ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

356.薬液銃のギミック

「ここが、大樹村の最下層か」

 先頭を行くエリューナさんが呟く。

 階段を降りた先に広がっていたのは、滅茶苦茶に掘られて作られたであろう巨大空洞。

 アチコチに斜面や穴があり、上の階層とは偉い違いだ。

 しかも、様々な植物がそこかしこに。

「大半が鳥モンスターですけれど、大きい虫や蛇のモンスターも出て来るので、気を付けてくださいね」

 薬の材料集めのために、毎日のようにここに来ているというチトセさんが教えてくれる。

「ちなみに、ここはパーティーごとに攻略するタイプの場所なので、他の人間と出くわす事はありません」

 ここのステージギミックを考えると、当然か。

「このモンスター達って、もしかして木の中で暮らしている動物がモチーフなのかな?」

 なんとなく、そういう習慣のある生物の特徴がある気がする。

「来るぞ!」

 鳥型モンスター達が、一斉にこちらに向かって動き出す。

「じゃあ、まずは私が」

 チトセさんが手にしたのは、透明な容器がくっ付いた水鉄砲みたいな銃、“マルチギミック薬液銃”。

 その銃の上部に別の容器をくっ付け、中身の液体を銃に注入していく。

「まずは、シャワーモードです」

 銃の先端からシャワー状に、緑の液体がばら撒かれる!

『『『ギャーーーッッッ!!』』』

 滴り溶けていくモンスター達の断末魔……怖い。

「溶けてる……溶解性の液体か」

「“調合師”のサブ職業を使って作れる薬品です――アシッドボトル」

 さっきの容器を外し、指輪から別の容器を取り出して再び装着。

「次はブリッツモード」

 先端のノズル部分を捻ると単発の溶解弾となり、一羽一羽確実に仕留めていくチトセさん。

「モンスターが逃げていく」
「珍しいな」

 マリナの言うとおり、鳥モンスターが遠くへと飛び立っていく。

 今まで、モンスターが逃げていくような行動をとった事なんてあったっけ?

「三十ステージに入ったことで、モンスターの思考ルーチンが強化されたとか?」

 ステージが十上がるごとに魔神のギミックが大きく変更されたりしてたし、この線はありそうだな。

「スナイプモード」

 更にノズルを捻り、先程までよりも遠くへと撃ち出し……逃げ出した上空のモンスターまで溶かし落としていくチトセさん。

「もう一つ、リバーモードというものがありますけれど、そちらはまたの機会に」

 射程外に逃げたのを除き、仕掛けてきたモンスターは全滅していた。

「オッそろしい武器だね」
「入れる薬液によって、他にも色々出来ますけれどね。この一年ずっと薬液を作ってきたので、ストックもまだまだありますよ」
「お前……」

 エリューナさんが引いている。

「でも……」

 “調合師”のサブ職業が手に入るのは、この大樹村に到着してから。

 なら、“調合師”で作れる薬品を使った今の戦術は、このステージに来てからの物。

 だとしたら、チトセさんの本来のバトルスタイルは全然違う物だったはずだ。

「それで、私達はどっちに進めば良い、チトセ」

 そこかしこに穴や通路らしき物があり、一見しただけではどちらに進めば良いのかは分からない。

「待ってください」

 チトセさんが駆け出した先に有ったのは、滑らかな斜面に不自然に盛り上がった、直径十五センチくらいの箇所。

「もしかしてそれが……」
「ハイ、この場所特有の宝箱になります」

 腰に吊していた小槌を取り出し、叩いて割るチトセさん。

「木の槌で叩かないと、アイテムが取り出せないんでしたね」

「ああ、だからやたら小槌が売ってあったんだ」

 一応、俺とマリナ、エリューナさんの分も買ってあるんだけれど。

「“万能樹液”が入った小瓶ですね。“調合師”のサブ職業で作れる薬に、多く使われる素材です」

 小瓶の状態で見付かるんだ。

 まあ、液体そのままだと困るけれど。

「このステージより先だと、こういう風に特殊な宝箱が増えるみたいです。しかも、薬に使える材料をここほど効率的に集められる場所は無いそうです」

「なら、少しでも多く回収していくか」

 本当、部外者のエリューナさんが協力的な人で助かる。


●●●


「蒸し蒸しするな」
「それに、歩きづらい」

 腐葉土村を出て、柔らかな土の上を歩いていく私達。

「げ!!」

 アヤナの嫌がる声。

「前もって聞いてただろう、アヤナ」

 パーティーリーダーとして、皆の士気を下げるような言動を窘める。

「そうだけれど、この泥の上を歩いていかないといけないなんて……」

 このステージでは基本的に飛べず、泥の上を進まないといけないらしい。

「じゃあ皆、“泥捌けの草履”を履いて」

 メルシュの言葉に従い、全員が草履を装備する。

「聞いてはいたけれど、本当に沈まない」

 草履が、泥の地面をコンクリートのように硬く踏んでくれる。

「バニラ、腕が……」

 四足歩行のバニラの手が、泥の中に深く沈んでしまった――て、どんどん沈んでいってる!?

「ひ、引き上げろ!」

 メグミと一緒に、バニラを引き上げる私。

「ウォーター」

 上半身が泥だらけになったバニラを、メルシュが“生活魔法”で洗っていく。

「クリーニング」
「……ブルブルブルブル!」

 犬のように上半身を震わせ、周囲に水を撒き散らすバニラ。

「ちょ、止めなさいよ!」

 バニラにそんなこと言っても仕方ないだろう、アヤナ。

「私が背負おう」
「ガルルルル!」

 私が近付いたら、唸り声を上げて離れてしまった……ショックなんだが。

「ローズ、マリア、お願い」

「仕方ないわねー」
「暴れないでよ、バニラ」

 二人が、バニラの腕を持って浮かせる。

 そういえばあの二体、人形だったな。

「ドンマイ、ルイーサ」
「しょーがないわよ、ルイーサ」

 双子の珍しい慰めに、余計に落ち込みたくなるのだが……なんでだ、バニラ。


●●●


○以下から一つを選択出来ます。

★ガーディアンをパーティーに加える。
★守護戦士のサブ職業を手に入れる。
★守護武術使いのスキルカード・守護領域のスキルカードを手に入れる。

 俺はコトリに、”守護戦士”のサブ職業を選択して貰う。

「フーン、そんな風に手に入れられたんだ」

 カオリ達が、俺達と同じように隠れNPCの契約条件を満たし、石像の前へ。

「アイツらも契約はしないのか」

 パーティーに隠れNPCが居ないから、てっきりするものだとばかり思っていた。

「ケルフェ」

 コトリが手に入れたサブ職業を実体化し、青いメダルをケルフェに投げ渡す。

「良いんですか、ザッカルさん?」
「防御系の能力だからな。お前向きだろう」

 誰かが装備してくれるだけでも、パーティーメンバーに恩恵があるサブ職業だし。

「それじゃあ、さっさとダンジョン攻略を始めましょうか」

 カオリに促される。

 向こうは、ビクビクエルフ以外はやる気タップリみたいだな。

 さっきボス戦を終えたばかりだってのに、元気な奴等だぜ。

「だな」

 まあ、攻略に積極的なのは、こっちとしても助かる。

 部外者が引っ張ってくれる方が、アヤ辺りも文句言わねーしな。

 ちなみに、リョウ達は昨日のうちにレギオンに復帰している。

 俺達が、戦士の集落はずれに向かって歩いている時だった。

「あん?」

 思わず足を止め、後ろを振り返る。

「どうかしたの、ザッカルさん?」

 コトリに尋ねられる。

「いや、今嫌な視線が――」


『これより、突発クエストを開始しますわ!』


 突然の女の声!

「このタイミングでかよ!」

「ザッカルさん、皆が!」

 馬獣人のケルフェの視線の先――一緒に行動していた奴等の大半が消えている!?

「……やってくれやがる」

 俺とコトリ、ケルフェ、そして……キヨミとヴァルキリーのキャロラインだけが取り残されちまった。

「俺達の大半が村の外に出るのを……見計らってやがったな」

『それでは突発クエスト、戦士の洗礼のルール説明を始めますわ』

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