ダンジョン・ザ・チョイス
303.痛い朝食と報告会
「……これは美味しいな」
いつもより遅めの朝食の席にて、蒸し野菜をタレに付けて食べているレリーフェさん。
「そのタレ、コセさんが作ったのよ」
「コイツが?」
何故か、俺に対して辛辣気味なレリーフェさん。
「味噌とハチミツを混ぜた物だから、動物性の物は入っていないよ」
乳製品を入れれば簡単にトロミを出せて、色んな味を用意してあげられたんだけれど。
「コセ!」
「ああ、はい」
膝の上のモモカに、ご飯を所望される。
朝早くに森に行くため、バニラと意思疎通が取れるモモカに無理をして貰った。
これは、その時にモモカに出された条件。
スープを掬ったウッドスプーンをモモカの口に運び、そっと下に傾ける。
千切ったパンを食べさせながら、サトミと一緒に作ったミートローフにソースを掛けて切り分け、茹でたキャベツにくるんで食べさせる。
モモカは一人だと野菜を避けがちなため、この機会に色々試させないと。
「ングング……美味しー」
茹でただけの野菜は土臭かったりするから、嫌がるかと思ったけれど、ハチミツと生姜を加えて茹でたのは正解だったかもしれない。
子供の舌は、大人よりも遥かに敏感だからな。
苦い物や辛い物が苦手だと、子供舌と揶揄してバカにする人間が居るけれど、それだけ舌が衰えていないという証拠とも言えるだろう。
「……キュゥーン」
ドラゴンとの別れ際にも発していた寂しげな声を、俺とモモカのすぐ近くに来て発するバニラ。
「バニラも、アーンしてほしいの?」
「ガウ?」
よく分かってなさそうだぞ、モモカ。
「じゃあ、代わってあげる」
「ガウー!!」
モモカが俺の膝から降りるなり、口元が汚れているバニラが膝に乗ってきた!
「イッつ! ……良いのか、モモカ?」
「モモカ、お姉ちゃんだもん!」
いや、年齢で言ったら……まあ、良いか。
「じゃあ」
パンを千切って、口に運んでみる。
「イタ!」
俺の指ごと噛んできた! しかも強!
「バニラ!」
「キャウ!?」
モモカに怒られ、慌てている様子のバニラ。
「大丈夫だよ、モモカ」
皮が裂けたわけじゃないし、内出血もしていない。
その後も、根気よく色々食べさせていく。
噛む力というか、勢いが強くて……ウッドスプーンにどんどん歯形が刻まれ、ボロボロになっていくけれど。
やっぱり、食器を俺達のように使って食べるのは、バニラには難しそうだな。
「朝早くから仕事し、料理に子供のお世話……コイツ、一流の召使いかなにかか?」
レリーフェさんはなにを言っているんだ?
「ところで、その格好は?」
刺繍の凝った緑の服の上に濃いブラウンの皮鎧を着ており、左耳には青い宝石付きの金のイヤリング。
背には、白い生地にこれまた凝った刺繍が施されたマントが。
「ああ、私がデルタに捕まる前に愛用していた装備だ。チョイスプレートを開いたら、武器やサブ職業などのアイテムも戻ってきていてな」
「装備も丸々戻ってくるし、エルフはLvが高いから総じて高値で、一人一人値段がバラバラなんだよね」
「オイ、貴様」
レリーフェさんが、メルシュを睨む。
「仕方ないでしょ、事実なんだから。それとも、そっちのかんに触る事は全部避けろとでも?」
「……いや、すまない」
妙な沈黙が流れてしまったよ。
★
「ところで、リンピョンもフェルナンダも、体調はもう良いのか?」
朝食後、全員でティータイムを楽しんでいる。
我が家でこんなにまったりした時間を過ごすのは、本当に久し振りだ。
「一晩寝たら、元気いっぱいになったわよ」
「私は隠れNPCだ。傷さえ塞がれば、あとはどうとでもなる」
トゲトゲしい金髪を腕で払い、気丈に振る舞う召喚士の隠れNPC、フェルナンダ。
「なにはともあれ、元気になってくれて良かったよ」
度重なる突発クエストのおかげでLvも装備も充実していたから、心配はしながらも、二人があんな大怪我をするなんてあまり考えていなかった。
「例の時間までまだあるし、今のうちに今朝の事と、昨日の突発クエストについて報告しあおっか」
メルシュの提案で、バニラの育ての親について俺の口から、突発クエスト中に起きた出来事は各々から報告されていく。
アテル一派の強さや戦い方、エルフの男を引き連れる白髪の女、Sランクの鎧や武具を操る三人の男達、ユリカとレリーフェの出会いのいきさつ、三人の女の黒尽くめの話が出て来た。
「神代文字を使う、エルフの槍使い……それに星獣」
レリーフェさんが、神妙な顔をしている?
「フェルナンダを負傷させたSランクの鎧の男は、サトミやユリカが戦った相手と色々共通点がありますね」
Sランクの鎧や武器、単独行動、奴隷の主かどうかに関係なく無差別に襲ってくる所か。
トゥスカの指摘は、案外的を射ているのかもしれない。
「もしかしたら、突発クエストで同系統のアイテムを手に入れたのかも。じゃないと、同じステージに“超加速”なんて武具効果を持つ鎧を持つ人間が三人も居るなんて信じられない」
「その三人は、同じ一団の人間と思った方が良いのかもね」
メルシュの考え通りなら、ユリカの言う通りかもな。
「Sランクで装備を固めたのが三人……街にくり出すなら、五、六人くらいで行動するようにした方が良いんじゃねぇか?」
「そ、そうですね。黒尽くめの人達も、神代文字を操る強敵だったみたいだし……」
ザッカルとカナさんが、強い警戒心を顕わにしている。
なんというか……少し見ない間に逞しくなったな、カナさん。
「三人が三人、気配を消す“隠者の装束”を身に着けて、誰彼構わず殺そうとする……怖いな」
ジュリーが、苦虫をかみつぶしたような顔を。
「ユニークスキルの所持に、三人とも神代文字を高いレベルで操れる可能性も考えると……さっきの三人の男よりも危険かもしれないな」
「隠れNPCはターゲットの範囲外と言っていましたし、異世界人の命を狙っている可能性が高そうですね」
「確かに、私と戦ったエルフは、最初は足止めが目的っぽかったし」
ヨシノとリンピョン、それにジュリー達の話を纏めると……異世界人を殺すのが目的だが、その邪魔になるならこの世界の人間でも殺すって感じか。
「とんでもなぁい、人達ですねぇー」
「それに、クリスさんとタマさんが遭遇したのが、同時に確認された三人と同一とは限らないんですよね? 他にも、仲間が居ると思った方が良いのかもしれません」
テイマーの隠れNPC、サキの指摘どおりだった。
「サトミが遭遇した女とエルフの一団って言うのも気になるし、早めに次のステージに進む準備を整えて置いた方が良いかもしれないね」
シレイアの言うように、さっさと先に進んでそれらの危険な一団と距離を置くのも手か。
俺達に比べれば、遥かに攻略ペースは遅いだろうし。
「話は変わるが、私から一つ提案がある」
レリーフェさんが立ち上がり、語り出す。
「保護したエルフ達でレギオンを作る予定なのだが……彼等と同盟を結んでは貰えないだろうか」
そう来たか。
「なんのために?」
「情報交換のためだ。実は、自分達でこのダンジョン・ザ・チョイスの攻略をしたいという者達も一定数居てな。エルフに向かないアイテムをそちらに融通し、逆にエルフ向きのアイテムを彼等に渡してやって欲しい」
悪くない提案の気もするけれど……。
「メルシュ」
「ハッキリ言って、こっちのメリットは薄いかな」
まあ、そうなるよな。
こっちは情報と物資、向こうは物資のみを提供すると言っているわけだし。
「ただ、後続のリョウ達の事を考えると、悪いことばかりでもないんだけれど」
「アイツらが?」
「もしリョウ達がレギオン戦に巻き込まれたりしたとき、そのエルフ達が手を貸してくれるかもしれないし」
確かに、メリットは低くても無駄にはならないか……。
「そう言えば、アヤちゃん達って今どの辺に居るの?」
「昨日の夜に確認したら、もう十四ステージの荒野の貧村まで来てたよ」
「早いな」
俺達と同盟を組んだときには、まだ第九ステージの水上都市だったはずなのに。
「なんか、リョウやコトリ達が早く追い付きたがっているみたいだよ? ギルマスに早く会いたいって」
「ええ……」
あの二人のノリ、苦手なんだけれど。
「あのマリナとか言うのが追い付いてきたら、厄介ですね」
トゥスカが、彼女を警戒している。
まあ、いきなり襲ってきたしな……。
俺の知り合いらしいけれど、未だに誰か思い出せないし。
とはいえ、戦力アップを考えたら早めに合流しておいた方が良いのかもしれない。
「ねー、そろそろ十一時になるわよ?」
ナオが指摘する。
「もうすぐ例の時間か」
「アップデートがどうとか言ってたけれど……」
「なーにが起きるんだろうね~」
ルイーサが泰然と、アヤナが緊張を隠さず、アオイは何故か楽しそうに。
「すまないが、私はエルフの皆と共にその時を待つつもりだ。砦の方に戻らせて貰うぞ」
そう言い、レリーフェさんは足早に砦城へと向かった。
いつもより遅めの朝食の席にて、蒸し野菜をタレに付けて食べているレリーフェさん。
「そのタレ、コセさんが作ったのよ」
「コイツが?」
何故か、俺に対して辛辣気味なレリーフェさん。
「味噌とハチミツを混ぜた物だから、動物性の物は入っていないよ」
乳製品を入れれば簡単にトロミを出せて、色んな味を用意してあげられたんだけれど。
「コセ!」
「ああ、はい」
膝の上のモモカに、ご飯を所望される。
朝早くに森に行くため、バニラと意思疎通が取れるモモカに無理をして貰った。
これは、その時にモモカに出された条件。
スープを掬ったウッドスプーンをモモカの口に運び、そっと下に傾ける。
千切ったパンを食べさせながら、サトミと一緒に作ったミートローフにソースを掛けて切り分け、茹でたキャベツにくるんで食べさせる。
モモカは一人だと野菜を避けがちなため、この機会に色々試させないと。
「ングング……美味しー」
茹でただけの野菜は土臭かったりするから、嫌がるかと思ったけれど、ハチミツと生姜を加えて茹でたのは正解だったかもしれない。
子供の舌は、大人よりも遥かに敏感だからな。
苦い物や辛い物が苦手だと、子供舌と揶揄してバカにする人間が居るけれど、それだけ舌が衰えていないという証拠とも言えるだろう。
「……キュゥーン」
ドラゴンとの別れ際にも発していた寂しげな声を、俺とモモカのすぐ近くに来て発するバニラ。
「バニラも、アーンしてほしいの?」
「ガウ?」
よく分かってなさそうだぞ、モモカ。
「じゃあ、代わってあげる」
「ガウー!!」
モモカが俺の膝から降りるなり、口元が汚れているバニラが膝に乗ってきた!
「イッつ! ……良いのか、モモカ?」
「モモカ、お姉ちゃんだもん!」
いや、年齢で言ったら……まあ、良いか。
「じゃあ」
パンを千切って、口に運んでみる。
「イタ!」
俺の指ごと噛んできた! しかも強!
「バニラ!」
「キャウ!?」
モモカに怒られ、慌てている様子のバニラ。
「大丈夫だよ、モモカ」
皮が裂けたわけじゃないし、内出血もしていない。
その後も、根気よく色々食べさせていく。
噛む力というか、勢いが強くて……ウッドスプーンにどんどん歯形が刻まれ、ボロボロになっていくけれど。
やっぱり、食器を俺達のように使って食べるのは、バニラには難しそうだな。
「朝早くから仕事し、料理に子供のお世話……コイツ、一流の召使いかなにかか?」
レリーフェさんはなにを言っているんだ?
「ところで、その格好は?」
刺繍の凝った緑の服の上に濃いブラウンの皮鎧を着ており、左耳には青い宝石付きの金のイヤリング。
背には、白い生地にこれまた凝った刺繍が施されたマントが。
「ああ、私がデルタに捕まる前に愛用していた装備だ。チョイスプレートを開いたら、武器やサブ職業などのアイテムも戻ってきていてな」
「装備も丸々戻ってくるし、エルフはLvが高いから総じて高値で、一人一人値段がバラバラなんだよね」
「オイ、貴様」
レリーフェさんが、メルシュを睨む。
「仕方ないでしょ、事実なんだから。それとも、そっちのかんに触る事は全部避けろとでも?」
「……いや、すまない」
妙な沈黙が流れてしまったよ。
★
「ところで、リンピョンもフェルナンダも、体調はもう良いのか?」
朝食後、全員でティータイムを楽しんでいる。
我が家でこんなにまったりした時間を過ごすのは、本当に久し振りだ。
「一晩寝たら、元気いっぱいになったわよ」
「私は隠れNPCだ。傷さえ塞がれば、あとはどうとでもなる」
トゲトゲしい金髪を腕で払い、気丈に振る舞う召喚士の隠れNPC、フェルナンダ。
「なにはともあれ、元気になってくれて良かったよ」
度重なる突発クエストのおかげでLvも装備も充実していたから、心配はしながらも、二人があんな大怪我をするなんてあまり考えていなかった。
「例の時間までまだあるし、今のうちに今朝の事と、昨日の突発クエストについて報告しあおっか」
メルシュの提案で、バニラの育ての親について俺の口から、突発クエスト中に起きた出来事は各々から報告されていく。
アテル一派の強さや戦い方、エルフの男を引き連れる白髪の女、Sランクの鎧や武具を操る三人の男達、ユリカとレリーフェの出会いのいきさつ、三人の女の黒尽くめの話が出て来た。
「神代文字を使う、エルフの槍使い……それに星獣」
レリーフェさんが、神妙な顔をしている?
「フェルナンダを負傷させたSランクの鎧の男は、サトミやユリカが戦った相手と色々共通点がありますね」
Sランクの鎧や武器、単独行動、奴隷の主かどうかに関係なく無差別に襲ってくる所か。
トゥスカの指摘は、案外的を射ているのかもしれない。
「もしかしたら、突発クエストで同系統のアイテムを手に入れたのかも。じゃないと、同じステージに“超加速”なんて武具効果を持つ鎧を持つ人間が三人も居るなんて信じられない」
「その三人は、同じ一団の人間と思った方が良いのかもね」
メルシュの考え通りなら、ユリカの言う通りかもな。
「Sランクで装備を固めたのが三人……街にくり出すなら、五、六人くらいで行動するようにした方が良いんじゃねぇか?」
「そ、そうですね。黒尽くめの人達も、神代文字を操る強敵だったみたいだし……」
ザッカルとカナさんが、強い警戒心を顕わにしている。
なんというか……少し見ない間に逞しくなったな、カナさん。
「三人が三人、気配を消す“隠者の装束”を身に着けて、誰彼構わず殺そうとする……怖いな」
ジュリーが、苦虫をかみつぶしたような顔を。
「ユニークスキルの所持に、三人とも神代文字を高いレベルで操れる可能性も考えると……さっきの三人の男よりも危険かもしれないな」
「隠れNPCはターゲットの範囲外と言っていましたし、異世界人の命を狙っている可能性が高そうですね」
「確かに、私と戦ったエルフは、最初は足止めが目的っぽかったし」
ヨシノとリンピョン、それにジュリー達の話を纏めると……異世界人を殺すのが目的だが、その邪魔になるならこの世界の人間でも殺すって感じか。
「とんでもなぁい、人達ですねぇー」
「それに、クリスさんとタマさんが遭遇したのが、同時に確認された三人と同一とは限らないんですよね? 他にも、仲間が居ると思った方が良いのかもしれません」
テイマーの隠れNPC、サキの指摘どおりだった。
「サトミが遭遇した女とエルフの一団って言うのも気になるし、早めに次のステージに進む準備を整えて置いた方が良いかもしれないね」
シレイアの言うように、さっさと先に進んでそれらの危険な一団と距離を置くのも手か。
俺達に比べれば、遥かに攻略ペースは遅いだろうし。
「話は変わるが、私から一つ提案がある」
レリーフェさんが立ち上がり、語り出す。
「保護したエルフ達でレギオンを作る予定なのだが……彼等と同盟を結んでは貰えないだろうか」
そう来たか。
「なんのために?」
「情報交換のためだ。実は、自分達でこのダンジョン・ザ・チョイスの攻略をしたいという者達も一定数居てな。エルフに向かないアイテムをそちらに融通し、逆にエルフ向きのアイテムを彼等に渡してやって欲しい」
悪くない提案の気もするけれど……。
「メルシュ」
「ハッキリ言って、こっちのメリットは薄いかな」
まあ、そうなるよな。
こっちは情報と物資、向こうは物資のみを提供すると言っているわけだし。
「ただ、後続のリョウ達の事を考えると、悪いことばかりでもないんだけれど」
「アイツらが?」
「もしリョウ達がレギオン戦に巻き込まれたりしたとき、そのエルフ達が手を貸してくれるかもしれないし」
確かに、メリットは低くても無駄にはならないか……。
「そう言えば、アヤちゃん達って今どの辺に居るの?」
「昨日の夜に確認したら、もう十四ステージの荒野の貧村まで来てたよ」
「早いな」
俺達と同盟を組んだときには、まだ第九ステージの水上都市だったはずなのに。
「なんか、リョウやコトリ達が早く追い付きたがっているみたいだよ? ギルマスに早く会いたいって」
「ええ……」
あの二人のノリ、苦手なんだけれど。
「あのマリナとか言うのが追い付いてきたら、厄介ですね」
トゥスカが、彼女を警戒している。
まあ、いきなり襲ってきたしな……。
俺の知り合いらしいけれど、未だに誰か思い出せないし。
とはいえ、戦力アップを考えたら早めに合流しておいた方が良いのかもしれない。
「ねー、そろそろ十一時になるわよ?」
ナオが指摘する。
「もうすぐ例の時間か」
「アップデートがどうとか言ってたけれど……」
「なーにが起きるんだろうね~」
ルイーサが泰然と、アヤナが緊張を隠さず、アオイは何故か楽しそうに。
「すまないが、私はエルフの皆と共にその時を待つつもりだ。砦の方に戻らせて貰うぞ」
そう言い、レリーフェさんは足早に砦城へと向かった。
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