ダンジョン・ザ・チョイス
360.トゥスカの愛
「なんか……急に臭ってきたな」
「これ……木が腐ってる臭い?」
大樹のダンジョン、安全エリアの先へとモンスターを倒しながら進んで暫くすると、エリューナさんとマリナが指摘したように異臭がしてきた。
「ここから先は、毒を使うモンスターが増えるらしい」
「解毒なら任せてください。皆さんは、怪我をしないのを第一に」
「心強いです」
チトセさんがサポート&遠距離攻撃のプレーヤーだからか、なんだかメルシュが傍に居るような安心感がある。
「“氷柱針”!!」
指輪で生み出した無数の針で、巨大ムカデを串刺しにするエリューナさん。
「“熱光線”」
「“飛王剣”!」
巨大な虫モンスター達を、難なく倒していく俺達。
「ウジャウジャと……数が多いな」
「皆さん、上です!」
大樹の一部だと思っていた部分が動き出し、舞茸のようなキノコモンスターだった事が判明!
見る見る色彩を変え、毒を持った生き物特有の色鮮やかな姿に!
「煙……毒か!」
紫の煙を噴き出し、逃れようが無いほど広がってしまい――毒の霧を吸ってしまう!
「呼吸が……」
咳が止まらないうえ、目眩まで!
「シャワーモード!」
身体に液体が降り掛かり、一気に症状が緩和される。
「三分間だけ、どんな毒も効かなくなります!」
「“空遊滑脱”――“業王脚”!!」
すぐさま上へと駆け上がり、一撃でキノコモンスターを倒してくれるエリューナさん。
「“煉獄魔法”――インフェルノブラスター!!」
俺の魔法で、虫モンスターを焼き尽くしていく。
「おい、この大樹で火属性なんて使ったら!」
エリューナさんが慌てる。
俺から皆に伝えていた現象が発生。
大樹自身が身を守るために、粘性のある液体を周囲から染み出させる!
ただ、ほとんどの虫モンスター達の弱点は火なんだよな。
「急いでここを抜ける! 夜鷹!」
使い方が分かっているマリナに黒い鷹を送り、チトセさんを急いで担いで空へ!
そうこうしているうちに、大樹から染み出た緑の液体は川となり、赤く変わり始めた紫炎を洗い流して下方へと流れていく。
飛行手段が無ければ、どこかへと洗い流されていただろう。
「今のうちに」
この水があるうちは、ほとんどの飛べないモンスターには襲われない。
「ねー、アレって宝箱じゃない?」
マリナが指差す方向には、流されていく黄金の宝箱が。
「仕方ない」
エリューナさんが自在な動きで駆け寄り、すぐさま回収した。
あのユニークスキル、やっぱり便利だよな。
「中身はなんでした?」
マリナが尋ねる。
「色んな薬品みたいだな。大半が“万能樹液”みたいだが。まあ、全部チトセに預けておくか」
「あ、凄い量です!! これなら、暫くは薬品に困りませんね」
パーティー間の機能で、チョイスプレートを操作して今手に入れた物を全部送ったらしい。
チトセさんの攻撃手段を考えると、薬品は幾らあっても良いからな。
「水の勢いが弱まってきているよ!」
「急いで進めるだけ進もう」
チトセさんを左腕で抱えたまま、俺は下へと踏み落ちていく。
……チトセさん、随分軽いな。
●●●
「またマッドゴーレムか」
泥で出来た二メートル越えの人型の巨体群が、泥の地面を物ともせずに突っ込んで来る!
「“嘆きの牢獄”」
私のユニークスキルの力で凍結させ、それをメグミが黄金の巨大ハンマーで叩き壊していく。
“パチモンのトールハンマー”を、メグミがジュリーから借りたらしい。
どうやら凍らせた相手は、重い鈍器による上からの攻撃でダメージが跳ね上がるようだ。
「でも、確実に宝箱に変わってくれるのは、なかなか美味しいわよね~」
サトミ様の期待に応えるように、マッドゴーレムが光に変わると、そこには木製の小さな宝箱が。
「良いのは手に入ったか?」
メグミがサトミ様に尋ねる。
「“泥土魔法のスキルカード”と、“泥土の指輪”ですって」
大した物は出ないって聞いていたけれど、私達にとってはほとんど意味がない代物。
そもそも、小さな宝箱からは武具の類いが出ることはほとんど無いらしいし。
「あ、“マッドゴーレムのスキルカード”ぉ、二枚目ぇが、手に入りましたよぉ」
クリスが教えてくれる。
「じゃあ言われていた通り、それはサンヤちゃんにあげましょうか」
メルシュに、“マッドゴーレムのスキルカード”はヨシノとサンヤに渡すよう言われていた。
能力が泥に特化してるの、アイツくらいだもんな。
「サンキュー!」
サンヤの奴、遠慮無く受け取るし。
「……」
ルフィルってエルフの女……どうにか二十ステージでのケリを着けたいところだけれど、私はまだ六文字しか使えない上、この半仲間状態じゃ争うわけにもいかない……参ったなー。
「泥エリアもぉ、ようやく終わりみたぁいですねぇ」
後半からクネクネした道が多かったけれど、ようやく終わりが見えたか。
どうやらこの先は、青黒い石畳の上を一直線に進むことになるらしい。
これで、泥跳ねを気にせずに思う存分戦える!
●●●
「ハ!」
魔法の家、“崖の中の隠れ家”の庭で、ウララから受け取った“多目的ガンブーメラン”の習熟訓練を行っている。
「フ! フ!」
V字のブーメランの端、その裏側にクリスの銃のような握りがあり、ブーメラン部分は鋭利なため、逆手持ちの剣のように振るうことが出来る。
更に、手元の引き金を引いて戻す瞬間、MPを消費して“魔力弾”を発射。威力はまあまあだけれど、使い勝手は悪くなさそう。
引き金を引いたままにしておくとブーメランが銃部分からカシャンと外れ、腕を振るう動作に合わせて引き金を引く指を離すと――白いブーメランが途轍もないスピードで飛んでいく!
しかも、腕の振り方で飛び方が変わるため、使いこなすにはかなり時間が掛かりそうです。
発射したブーメランは自動で銃部分に戻ってくるため、戻ってきたブーメランに神経を割かずに済むのは地味にありがたい。
「使うなら左腕で。右は片手でも扱いやすい”偉大なる英雄の光擴転剣”の方が良いでしょうか?」
他の大型ブーメランは、両手が使えないといざという時の取り回しが不安。
「むしろ、“古生代の戦斧”を防具代わりに、ガンブーメラン主体で戦う?」
戦術に幅が出るのは良いことですが、悩ましいですね。
神代文字を使うのを考えると、光擴転剣の方が優先度は上でしょうか。
「頑張ってますね」
カプアが戻ってきたようだ。
「その後、なにか動きは?」
「いえ……それが、かなりの集団が現れたはずなのに、あれから目撃例が一切ありません。解放軍はより殺伐としていて、町の雰囲気は最悪と言って良いでしょう」
「同族意識が高い連中の仲間が殺されたとなれば、当然でしょうね」
むしろ、他の人間にとばっちりが行かなきゃ良いですけど。
「……トゥスカさんは、結婚されてるんですよね?」
「……ええ、はい」
この指輪……このゲーム内のルールで判断されるのは、少々面白くない。
「その……なぜ、異世界人の男性と?」
「へ?」
「いえ……私はその……躊躇ってしまったので」
「もしかして、眠っているあの人に?」
「……ハイ」
ここにも、異世界人の人間を好きになった獣人が。
「私は元々、他の獣人と比べて異質な考えを持つ獣人でした。でも、ご主人様と一緒に行動していくうちに、この人もそうなんだって思えて……」
死にかけた時のご主人様の行動、思想に激しく揺さぶられ……気付いたら夢中になっていた。
「そういうときの感覚って……どういう物なんです?」
「どう……もう全てを捧げてしまいたい! てくらい、自分ではどうにもならないくらい燃え上がって……」
今もだけれど、あの頃は特に発情魔になってたな、私。
「……心の奥からジンワリと温かくて……近くにいると、それがいつまでも続くんです」
あれが……あの感覚こそが幸せで、愛なんだって……そう直感できた。
逆に言えば、私の周りにはどれだけ本当の愛を知らない人間が多かったのかも……気付いてしまった。
私の母や異母達が、恋愛を装った惰性で父親と共に居た事にも。
だからこそ私は、私が認めた女性をご主人様にくっ付けたくなってしまう。
だって、私が認めた女性が幸せになれないなんて……可哀想だもの。
「心の奥から……ジンワリと……」
「カプア。今から、いかに私のご主人様が素晴らしいお方なのか、ミッチリと教えてあげましょう!」
ずっと、こういう話を同性としてみたかったんですよね~。
「これ……木が腐ってる臭い?」
大樹のダンジョン、安全エリアの先へとモンスターを倒しながら進んで暫くすると、エリューナさんとマリナが指摘したように異臭がしてきた。
「ここから先は、毒を使うモンスターが増えるらしい」
「解毒なら任せてください。皆さんは、怪我をしないのを第一に」
「心強いです」
チトセさんがサポート&遠距離攻撃のプレーヤーだからか、なんだかメルシュが傍に居るような安心感がある。
「“氷柱針”!!」
指輪で生み出した無数の針で、巨大ムカデを串刺しにするエリューナさん。
「“熱光線”」
「“飛王剣”!」
巨大な虫モンスター達を、難なく倒していく俺達。
「ウジャウジャと……数が多いな」
「皆さん、上です!」
大樹の一部だと思っていた部分が動き出し、舞茸のようなキノコモンスターだった事が判明!
見る見る色彩を変え、毒を持った生き物特有の色鮮やかな姿に!
「煙……毒か!」
紫の煙を噴き出し、逃れようが無いほど広がってしまい――毒の霧を吸ってしまう!
「呼吸が……」
咳が止まらないうえ、目眩まで!
「シャワーモード!」
身体に液体が降り掛かり、一気に症状が緩和される。
「三分間だけ、どんな毒も効かなくなります!」
「“空遊滑脱”――“業王脚”!!」
すぐさま上へと駆け上がり、一撃でキノコモンスターを倒してくれるエリューナさん。
「“煉獄魔法”――インフェルノブラスター!!」
俺の魔法で、虫モンスターを焼き尽くしていく。
「おい、この大樹で火属性なんて使ったら!」
エリューナさんが慌てる。
俺から皆に伝えていた現象が発生。
大樹自身が身を守るために、粘性のある液体を周囲から染み出させる!
ただ、ほとんどの虫モンスター達の弱点は火なんだよな。
「急いでここを抜ける! 夜鷹!」
使い方が分かっているマリナに黒い鷹を送り、チトセさんを急いで担いで空へ!
そうこうしているうちに、大樹から染み出た緑の液体は川となり、赤く変わり始めた紫炎を洗い流して下方へと流れていく。
飛行手段が無ければ、どこかへと洗い流されていただろう。
「今のうちに」
この水があるうちは、ほとんどの飛べないモンスターには襲われない。
「ねー、アレって宝箱じゃない?」
マリナが指差す方向には、流されていく黄金の宝箱が。
「仕方ない」
エリューナさんが自在な動きで駆け寄り、すぐさま回収した。
あのユニークスキル、やっぱり便利だよな。
「中身はなんでした?」
マリナが尋ねる。
「色んな薬品みたいだな。大半が“万能樹液”みたいだが。まあ、全部チトセに預けておくか」
「あ、凄い量です!! これなら、暫くは薬品に困りませんね」
パーティー間の機能で、チョイスプレートを操作して今手に入れた物を全部送ったらしい。
チトセさんの攻撃手段を考えると、薬品は幾らあっても良いからな。
「水の勢いが弱まってきているよ!」
「急いで進めるだけ進もう」
チトセさんを左腕で抱えたまま、俺は下へと踏み落ちていく。
……チトセさん、随分軽いな。
●●●
「またマッドゴーレムか」
泥で出来た二メートル越えの人型の巨体群が、泥の地面を物ともせずに突っ込んで来る!
「“嘆きの牢獄”」
私のユニークスキルの力で凍結させ、それをメグミが黄金の巨大ハンマーで叩き壊していく。
“パチモンのトールハンマー”を、メグミがジュリーから借りたらしい。
どうやら凍らせた相手は、重い鈍器による上からの攻撃でダメージが跳ね上がるようだ。
「でも、確実に宝箱に変わってくれるのは、なかなか美味しいわよね~」
サトミ様の期待に応えるように、マッドゴーレムが光に変わると、そこには木製の小さな宝箱が。
「良いのは手に入ったか?」
メグミがサトミ様に尋ねる。
「“泥土魔法のスキルカード”と、“泥土の指輪”ですって」
大した物は出ないって聞いていたけれど、私達にとってはほとんど意味がない代物。
そもそも、小さな宝箱からは武具の類いが出ることはほとんど無いらしいし。
「あ、“マッドゴーレムのスキルカード”ぉ、二枚目ぇが、手に入りましたよぉ」
クリスが教えてくれる。
「じゃあ言われていた通り、それはサンヤちゃんにあげましょうか」
メルシュに、“マッドゴーレムのスキルカード”はヨシノとサンヤに渡すよう言われていた。
能力が泥に特化してるの、アイツくらいだもんな。
「サンキュー!」
サンヤの奴、遠慮無く受け取るし。
「……」
ルフィルってエルフの女……どうにか二十ステージでのケリを着けたいところだけれど、私はまだ六文字しか使えない上、この半仲間状態じゃ争うわけにもいかない……参ったなー。
「泥エリアもぉ、ようやく終わりみたぁいですねぇ」
後半からクネクネした道が多かったけれど、ようやく終わりが見えたか。
どうやらこの先は、青黒い石畳の上を一直線に進むことになるらしい。
これで、泥跳ねを気にせずに思う存分戦える!
●●●
「ハ!」
魔法の家、“崖の中の隠れ家”の庭で、ウララから受け取った“多目的ガンブーメラン”の習熟訓練を行っている。
「フ! フ!」
V字のブーメランの端、その裏側にクリスの銃のような握りがあり、ブーメラン部分は鋭利なため、逆手持ちの剣のように振るうことが出来る。
更に、手元の引き金を引いて戻す瞬間、MPを消費して“魔力弾”を発射。威力はまあまあだけれど、使い勝手は悪くなさそう。
引き金を引いたままにしておくとブーメランが銃部分からカシャンと外れ、腕を振るう動作に合わせて引き金を引く指を離すと――白いブーメランが途轍もないスピードで飛んでいく!
しかも、腕の振り方で飛び方が変わるため、使いこなすにはかなり時間が掛かりそうです。
発射したブーメランは自動で銃部分に戻ってくるため、戻ってきたブーメランに神経を割かずに済むのは地味にありがたい。
「使うなら左腕で。右は片手でも扱いやすい”偉大なる英雄の光擴転剣”の方が良いでしょうか?」
他の大型ブーメランは、両手が使えないといざという時の取り回しが不安。
「むしろ、“古生代の戦斧”を防具代わりに、ガンブーメラン主体で戦う?」
戦術に幅が出るのは良いことですが、悩ましいですね。
神代文字を使うのを考えると、光擴転剣の方が優先度は上でしょうか。
「頑張ってますね」
カプアが戻ってきたようだ。
「その後、なにか動きは?」
「いえ……それが、かなりの集団が現れたはずなのに、あれから目撃例が一切ありません。解放軍はより殺伐としていて、町の雰囲気は最悪と言って良いでしょう」
「同族意識が高い連中の仲間が殺されたとなれば、当然でしょうね」
むしろ、他の人間にとばっちりが行かなきゃ良いですけど。
「……トゥスカさんは、結婚されてるんですよね?」
「……ええ、はい」
この指輪……このゲーム内のルールで判断されるのは、少々面白くない。
「その……なぜ、異世界人の男性と?」
「へ?」
「いえ……私はその……躊躇ってしまったので」
「もしかして、眠っているあの人に?」
「……ハイ」
ここにも、異世界人の人間を好きになった獣人が。
「私は元々、他の獣人と比べて異質な考えを持つ獣人でした。でも、ご主人様と一緒に行動していくうちに、この人もそうなんだって思えて……」
死にかけた時のご主人様の行動、思想に激しく揺さぶられ……気付いたら夢中になっていた。
「そういうときの感覚って……どういう物なんです?」
「どう……もう全てを捧げてしまいたい! てくらい、自分ではどうにもならないくらい燃え上がって……」
今もだけれど、あの頃は特に発情魔になってたな、私。
「……心の奥からジンワリと温かくて……近くにいると、それがいつまでも続くんです」
あれが……あの感覚こそが幸せで、愛なんだって……そう直感できた。
逆に言えば、私の周りにはどれだけ本当の愛を知らない人間が多かったのかも……気付いてしまった。
私の母や異母達が、恋愛を装った惰性で父親と共に居た事にも。
だからこそ私は、私が認めた女性をご主人様にくっ付けたくなってしまう。
だって、私が認めた女性が幸せになれないなんて……可哀想だもの。
「心の奥から……ジンワリと……」
「カプア。今から、いかに私のご主人様が素晴らしいお方なのか、ミッチリと教えてあげましょう!」
ずっと、こういう話を同性としてみたかったんですよね~。
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