ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

381.ヴァンピールのエルザ

 島の上を目指して細い起伏のある夜道を進んでいる間、チトセさんはただ付いてくるだけ。

「コセさん、どこに行くつもりですか?」

 プレーヤーらしき人影が見えたせいか、ここに来て声を掛けてくるチトセ。

「出来ることを、今のうちにしておこうと思っているだけです」

 というのは後付けで、本当は勢い任せに進んでいるだけ。まったくの嘘というわけでもないけれど。

「……あった」

 頂上にあった、古びた家の前に立つ。

 明らかに他の家よりも古い、小屋のような家の前に。

 すると、本来は開かないはずの扉が独りでに開く。

「こ、コセさん? ……これって、ミイラ?」

 家の奥には、鎖で吊されたミイラが。

「これを使ってください、チトセさん」

 チトセさんに、隠れNPC獲得のためのアイテムを渡す。

「これって、マリナさんに使わせるはずだったんじゃ……」

「早く」

 チトセさんに、当たってしまっている。

○“神祖の血漿石”を使いますか?

 恐る恐る、YESを選択するチトセさん。

「キャ!!?」

 すると、ミイラが蠢き出す。

○以下から一つを選択出来ます。

★ヴァンピールをパーティーに加える。
★吸血人のサブ職業を手に入れる。
★狂血強化のスキルカード・吸血強化のスキルカードを手に入れる。

「契約を」
「……そんなに、嘘を付かれていた事がショックだったんですか?」
「……」
「トゥスカという人が、そんなに特別なんですか?」
「……ああ」

 なによりも、トゥスカだけは……絶対に失いたくない。

「分かってます。こんなのは八つ当たりだって」

 レリーフェ達が教えていようと黙っていようと、俺に出来た事なんてなにも変わらない。

 下手をすれば、冷静を欠いてチトセさん達を危険に晒していた可能性の方が……でも、トゥスカが苦しんでいたかもしれないときに、自分が暢気に過ごしていたかと思うとッ!!

「……羨ましいな」
「へ?」
「私……そんな風に心配されたことなかったから」

 チトセさんの悲しそうな表情に、少し冷静になる。

「当てつけで家出した時、警察に補導されて母親が迎えに来たとき……言ってたんです。こんな恥ずかしい真似、二度とするなって」

「恥ずかしい……真似?」

「私の心配よりも、気にしていたのは世間体。自分はバツ2のくせに、むしろだからこそ……子供よりも自分の体裁の方が大事だったんでしょうね」

「チトセさん……」

「私、実は結構不良だったんですよ。勢いに任せて、売春に手を染めようかとも思ったんですけれど……出来なかった。まあ、おかげで後悔せずに済みましたけれど」

「俺のことは……軽蔑しないんですか?」
「まあ、少々。でも、一年間大樹村で過ごしている間に、精神的に色々学びました。うちの父親にとっての異性は遊びで、母にとっては縋る対象。どっちも、コセさんみたいに相手を大切に想っているわけじゃない」

「……過大評価ですよ、そんなの」

 少なくとも俺は、トゥスカとそれ以外の女で明確に差を付けている。


「もし私も、コセさんに愛されたいって言ったら……どうします?」


「へ?」
「フフフ! 冗談ですよ、冗談」

 顔を逸らし、チョイスプレートを操作するチトセさん。

 すると、ミイラの干からびた身体が瑞々しくなっていく。


「私の前でイチャイチャしやがって」


 ミイラは、切れ長の目のショートカット黒髪美女となり、素っ裸だった蒼白の身体は黒いコートに覆われていく。

 チトセさんの告白ジョークと美女の裸体で焦りが無くなってるんだから、俺は救いようがない。

「死の淵から呼び覚ましたお前に、名付けの権利をくれてやる」

 ヴァンピールが、チトセさんに向かってそう言った。

「名付け……じゃあ、反抗期で」
「待て待て待て待て待て!」
「あれ、ハンコウキはダメですか? じゃあヨロシクとか、ジョートーとかどうでしょう?」

 不良系キラキラネームが好みなのか、この人?

「お願いです、俺に決めさせてください」

 ヴァンピールが可哀想過ぎる。

「仕方ないですねー」

 本気で面白くなさそうなチトセさん……マジかよ。

「じゃあ……エルザで」

 パッと思い付いた割に、なかなか良い名前ではないだろうか。

「仕方ないですねー」

 同じ言葉を繰り返されたんだが?

「エルザか、良いだろう。おい」

 俺に声を掛けてくるヴァンピールのエルザ。

「……礼を言う」

「ああ、はい」

 嫌だったんだ、やっぱり。

○定員オーバーのため、チトセがパーティーから外れました。


●●●


「というわけで、僕は一旦パーティーから外れることになったので、お二人と組ませてください」

 カプアさんとウララさんにお願いする。

「分かったわ。それじゃ、改めて宜しくね、ノーザンちゃん」
「はい、宜しくお願いします」

 三人でパーティーを組むと、もう一人、眠っているウララさんの双子の弟もパーティーメンバー入っている事に気付く。

「そう言えば、僕達以外の人とパーティーは組まないんですか?」

 僕を入れても四人。まだ二人分の空きがある。

「解放軍との戦いが終わった後、一緒に攻略を進めてくれる方でないと意味がありませんから。その上で信用出来ないと、この場所に連れて来るのは怖い」

「では、どうして僕とトゥスカ姉様をここに?」

 カプアさんに尋ねる。

「状況的に致し方なかったのと、お二人の様子を暫く観察していて、ある程度信用しても良いと判断しました」

「そんなに前から、カプアさんにマークされてたんですか」

 全然気付かなかった。

「ところで、そろそろ《龍意のケンシ》というのがどういう集まりなのか聞いても良い?」

 ウララさんに尋ねられる。

「どうというのは?」

「どんな風に集まって、どういう人達がどういう目標を持って攻略に望んでいるのか。ゲーム攻略に積極的なのは、理解してはいるんだけれど」

「詳しいことは僕の一存では言えませんが、どういうメンバーで、僕がコセ様を慕うようになった経緯くらいは良いでしょう」

 トゥスカ姉様が居ない事への不安を紛らわせるように、僕は自分でも驚くほど饒舌に語り出した。


●●●


「最近、誰も来ないわね」
「このまま私達、殺処分になってしまうのかしら……」

 女鳥人だけの牢が並ぶ奴隷商館にて、鳥人達が口々に不安を吐露していく。

「毎日毎日、飽きない方々ですね」

 買われなければ死、買われても地獄……果たして、どちらの方が救いなのか。

 まあ、全ては買い手次第ですか。

「……誰か来たみたい」

 入り口側の女の声に辺りは静かとなり、皆の息を呑む気配だけが微かに漂う。

 すぐに複数の気配が近付いてきて……男を先頭に二人の女が。

 ……この気配、一人は本当に人間なのですか?

 なにやら、ここを管理しているNPCとやらと話している様子。

「……彼女か」

 男が私を認識し……近付いてきた?

「明後日の突発クエスト、参加してみる気はありますか?」

 彼の意外な言葉に、心が躍り出す自分が居た。

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