ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

344.霧の森の主

「懐かしいね、ゴルドソルジャーとは」

 シレイアさんが、霧の中から出て来た二体の黄金の人間を見てそう呟く。

「私は……見覚えが無いけれど」

「マスターがコセの時に出た奴だからね」
「ああ、第五ステージでメルシュさんと交換した時か」

 それじゃあ、知るわけないや。

「ランスの方が“ゴルドサン”。銃の方が“ゴルドヴィーナス”って言う名前だ。黄金属性の上位武器になるね」

「ふーん」

 ランスだとタマさん……銃だとクリスさんかな?

「私らの所に現れたのは、運が良いね。コイツらは魔法を半減させる“黄金障壁”持ちだから」

 ナオさんが持ってる指輪と、同じ効果か。

「じゃあ、さっさと仕留めるね」

「“蜘蛛糸”!」

 私よりも先に銃持ちに仕掛けたのは、カナさん。

「“暗黒鎌術”――デスサイズ!!」

 糸を引っ張って銃口を逸らしつつ、急接近して一撃入れた!

「“魔力輪廻”」

 ”輪廻の業剣”にMPを注いで強化し、カナさんに迫るランス使いの一撃を弾くシレイアさん。

「オラよ!」

 “ウォーグリーブ”で蹴ったからか、派手に吹き飛んでいく黄金の巨漢。

「暗黒の車輪!」

 右腕に連動する形で黒い巨大車輪を作り出し、銃持ちのゴルドソルジャーにぶつけに行くカナさん。


「“古代回転術”――オールドクラッシュ!!」


 銃を封じられたまま、為す術無く頭を潰されて消えていく黄金の巨漢。

「オラオラオラオラオラオラオラッ!!」

 “アマゾネスの大刀”との二刀流で、反撃の隙を与えずに確実にダメージを蓄積させていくシレイアさん。


「“二刀流剣術”――クロススラッシュ!!」


 ランスが大きく弾かれて体勢が崩れた瞬間、X字に斬って倒した。

「フー……やるようになったね、カナ。随分思い切りが良くなったじゃないか」
「フフ。虹の城の一件で、色々吹っ切れたみたい」

 妖艶だけれど、今までにないくらい自然な笑みを浮かべるカナさん。

 普段の地味な格好の時は、相変わらずオドオドしてるけれど……それでも、以前よりは良くなってるかも。

「でも、さすがに今のは勇み足が過ぎたわね。反省するわ」

 シレイアさんが動いてなかったら、確かに危なかったかも。

 でも、カナさんの身のこなしって結構凄い……微妙な動作で、行動を読みづらくさせる暗殺者っぽさがある。

 達人に対する騙しのテクニックって言うか……。

「カナさんて、武道とかやってた? 古武術とか」

「うーん、古武術の動画とかは見たことあるけれど、習ったりはしていないわよ? そもそも、運動は苦手だし」

 だとすると……地味に天才?

「カナも文字を扱えるようになったことだし、そろそろコセとくっつけるかね」
「し、シレイア……さすがに冗談よね?」

「「……」」

「なんで二人とも黙るのよ!」

 カナさんは二面性が濃い人だから……二度美味しそう。グヘへへへ!

○“ゴルドサン”を手に入れました。
○“ゴルドヴィーナス”を手に入れました。


●●●


「――“私の家”」

 私が契約したシルキーの隠れNPC、コツポンが、私達が寝泊まりした例の家を召喚。

 更に使役し、伸びた枝などでリスモンスターの群れを殴り付けて滅ぼしていく。

「なんというか……ドライアドの隠れNPCと同種のヤバさを感じるわ」

 植物を一斉に操るあの能力に対抗するのは、少なくとも森の中では無理。

 やりようは幾らでもあるだろうけれど、条件を整えるのはかなり面倒そう。

「終わりましたよ、ご主人様方」

 隠れNPCはマスターに従順だって聞くけれど……イマイチ信用できない。

 まあ、一蓮托生の関係なのだから、そうそう裏切らないとは思うけれど。

 休息を取らなくても良い隠れNPCが味方だって言うのは、中々頼もしいとは思ってるわ。悪くない拾い物だとはね。

「もうすぐ日が暮れます。急ぎましょう」
「……そうね」

 ヒビキの提案に従い、私達は五人で霧の森を進む。


●●●


「三人だけというのは、少々不安ですね」

 このパーティーのリーダーであるクマムが、弱音を吐く。

「ナオはともかく、私が居るから安心してよ、クマム」
「ちょっと、メルシュ! 私はともかくってどういうことよ!」

 相変わらず沸点が低いな。まあ、お互いにじゃれ合っている程度のレベルだけれど。

「でも、なんでこの三人にしたわけ、メルシュ?」

 ナオに尋ねられる。

「いずれクマムには隠れNPCを付けようと思ってるから、予行練習みたいな物かな。単純に、強敵モンスターと遭遇回数を上げようとしたって言うのもあるけれど」

 森の中でどんなモンスターが出て来るかは、完全にランダム。

 大まかに十一種類のパターンがあるけれど、モンスターがどんな武器を使うかは特にランダム要素が強いのだ。

 サブ職業はともかく、武具に関してはなにが手に入るかまったくと言って良いほど分からない。

「……霧が濃くなってきました」
「これで六回目か。簡単なのが良いんだけれど」

 ナオって、ちょっと楽したがる傾向があるなー。

 まあ、適度な息抜き程度なら構わないんだけれど。

「……当たりも当たりを引き当てたみたいだね」

 霧の向こうから現れたのは、この森でもっとも強力なモンスター、ミスト・ディザストス。

「ソイツは強力なスキルを持ってるから、“無名のスキルカード”を使って」

 二人が使うまでの間、私が前に出て時間を稼ぐか。

「“宝石魔法”――ダイヤモンドカノン!!」

 巨大なダイヤモンドの塊を高速でぶつけ、纏う白煙、“霧の鎧”を散らす。

 こうしないとダメージを減らされるどころか、完全に無効化されてしまいかねない。

『デュォォォォ!!』

「深海の盾!」

 指輪で青い盾を左腕側に呼び出し、霧で作られた巨拳を受けとめる!

「爆裂黒球!」

 真っ黒な炭のような塊を右の指輪で呼び出し――高速で撃ち出す!

『デュォォォォッ!!』

 両腕を交差させるように振り下ろし、X字の黒い刃、“災禍刃”を放って――黒球を切り裂き、派手な爆発を引き起こされる!

『デュォォ』

 ミスト・ディザストスの姿が霧に溶け――ナオの背後に霧が集まっている!

「ナオ!」
「ナオさん!」


「――“氷炎の共演”、“氷炎拳”――――アイスフレイムフィスト!!」


『デュォォォォォォッッ!!!』

 拳による貫通系の技が見事に直撃し、実体化したミスト・ディザストスに完璧なカウンターを決めて見せたナオ!

 しかも、三文字だけだけれど、“氷炎の共演に魅せられよ”に神代文字をしっかりと刻んで強化していた。

「どんなもんよ!」

「ナオも成長してるんだね」
「今のナオさん、とっても綺麗でしたよ!」
「そ、そーを?」

 クマムに褒められると、デレデレになるんだね。

「でも、まだ終わってないよ」

 大ダメージを受けたミスト・ディザストスは、本来の姿に分離する。

「……真っ黒なゴリラと、霧に包まれた玉?」

「ディザストスビッグフットと、ミストオーブだよ。前者は魔法、後者は物理があんまり通用しないから気を付けて」

 せっかく“無名のスキルカード”を使わせたんだから、二人にトドメを刺して貰わないとね。

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