ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

290.腐敗の王都

「早く、サトミ達に追い付かないとな」

 サトミ達のすぐあとに、俺達はボス部屋へと入った。

「サトミ……ね」

 ナオが、なにか言いたそうだ。

「なんだ?」
「フフ! ご主人様、今サトミさんのこと呼び捨てにしましたよね?」

「……ぁ」

 トゥスカに言われて、初めて気付いた。

「もう知ってますので、隠そうとしなくて結構ですよ」
「まあ、ちょっと意外だったけれど」

 クマムが笑顔で、ナオが少々複雑そうな顔でそう言う。

「そもそも、皆でそう言う風に仕向けたんだけれどね」
「砂場の一件のあと、サトミさんが妙に可愛らしくなっていたので、そろそろ良いのではと」

 メルシュとトゥスカから、手の内だった事を知らされる。

「へと……良かったのか?」
「まあ、良いんじゃない」
「そうですね、コセさんですし」

 メルシュもクマムも、本気で嫌じゃなさそう。

「ここ数日で一気に増えてるのは、さすがにちょっとどうかと思うけれどね」

「ナオは、結構嫉妬深いからね」

「ちょっと、トゥスカ! 私は、むしろ普通だから!」

 別に隠すつもりではなかったけれど……助かった。

「あと残りは……て、そろそろ時間切れか」

 メルシュがなにか不穏な事を言おうとしていた気がするけれど、さすがに今は、魔神・琥珀樹に集中しないと。

「”二重魔法”、”氾濫魔法”――リバーバイパー」

 メルシュが二体のミズチを呼び出し、スタンバイさせた。

「じゃあ、マスター。例の物を見せて」
「ああ――”可変”」

 ”グレイトドラゴンキャリバー”改め、”偉大なる英雄竜の猛撃剣”を水平に翳して変形――刀身が割れ、竜の顎のような姿へ!!

 更に神代文字を十二文字刻み、顎の奥に力を溜めていく!!


「――”神代の激竜咆哮”ッ!!」


 TPの四分の一を消費し、”偉大なる英雄竜の猛撃剣”の顎から青白い砲弾を発射!!

『グジュゥィッッ!!?』

 石の大樹の幹に、大きな穴と共に無数の罅を刻み付け……崩壊しながら光へと変わっていく、魔神・琥珀樹。

○おめでとうございます。魔神・琥珀樹の討伐に成功しました。

「念のため樹液対策してたけれど、必要無かったか」

 メルシュが二体のミズチを消すと、皆が俺の近くに集まってくる。

「前にも見たけれど、格好いいわね、今の!」
「はい、素敵でした!」

 最初に使ったのは、ナオとクマムの前だったな。

「ご主人様も、強力な遠距離攻撃手段を手に入れたと言うことですね」

 戦士でありながら、近、中、遠、全てに対応できるトゥスカがなにか言っている。

「確かに、今までは”飛王剣”くらいしか遠距離攻撃手段が無かったか」

 一応魔法もあるけれど、戦士の俺じゃ大した威力は出せないしな。

「神代文字対応に変化したって言う話、疑っていたわけじゃなかったけれど……以前とは全然違う特性になったみたいだね」

「前は、砲弾を撃つどころか変形自体しなかったからな」

 クリスの銃剣と違って引き金が付いているわけじゃないから、効果やスキルを口にする必要はある。

「ま、この事はあとでゆっくり話そう。先に、サトミ達と合流しなきゃ」

 やっぱり、メルシュはこの件について、観測者の前では喋りたくないらしい。

「だな」

○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。

★琥珀樹の石盾 ★サブ職業:樹液人間
★石枝の樹液鞭 ★樹液弾のスキルカード

「樹液人間って、具体的にはなんなんだ?」
「怪我をした時に血液の代わりに樹液が出て、貧血の症状が出づらくなるよ。ゲーム的に言えば、出血ダメージを受けずに済む。それと、ちょっとだけれど再生効果があるし、状態異常に強くなる。虫モンスターは、あまり近付こうとしなくなるし」

 虫除けにもなるって事か。

「でも、なんで琥珀樹という名前だったんでしょうか? 琥珀要素が無かった気がしますけれど?」

 クマムが疑問を口にする。

「琥珀は樹脂の化石と言われていて、樹液などが固まった物の事だからな」

「琥珀の中に虫やら植物やらが入っていると、希少性が高くなるんだよね」

 実物を目にしたときは、虫の琥珀に対して若干の忌避感を覚えたけれどな、俺は。

「琥珀って、とても綺麗ですよね。私も小さいのを一つ持ってたんですけれど、奴隷にされて連れて来られる際に没収されてしまいました」

 なんて事ないように言っているが、とても残念そうに見えるトゥスカの笑顔。

「て、さっさと選んでしまわないと!」
「そうでした! すみません!」
「俺も、反省しなきゃな」

 話を脱線させていた俺とクマム、トゥスカが慌ててボス撃破特典を選択。

○これより、第ニ十ステージの腐敗の王都に転移します。

「腐敗の王都?」

 なんだ、この嫌な予感しかしない名前の場所は。

 そんなことを思っているうちに、俺達の身体が光に変わりだした。


            ★


「……これは」

 いつもの祭壇に転移した先で見たのは、堅牢な外壁に囲まれた円形の巨大都市。

 こんなに広い街は、第三ステージの英知の街以来か。

「あれ、サトミ達が居ないわよ?」
「以前みたいに、先に街へ行ってしまったんでしょうか?」

 ナオとクマムが話している横で、メルシュが難しい顔をしている事に気付く。

「メルシュ、街の中を覆うあの虹の結界……もしや、突発クエストですか?」

 トゥスカが尋ねる。

「そうみたい。しかも、始まったのが数分前。その時点で、この腐敗の王都に居た人間だけが巻き込まれたみたいだよ」

「つまり……少なくとも、サトミ達五人は突発クエストに巻き込まれているって事か!」

 よりにもよって、一番恐れていたパターンで!

「私達も行きましょう!」
「無理だよ、クマム。クエスト開始時に居なかった私達は、この突発クエストが終わるまで街には入れない」
「それって……サトミ達を助けに行けないってこと?」

「……うん」

 ナオの問いに、無情の言葉を口にするメルシュ。

 ”英知の引き出し”で調べた以上、本当にどうにもならないのだろう。

「……クソ」

 せめて、他のメンバーが腐敗の王都に居てくれれば良いんだが……。

 俺達に出来るのは、あとから来るアテル達に状況を知らせる事くらいか。

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