ダンジョン・ザ・チョイス
375.聖域に流れる旋律
「ハイパワースラッシュ!!」
翠の”牛斧の怪力甲”を装着した右腕で、抹茶色の“ブレイクラッシュアックス”を――思いっ切り駱駝の人獣の肩に叩き込む!
「“古代鎚術”――オールドブレイク!!」
肩に食い込んだ斧の刃の反対側の円柱部分にスキル、“氷河の盾”の鎚部分で放った武術スキルをぶつけ――ハイパワースラッシュに古代属性とオールドブレイクの威力が組み合わさって炸裂する!
『グァぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!』
「ここまで大きなダメージを叩き出すとは……」
カプアさんが驚いている。
こんな特殊な武器の組み合わせ、隠れNPCの助言が無ければ僕だって気付かなかった。
『ああああッッ!!』
トゥスカ姉様が、新武器の“多目的ガンブーメラン”から“魔力弾”を発射し、別の人獣の片眼を潰す。
「ごめんなさい」
迷いを断ち切れない様子のお姉様。
「たとえ目を潰しても、“獣化”状態ならいずれ元に戻ります。急ぎますよ!」
『行かせるかぁぁ!! “狂血爪術”――ブラッドスラッシュッ!!』
僕達と共に来た男性の獣人が、片眼を失った狼人獣により――片腕を盾ごと弾き抉られた!!
「――死なば諸共だぁぁぁぁッッ!!!」
赤い筒状の物に火を付けて、男性の獣人が人獣に組み付いた!?
「まずい!! ――離れて!!」
カプアさんの叫びに、咄嗟に他の獣人を庇おうと前に出て盾を構える!
――――耳を劈くような音と共に風と熱が辺りに拡散し、僕の盾に衝撃が叩き付けられた!
「まさか……自爆したの?」
「彼は、問答無用でエルフの恋人を殺されたらしく……行きましょう、時間がありません」
「急ぎましょう、お姉様」
そう言って駆け出すカプアさんの後を追うべく、僕は呆然としているトゥスカ姉様を諭す。
「……ええ」
僕は山賊退治などでこの手の経験があるけれど、そうでないお姉様には煮え切らない部分がある様子。
彼等を一概に断ずることが出来ないというのが、お姉様を惑わせてしまっている一因なのでしょうか。
「もうすぐです!」
辿り着いたのは墓所のような場所で、別働隊が人獣達と戦いを繰り広げていた。
「あの人……強い」
「オラオラ、もっと私を楽しませろよ!!」
棘が生えた黒い軽鎧に、後ろからパンツが丸出しの灰色ズボンを履いた、アッシュウェーブロングのエキゾチックな褐色女性。
得物は真っ黒な金鎚で、正面から人獣を圧倒している。
『お前ぇぇ!!』
『よくもぉぉッ!!』
「――“六本腕”」
肩周りに、浮くように鋼鉄の腕が四つ生えた!?
「“大棒術”――ハイパワースイング!!」
それらの腕は軽々と人獣の剣や爪を止め、その隙に思いっ切り金棒をぶつけて吹き飛ばす野獣のような美女!
「“獣化”持ちとはいえ、元々が雑魚じゃこの程度か。おい、幹部連中を呼んで来いよ!」
『異世界人風情が……舐めやがって!!』
他の人も強いけれど、あの人はまさしく別格だ。
「こっちです!」
爪を交差させたような石が乗ったお墓のような物が乱立する中央には道があり、その奥へと案内される僕達。
ちょうど墓所の中央辺りに葉が一枚も無い巨木が生えており、その幹の裂け目から青い巨大な宝珠が顔を覗かせ……淡く光っていた。
「一人ずつ前に!」
カプアさんに言われ、僕は真っ先に前へ出る。
《汝、真に獣に堕ちる事を望むか》
頭に直接、声が響く。
「獣に堕ちる……」
なんだか、不気味な言葉。
「“獣化”発動中は魔法が使用できなくなるうえ、MP回復速度が半分になりますから、そのことを差しているのかと」
「なるほど」
カプアさんが説明してくれた。
○スキル、“獣化”を手に入れますか?
僕は、YESを選択。
『お前らぁぁ!!』
女のコヨーテの人獣を筆頭に、二体の人獣が現れる!
「私が足止めします。皆さんは順次スキルの修得を!」
『させる物かぁぁ!!』
なにがなんでも妨害するつもりか。
「“獣化”!」
カプアさんの身体が、狸の人獣へと変わる!
「――“獣化”!!」
僕も身体を盛り上がらせ、白銀の毛に覆われた牛の人獣へと変化。
『凄いパワー……』
この漲る力だけでも、“獣化”が強力なスキルであることを実感できる。
『獣人の面汚し共がぁぁッッ!!』
『装備セット1』
女コヨーテの槍を、“極寒忍耐の破邪魂”で受けきる!
『自分達がなにをして居るのか、分かっているのか!』
『それは、こっちのセリフです! ――へ?』
斧に……神代文字を刻めない。
『どうして文字が?』
“獣化”中にカムイを宿せないのは聞いていたけれど、文字に関しては聞いていない。
『“裂光爪”!!』
左腕に生み出された爪が、僕の鎧の隙間から突き刺さるッ!!
「ノーザン!!」
お姉様の援護により、女コヨーテが後退した。
「カプア、全員“獣化”を手に入れました!」
お姉様の声。
『各々、撤退してください!』
カプアさんが“手持ち花火”を用い、独特の音を響かせて撤退の合図を出す!
『――やってくれたな、レジスタンス共』
突如響いた重低音の声に、辺りが戦慄に包まれる!!
『う゛、ヴァルカ様!!』
現れたのは……黒犬の人獣。
その手には、真っ黒で大きい一振りの片手斧。
刃の部分だけが、怪しく橙色に煌めく。
『ヴァルカって……』
『《獣人解放軍》のリーダー……こんな形で現れるなんて』
『力の使い方を憶える前に、全員死んで貰う』
「――“ホロケウカムイ”!!」
『トゥスカ姉様!!』
文字を三つ、“偉大なる英雄の光擴転剣”に刻んだ状態のお姉様が、解放軍のリーダーに仕掛けた!
「私が食い止めるから、今のうちに撤退を!」
『でも!』
「私の敏捷力は知ってるでしょう! 早く!」
レジスタンスは既に撤退を開始している……このまま手をこまねいていたら、僕達だけ取り残されることに!
「時間を稼いだら、すぐに追い付くから!」
お姉様の激しい攻撃の応酬を、泰然と防ぎ続ける黒犬の人獣。
あの男も、段違いの強さを秘めている圧倒的な強者なのが分かる……。
『行きましょう、ノーザンさん!』
『く、分かりました』
コセ様に愛されているトゥスカ姉様ならば、きっと無事に潜り抜けてくださるはず!
●●●
「この!」
ガンブーメランで撃ち続けるも、防ごうとすらしない《獣人解放軍》のリーダー、ヴァルカ。
『貴様!!』
コヨーテ人獣が、割って入ってくる!
『お前達、その女を包囲しろ!』
ノーザン達を追わずに――瞬時に取り囲まれてしまった!?
「……」
この包囲を突破するには、九文字刻んだ状態で――死にもの狂いで突破するしか!
でも……さっきからこれ以上、文字を刻める気がしない!
おそらく私が、心をブレさせてしまっているから……。
『……父と母、兄弟達は元気か? トゥスカ』
解放軍のリーダーが、“獣化”を解いた。
「……へ?」
顔が……父に似ている。
「なんだ、まだ思い出せないのか。まあ、最後に顔を合わせたのは三つか四つの頃だったか」
「……ヴァルカ……お兄ちゃん?」
そうだ……居なくなってしまった私の家の長兄の名が――ヴァルカ。
「美人になったな、トゥスカ。会えて嬉しいぞ」
「そんな……」
極端な獣人至上主義を掲げる一団のリーダーが……私の兄だなんて。
翠の”牛斧の怪力甲”を装着した右腕で、抹茶色の“ブレイクラッシュアックス”を――思いっ切り駱駝の人獣の肩に叩き込む!
「“古代鎚術”――オールドブレイク!!」
肩に食い込んだ斧の刃の反対側の円柱部分にスキル、“氷河の盾”の鎚部分で放った武術スキルをぶつけ――ハイパワースラッシュに古代属性とオールドブレイクの威力が組み合わさって炸裂する!
『グァぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!』
「ここまで大きなダメージを叩き出すとは……」
カプアさんが驚いている。
こんな特殊な武器の組み合わせ、隠れNPCの助言が無ければ僕だって気付かなかった。
『ああああッッ!!』
トゥスカ姉様が、新武器の“多目的ガンブーメラン”から“魔力弾”を発射し、別の人獣の片眼を潰す。
「ごめんなさい」
迷いを断ち切れない様子のお姉様。
「たとえ目を潰しても、“獣化”状態ならいずれ元に戻ります。急ぎますよ!」
『行かせるかぁぁ!! “狂血爪術”――ブラッドスラッシュッ!!』
僕達と共に来た男性の獣人が、片眼を失った狼人獣により――片腕を盾ごと弾き抉られた!!
「――死なば諸共だぁぁぁぁッッ!!!」
赤い筒状の物に火を付けて、男性の獣人が人獣に組み付いた!?
「まずい!! ――離れて!!」
カプアさんの叫びに、咄嗟に他の獣人を庇おうと前に出て盾を構える!
――――耳を劈くような音と共に風と熱が辺りに拡散し、僕の盾に衝撃が叩き付けられた!
「まさか……自爆したの?」
「彼は、問答無用でエルフの恋人を殺されたらしく……行きましょう、時間がありません」
「急ぎましょう、お姉様」
そう言って駆け出すカプアさんの後を追うべく、僕は呆然としているトゥスカ姉様を諭す。
「……ええ」
僕は山賊退治などでこの手の経験があるけれど、そうでないお姉様には煮え切らない部分がある様子。
彼等を一概に断ずることが出来ないというのが、お姉様を惑わせてしまっている一因なのでしょうか。
「もうすぐです!」
辿り着いたのは墓所のような場所で、別働隊が人獣達と戦いを繰り広げていた。
「あの人……強い」
「オラオラ、もっと私を楽しませろよ!!」
棘が生えた黒い軽鎧に、後ろからパンツが丸出しの灰色ズボンを履いた、アッシュウェーブロングのエキゾチックな褐色女性。
得物は真っ黒な金鎚で、正面から人獣を圧倒している。
『お前ぇぇ!!』
『よくもぉぉッ!!』
「――“六本腕”」
肩周りに、浮くように鋼鉄の腕が四つ生えた!?
「“大棒術”――ハイパワースイング!!」
それらの腕は軽々と人獣の剣や爪を止め、その隙に思いっ切り金棒をぶつけて吹き飛ばす野獣のような美女!
「“獣化”持ちとはいえ、元々が雑魚じゃこの程度か。おい、幹部連中を呼んで来いよ!」
『異世界人風情が……舐めやがって!!』
他の人も強いけれど、あの人はまさしく別格だ。
「こっちです!」
爪を交差させたような石が乗ったお墓のような物が乱立する中央には道があり、その奥へと案内される僕達。
ちょうど墓所の中央辺りに葉が一枚も無い巨木が生えており、その幹の裂け目から青い巨大な宝珠が顔を覗かせ……淡く光っていた。
「一人ずつ前に!」
カプアさんに言われ、僕は真っ先に前へ出る。
《汝、真に獣に堕ちる事を望むか》
頭に直接、声が響く。
「獣に堕ちる……」
なんだか、不気味な言葉。
「“獣化”発動中は魔法が使用できなくなるうえ、MP回復速度が半分になりますから、そのことを差しているのかと」
「なるほど」
カプアさんが説明してくれた。
○スキル、“獣化”を手に入れますか?
僕は、YESを選択。
『お前らぁぁ!!』
女のコヨーテの人獣を筆頭に、二体の人獣が現れる!
「私が足止めします。皆さんは順次スキルの修得を!」
『させる物かぁぁ!!』
なにがなんでも妨害するつもりか。
「“獣化”!」
カプアさんの身体が、狸の人獣へと変わる!
「――“獣化”!!」
僕も身体を盛り上がらせ、白銀の毛に覆われた牛の人獣へと変化。
『凄いパワー……』
この漲る力だけでも、“獣化”が強力なスキルであることを実感できる。
『獣人の面汚し共がぁぁッッ!!』
『装備セット1』
女コヨーテの槍を、“極寒忍耐の破邪魂”で受けきる!
『自分達がなにをして居るのか、分かっているのか!』
『それは、こっちのセリフです! ――へ?』
斧に……神代文字を刻めない。
『どうして文字が?』
“獣化”中にカムイを宿せないのは聞いていたけれど、文字に関しては聞いていない。
『“裂光爪”!!』
左腕に生み出された爪が、僕の鎧の隙間から突き刺さるッ!!
「ノーザン!!」
お姉様の援護により、女コヨーテが後退した。
「カプア、全員“獣化”を手に入れました!」
お姉様の声。
『各々、撤退してください!』
カプアさんが“手持ち花火”を用い、独特の音を響かせて撤退の合図を出す!
『――やってくれたな、レジスタンス共』
突如響いた重低音の声に、辺りが戦慄に包まれる!!
『う゛、ヴァルカ様!!』
現れたのは……黒犬の人獣。
その手には、真っ黒で大きい一振りの片手斧。
刃の部分だけが、怪しく橙色に煌めく。
『ヴァルカって……』
『《獣人解放軍》のリーダー……こんな形で現れるなんて』
『力の使い方を憶える前に、全員死んで貰う』
「――“ホロケウカムイ”!!」
『トゥスカ姉様!!』
文字を三つ、“偉大なる英雄の光擴転剣”に刻んだ状態のお姉様が、解放軍のリーダーに仕掛けた!
「私が食い止めるから、今のうちに撤退を!」
『でも!』
「私の敏捷力は知ってるでしょう! 早く!」
レジスタンスは既に撤退を開始している……このまま手をこまねいていたら、僕達だけ取り残されることに!
「時間を稼いだら、すぐに追い付くから!」
お姉様の激しい攻撃の応酬を、泰然と防ぎ続ける黒犬の人獣。
あの男も、段違いの強さを秘めている圧倒的な強者なのが分かる……。
『行きましょう、ノーザンさん!』
『く、分かりました』
コセ様に愛されているトゥスカ姉様ならば、きっと無事に潜り抜けてくださるはず!
●●●
「この!」
ガンブーメランで撃ち続けるも、防ごうとすらしない《獣人解放軍》のリーダー、ヴァルカ。
『貴様!!』
コヨーテ人獣が、割って入ってくる!
『お前達、その女を包囲しろ!』
ノーザン達を追わずに――瞬時に取り囲まれてしまった!?
「……」
この包囲を突破するには、九文字刻んだ状態で――死にもの狂いで突破するしか!
でも……さっきからこれ以上、文字を刻める気がしない!
おそらく私が、心をブレさせてしまっているから……。
『……父と母、兄弟達は元気か? トゥスカ』
解放軍のリーダーが、“獣化”を解いた。
「……へ?」
顔が……父に似ている。
「なんだ、まだ思い出せないのか。まあ、最後に顔を合わせたのは三つか四つの頃だったか」
「……ヴァルカ……お兄ちゃん?」
そうだ……居なくなってしまった私の家の長兄の名が――ヴァルカ。
「美人になったな、トゥスカ。会えて嬉しいぞ」
「そんな……」
極端な獣人至上主義を掲げる一団のリーダーが……私の兄だなんて。
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