ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

389.発掘村

「ようやく起きたか」

「へと……エルザか?」

 窓の方に居るから、眩しくて顔を確認できない。

「まさか、半日以上眠りっぱなしとはな」
「半日……――半日以上!?」

 あまりの驚きに無理矢理上体を起こしてしまったため、頭がグラつく!

「安心しろ、まだ八時前だ。十一時になったら、さすがに叩き起こすつもりだったがな」

「……そうか」

 まさか、腕の痛みのせいで半日以上寝込むことになるなんて……今までは、そこまでではなかったのに。

「お前が気を失った状況と、これまでの経緯は四人から聞いた。それでだが、昨日お前の腕に吸い込まれたのは、おそらくこれだ」

 ライブラリの中の写真を見せてくれるエルザ。

「”ダンサーズ・マスターソード”?」

 赤い柄の、白い綺麗な大剣。

「本来は、この剣を手に入れるはずだったと?」
「予備スキル欄にある剣のスキル武器を、強化した状態で複数呼び出し、操ることが可能なSランク。ライブラリにNEWというマークが付いていたし、間違いないだろう」

 そう言えば俺、この腕の痛みのことメルシュ達に言ってなかったな……うわ、最初から俺に、レリーフェさん達を怒る権利なんてないじゃないか。

「へと……ボス戦は?」
「お前が寝ている間に終わらせた。ここは次のステージの発掘村だ。それより、その左腕に対する私の見解をお前に伝えておく」

「……助かる」

 医者の診断みたいで恐いけれど、聞かないわけにもいかないだろう。

「お前の左腕は、おそらくなにかに変わろうとしている」
「なにかって?」
「さあな。おそらくアップデート時にお前の左腕の中に様々なデータが入り込んだが、それが不完全であるせいでおかしな事になっているのだろう。“ダンサーズ・マスターソード”のデータを取り込んだのも、不完全から安定した状態になろうとしている証。元素が安定した状態を求めて、結合しようとするようにな」

「つまり俺の左腕は、Sランクくらいの強力な武器になるかもしれない?」

「完成されたSランクのデータを取り込んで尚不完全であるならば、もしかしたらそれ以上の物に変わる可能性がある。まあ、あまり私の考えを当てにはするな。仮説に仮説を重ねたような推論でしかない」

「この尋常じゃない痛みの慰めになるなら、せいぜい期待させて貰うさ」

 それに……やっぱりこの現象が、悪い物ばかりだとはどうしても思えない。

「それにしても、随分暑いな」

 汗で身体がベトベトだ。

「発掘村の周囲はほぼ砂漠だからな。ちなみに、他の女共は化石収集に出掛けたぞ」
「化石収集?」
「この村特有のイベントだ。お前が眠っている間に情報交換をしてな。今日の突発クエストクリアをしたら、少しでも早く先に進めるようにという女達の配慮だろう」

「気を遣わせてしまっているのか……」

 本当に、色々情けない。

「お前はレギオンのリーダー。多少の我が儘くらい許されるさ。それよりも、無様な姿だけは晒すな。お前への信頼を失うような言動だけは」
「ああ……分かってる」

 俺がそんな真似をすれば、レギオンが崩壊……一人一人の命を、今まで以上に危険に晒すことになるのだから。


            ★


「本当に大丈夫なの、ユウダイ?」

 シャワーを済ませ、戻ってきた四人と軽い食事をしたのち、俺達は猛暑の中、12:11分が来るのを待っていた。

 クオリアとエルザ以外は、U字のソファーに座っている。

 宿泊した家の壁は黄土色で、陽射しがよく差し込んで鬱陶しい。

「ああ」

 実際の所は分からないが、不安に思っても仕方ない。

 悪く考えると、暗い坩堝るつぼから抜けられなくなりそうだ。

 他人を認識してからずっといた、あの雑多な場所で……また、もがき苦しむ事に。

「暑いですね」
「こういう時、本当に魔法の家が恋しくなる……て、おい! お前、また下着を!」

 クオリアのスカートパタパタに、熱いツッコミを入れるリューナ……なんかホッとしてしまった。

「私は寒いところで育ったから、熱いのは苦手」
「私もです」
「以下同文だ」

 マリナ、チトセさん、リューナは寒い方が慣れているらしい。

「私は、暑さよりもこの陽射しの方が苦手です」

 確かに、クオリアは日陰が似合いそう。

○戦士.Lv54になりました。使用人作成機能が解禁されます。

 俺が眠っている間に、例の使用人を作れる機能が使用可能になったらしい。

「やり方は……結構細かいな」

 最初に男か女かを選び、最初から自分で作っていくノーマル素材パターンと、既に出来ている八種類のモデルに手を加えるパターンがあるらしい。

 俺は……最初から全部自分でやりたいな。

「使用人は、基本的に魔法の家内で動く物だから、魔法の家に帰れないお前が今作っても意味ないぞ?」

 エルザに指摘される。

「それは知ってるけれど……」

 集中する事で暑さを紛らわせたかっただけだし!

「チトセさんは、使用人NPCは作成したんですか?」

 チトセさんのLvは56だから、とっくに作成可能なはず。

「いえ、私は魔法の家を持っていないので」
「キャラデザだけでも可能みたいですよ?」
「というか、この前チャレンジしてませんでした?」

 マリナからの意外な情報。

「……絵心なくて諦めました」
「すいません」

 苦手な人は苦手か。

「そう言えばお前、もし使用人NPCを作るなら、性別は女にしろよ?」

 リューナに言われる。

「……なんで?」
「今更、ユウダイ以外の男が家に居るのもね……」
「NPCだと分かっていても、緊張してしまいそうです」

 俺も、女の子の方が良いとは思ってたけれど。

「まあ、コイツなら理想の女の造形を作って、エロいことしまくるんだろうなって。NPCなのを良いことに」
「するか、そんな恥ずかしい真似!」

 俺に失望されるような言動をするなとか言っておいて、この女はなんで俺の名誉を傷付けようとしてくるの!?

「一応言っておくと、使用人NPCとはヤれるぞ。まあ、例のチップを組み込まないと、超精巧なオナホと変わらんだろうが」

「頼むから、もう黙ってくれ」

 そんな風に言われたら、戦力以外の理由では使用人NPCを作成しづらいじゃないか!

 漠然と、好きなアニメキャラをモデルにしようかと思っていたのに!

「そろそろ時間だ、皆」

 リューナの言葉の直後、俺達の身体が光へと変わりだした。

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