ダンジョン・ザ・チョイス
295.黒茨の女王ユウコ
「あれが、王国兵士って奴なのね」
街の中央の城は天然の湖の上にあって、さっきの説明が終わると同時に跳ね橋が降り始めた。
大半が槍と甲冑を身に着けて居るけれど、二、三十人に一人くらいの割合で特殊な武器を持っているみたい。
「あの武器って……倒せば手に入るって事なのかしら?」
今までのパターンなら、そのはずなんだけれど。
「良い男達。全員、私の物にならないのかしら? なんてね」
突然聞こえてきた声に目を向けると……長い白髪を靡かせた黒ドレスの女性が。
二十代半ばくらい? 額に奴隷紋てことは、あの人も奴隷の主だった人間なのね。
「て、なにあれ……」
あの人の後ろ、武装した男のエルフが……いや、獣人や異世界人、人魚も居る。
しかも、全員が全員イケメン。
……露骨ね~。
「クラクス、私の可愛い奴隷達は全員集まったのかしら?」
「いえ、四名がまだです」
「いけない子達ね」
鞭を振るって、クラクスと呼ばれた男の頬を鞭でぶつ女。
「あ、ありがとうございます!」
お礼言っちゃったわよ、あのエルフ。
というか、奴隷と主の立場は逆転しているはずなのに、誰も逆らおうとしないの?
「ねぇ、貴女。私に協力しない?」
「へ?」
私の存在に気付いてたのね、この人。
「兵士達の足止めですか?」
「ええ。さっきの説明だと、彼等に捕まった人間は、ゲームを終わらせるための条件を満たす人数に反映されない可能性があるわ」
そう言えばさっき、『早く敵を殺さないと~、全員捕まって共倒れになるぞ~』て言ってたわね。
だとしたら本当に厄介で……意地汚い趣向だわ。
「だから、足止めに協力しろと?」
「レア武器を持っているようだしねー。武器交換――”黒茨の惨殺鞭”」
二十センチくらいありそうな針が乱雑に生えた、漆黒の鞭を装備した!?
あれは……痛そーなんてレベルじゃないわね。
「貴方達は下がって、私の後ろを守りなさい」
「「「イエス・ユア・マジェスティ!!」」」
女王扱いされてるのね。
私以上に人垂らしな女、始めて見たかもしれないわ。
「私は橋の前を死守するわ。貴女は、空から攻撃して数を減らして頂戴」
「私、協力するなんて言ってませんよ~」
「するわよ。貴女からは、私と同じ匂いがするもの」
この感情は……同族嫌悪って奴かしら?
「仕方ないわね!」
「私の名はユウコ。貴女は?」
「サトミよ」
この人相手だと、なんだか調子を狂わされちゃうわ!
「て、兵士が橋の真ん中まで来ちゃってる! ”飛行魔法”、フライ!」
慌てて飛び上がり、橋の上へと移動!
その下を、横八列に並んだ軍勢が通り過ぎようとしている。
「”颶風魔法”――ストームダウンバースト!!」
嵐の重圧を叩きつけて、兵士の一団の先頭を光へ!
「良かった。やっぱり無敵キャラとかではないのね」
万が一、倒せないような存在だったらどうしようかと思ってたわ。
「MP配分を意識しながら、このまま攻撃し続ければ……さすがに、そう上手くはいかないみたいね~」
城の方から、矢が射られ始める。
「この矢を躱しながらは、大変そう」
自然と、”紺碧の空は憂いて”を握る手に力が込められた。
●●●
「あれって、ジュリー?」
その近くで、炎を操る女と紫の馬に乗った誰かが激しい攻防を繰り返している。
「――く!!」
屋根を跳び越えて移動していたら、下からいきなり短剣が飛んできた!
『兎の獣人。そちらには近付かないで貰おうか』
投げてきたのは、二人組の黒尽くめか。
『ここは私が。向こうの加勢に行ってください』
『気をつけろよ』
身長が高い方が、ジュリーの方へ行ってしまう!
『余所見をしている場合ですか?』
アクロバティックな動きで接近――蹴ってきた脚に、刃が仕込まれている!
「――”変幻刃”ッ!!」
合流したコセ達から貰った灰色の脚甲、”変幻なるキラーグレイブリーブ”の足指の上部分から黒い刃を生成! 首を狙ってきた横蹴りを止め弾き、すぐさま反対の脚で顔面を蹴りに行く!
『良い武具ですね。私達向きです』
軽やかに躱されてしまった!
「顔くらい見せなさいよ」
サトミ様を探さなきゃいけないのに、厄介そうな相手と遭遇してしまったみたい。
『……それは』
”殺人鬼の円鋸”に三文字刻んだら、女の雰囲気が変わった?
『どうやら、手を抜いて良い相手ではないようです。とはいえ、ここで退くと二人が危険ですし……仕方ない。武器交換――”深緑の秘境の白滝”』
手にしていた短剣を、神秘的な紋様が刻まれた碧の短剣に変えた?
『”槍化”』
短剣の柄頭が白く伸びて、女が姿勢を下げ――槍となった刃の部分に三文字、柄の部分にも三文字刻まれた!?
「お前も……神代文字を」
神代文字を使う敵なんて、黒昼村以来。
『この武器を見せた以上、確実に死んで貰います――”瞬突”』
「グッ!!」
クマムと同じスキル! あまりの速さに、躱しきれなかった!!
『二の腕に掠っただけですか。神代文字のおかげで、反射神経も強化されているみたいですね。苦しみが長引くだけだと言うのに』
「お前!!」
『貴女のような情緒不安定な人間が、よく文字を刻めた物です』
「知らないわよ、そんなこと!」
突撃しながら左腕の円鋸を振りかぶり、これ見よがしに視線を誘導――右脚に刃を形成して首を刈りに行く!!
「グフッ!!」
――首を後ろに曲げて回避された挙げ句、脇に槍の柄をぶつけられてしまう!!
『自分から跳びましたか』
クッソ、地味に良いのを貰ってしまったッ!
「”氷獄魔法”――コキュートスッ!!」
『”魔突き”』
地獄の吹雪を穿ち消されてしまう!
「装備セット1」
移動のために外しておいた武装を、瞬時に装備。
「”氷獄剣術”――コキュートスブレイク!!」
地獄の冷気を纏わせた”氷蛇の刀剣”で、槍を弾きに行く!
『”大槍術”――ハイパワーランス!!』
――私の方が押し負けた!?
「ハアハア」
『スキルの質はそちらが上でした。私が押し勝てたのは、完全に刻んだ文字の差です』
訓練でなら、なんとか六文字刻めたけれど……こんな殺伐とした空気の中で、あんな風に集中するなんて無理。
「でも……やらなきゃ」
こんな所で、訳が分からないまま殺されて堪るもんか!!
「”暗黒転剣術”――ダークネスブーメラン!!」
”殺人鬼の円鋸”を、黒尽くめの女に向かって投げ付ける!!
『対人戦では、スキルに頼り過ぎると死にますよ?』
槍で弾き上げられた直後、距離を詰めた!
『無駄な事を』
「ベクトルコントロール――パワーローリング!!」
剣を槍柄で止められるのと同時に、弾き飛ばされた円鋸を操って――頭上から落とす!!
『――ク!!』
無理矢理後方に跳んで避けたようだけれど、仮面に当たって……なにか落ちた?
「エルフの……耳?」
『ハイヒール!』
すぐに拾って、くっ付けてしまう。
しまった……仕留めるチャンスだったのに!
「エルフの女が、暗殺者の真似事ってわけ? いや、むしろ殺人鬼か」
私なんて、殺人鬼と名の付いた武器を使っているけれど。
『……許さない――装備セット2!!』
肩までのユルフワなグリーンショートカットの、美少女エルフの顔が顕わに!
服装も、緑や白を基調としたエルフ族の伝統衣装のよう。
「エルフだから当然かもしれないけれど……もの凄い美人」
ク!! サトミ様への忠誠心が……揺らいでしまいそう!
「貴女を舐めていたようです――全力で処刑してやる」
雰囲気が変わったと思ったら、神代文字を九文字も刻んだ!!?
「死んで堪るか!!」
この手に戻ってきた“殺人鬼の円鋸”に、無理矢理六文字を刻む!!
街の中央の城は天然の湖の上にあって、さっきの説明が終わると同時に跳ね橋が降り始めた。
大半が槍と甲冑を身に着けて居るけれど、二、三十人に一人くらいの割合で特殊な武器を持っているみたい。
「あの武器って……倒せば手に入るって事なのかしら?」
今までのパターンなら、そのはずなんだけれど。
「良い男達。全員、私の物にならないのかしら? なんてね」
突然聞こえてきた声に目を向けると……長い白髪を靡かせた黒ドレスの女性が。
二十代半ばくらい? 額に奴隷紋てことは、あの人も奴隷の主だった人間なのね。
「て、なにあれ……」
あの人の後ろ、武装した男のエルフが……いや、獣人や異世界人、人魚も居る。
しかも、全員が全員イケメン。
……露骨ね~。
「クラクス、私の可愛い奴隷達は全員集まったのかしら?」
「いえ、四名がまだです」
「いけない子達ね」
鞭を振るって、クラクスと呼ばれた男の頬を鞭でぶつ女。
「あ、ありがとうございます!」
お礼言っちゃったわよ、あのエルフ。
というか、奴隷と主の立場は逆転しているはずなのに、誰も逆らおうとしないの?
「ねぇ、貴女。私に協力しない?」
「へ?」
私の存在に気付いてたのね、この人。
「兵士達の足止めですか?」
「ええ。さっきの説明だと、彼等に捕まった人間は、ゲームを終わらせるための条件を満たす人数に反映されない可能性があるわ」
そう言えばさっき、『早く敵を殺さないと~、全員捕まって共倒れになるぞ~』て言ってたわね。
だとしたら本当に厄介で……意地汚い趣向だわ。
「だから、足止めに協力しろと?」
「レア武器を持っているようだしねー。武器交換――”黒茨の惨殺鞭”」
二十センチくらいありそうな針が乱雑に生えた、漆黒の鞭を装備した!?
あれは……痛そーなんてレベルじゃないわね。
「貴方達は下がって、私の後ろを守りなさい」
「「「イエス・ユア・マジェスティ!!」」」
女王扱いされてるのね。
私以上に人垂らしな女、始めて見たかもしれないわ。
「私は橋の前を死守するわ。貴女は、空から攻撃して数を減らして頂戴」
「私、協力するなんて言ってませんよ~」
「するわよ。貴女からは、私と同じ匂いがするもの」
この感情は……同族嫌悪って奴かしら?
「仕方ないわね!」
「私の名はユウコ。貴女は?」
「サトミよ」
この人相手だと、なんだか調子を狂わされちゃうわ!
「て、兵士が橋の真ん中まで来ちゃってる! ”飛行魔法”、フライ!」
慌てて飛び上がり、橋の上へと移動!
その下を、横八列に並んだ軍勢が通り過ぎようとしている。
「”颶風魔法”――ストームダウンバースト!!」
嵐の重圧を叩きつけて、兵士の一団の先頭を光へ!
「良かった。やっぱり無敵キャラとかではないのね」
万が一、倒せないような存在だったらどうしようかと思ってたわ。
「MP配分を意識しながら、このまま攻撃し続ければ……さすがに、そう上手くはいかないみたいね~」
城の方から、矢が射られ始める。
「この矢を躱しながらは、大変そう」
自然と、”紺碧の空は憂いて”を握る手に力が込められた。
●●●
「あれって、ジュリー?」
その近くで、炎を操る女と紫の馬に乗った誰かが激しい攻防を繰り返している。
「――く!!」
屋根を跳び越えて移動していたら、下からいきなり短剣が飛んできた!
『兎の獣人。そちらには近付かないで貰おうか』
投げてきたのは、二人組の黒尽くめか。
『ここは私が。向こうの加勢に行ってください』
『気をつけろよ』
身長が高い方が、ジュリーの方へ行ってしまう!
『余所見をしている場合ですか?』
アクロバティックな動きで接近――蹴ってきた脚に、刃が仕込まれている!
「――”変幻刃”ッ!!」
合流したコセ達から貰った灰色の脚甲、”変幻なるキラーグレイブリーブ”の足指の上部分から黒い刃を生成! 首を狙ってきた横蹴りを止め弾き、すぐさま反対の脚で顔面を蹴りに行く!
『良い武具ですね。私達向きです』
軽やかに躱されてしまった!
「顔くらい見せなさいよ」
サトミ様を探さなきゃいけないのに、厄介そうな相手と遭遇してしまったみたい。
『……それは』
”殺人鬼の円鋸”に三文字刻んだら、女の雰囲気が変わった?
『どうやら、手を抜いて良い相手ではないようです。とはいえ、ここで退くと二人が危険ですし……仕方ない。武器交換――”深緑の秘境の白滝”』
手にしていた短剣を、神秘的な紋様が刻まれた碧の短剣に変えた?
『”槍化”』
短剣の柄頭が白く伸びて、女が姿勢を下げ――槍となった刃の部分に三文字、柄の部分にも三文字刻まれた!?
「お前も……神代文字を」
神代文字を使う敵なんて、黒昼村以来。
『この武器を見せた以上、確実に死んで貰います――”瞬突”』
「グッ!!」
クマムと同じスキル! あまりの速さに、躱しきれなかった!!
『二の腕に掠っただけですか。神代文字のおかげで、反射神経も強化されているみたいですね。苦しみが長引くだけだと言うのに』
「お前!!」
『貴女のような情緒不安定な人間が、よく文字を刻めた物です』
「知らないわよ、そんなこと!」
突撃しながら左腕の円鋸を振りかぶり、これ見よがしに視線を誘導――右脚に刃を形成して首を刈りに行く!!
「グフッ!!」
――首を後ろに曲げて回避された挙げ句、脇に槍の柄をぶつけられてしまう!!
『自分から跳びましたか』
クッソ、地味に良いのを貰ってしまったッ!
「”氷獄魔法”――コキュートスッ!!」
『”魔突き”』
地獄の吹雪を穿ち消されてしまう!
「装備セット1」
移動のために外しておいた武装を、瞬時に装備。
「”氷獄剣術”――コキュートスブレイク!!」
地獄の冷気を纏わせた”氷蛇の刀剣”で、槍を弾きに行く!
『”大槍術”――ハイパワーランス!!』
――私の方が押し負けた!?
「ハアハア」
『スキルの質はそちらが上でした。私が押し勝てたのは、完全に刻んだ文字の差です』
訓練でなら、なんとか六文字刻めたけれど……こんな殺伐とした空気の中で、あんな風に集中するなんて無理。
「でも……やらなきゃ」
こんな所で、訳が分からないまま殺されて堪るもんか!!
「”暗黒転剣術”――ダークネスブーメラン!!」
”殺人鬼の円鋸”を、黒尽くめの女に向かって投げ付ける!!
『対人戦では、スキルに頼り過ぎると死にますよ?』
槍で弾き上げられた直後、距離を詰めた!
『無駄な事を』
「ベクトルコントロール――パワーローリング!!」
剣を槍柄で止められるのと同時に、弾き飛ばされた円鋸を操って――頭上から落とす!!
『――ク!!』
無理矢理後方に跳んで避けたようだけれど、仮面に当たって……なにか落ちた?
「エルフの……耳?」
『ハイヒール!』
すぐに拾って、くっ付けてしまう。
しまった……仕留めるチャンスだったのに!
「エルフの女が、暗殺者の真似事ってわけ? いや、むしろ殺人鬼か」
私なんて、殺人鬼と名の付いた武器を使っているけれど。
『……許さない――装備セット2!!』
肩までのユルフワなグリーンショートカットの、美少女エルフの顔が顕わに!
服装も、緑や白を基調としたエルフ族の伝統衣装のよう。
「エルフだから当然かもしれないけれど……もの凄い美人」
ク!! サトミ様への忠誠心が……揺らいでしまいそう!
「貴女を舐めていたようです――全力で処刑してやる」
雰囲気が変わったと思ったら、神代文字を九文字も刻んだ!!?
「死んで堪るか!!」
この手に戻ってきた“殺人鬼の円鋸”に、無理矢理六文字を刻む!!
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