ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

350.グリモワールの魔法使いウララ

「こちらです」

 昨日出会った小柄な女性、ウララに連れられ、四人で獣の聖地の郊外に出る私達。

「それでは、私は情報収集に向かいますので」

 顔を隠し、石造りの外壁に包まれた聖地へと向かうタヌキ獣人のカプア。

「では、一時間だけ時間を潰しますよ。モンスターが現れたら速やかに、出来るだけ静かに片付けてくださいね」

 私の装備的に、音を立てないと言うのはかなり難しい課題なのですが……。

「ここにも解放軍が?」

 ノーザンが尋ねる。

「彼等は交代で、Lv上げに勤しんでいるようです。ただ、レジスタンスとの小競り合いが激化してきたことで、昼間にだけ大人数で現れるようになりました」

「おかげで、早朝にはほとんど現れないと?」
「彼等は、本拠地にしている城と祭壇、聖地を厳重に監視しています。そのため、こちらに割ける人数には限りがあるそうです」

「確か、次のステージへの入口は城の地下でしたよね?」

「ええ。そのため、私達は先に進むことも、助けを期待することも出来ないのです」

 八方塞がり、というわけですか。

「……同情したくなる気持ちもありますけれどね。最初から奴隷として扱われてきた彼等は、心無い人達に様々な扱いを受けてきたようですから……彼等は、獣人の奴隷を次々と解放したレギオンリーダー、ヴァルカに心酔しているようなのです」

 ヴァルカ……聞き覚えがあるような……。

「僕達は、確かに運が良い方だったでしょう」
「そうね……」

 もし相手がご主人様でなかったら……私は私を買った相手を殺して、自分も死ぬつもりだった。

 そういう覚悟を抱かなければ、あの絶望的な状況で自分を保てる気がしなかったから。

「“ボーンディアー”、一体」

 骨のような物に覆われた鹿タイプのモンスターが、平原を徘徊している。

「私が仕留めます」

 今のウララの格好は、魔法使い風のレモン色の服。

 ローブの裾は半ばから紫のスケスケのためミニスカートである事が丸分かりで、ふちの部分に雲みたいなモコモコが付いた可愛らしいドレスのよう。

 そんなウララが手にしたのは……一冊の、黄金の装飾が施された黒い本?


「“雷雲魔法”――サンダークラウズカノン!!」


 魔法陣から撃ち出された雲がボーンディアーを包み――放電した!?

「一撃で仕留めた……」

 初めて見る魔法。

「“雷雲魔法”と言うのは?」

 ノーザンが尋ねる。

「雷と氷の二種属性魔法なの」

 アッサリ教えるんだ。

「その本が、杖代わりなのですか?」

「ええ。魔法使い専用装備の本、“至高のグリモワール”。なんかSランクだったみたい。魔法系スキルの消費MPを、半分にしてくれるんですって」

 ドーム状の硝子や金属パーツが表紙に付いてたりと、明らかに普通の本ではない。

 でも、ジュリー達のように近接戦もこなす魔法使いには向いてなさそうな装備。

 おそらく彼女は、完全な後衛タイプの魔法使い。

「本を開いていないと、MPを半分にはしてくれないみたいだけれど」

 手の内をどんどん明かしていく……どこまでが計算なのか。

「それじゃあ、次は二人の戦いを見せてくれる?」

 手の内を晒された以上……断りづらい。

「「……はい」」

 本当に、どこまでが計算なのだろう……。

 
●●●


『オァァッ!!』

 洞窟に足を踏み入れた瞬間、ドスを持った般若の仮面の半裸男共が襲ってくる。

「ハッ!!」

 ”聖王のマント”を靡かせてドスによる突きを防ぎ、その顔に“古代王の聖剣”を突き刺す!

「これが、“完全防刃”か」

 Sランクの“聖王のマント”の効果の一つで、威力に関係なく刃を防ぐという。

 属性付きの斬撃、カナの“飛剣・暗閃”などは切断能力を消すだけで、完全には防げないらしいが。

 ただし、無属性の“飛王剣”なら、威力に関係なく完全に防げるそうだ。

「手に入ったよ、”チンピラのスキルカード”」

「これで、“魔突きのスキルカード”が手に入るんだっけ?」

「ああ。剣なら“魔斬り”にも“魔突き”にも対応して居るが、槍や棒、弓矢などを使う人間なら、こちらの方が良いだろうな」

 アオイ、アヤナ、フェルナンダが話している。

 つまりは、“魔斬り”と同系統のスキル。

「ユイが数を揃えてくれるだろうが、もう少し狩るか」

 何枚あっても良い、利便性の高いスキルだからな。

「別のも現れたようだ」

「……なんだコイツ」

 神輿を担いだ……十人前後のチンピラ?

「良い筋肉♡」
「姉ちゃん……」

 アヤナ、お前な……。

「運が良いな。出現率の低いレアモンスター、“神輿大砲”だ」

 フェルナンダが喜んでいる。

「来るよ!」

 神輿の人が座る部分が開き――中から大砲が出て来た!?

「装備セット1――”聖水盾術”、セイントバニッシュ!!」

 “ヴリルの聖骸盾”を装備し、なんとか砲弾を弾き飛ばす。

「爆発しないタイプか。助かった」

 炸裂していたら、無傷では済まなかったかもしれない。

「さっそく、盾術を用意してきて良かったよ」

 昨日は、それで痛い目を見たからな。

「“光線魔法”――アトミックレイ!!」

 アヤナの魔法が、障壁によって半ば防がれているだと!?

「”黄金障壁”だ! 魔法ダメージは半減するぞ!」

 フェルナンダが教えてくれる。

「だったら――“抜剣”」

 盾から、”古代王の聖剣”を抜く!


「”古王の威厳”――”古代剣術”、オールドブレイクッ!!」


 威力を二重に強化した、特大の斬撃を放つ!

「なに!?」

 さっきの”黄金障壁”とは逆の、白銀色の紋様に威力を減衰させられただと!?

「武術の威力を半減する、“白銀障壁”だ」

「早く言えよ、フェルナンダ!」

 だが、ダメージは充分に――

「さいなら」

 鞭状になったアオイの杖が石の柱を投げ放ち……障壁を発生させることなく、呆気なく叩き潰してしまった。

「「……なんじゃそら」」

 私とアヤナが、大技を放ったって言うのに。

「ボサッとするな! “精霊魔法”――ノーム!!」

 神輿が破壊されると、担いでいた”チンピラ”達がバラバラに襲い掛かってくる!

「なんか腹立つ!」
「私もよ!」

 珍しくアヤナが前に出て、荒ぶっておられた。

○“野蛮な神霊の指輪”を手に入れました。


●●●


「以外と早かったですね、洞窟を抜けるの」

 洞窟を抜けた先、大きな蓮の葉が浮かび流れる湖の前でそう言うクマム。

「枯れ霧の森の難易度がかなり高いから、この辺は楽だよ……飛べればね――爆裂黒球」

 黒岩を湖に投げ込んで、爆発させる。

「……なんか飛んできた」

 次々と打ち上げられるは、巨大な蛙モンスター、黄泉フロッグ。

 まあ、ほとんど死骸だけれど。

「経験値を多めにくれる以外は、大して旨味のないモンスターだよ。一応、面白いスキルもあるけれど」

 サキならともかく、他の人間には今ひとつなスキル。

 まあ、ユイに五枚程度は依頼したけれど。

「葉っぱに乗らなければ襲われないから、飛んで行くよ」

 ナオとクマムを連れて、湖の上を飛んでいく。

「なんか、宝箱が乗っているのがあるわね」

「ランダム要素が強くて、超低確率でAランクが出る事もあるけれど……」

 昨夜、結局トゥスカとノーザンは戻らなかった。

 それ故に、私達は少なからず急がなければという焦燥に駆られている。

「まあ、一つくらい良いでしょう」

 ナオが青と赤の宝箱に近付き、罠解除して蛙が飛び出ないようにする。

「変わった色合いの宝箱」

 あんな宝箱、ダンジョン・ザ・チョイス自体にあったっけ?

「……これは……良いのを引いた?」

「なにを手に入れたのですか?」

「これよ、クマムちゃん!」

 ナオが右腕に装備して見せてくれたのは……赤い球が甲の部分に付いた、指先が出ている青と金の装身具。

「“氷炎の感情を思い知れ”っていう名前なんだって!」

「変な名前」
「変な名前ですね」

「ひ、否定はしないけれどさー……そんな風に言わなくたって良いじゃない」

 取り敢えず、ナオが新しい神代文字対応の武器を手に入れたのは間違いない。

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