ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

283.宝石島の巨大砂場

「……結局、なにも起きませんでしたね、ユリカ様」
「警戒していたのがバカみたいに思えて来るわね」

 ヨシノと、朝日が昇っていく空を玄関から眺めていた。

 突発クエストを警戒して、狭い家に大人数で寝てたって言うのに。

「突発クエストの影に怯えるくらいなら、さっさと用件を済ませて次のステージに進むのも手よ?」

「次のステージに行っても、突発クエストから逃れられるわけじゃないだろうけれど……今日一日で準備を済ませておく」

 ジュリーが、綺麗な黒髪の方のサキさんと話している。

 実際、凄い美人なのよねー……どこか、暗い影を背負っているようにも見えるけれど。

「……早く、コセに会いたいな」

 離れていればいるほど、私がちょっとずつ堕ちていく感覚がある。

 また、私が私を嫌いになっていく感覚。

「やっぱり私って……コセが居ないとダメなんだなー」

 彼の役に立っているって思えないと、自分に価値を見出せない自分が居る。


●●●


「ここが、宝石島名物の……」
「宝石の砂場だね」

 朝八時、俺達は全員で巨大な砂場へとやって来ていた。

「お一人様一回限り! 一時間で10000Gになりまーす!」

 俺達に気付いたのか、砂場を囲むように建てられている塀の中にいた男に、声を掛けられる。

「それで、ここの砂の中から宝石を集めれば良いのですか?」

「そうそう。なんでも良いから、一つでも多く集めてね」

 メルシュの説明ののち、俺は十人分の料金を払って、広大な砂場に足を踏み入れた。

 ちなみに、旅行者でなければこの砂場には入れないらしい。

「砂の表面は温かいけれど、中はむしろ冷たいんだな」

 幼稚園の頃、砂場で遊んだのを思い出す。

 あの頃はなんで、ただ砂を掘り返して水を流すだけのことが、あんなにも楽しかったのだろう。

「準備は宜しいですねー!」

 男が和やかにそう叫ぶと、砂場を囲うように虹色の半透明な箱が形成されていく。

「出来るだけ、バラバラに離れて探してね!」
「「「はーい」」」

 なんか、懐かしさよりも恥ずかしさの方が勝ってきたかも。

「今から一時間、砂の中に多種多様な宝石が出現します! この島の外では高値で売れるので、一つでも多く集めてくださいねー。それでは、よーい――始め!!」

「やるよ、ローゼ! マリア! キンちゃん!」

「全ての宝石は、この私の物よ!」
「ガメツイ奴」
『グルオオオオ!!』

 入り口左側の方で、二体の人形と金の走竜と共に、砂を掘り返し始めるモモカ……なんだか微笑ましい。

 獣人であるトゥスカとリンピョン、素早く動けるクマムには、敏捷力を生かして奥に行って貰っている。

 自然と中央にはメグミにクリス、メルシュとナオが距離を開け、素手や武具で掘り返していた。

 メルシュの奴、指輪で呼び出した巨大武器を使ってるよ。

「お!」

 少し赤味のある、黒い宝石が出て来た。

 ゲームだからなのか、既にカッティングされた後のような均整の取れた形をしている。

「大っきいな」

 野球ボールくらいはあるんじゃないか?

「……消えた」

 手に持つだけで吸い込まれ、チョイスプレートに入る。メルシュの言っていた通りか。

「大きなトパーズだったわね~」

 数メートルくらい離れた場所に居たサトミさんが、いつの間にか傍に来て囁いた!

「わ、分かるんですか?」

「含む成分で、同じ宝石でも色合いは変わる物だけれど、アレくらいなら素人の私でも見極められるわ」

 俺にはサッパリ判らない。

、まだここに残ってるのかしら?」

 ジュリーの情報で、俺達は宝石とは別の物をこの巨大砂場に探しに来ている。

「判らないけれど、宝石を取れば取るほど出現率が上がるらしいし、とにかく掘り続けよう」

 もしかしたら、アテル達が既に手に入れてしまっている可能性もある。

 まったく別の人物に、先を越されてしまっている可能性も。

「……サトミさん、最近は調子どう?」
「……へ?」

 サトミさんが、驚いたようにこちらを見る。

「ど、どうかしました?」
「ううん……コセさんが私を心配してくれたの、何気に初めてだなって……」
「そう……だっけ?」

 確かに、サトミさんの事は避けていたけれど。

「フフ、そっか~……心配してくれたんだ~♡」

 あまりにもその顔が嬉しそうで……メグミやリンピョンに言われたからとは、さすがに言えなかった。

 少しずつ、サトミさんも変わり始めているのかな?

 それからサトミさんは俺からほとんど離れようとせず、二人で黙々と砂を掘り返し続け……あっという間に時間が過ぎ去っていく。

「はい、そこまででーす!」

 砂から顔を覗かせていた宝石達が、一斉に消えるのが見えた。

「あー……終わっちゃったか」

 凄く残念がっているサトミさん。

 やっぱり、女の子は宝石が好きなのかな……名前とか詳しかったし。

「入り口に戻ろう、サトミさん」
「プー、もうちょっと惜しんでくれても言いじゃない! プンプン」

 あざといな。

 でも、少し調子が戻ったサトミさんを見て……安心する自分が居た。


●●●


「じゃあ、全員の宝石を私が預かるね」

 そう言い、メルシュが全部回収してしまう。

 ぅぅ……この大っきなダイヤモンド、サトミ様にプレゼントしたかったのに!

「それで~、お目当ての物は誰か見付けたのかしら~♡」

 サトミ様……元気になられてる?

「コセと二人きりになるように仕向けたの、上手く行ったようだな」
「意外と単純担々麺でぇすね、サトミはぁ♪」

 単純タンタン麺? クリスはなにを言ってるの?

 まあ、メグミの提案通りにして良かったのは確かか……なんか……ちょっと面白くない。

「ウーンと……誰も見付けていないの?」

「ほら、モモカ。メルシュが聞いてるわよ」

「ブー!」

 マリアに言われ、面白くなさそうにモモカが差し出したのは……片手で持てるくらいの小さな宝箱。

「偉いわよ、モモカ。そのうち、良い物が手に入ったらモモカにあげるからね」

 メルシュが諭そうとする。

「はーい……」

 あれ、反抗期に入っちゃったのかな、モモカ。

「じゃあ予定通り、このユニークスキルは私専用にするね」

 メルシュが宝箱を開けると、チョイスプレートが表示される。

○ユニークスキル、”宝石魔法”を以下から一つ選択出来ます。

★宝石魔法使いのサブ職業
★宝石魔法のスキルカ-ド


 迷わずスキルカ-ドの方を選び、使用してしまうメルシュ。

 ……まあ聞いた感じ、知識が無いと使いこなせない感じではあったけれど。


●●●


「”宝石魔法”のユニークスキル、コセ達に取られちゃったか」
「しかも、魔法特化のメルシュが使うらしい」

 離れた高台から、コセ達の様子を望遠鏡で、タイタンのアシュリーと共に観察していた。

「良かったのかい、アテル?」
「まあ、他のパーティーに取られるよりはマシさ。所在が判っているのも含めてね」

 コッチはガーゴイルの隠れNPC、オードリーをこのステージで仲間に加えているし、これでおあいことも言える。

「サキさんからの折角の情報だったけれど、今回は仕方ない」

 最後にはきっと、僕等は殺し合う事になるだろうけれどね。

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