ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

273.バーベキューステーキバーガー

「暗くなって来たわね」

 ジュリーちゃん達の宿泊部屋に移動し、柱の上を登った玄関前から夕陽を見つめている。

「サキ。念のため、私だけでも数時間ほど起きていようと思う」

 ガブリエラが妙な事を言い出す。

「今回は隠れNPCが三体も見張りに付いてくれるんだし、気にする必要無いわよ」
「だとしても……万が一があるだろう」

 まあ、ガブリエラの言うことの方が正しいのでしょうけれど。

「ジュリーちゃんが怖い?」
「……アムシェルやアデールには、ようやく慣れてきたんだけれどな」

 ガブリエラは白人嫌い……というより、白人恐怖症と言っても良い。

「……本当にすまない。私は大東亜戦争を戦い抜いた日本人を、それを支えた女、子供達も含めて尊敬している……だけれど、見た目に感情が引っ張られてしまうんだ」

 日本人が外国の人と子供を成すと、不思議と向こうの特徴の方が色濃く出る。

 ガブリエラもジュリーちゃんも、見た目は日本人に見えないしね。

「私は、日本の調和的な所が好きだ。だけれど、他者の個性を認めないという意味では、もしかしたらアメリカよりも弾圧的かもしれない」
「それは……」

 日本でしか暮らしたことのない私だけれど、ガブリエラの言っていることには思い当たる節がある。

「まあ、アメリカの方がずっと差別的だけれどな。人種、金、容姿……自由の国なんてのは只の妄言だ……少なくとも、千八百年代からは」

 綺麗系のイケメンだと会社に雇って貰えないから、整形するって噂は聞いたことあるけれど。

 隣国だと、十人中四人の女性が整形して見目を良くしようとするんだっけ。

「千八百年代からは……か。下手をしたら、何億年も前から人類に自由なんてなかったのかもしれないのよね」

 でも、今の今まで支配され続けるのを選んだのは人類自身……だからこそ、私は地球人を許せない!

「デボラの話を聞いてしまったあとだと……本当の日本人……いや、純粋な原種はもうほとんど残っていないのだろう。原種に近い遺伝子を持つ人間程、第二次世界大戦を命を掛けて戦っただろうしな」
「……そうかもね」

 人はそれぞれ違う。

 とはいえ、同じ民族であろうとなかろうと、大切な物を守るために命を掛けられるような、優しく勇敢な人間も居れば、口だけでいざという時みっともなく逃げ出すような者も居る。

 だからこそ、当時のエリート達は日本に、日本人という人種に……原種に強い恐怖を抱いたんでしょうね。

 その後の漢字の変更、大抵の日本人の体質に合わない牛乳の給食義務化、自虐主観を植え付ける歴史歪曲教育、外国による日本での大手メディアの立ち上げ、広島を中心としたアメリカのご機嫌取りとか、アメリカ軍による日本の子供へのワクチン強制接収など、例を挙げればきりがなく、それによって日本人は主体性を、考える力を奪われたという。

 ま、それ以前から、デルタ共は

 ……少なくとも私の義父は、絶対に原種の遺伝子なんて持っていなかったでしょう。

 

「アテルと……子作りしたい」
「おい、止めろよ。私だって……考えないようにしているのに」
「だって、もう六日もシていないんだもの」

 アテルに抱かれている時だけは、あの忌まわしい記憶を忘れていられるから。

「サキお姉さん、ガブリエラ、夕食が出来たよ」

 ジュリーが呼びに来てくれた。

 昼はホテルのレストランで食べたから、夜はホテル側から食材を貰って自分達で作る方を選んだ。

「ジュリーちゃんの手料理、楽しみね」
「そんな大した物は作れないけれどね」
「またまた」

 ジュリーちゃんに笑顔を向けながら、暗く冷たい心の奥で思ってしまう。

 この子に、私の暗い感情を理解して欲しいと。

 その反面、ジュリーちゃんにだけは、私がどんな目にあったのか知って欲しくないとも。

 アテルは知っている……知りながら受け止めてくれた。

 だから私は……アテルが滅びを諦めない限り、アテルと共に人類の滅びを願い続けるって…………そう決めたのよ。


●●●


「うっま!」
「今日も美味しいですね」
「カナの焼き加減が絶妙だね」

 宿泊している一戸建ての庭で、バーベキューをしている私達。

 ホテルから食材を貰い、貸し出されたバーベキューコンロで私が、大きめにカットされた野菜やステーキを鉄板で焼いていく。

 皆の分を焼きながら、隙を見てカットしたステーキを口に運ぶ。

「ハー……美味しい」

 タレも塩も付けていないけれど、臭みもなく肉の上品な甘味と脂身が……芸術的。

 次は塩を少々まぶす……うむ、味にピンとしたメリハリが生まれた。素晴らしい。

 お次は塩とレモン。四滴ほど生のレモンを搾り、口に運ぶ……サッパリピンとして美味い!

 次はブラックペッパー、ワサビ醤油、大根おろしを添えて、バターコーンと絡め、バーベキューソース、マスタード、などなど色々試す!

 皆の分を滞りなく焼き上げながら、タマネギの輪切り、ピーマン、トウモロコシ、モヤシ、キャベツ、アルミニウムに包んだジャガバターなども――ウハハ! 美味しそうーーー!!

「カナさん、さっきからずっと焼いてますよね? 代わりましょうか?」
「ありがとう、ノーザンちゃん。でも、好きでやっていることだから」

 他の人の焼き加減が失敗だった場合、私、その人を許せなくなるかもしれない。

 なにより、焼いている間はろくに人と話さなくても許されるから!

 フワフワのバンズにレタスと焼いた輪切りタマネギを乗せ、微塵切りにしておいたニンニクとトマトの和え物、薄くスライスした肉を幾つも乗せ、煮詰めたバーベキューソースを掛けてバンズを乗せる!

 ジャクジュクハム……モグモグモグ、ゴクン!!

「ウンマ~~~ッ!!」

 最高の食材で自分が作ったオリジナルステーキバーガー…………まじ美味。

 某大手ハンバーガーの黒い噂を耳にしてからはハンバーガーを忌避していたけれど、自分で作ったステーキバーガーなら問題ナッシング!! ……古。

「それ美味そうだな。俺の分も作ってくれよ」
「僕もお願いします!」
「い、いいい良いけど~」

 焼くだけならともかく、誰かにちゃんと料理を作るって、き、緊張しちゃう!

 サトミさんとか、毎日皆に色んな料理バンバン作ってて……正直、鋼の心臓を持っているとしか思えない。

「……シレイアさん」
「多いね」

「ねー、ねー、俺達も参加してもいーい? めちゃ良い匂いしてきてさー」

 見るからに嫌な気を発している、チャラ男という雰囲気の男が一人で近付いてくる。

 二十メートルは離れている隣の家辺りにも三、四人の人影が。

「消えろ、気持ち悪い」
「折角のごちそうがまずくなります」

 ザッカルとノーザンちゃんが殺気を放つ。

 も、もうちょっと穏便に……。

「そ、そんなこと言わずにさ~。コッチは男ばっかだから、まともに料理出来る奴いねーんだよ。頼む! 可愛い子の手作りが食いたいんだ! ちゃんとお礼もするから!」

 正直嫌だけれど……ご飯を食べるくらいなら…………なんて考えて、今まで何度後悔してきたのだろう……私は。

「すみません。こちらを差しあげますので、お、お引き取りください」

 焼き上がっていた野菜やお肉を持ったお皿を、男の人に差し出す。

「チ! ……あ、あんがとな~。邪魔して悪かったね。マジでごめーん!」

 お皿を受け取って、そそくさと仲間の所に去って行くチャラ男さん。

「やるな、カナ」
「僕なら、こんなに穏便にすませられませんでした。ありがとうございます」
「そ、そそそ、そんなことー」

 な、なんか凄く照れちゃう!

「マスター、何人か分かったかい?」
「少なくとも七人……もしかしたら十人以上居たかも」

 なんか、シレイアさんとユイちゃんが不穏な事を口にしている?

「家の中を探っていたようだし、コッチの人数を確認しに来たのかもね」
「あわよくば、一緒に食事している最中に襲うつもりだったかも」

「そ、そこまでするの?」

 だって……同じ人間なのに。

「カナは、人間に命を狙われた事はないのか?」
「へ? お、襲われた事はあるけれど……」

 どうして私は……他人の残酷さをいつも棚上げにしてしまうのだろう。

「今夜は、二人ずつ寝るようにした方が良さそうだね」
「ううん……灯りを消して少し待てば、向こうから仕掛けてくると思う」

 ユイちゃんが、悲しい話を自信ありげに口に……。

「どうして……」

 どうして……そんな酷い事をする人達が、私と同じ世界で生きているのか…………理解できない。

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