ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

396.バロンのミレオ

「――”暴風矢”」

 白と青の弓から撃たれた風の一矢が、奴の持つ”スターズスプレッド”、Sランクの効果によって五つに増える!!

「“絶対守護障壁”!!」

 どんな攻撃も無効化する私の固有スキルを行使し、凶悪な風の矢を防ぎきる!

「凄いスキルだね。最初は獅子の獣人かとも思ったのだけれど、懸賞金がゼロ……ひょっとして、隠れNPCなのかな?」

 私達隠れNPCには、懸賞金は適用されていない。

「だったらどうした、賞金稼ぎのエルフ」
「金が手に入らないのは残念だけれど、従順な隠れNPCが手に入るなら悪くない。元々、使用人NPCを手に入れるのが目的だったしね」

 コイツは、十中八九バウンティーハンター。

 見逃してくれるかもって考えは、さすがに浅はかだったか。

「それにしても君、さっきから攻撃してこないね。どういうつもりだい?」

「さあね」

 私は武器を装備できないうえ、攻撃スキルなどでもダメージを与えられない特殊な縛りがあるバロンの隠れNPC。

 その代わりに、絶対防御と”復活”なんていうデタラメなスキルがあるわけだけれどさ。

 でも、倒されたら敵に契約を奪われる今の状況じゃ、”復活”のスキルはなんの意味もない。

「”分身”」

 シノビの隠れNPC、サザンカが三人になってエルフに斬り掛かる!

「”跳躍”」

 華麗に別のプレートの上へ。

「なんらかの能力なのだろうが、実質四対一か。ここは退かせて貰うよ」

 アイツの勘は正しい。

 サザンカの”分身”は、パーティーの空き人数分、自身をそのまま複製するというもの。

 人数が増えても同じ能力では対応力は低くなるし、TP・MP・OPも共通だからデメリットも大きい。

 だけれど、人数が少ない私達には重宝するのも事実。

「退き際を弁えていた輩のようですね。助かったのは我々の方かもしれません」
「かもね。レギオンメンバーは見付けた?」
「ユウコ達も含め、まだ誰も」

 ステージ二十番台序盤に居る私達は、参加メンバーの中では弱者だろう。かなり不利な立場にあるのは間違いない。

「ユウコとは一時的に組んだとはいえ、武器を融通しあえる程の関係じゃないからな~」

 パーティーを二つに別けなければならず、それでいて仲間に出来たエルフは一人だけ。

 エルフがパーティーかレギオンに居ないと二十ステージのボス戦には挑めないため、私達は一時的にユウコ・エルフ・ビッチと手を組んだのだ。

 でも……このままだと、いずれ頭打ちになるだろうな。

 マスター達の言うとおり、勢力を拡大する事を考えないと。

「とにかく、合流を急ごう」
「ええ、参りましょう」


●●●


「”幻影の銛群”!!」

 ”フャンタズムハープン”を四つに増やし、指輪で呼び出したモンスター四体を処理する。

「う、嘘でしょ!? 全部Sランクの指輪モンスターだったのに!」

「仕掛けてきたのはそちら。覚悟してください」


「”氾濫魔法”――リバーバイパー!!」


 水の大蛇が、宙を泳ぐ私に襲いかかってきた!

「――”渦の障壁”!!」

 突っ込んできた大蛇を、渦の中に取り込むように消し去る!

 ”渦の障壁”には、水属性の攻撃を無効化、または半減させる効果があります。

「お、遅いじゃない、アンタ!」
「これでも急いで捜してたのに、酷いマスターだな~」

 魔法使い風の女性の傍へとやって来たのは、水の塊――が裸の青い女の子の姿に!?

「水の女の子……もしかして、隠れNPCのスライム?」

 元々は、クマムさんが契約するはずだった子。

「マスター、あの人、私のこと知ってるみたいだよ? 只者じゃないかも」
「良いから、アンタはあの白人魚を殺しなさい!」

 なんなの、あの人? パートナーを置いて逃げて行っちゃうなんて。

「ハァー、本当に仕方のないマスターだなー」

「大人しく殺されてくれるなら、私達の仲間に迎えますよ?」

「それも悪くなけれど、私達ってマスターの意向には基本的に逆らえないからさ」

「難儀ですね」

 まるで、私とキジナ姉さんみたい。


●●●



「”焱竜技”――サラマンドルブレス!!」


 ”焱王竜”のサブ職業に含まれるスキルを用い、女魔法使いが張った”魔法障壁”を破る!

「”紅蓮剣術”――クリムゾンスラッシュ」
「イヤァァぁぁぁあッッ!!!」

 ランスと刀剣が合体したような武器、”昇竜天穿”を用いて女を両断――燃やし尽くした。

「口ほどにも無い」

 身の程知らずは嫌いです。

「ミユキさん!」

 どこかより槍で私のように飛んできたのは、白猫の獣人、タマ。

 私と違い華奢で、大変愛らしい子。

「前に一度顔を合わせただけなのに、よく憶えていましたね」

 彼女と会ったのは第十三ステージの時のみで、ろくに会話すらしていないのに。

「武器がどこか似てたので、印象的で」
「確かに」

 私も、彼女のことはよく憶えている。

「お互い、仲間を見付けられて居ないようですね。暫く一緒に――」

 私が提案しようとしたその瞬間、重い気配が頭上から迫ってきた!

「不意打ちとは」

 身体を転がしながら回避し、正体を確認する。

『燃やしてやるぞ、ノルディック!!』

 左腕が盾、右腕が火炎放射器になったロボットか。

「ミユキさんをノルディックって……もしかして、レプティリアン?」
「なに?」

『よく知っているな、獣風情が』

「どうしてレプティリアンが……」

『オッペンハイマーが、我々に遊びの機会をくれたのよ。お前達が互いに潰し合う姿を眺めるのも悪くないが、アバターを使って直接狩るのも一興だ!』

「デルタ、観測者、DS、裏天皇、ローマ教皇、カバール、イギリス女王、イルミナティー。その他にも色々……やはり貴様らに繋がるのか、腐れ爬虫類共」

『口を慎め、ノルディック。貴様らなど、我々に支配されるために存在するのだ』

「言ってくれる!」

『貴様らとて、マウスを使って生物実験を行い、家畜を喰っているだろうが。我等にとって、貴様らなどその程度の存在に過ぎぬのだ。歯向かう事そのものが許されない!』

「貴様――ふざけるなッ!!」

 ”昇竜天穿”に神代文字を六つ刻み、激情と共にゴミ爬虫類に仕掛ける!!


●●●


「”抜剣”――“神代の剣”」

 ”ヴリルの聖骸盾”から”ヴリルの祈りの聖剣”を抜き――どちらにも九文字刻んで、青白い刃を纏わせる!

『コイツ!』

「私に喧嘩を売ったこと、後悔するがいい、レプティリアン!!」

『黙れ、人殺しのドイツ人が!!』

「ナチスのユダヤ人への非道を大々的に語り、他の国々、宗教が起こした罪を隠すための矢面に立たせてきたこと――私は知らないわけじゃないぞ!!」

 従軍慰安婦を大々的に非難しているが、そいつら自身が村や町を焼いて虐殺、男を労働力に、女は慰み者に、子供は奴隷として売り払う。

 そんなことが何千、何万年も世界中で繰り返されてきたという事実を隠すために、自分達に都合の悪い物だけを矢面に立たせる。

 それが、薄汚い人間達の常套手段。

「……ヒビキのあの話に、触発されたのかもしれないな」

 私は今まで、現実に目を向ける勇気が無かったのかもしれない。

「――”闘気剣”!!」

 ”神代の剣”の上からオーラを纏わせ、レプティリアンが操る――車から手脚が生えたようなロボットの左腕を、盾ごと切り裂く!!

『じゅ、十二文字だと!?』

「へ?」

 いつの間にか、剣と盾に刻まれた文字が、どちらも十二文字に。

 コセの三つ同時には及ばないだろうが、背中は捉えたか。

 今なら、さして苦もなく十二文字を両方維持できそうだ。

『手こずっているようじゃないか』

「新手……だと」

 もう一体のロボットが現れ――私の背後に降り立った!!

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