ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

376.鳥獣戯画

「…………」
「どうした、コセ?」

 何故かボーッとしているコセに、声を掛ける。

「いや……なんでもない」

 なんでもないなんて事は無さそうだが、自分でもよく分かっていないって感じか。

 なかなか他人に理解されない感覚だが、虫の知らせのような物は、私も経験がある……父親アチェーツが自殺した日に。

 家に帰ると警察が来ていて、その時に、やっぱりアチェーツは死んだんだなって、ストンと受け入れることが出来た。

「気をぬくなよ、コセ」

 今の私にしてやれるのは、こんな言葉を掛けてやるくらい。

「行くぞ」

 “警鐘”持ちの私がランプを持って先頭に立ち、真っ暗闇の遺跡地下を進んでいく。

「……この空間、思っていたよりもずっと広大なようだ」

 暫く歩くと橋の側面のような物が見えてきて、左右にかなり長く続いているのが分かる。

 更にその側面の向こうや下は真っ暗で見えず、声の響き方と無数の気配により、一筋縄ではいかないことを悟る。

「上層もだけれど、外見と違って未来的なのは、なにか理由があるのかな?」

「どうなんだ、コセ?」

「古代人が造った都市って言う設定はあるらしいけれど、それ以上の事は」

 コセが私達から離れ、機械が並んでいる場所をランプで照らし見ている。

「これがブレーカーなのか」

 円の金属パーツを捻ると、広大な真っ暗闇に複数の光源が灯る!

「無いよりはマシだが、見えるのは極一部だけだな」

 一つ一つの光源は頼りなく、街灯程の役目も果たさない。

 それに、光源と光源の間には見えないエリアがあり、灯りがまったく必要が無いというわけでもない。

「あ、そう言えば」

 チトセがチョイスプレートを操作し始め、淡く発光している薬液を取り出した?

「それは?」
「“蛍光液”です。昼間に吸収した光を、暗闇で発するという代物なんですよ」

「よくそんな物持ってたな」

 使い所が限られるだろうに。

「作れる薬液は、一通り造ってましたから。ただ、数は多くないんですよね。光も頼りないので、あくまで補助的な物になります」

「私の“閃光魔法”もありますし、どうとでもなりますよ」

 頼りになる奴等だ。

 これなら、ランプ無しで探索出来そうだ。

 片手が塞がるだけでも武器を振りづらいから、地味に助かる。

「向こうに階段が見える。あそこから降りるみたいだ」

 見渡す限り、他に道は無さそう。

 ここで“空遊滑脱”が使えるのを確認したのち、四人で階段がある奥へと進む。

 その階段を降り始めると、すぐに複数の気配がこちらに向いたのが分かった。

「マリナ、周囲を照らしてくれ!」
「“閃光魔法”――フラッシュボール!!」

 マリナが撃ち出した玉が上空で停止し、辺りを照らす!

 すると、階段下から――不可解な生物数体が駆け上がってきた!

 身体がドロリと溶けた、機械の部品も組み込まれている異形の四足歩行生物!

「コイツらがバイオモンスターか! インフェルノ!!」

 コセの放った紫炎が、駆け上がってきたバイオモンスターを包み込み、問題なく焼却してくれる。

「コセさん、今のは?」

「バイオモンスターで、属性攻撃その物に弱いみたいです」

「それって、スキルか武具効果で攻撃すれば良いだけだろう?」

 なんの属性も持たない攻撃手段なんてほとんど無いため、バイオモンスターとやらはあまりにも弱すぎるということに。

「今の奴等は下級だろう。それに、バイオモンスターは食らった攻撃の属性耐性が上昇するという特性がある」
「つまり、耐久力の高いバイオモンスターに攻撃していると、あっという間に攻撃が通じなくなってしまうという事ですね」
「そうなります」

 コセ、それはもっと早く言えよ。

「もしかして、一種属性の攻撃を複数種類使えないとキツかったりする?」
「相手の耐久力次第ではだけれど、各々の得意攻撃で攻め立てればいいさ。強いていうなら、一発の威力を出来るだけ高くした方が良いだろうな」

 マリナの言葉に、丁寧に答えるコセ。

 戦士には属性付与スキルがあるから、無属性武術スキルと合わせれば有利に運べるだろう。

 それに、私達には神代文字という切り札があるしな。

 マリナのフラッシュボールが消えるのが合図だったかのように、私達は階段の先へと進んでいく。

 その後、“古生代ギア”や“ヒューマノイドギア”を倒しながら、研究室のような場所や実験場のような部屋から、機械部品や薬液をどんどん回収していった。

「う、なにここ……」

 ドアの先の部屋は明るく、中の光景にマリナが引いている。

「ホルマリン漬けかなにかだろうな」

 この遺跡に来る前に襲われた鳥モンスターが大量に、ほとんどが臓物が見える状態で標本にされていた。

「……これって、人間ですか?」

 チトセが見ていたのは、一際大きな瓶槽に入った……鳥と人間の女が融合したような標本。

 左脚は無く、腸のような物が緑の液体の中で揺蕩っているのが見える。

「……運が良いのか悪いのか。下がってください、チトセさん」

「コセさん?」

 瓶槽の前に移動したコセが、“鳥葬のボーンスレイヤー”を構えた!?

「おい、なにを!」

 ――私が止めるよりも早く剣を振るい、瓶槽ごと鳥女を切り裂いて光に変える!

「もしかして、ここにある鳥の死体も宝箱扱いなの?」

 マリナに言われて気付く。

「ああ。しかも、この半鳥半人のパターンはとても稀で、特別な物が手に入る仕掛けが用意されていたんだ」

 そう言ったコセが、表示されたチョイスプレートを見せてきた。


○ユニークスキル、“鳥獣戯画”のサブ職業を手に入れました。


「ユニークスキル……」

 私の“空遊滑脱”と同じ。

「どういう能力なんだ?」
「ああ……マリナ、夜鷹を呼び出してくれ」
「へ? うん、夜鷹!」

 指輪を使い、真っ黒な鷹が出現。

「“鳥獣戯画”」

 コセが夜鷹に対して手を伸ばした状態でユニークスキルを使用すると――夜鷹の姿が人間の女に!?

 さっきの瓶槽の中の女よりも鳥っぽさがあるが、間違いなく女だ。

「鳥を人間にするユニークスキル……ということですか?」

「鳥だけではなく、スキルや武具で呼び出した自分のパーティーメンバーの生物を、一時的に人間体にするスキルです」

「ユニーク過ぎて、イマイチ使い方が分からないな」

 腕はあるが、爪が鋭くて武器を握れるのかどうか。

「対象に出来るのは一度に一体のみ。対象相手は使用者のLvに応じて身体能力が上昇し、元の装備者のスキルのほとんどが適用、使用可能。擬似的なTP・MPも与えられ、その総量はユニークスキルを使用した人間の半分に設定される。ちなみに、一度対象にした生物は次の日までスキルの対象外になる」

 さすがに、同じのに連続使用は出来ないか。

「地味に強力だが、どうやって戦って貰うんだ?」

「オリジナルだと、AIが勝手に判断したらしいけれど……」

「お手!」
『キュルル!』

 マリナに従い、本当にお手をする夜鷹美女。

「おおー! この子、私に従ってくれるみたい!」

「お手……俺の方は反応無しか」

 あくまで、呼び出した主に従うらしい。

「この姿に、制限時間はあるのか?」

「倒されるか、マリナが夜鷹を消すかのどちらかだけのはず。オリジナル版との差異は、さすがに調べてみないと」
「ライブラリを見ましたが、コセさんの話しで合っているみたいですよ」

 簡易的なNPCキャラを作り出すユニークスキル、と思えば良いわけか。

「じゃあ、この夜鷹ちゃんに前に出て貰うか」
「ですね」

「ちょ、ちょっと可愛そうじゃない?」

 私とチトセと違って、愛着を抱いてしまっている様子のマリナ。

「良いから行くぞ、マリナ。これで、攻略が少しは楽になる」

 暗闇の中の気配を探るのに、地味に神経を使ってしまっていたからな。

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