ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

337.妖精の家並木

「なんというか……異様ね、この光景」

 皆で祭壇を降りた先に広がっていたのは、左右直線上に並んだ戸建ての道。

 しかも、たぶん全て同じデザイン……家並木ってこういう事か。

「アメリカではぁ、こんな感じのぉ、結構ありますよぉ。ここまで同じは珍しですけどぉ」

 クリスが教えてくれる。

「それで、ここでやるべき事があるならさっさとやっちゃいましょうよ」

 スヴェトラーナが急かす。

「それなんだけれど……スヴェトラーナ達は、隠れNPCが欲しかったりする?」
「は?」

 メルシュの言葉に、難色を示すスヴェトラーナ。

「後々の事を考えれば、悪くはないかと」
「私も、ルフィルと同意見かな~」

 ルフィルとサンヤは同じ意見と。

「私が言うのも難だけれど、隠れNPCは契約者を決して裏切らない。ここの隠れNPCの特性を考えると、スヴェトラーナ達にちょうど良いと思うし」
「そうだな。隠れNPCはいざというとき睡眠を取らなくても良いし、スタミナも無限らしい。悪くないんじゃないか?」

 私からも提案する。

 既にユイ達とパーティーを組まなくなってしまっているため、彼女達が隠れNPCと契約する分には問題ない。

 幸い、契約条件の半分は満たせている。

「ジュリー、アンタまでこっちの戦力アップになるような事を……どういうつもり?」
「いずれ、正式に手を組みたいと思っているからね」

 腕をボロボロにされた恨みはあるけれど、昨夜の文字しか効かない相手と遭遇したのもあって、彼女達という戦力は惜しいのだ。

 スヴェトラーナ達のリーダーがコセと行動していることに、どこか運命のような物を感じているし。

「要らないなら、こっちで隠れNPC固有のスキルを手に入れるだけだけれど?」

「……ソイツの能力を教えなさい」

 やっぱり、少なからず私達の戦力が上げるのを警戒しているみたいだね。


●●●


「……なに、ここ」

 白い綺麗な同じ家々が並ぶ中、他のどの家よりも小さくて薄汚い木造の家に案内された私達。

「じゃあ、スヴェトラーナ達はここに一晩泊まって。それと、家のテーブルに“上質なシルク”を一つ以上置いた状態で部屋を散らかしておいてね」

 結局、隠れNPCと契約することにした私だけれど……まさか、こんな所に泊まることになるなんて。

「……冗談よね」

「早く参りましょう」

 ヒビキが、さっさとボロ屋の前へと歩いていく。

「じゃあ、夕食時に迎えに来るから」

 《龍意のケンシ》メンバーが、さっさと居なくなる。

「アイツら……」

「ま、諦めなよ」
「そうですね。一晩だけですし」

 サンヤもルフィルも、なんでそんなに良い子ちゃんなのよ!

「来てください、お三方」

 玄関扉前にいるヒビキに呼ばれ、近付く。

○宿泊費、一人、一泊10000Gになります。

○宿泊なさいますか?

●40000G払う ●50000G払う ●この場を去る

 地味に高い。

「ていうか……」

 なんで四人なのに、宿泊費の選択肢が二つもあんのよ!

 まあ……理由はさっき聞いたんだけれど。

「さっさと中に入るわよ」

 50000Gを払うと、玄関扉が開く。

「……思ったほど悪くないわね」

 中は、外観よりも遥かに綺麗だった。

 住み心地の良さそうな……不思議なぬくもりが漂っているよう。

「特に個室などは無いようですね。一通りの設備はあるようですが」

「“森の戸建て”以外の場所に泊まるのは、滅茶苦茶久し振りじゃん。ちょっと楽しみだなー」

 エリューナが契約している、私達の家。

「ヒビキは、前来たときはどうしたの?」
「一度だけ、こことは別の家に泊まりました。魔法の家の方が安全なため、私は反対したのですが」

 周りに押し切られざる終えなかったわけだ。

「では、言われた通りに家中を荒らしておきますか。気は進みませんが」
「片付けろって言われたことはあるけれど、散らかせって言われたのは初めてだな~。なんか新鮮」

 サンヤは楽しそうね。

「さて、いったいどんな隠れNPCが手に入るのやら」

 可愛くなかったら承知しないわよ!


●●●


「テント、張り終わったぞ」

 エリューナさんが、火の前でご飯を作っているマリナの前にやって来る。

「お疲れ様です」
「さすがに、コセの方が早かったか」

「それはまあ……」

 俺のは小型で、二人のは大型だからな。

 当然と言えば当然だけれど、今日は初めて男女別で寝泊まりすることになる。

 マリナと再会したあの山では、異形の女が現れるのを警戒していたからな。

「明日は、あの山に挑むことになるのか」

 俺達が今居るのは、荒野と山の間にある安全エリア。

 既に日は傾き始め、直に辺りは暗くなるだろう。

 今は、夕から夜に移り変わっていく逢魔が時。

「エリューナさん、コレを」
「コレは?」
「“警鐘のスキルカード”です」

 ゴールヌィの隠れNPCから、契約しない代わりに受け取ったスキルカード。

「良いのか?」
「エリューナさんの方が視野が広いですから」

 この面子じゃなくても、俺は前に出て戦うタイプだし。

「マリナにはコレを。“山の守りてのスキルカード”だ」

 同じく、ゴールヌィの固有スキルを渡す。

「これって、どういうスキルなの?」
「自分を含め、山にいるレギオンやパーティーメンバーの力を強化してくれるらしい。TPとかの回復力アップや、ダメージの軽減もしてくれるってさ」

 俺が使おうかとも思ったけれど、使用可能なスキルが三十だけのため少々厳しい。

「あ、ありがとう」

 そんなに嬉しそうにされると、気恥ずかしくなってくるな。

「イチャイチャしやがって」

「「してません! ……ぁ」」

「ハァー、さっさと食事にしよう。食べたら、私はすぐに休ませて貰うからな」

「ああ……ハイ」

 一応、交代で見張りは立てることになっている。

 俺は、まだ暫く眠れない……あの昨夜の襲撃のせいで、ろくに眠れていないのに。

 途中で起こされる羽目になった二人に比べれば、大分マシかもしれないけれど。


            ★


「タマは大丈夫なのか?」
「うん。今日一日様子を見ていたけれど、問題ないみたいだよ、マスター」

 真夜中、魔法の鍵を使ってメルシュと情報交換を行っていた。

 二人は、テントの中で眠っている。

「今朝連絡が取れなかったから、皆が心配してたよ? 特にトゥスカがさ」
「状況的に、余裕が無くてさ。一応、安全エリアに差し掛かる度に鍵を使って呼んではみたんだけれど」
「昼間は、私達も全力で攻略を進めてるからねー」

 頑張って俺達を追ってきてくれているらしい。

「エリューナさんの仲間は?」
「まあ、それなりに上手くはやれてるよ。まだまだ壁は分厚いけれど」
「そっか」

 エリューナさんの仲間ならば、上手く引き込みたい所だけれど……まあ、なるようにしかならないか。

「そのエリューナっていうの、気に入ったの?」
「……そういう聞き方をするんじゃない」

 メルシュは、この手の話ではまったく信用できない。

「そう言えば、トゥスカ達の方はどうなんだ? ほとんどなにも聞いていないんだけれど?」

「獣人のレギオンが幅を利かせてて、獣人には友好的らしいんだけれど、他種族にはかなり厳しい集団みたい。良くも悪くも、“獣の聖地”を取り仕切っているらしいよ。だから、ノーザンと二人で色々情報を集めてくれてる」
「取り敢えず、安全ならそれで良いんだけれど」

 出来れば、魔法の家の領域にずっと居て欲しいくらいだけれど、滞在ペナルティーのせいでそうもいかないらしい。

 その後、この先の攻略情報をメルシュから貰う。

「それじゃお休み、マスター」
「お休み、メルシュ」

 珍しく投げキッスをしてきた、俺のNPC妻。

 恥ずかしかったのか、すぐに去って行くメルシュ。

 俺も、鍵をチョイスプレートに戻す。

「意外と、寂しいって思ってくれてるのかな」

「フーン」

 背後に、マリナがジト目で突っ立っていた!?

「も、もう交代の時間だったっけ?」

「早く目が覚めちゃって」

 俺が座る丸太の上に腰掛けるマリナ。

「エリューナさんに、手を出すつもりなの?」
「いやいやいや」

 人を節操無しみたいに言うなよ……否定できないけれど。

「……ねぇ、もしこの世界に私も残るって言ったら……私も……受け入れてくれる?」

 マリナの目は……とても真剣だった。

「……俺で良いのか?」

「まあ……ちょっと面白くはないけれど……アンタ以外の誰にも……恋なんて出来なかったし」

 マリナが身体を密着させて来て……頭を俺の肩に乗せる。

「この二日で、一緒に居られるだけでも幸せだなって思えたけれど……もう、それだけじゃ満足出来ないよ」

「……素直に嬉しいよ」

 俺を、一番長く好きで居てくれた幼馴染み。

「今日……冷えるね」
「うん」
「ねえ……暖めてよ」
「……うん」

 彼女の肩に腕を回して……唇を重ねた。

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