ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

311.偉大な戦士の門出

「じゃあ、今判っていることを元に、今後の行動方針を決めるよ」

 メルシュが、カナやザッカルから集めた情報を元に、食堂に集まった皆の前で話を始める。

「まず、靄に呑まれた皆だけれど……ザッカルは第十五ステージの”世界の港”に、マスター・コセは二十八ステージの”橋の砦町”に居ることが判ったよ」

「だが、コセ殿の情報は第三者からもたらされた物なんだろう? 当てになるのか?」

 レリーフェが、もっともな疑問を口にする。

「状況的に嘘を付いているとは思えないし、なにより……私の固有スキル、“英知の引き出し”が、二十八ステージまでの情報にアクセス可能になったの」

「メルシュの主がコセだから、コセが居る場所までの情報を得られるようになった。そういうこと?」

 ジュリーが確認がてら、解りやすく言い直してくれる。

「うん、間違いないと思う。ただ、ステージを跨いでしまっているから、私やトゥスカは奴隷の効果による十二時間後の転移が出来ない」
「つまり、直接合流しない限り、ご主人様はずっと一人という事ですか」
「しかも、奴隷である私達とはパーティーを組んだ状態のままでね」

 パーティーリーダーのLv次第ですけれど、三つに別れてしまった以上、私達はろくにパーティーを組めない。

「それで、私は“シュメルの指輪”を装備して一時的にマスターのパーティーを外れようと思う。急いでマスターを追い掛けるためにも」

「その方が良いだろうな」
「ですね」
「さっそく、明日から最速で動くわよ!」

 ルイーサ、クマム、ナオがやる気を漲らせている。

「で、俺はどうしたら良い?」

 十五ステージまで一人戻されたザッカルが、メルシュに尋ねた。

「さっき連絡を取って、リョウ達にザッカルと合流するように頼んだよ。この後、庭園で顔合わせしてくれる?」
「おう、良いぜ」

 ザッカルの方は、なんとかなりそうですね。

「ただ、向こうでも似たような事があったみたいで、マリナが行方不明なんだって」

「「「へ?」」」

 マリナって、いきなりご主人様に攻撃してきたあの女?

「まだ連絡が取れていないらしくて、なんの手掛かりも無いみたい」
「手掛かりが無いなら、気にしても仕方あるまい」

 レリーフェが、一刀両断してしまう。

「我々は、少しでも早くレギオンリーダーと合流すべきだろう」
「ちょっと、幾らなんでも冷たすぎるんじゃないの!?」

 アヤナが噛み付く。

「それで、ザッカルとリョウとやらの一団と合流する居残り組と、コセ殿に合流するためのパーティーに別けるのか? 私としては、全員でコセ殿との合流を図るべきだと思うが」
「アンタ、いい加減にしなさいよ! ザッカルの気持ちも考えたらどうなのよ!」

 人情的には、アヤナの言うことも分かるけれど。


「悪いけれど、私もレリーフェと同意見だよ」


 メルシュが宣言してしまう。

「ああ、俺もそれで良いぜ」

「ザッカル……」

 当の本人が、受け容れてしまう。

「コセは、この《龍意のケンシ》の要だ。アイツが完全に居なくなったら、この組織は確実に潰れる」

「「「…………」」」

 ここに居る誰もが、薄々気付いていること。

 なにより私が、ご主人様が居なくなった世界に興味が無い。

 この胸に刻まれた奴隷紋は、私とご主人様の死を繋いでくれる愛おしい絆。

「俺が居るのは十五ステージ。二十八ステージのコセと比べれば安全も安全。それに、コセと一緒に居る奴等はヤベー奴なんじゃねぇのか? カナ」

 カナに注目が集まる。

「う、うん。ジュリーちゃんやリンピョンちゃんが言っていた特徴と一致する人達が、二人は確実に居ました。それに、コセくんと一緒に居るの……たぶん、ジュリーちゃんとクエストの最後まで一緒に居た人だと思う」

「人の命を貪欲に奪う、謎の黒尽くめ集団ですか」

「そっちは、情報を共有してある程度上手くやるわ。マスターを殺させないためにもね」

 メルシュから、強い決意を感じる。

「ナオの言うとおり、明日からお互いに頑張ろうぜ」
「そうですね」
「ハイ、頑張ります!」

 ザッカルの言葉に、元気良く返事をするタマとスゥーシャ。

「ところで……トゥスカとノーザンはどこに居るの?」

 アオイに尋ねられてしまう。

「……私達が今居るのは……”獣の聖地”です」

 メルシュを見詰める。


「二人が居るのは……第三十六ステージだよ」


 ご主人様を助けようとした結果、私達がもっとも迷惑を掛ける事となってしまった。


●●●


「…………ぅ」

「ようやくお目覚めか。もうとっくに夜明けだぞ」

 パールグレイの髪の女性に、声を掛けられた?

 肩を出した白い布の服に、スリットが両端に入った青のロングスカートと黒のブーツ姿の女性に。

「……ここは」

 壁と壁……煉瓦と煉瓦の間が狭い。

「さっき連絡を取って知った事だが、ここは第二十八ステージ。橋の砦町という場所らしい」

「二十……八ステージ?」

 そこで、ようやく意識が覚醒していく!

「――イッツ!!」

 起き上がった瞬間、左腕が激痛に襲われるッッ!!

「ハァー、ハァー、ハァー、ハァー」

 込み上げてきたあまりの痛みに、左腕がブルブルと震えていた。

「……大丈夫か?」
「あ、ああ……」

 痛みそのものは一瞬で消えたのに、まだ幻痛に苛まれている。

 鎧を解除してみるも、左腕に怪我は無い。

「なんだったんだ……今の」

「……なにが起きたのか、ちゃんと覚えているのか?」

「貴女を助けようと思って、靄に再び突入して……抱き締めてから」
「もういい、やめろ」
「ハイ、すみません……」

 さすがに、今のはデリカシーが無さ過ぎたか。

「……一度、仲間達と話して来る」
「一応、こちらの状況はカナという女を通じて伝えてある。ちなみに、私は自分の魔法の家に戻れなかった」
「へ?」

 ……戻れない?

「だが、入り口で会話するだけなら問題ないはずだ。お前と私が同じ状態かは知らんが」
「ああ……」

 皆が居るのは二十ステージ……これって、暫く皆には……トゥスカには会えないって事なのか。

 鍵を使い、家へと空間を繋げる。

「俺もダメみたいだ」
「……ご主人様?」
「トゥスカ!」

 すぐに声が聞けるとは思わなかった。

「ゴメン、心配掛けた」
「本当ですよ……もう」

 トゥスカの瞳が潤む。

「どうやら、俺は魔法の家が使えなくなってしまったらしい」

「メルシュは、一時的なバグと言っていました。飛ばされたカナさんやザッカル、私達も問題なく使えましたし、いずれはご主人様も行き来できるようになるかと」

「そっか……ちょっと安心した」

 もう一生、あの家に戻れないのかと思っていたから。

「……私達?」
「ぁ……」

 なんだ、このマズイ事を口走ってしまったって感じは。

「トゥスカ」
「あの……お、お気になさらないで下さい」
「トゥスカさん」

「…………ご主人様が靄に落ちたのを見て、ノーザンと一緒に追い掛けてしまったんです」
「怪我とかは……してないよな?」
「はい、そちらは」

 まあ、この気まずそうな雰囲気の理由は察しがつく。

「で、今はどのステージに居るんだ?」

 この後、メルシュも合流して一通りの情報交換を行った。


            ★


「三十六ステージ、”獣の聖地”」
「今朝調べた限りでは、獣人のレギオンが幅を利かせているステージらしく、私とノーザンは一先ず安全かと」
「だから、取り敢えず私達がマスターと先に合流して、それからトゥスカ達を追い掛けようとしているんだよ」

「メルシュ、解ってて言っているだろう」
「ハー……」
「ご主人様?」

 トゥスカの方は、本当に解っていなさそうだ。


「今から全力で――トゥスカ達が居る場所へと向かう」



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