ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

394.水牛獣人のバッファ


「“風光弓術”――シーニックブレイズ!!」


 私の元騎士団メンバーが襲われているのを発見し、熊獣人の振るう必殺の鉄球を弾き逸らす!

「チ! 命拾いしたねー、エルフ共!」

「逃げるつもりか!」

「さすがに、三対一は分が悪いからね! いけ好かないエルフをぶちのめすのは、またの機会にさせて貰うさ! “空衝”!」

 大柄な女が、空を駆けてあっという間に逃げていく。

「た、助かりました、レリーフェ様」

「お前達まで参加していたとは」

 エルフだけで起ち上げたレギオン、《高潔騎士団》のメンバー。

「同胞を救うため、何とか資金だけでも手に入れられないかと」
「生き残るだけでも、10000000一千万G手に入るからか」

 我々エルフの値段は、一人あたり五百万前後。

 金は、幾らあっても足りない。


『なんだ、エルフか』


「貴様は……」

 人型の金属の塊が、私達の居る場所に降り立つ。

『デルタ、と言えば分かるか? 口ばかりの無能な耳長共よ』

「デルタだと!?」

 強力なモンスターというのは、デルタ自身だったというのか!

「我等を愚弄するな!」
「――よせ!」

『煩いゴミが』

 金属のモンスターの腕の銃身が、突っ込んでいった私の元部下に向けられ――光を撃ち出した!!

「――ぁぁあああああッッッ!!!」

『悲鳴だけは一人前だな、耳長共めが』

 盾を光熱で溶かし貫き、左腕を肩ごと!

「”最上位回復魔法”を!」
「了解!」

 横に駆けながら矢を射り、注意をこちらに向けさせる!

『この金属のボディーに、そんな攻撃が通用するはずがないだろう。相も変わらず、頭の悪い種族だ』

「黙れ!」

 私の弓――“森は木漏れ日に包まれて”に六文字を刻み、鏃にエネルギーを集約する!

『神代文字だと!?』


「“風光弓術”――シーニックブレイズ!!」


 たとえ金属の身体でも、この一矢ならば!!

『ああああッッ!!』
「“白銀障壁”だと!?」

 武術によるダメージを半減させる……やってくれるな。おかげで、腹部のような場所を変形させるに留まってしまった!

「ならば、別の手段を講じるまで!」

『良いのか、本当にそれで?』

 左腕の銃身を、治療中のエルフに!

「卑怯者が!!」
『笑わせるな、耳長! 貴様らの安い尺度で語るでないわ!』

「戦えない者を殺そうとするのは、只の虐殺だ!!」

『それがどうした。戦争に奇麗事など、最初から存在するものかぁ!!』


『“重力斧術”――――グラビティーブレイズ』


『な――んだとッ!?』

 突然現れた白マスクの巨漢により、私の元部下を狙っていた腕が切り落とされた!!

 今、“白銀障壁”が発動していなかったような。

『そこのエルフ。俺の名はキクルだ』

 異形の巨斧を片手で持ちながら、紫のローブを靡かせる不気味な男。

 その名と特徴から、前にシレイアから聞いた者の特徴と一致する。

『訳あって助太刀してやる』

「……助かる」

 無闇に人を襲う輩ではないと聞いてはているが、どこまで信用して良いのか。

『お前ぇ、よくもこの俺に――レプティリアンである俺に恥をかかせてくれたなぁぁ!!』

『レプティリアン? 爬虫類宇宙人が乗ってるとでも言うのか? まあ、どうでも良い事だがな! “変幻蟲”!!』

 奴の紫の虫のような巨斧が蠢き、触手のように伸びた二つのパーツの先である白い刃が――躍るようにデルタの手先に襲い掛かった!


●●●


「“熱砲線”!!」

 ”和熱砲”の一撃をレプティリアンと名乗ったマシーンに浴びせるも、一部が焦げ付いた程度。

「障壁無しでも、この防御力ですか」

 神代文字を使用すれば突破できそうですが、まだゲームが始まってから一時間も経っていない……仲間と合流できていない現状では控えたいところ。

『クククククク! ちょこまかと動き回りやがって。雑種如きが、レプティリアンである俺を煩わせるなよ!!』

 両腕の鋭い爪を、高速で突っ込みながら振るってくる。

「人間離れした体躯の敵とは、この五年で戦い慣れました」

 紙一重で躱し、攻撃の隙を窺い――

『チ! もう少しだったのに』

 爪にばかり意識を向けていたら、頭上からの鋭い尻尾の一撃に左肩の肉を抉り取られてしまったッ!!

「やってくれますね」

 ハイヒールで治療しながら、距離を取る。

『もう少し怖がっても良いんじゃないか、ノルディック』

「私を、変な名前で呼ばないで貰いましょうか」

 この傷は、完全に私の落ち度によるものですね。


「“破天の一撃”」


 突如現れた獣人の女により、ガードしたマシーンの左腕が歪む。

「“破天の巨鎚”でも、この程度のダメージかよ」

「まったく、ゲームバランスって言う物が全然分かってないね、爬虫類共は」

 更に現れたのは、赤いチャイナドレスに身を包んだトンファー持ちの女性。

「貴女って、ヒビキで合ってる?」
「ええ。そちらは、ユイリィとバッファで合っていますか?」
「正解だ」
「同盟のよしみで、コイツは私達が片付けてあげるわ。その代わり、チップは私達が貰うから」

「仕方ないですね」

 今は、この傷を治すのを最優先にしなければ。


●●●


「キクル達と合流したいって言うのに!」

「人魚の女は久し振りだぜ!」
「絶対に逃がさねぇ!」

 この下卑た男共が! キクル以外の男が、私にそういう目を向けるな!

「“緑雷魔法”――グリーンサンダーレイン!!」

 風と雷の二種属性魔法を放つ!

「“真空魔法”――バキューム!!」

 私の雷を、全て渦の中に吸い込んだ!?

「どうだよ、この俺のユニークスキルは!」

「ユニークスキル?」

 キクルが積極的に集めていた奴か。

「俺のSランク武器も見てくれよ!」

 棍棒だと思っていた棒を振ると、その先端に嵌められているように浮いていた――黒い球体が高速で飛来してくる!

「く!!」

 ただ飛んできただけの鉄球だけれど、私の“ザ・テンペスト・トライデント”で受けたにも関わらず押し飛ばされてしまった!!

「どうだい、この俺の“星のさかずき”の威力は!」

「このままじゃマズいか」

 一人はユニークスキル持ちの魔法使い。もう一人は、距離を問わない利便性の高い奇怪な武器持ち。

 厄介極まりない。

「おい、あんまり傷付けんなよ?」
「分かってるさ。他の奴等に気付かれねーように、二人だけで楽しもうぜ!」
「どうせなら、人魚じゃなくてエルフとかの方が良かったけれどな」

 ちょっとだけ、見目の良い、いけ好かないエルフ女達に同情したくなったな。


「“氷炎魔法”――アイスフレイムバレット!!」


 青い炎が、男達に向かって降り注いだ?

「誰?」
「私のこと忘れちゃった、グダラ?」
「お前……ナオか」

 古城遺跡で戦った、神代文字を操る異世界人の女。

「助太刀してあげる」
「どういうつもりだ?」

 助けられる謂われは無い。

「前に、キクルって男に私の旦那が助けられたからさ。一緒に行動してるんでしょ?」

「もしかして、あのヤリ○ン男のこと?」
「ヤリ……ま、まあ、そうだけれど」

 顔を合わせた事は無いけれど、そんなののどこが良いのか……キクルが、私に全然手を出そうとしないのも問題だけれど!

「で、手を組むって事でオッケー?」
「仕方ない。足手纏いにはなってくれるなよ」
「そっちこそ!」

 これで、この場はなんとか切り抜けられそうだ。

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