくなってしまった。

 どうにか速度で対抗しなければいけなかったのに……この状況は、その速度を封じられてしまったような物。

「“爆走”!!」

 “爆走のロイヤルグリーブ”の足裏から爆発を連続で起こし、なんとか兄さんの力に対抗しようと試みる!!

「これ以上抵抗すれば、本当に殺すことになるぞ」

「私は――とっくに覚悟を決めています!!」


 ご主人様を死なせないためなら――――私は!!


 ――“荒野の黄昏の目覚め”に十二文字刻まれると同時にトワイライトの光に包まれ――ブラウン色の装飾に包まれたピンク味のオレンジV字ブーメラン――――“荒野の黄昏は大いなる導”となる。

「なにが!?」


「――“荒野の嵐”!!」


 ブーメランの腹から雷を帯びた竜巻を発声させ、兄さんを退ける!

「十二文字……トゥスカが、俺を超えたというのか」

 その言葉が確かなら、兄さんの限界は九文字。

「――“神代の転剣”」

 “荒野の黄昏は大いなる導”に青白い刃をコーティングし――自分でも驚くほど静かに振りかぶる。


「“逢魔転剣術”――――オミナスブレイズ」


 先程までとは比べ物にならないほど効率よく神代の力が吸い込まれていき――静謐かつ強大な力を秘めた禍々しき刃が、ヴァルカ兄さんに迫る。

「“逢魔斧術”――オミナススラッシュ!!」

 互いの攻撃がぶつかり合い――兄さんの斧が、刃こぼれという言葉では済まないほど壊れた。

「ハアハア、ハアハア……たった三文字で、ここまでの差が」

 六文字と九文字でも大きな差はあるけれど、九文字と十二文字ではあまりにも違う……明確な違いを感じた。

 この全能感は、人を狂わせてしまうかもしれないほどに魅惑的。

 私にご主人様という導が無ければ、途轍もない勘違いをしていたかもしれないほどに。

 兄さんのカムイと、文字が消える。

「ハアー、ハアー……お前の勝ちだ。好きにするが良い」
「なら、極端な異種族差別をやめてください」
「調子に乗るな。お前が好きにしていいのは、今この瞬間の俺の命だけだ。見逃せば、俺は再び解放軍の王としての役目をまっとうする」

 覚悟は――とうに出来ている。

「さようなら、兄さん」

 “荒野の黄昏は大いなる導”に力を込め、兄さんの脳天目掛けて振り下ろす!!

「――クソ」

 “剣術”を発動させて終わらせようとした瞬間、一匹の人獣が割って入ってきた!!

 咄嗟に距離を取り、闖入者の攻撃を回避。

「ここに来て邪魔がsj3p!!」

 まず……い。文字を維持……できd3kぐ3。

 やむを得ず、一度文字を全て消しておく。

「お前……オベルト……祭壇で殺されたはずのお前が……なぜ生きている」

 兄さんの呆然とした声に、なにか尋常ならざる事態が起きていることを察する。

 そう言えばさっき、なぜか気配を察知するのが遅れてしまった。

「祭壇でって……もしかして、SSランク武器の一団に殺されたっていう……」

 でもそれだと、リーダーである兄さんをたばかったということに。

『……ズミ様のために』

 ――オベルトと呼ばれた羚羊レイヨウの人獣が、兄さんの胸を剣で袈裟斬りにした。

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