ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

270.アイテム交換

「へ!? ”寒冷の指輪”が余ってるの? 助かる!」

 モモカにベタベタしようとしていたエリという人が、メルシュと話している。

 冒険者ギルドでレギオンの同盟を結んだのち、そのまま二階の休憩スペースでアイテム交換を開始した俺達。

 目の前のテーブルには、互いの不要としたアイテムがズラリと並んでいる。

 とはいえ、メルシュはSランクの弓や剣などは渡す気が無いらしい。

「そっちは”瀑布の指輪”が余ってるんだ。二つ交換しない?」
「良い、アテル?」
「なら、”灼熱の指輪”と”寒冷の指輪”の二つと交換で」
「おし!」

 指輪を交換後、”灼熱の指輪”をしまうアテル。

 装備する様子がないし、ここには居ない誰かのために交換したのか。

 それにしても、”瀑布の指輪”が必要だったのは残り一個だった気がするのだけれど……念のための予備って事か。

「”高周波岩の欠片刃”が三つ。これを交換して欲しい」

 石の細い短剣を望むアシュリー。

「なら……これ頂戴。”超赤竜の裂孔脚”」

 メルシュが選んだのは、下半身を丸ごと覆うような赤い脚甲……足先がやたら鋭く、長い金属製の尻尾も付いている。

 鎧装備欄を使用しそうだけれど、誰に使わせるつもりだ?

「お前……それSランクだぞ。コッチはCランク三つなのに」
「”高周波岩の欠片刃”の特性を知っている私に、それを言う? そもそも、”超赤竜の裂孔脚”のデメリットは知ってるでしょ」
「だからって、さすがに釣り合わないだろうが!」

 だんだんヒートアップしていくな。

「だったら、コイツを加えて交換ならどうだい?」

 パイレーツの隠れNPC、メアリーが提示したのは、真っ黒な銛……確か、船で見付けた”昏き世界に誘わん”。

「Bランクとはいえ、神代文字対応なんですけれど」
「あんまケチくさいこと言うんじゃ無いよ、メルシュ。ついでにこれもよこしな」

 メアリーが更に追加したのは、青い柄……確か、シレイアが一時期使っていた水の刀身を生み出すBランク武器。

「しょうがないな。これ以上ごねるとどんどん追加されそうだし、それで手を打つよ!」

 不満げなメルシュ……俺も、ちょっとケチくさいと思ってしまった。

「じゃあ、この”ブレイクラッシュアックス”を頂戴」

 緑色の柄や装飾が目立つ、片刃の大斧か。刀身の反対側はハンマーのような平たい突起物が付いている。

「またAランクか……なら、”クレセントレスグレイブ”を貰うぞ」

 アシュリーが選んだのは、月のような黄色い刀身と黒い柄を持つ薙刀。

 見覚えが無いから、古代遺跡での突発クエストで倒した冒険者から手に入れた奴かな? あの時は数が膨大だったし。

 薙刀だから、高ランクでも誰も使っていなかったのか。

「地味に良いの選ぶな。まあ、Aランク同士なら打倒だろうけれど」

 そんなこんなで、少しずつアイテム交換が進んでいく。

「コセさん、コレをどうぞ」

 サトミさんが近付いてきて、大剣を出現させた。

「これは?」

「”ケラウノスの神剣”。上陸直後に襲ってきた人が使っていたの。Sランクらしいわ。詳しい性能は、メルシュちゃんに聞いて頂戴」
「ああ……ありがとうございます」

 新しい剣が欲しいと思っていたから嬉しいけれど……なんか、サトミさんの気配が希薄というか……いつも感じる圧迫感みたいなのをあまり感じない。

 ……なにかあったのだろうか?

「最近のサトミ様、ますます儚げになってきているのよ」

 サトミさんが離れていった直後に、背後から至近距離で話し掛けてきたリンピョンッ!!

 ……ビックリしたーー!

「……ちょっとで良いので、サトミ様に構ってあげてください」

 本気で心配している様子のリンピョン。

 メグミからも、似たような事を言われていたっけ。

 とはいえ、俺に出来る事なんてあるのだろうか……。


●●●


「大丈夫、ジュリーちゃん?」

「な、なんとか……」

 サキお姉さんと再会した次の日の午後、私達は一緒に食事を取ろうとしたのだけれど……マサコさんの姿を見るだけで気分がッッ!!

 マサコさんは普通に綺麗なんだけれど、年齢と服装というか、その長身スタイルと綺麗系の美貌に”魔法少女の究極ドレス”が絶望的に似合っていない!

 可愛くないわけじゃない……ただ、壊滅的なまでのミスマッチ感が凄いんだ!!

「まあ……私も第九ステージで出会ったときに同じ道を通ったけれど」

 あ、サキお姉さんもダメージを食らってたんだ。

 あのアイテムの存在をオリジナルで知っていた者ほど、ダメージが大きいんだろうな。

「それとなく別のを勧めたりもしたんだけれど、本人がとても気に入ってしまっていてね……Sランクなのもあって、説得は無理だったわ。アテルはまったく気にしていないし」

 コセなら……いったいどんな反応をするんだろう。

 ……気にしながらも、なにも言わなそうな気がする。


『これより、突発クエストを開始す――――』


「「へ?」」

 突然流れた機械的な声の放送に驚くも、すぐにブツッと切れたような音が響いて……静かなまま時が過ぎていく。

「突発クエストが起きるんじゃ無かったの?」
「今の声……気のせいじゃないですよね?」

 ユリカとタマがやって来て、尋ねてくる。

「サキ、今のは……」
「恐れていたことが起きそうだな。今夜は交代で眠るようにしよう」

 ガブリエラとキジナも近付いてきた。

「そうね……それじゃあ、ご飯は軽めにして、食べる時間帯も変えておきましょう。それと……」

 サキお姉さんがコッチを見ている?

「今夜は、ジュリーちゃん達の所に泊まりましょう! 寝袋もあるから、なんとか寝るスペースは確保できるはず」

「「「……へ?」」」

 な、なんで急に!

「寝ている最中に、突発クエストが始まるなんて目に合う可能性もあるでしょう。現に、私達はそういう事もあったし。人数が増えれば、ローテーションしやすくなるしね」

 そんなこんなで、急遽サキお姉さん達が私達の宿泊部屋にお泊まりする事になってしまった。


◇◇◇


『おのれ……』

 まさか、このタイミングで同盟を結ぶなんて……。

 せっかく準備していた突発クエストがパーじゃ無い!!

『……こうなったら、用意していたクエストを少し変更して、別のステージでやってやる!』

 デボラに代わって、一年も四つのステージを管理してきたんですもの! そろそろ、私が有能であると証明するための成果を出しても良いはず!

『巡ってきた最初で最後のチャンス……必ずものにしてみせるんだから!!』

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