ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

266.競りのあとに見出した物

「オークションに出るのは、全部で十個でしたよね?」
「なら、残り半分か」

 ノーザンちゃんとザッカルが、なにか言っている。

『続いての商品は、”双頭の竜杖”。あの伝説の双子の魔女が用いていたとされる杖です!』

 いや、さっきから思ってたけれど誰の事よ!

「Sランクか。これも悪くはないんだけれど、竜属性メインの魔法使いがいないから――」

『額は1000000Gからです!』


「2000000!!」


「「「「……へ?」」」」

 誰かが値段を吊り上げる前に、いきなり値段を倍にしたったわ!

「に、2100000G」
「2150000G」

 心なしか、NPCがビビっているように見える。

 値段は順調に吊り上がり、さっきのラクシャータとかいう魔女が最後に値段を吊り上げて2870000Gへ。

「3500000」
「お、おい、サキ?」
「チ! 4000000G」

 舌打ちしてくるとは良い度胸じゃない!

「6000000!!」

「さ、さすがにまずいのでは?」
「おい、やり過ぎだぞ、カナ」

「仕方ありませんね……7000000!」
「7500000!!」

「「「「ちょ!?」」」」
「…………8000000」

 ここでようやく手を引く!

『おめでとうございます! ”双頭の竜杖”、ラクシャータ様が8000000Gで購入です!』

 これで、先の1800000Gの出費と合わせてほぼ所持金を使い切らせた……あと二人。

「お前……よくやるな」
「さすがにビビった……格好いい」

 ザッカルとユイちゃんが褒めてくれる。

「アイツら、絶対に破産させてやる」

「オークションの主旨が変わっちまってないかい?」

 もう絶対に許さない、このミニゲーム!

『お次は”魔女の軟膏なんこう”、10000Gからです!』
「急に値段が落ちたな」
「レア度が大して高くもない消耗品だからね」

「じゃあ、十倍の100000Gで」
「「「「いきなりの桁上げ!?」」」」

「110000」
「120000」
「130000」

 140000と宣言したのは、金髪の大金持ちNPC。

「280000」
「560000」
「1120000」

 倍々合戦に突入。あとは上手く調整するだけ。

「2240000」

 これ以上は無理か。手を引くを選択。

『”魔女の軟膏”、カテリーナ様が2240000Gで落札!』

 まだ半分以上資金を残しているけれど、大勝負になったさいには敵じゃない。

 なにせ、こっちの軍資金はまだ20000000G近くもある。

 あとは、残り三品にどんな物が用意されているのか。

『次の商品はこちら、超限定商品の”宵闇の暗闘を制せよ”!』

 また黒い鎌が! しかも、さっきの”魔術師殺しの大鎌”よりも私好み!

『こちらの商品、300000Gからです!』

「600000!」

 あのデブ魔女、またいきなり値段を倍に――でも、ここで倍の額を提示すれば確定で手に入る!

「1200000!!」

『おめでとうございます! ”宵闇の暗闘を制せよ”、カナ様が1200000Gで落札です!』

 よし、かなり安く買えたわ!

「Bランクだけれど、神代文字対応だろうから良いかね」

 あ、ついシレイアさんの意見を聞かずに購入してしまった!

『続いての商品は、滅びと夜の魔女が用いたという伝説の武具、”殲滅のノクターン”!!』

 会場内から大きなどよめきが!

 銀の装飾が特に先端部分に施された、黒い綺麗な大杖。

「攻撃魔法の威力を一点五倍、夜なら二倍に上昇させるSランクの強力な杖……カナ、あれは競り落とすよ!」

 シレイアさんがマジだ。

『こちらは目玉商品となりますので、1000000Gからのスタートです!』

 そこから順当に吊り上がり、1700000に。

 しかも、最後吊り上げたのは金髪の紅いドレスの大金持ちNPC。

「なら、ここはちょっとずつ」

 1800000Gで申請。

「3600000」
「く!?」

 小刻みに上げようとしたのに、値段を倍に吊り上げられた!!

「……3800000」
「5000000」

 あの女、所持金ギリギリまで吊り上げるつもりか!

 まさかとは思うけれど、デルタって奴等が直接指示しているわけじゃないでしょうね!

「シレイアさん」
「彼女の残りは51200000だよ」

 すぐに51200000と入力。

『おめでとうございます! ”殲滅のノクターン”は、5120000Gでカナ様が売却です!』

 あの大金持ちNPCが持っているはずの所持金と同じ額を提示することで、ロスを出来る限り抑えた。

「結構使ってしまった」
「いや、魔法使い専用の利便性の高いSランク装備だ。五百万ならむしろ安い方さ」

 シレイアさんが労ってくれる。

 ここまでで七百万の出費……相場とかよく分からないけれど、安く済ませられてるのかな?

 幾ら二千万も預かってるからって、今後のためにも出費は抑えられるときに抑えておいた方が良いだろうし。

 こんな大金、前のレギオンなら貯める事なんて不可能だったろうな。

「次が最後か。”殲滅のノクターン”ってのよりも凄いのがでんのかね」

 ザッカルの言葉により、気持ちを切り替えて次の競りに意識を集中させる。

『本日最期を飾るのは――”光輝竜の六翼”です!』

「おん?」

 シレイアさんが妙な反応を。

 ステージに運ばれてきたのは、金色の厳かな光を放つ六枚の翼?

 ジュリーちゃんが使う翼にちょっと似ているけれど、コッチの方がデザインがワイルドで頑丈そう。

「最後だから当然だけれど、やたらSランクが多いね」

 シレイアさんがなにかを訝しんでいる?

「あの翼、竜に関係ありそうだしモモカに似合いそうだな」

 ザッカルって、結構モモカちゃんを気に入っていそう。

「防御能力が高いし、確かにモモカにピッタリだね」
「なら、競り落としますね」

 モモカちゃんを守るための物なら、私だってお金を惜しみたくない。

 大丈夫……大金持ちNPCの限界所持金を超える額を持っている私達なら、なんの問題も無く競り落とせるのだから!

「魔女ならずとも手に入れたくなるこの至高の一品! 3000000Gからスタートです!」


「――6630000!!」


 太った大金持ちNPCノバークが、またいきなり値段を吊り上げた!

「所持金を全額振り込んできたか」
「これ、倍の額にすれば確実に競り勝つってパターンだよな!」
「なら!」
 
 ザッカルさんの言葉に、倍の額にしようとした所で――指を止める!

「所持金……全部を掛けた?」

 てことは、わざわざ倍の額にしなくても競り落とせるはず!

 これはおそらく、少しでも所持金を失わせようというデルタ側の罠!


「6640000で」


『おめでとうございます! なんと、6640000Gで競り落としたのは、カナ様だーーー!!』

「……あっぶねー。ワリー、カナ」
「ううん。むしろ、ザッカルのおかげで気付けたかも」

 私は相手の考えに疑問を持つ癖があるから、シレイアさんの言葉もあったおかげで気付けたようなもの!

「シレイアさんも、ありがとうございます」
「ナイスだったよ、カナ」

『今宵の魔女オークションはこれにてお開き。よき競りを、ありがとうございました!』

○”シュヴァルツヴァルトブルーム”を競り落としました。
○”宵闇の暗闘を制せよ”を競り落としました。
○”殲滅のノクターン”を競り落としました。
○”光輝竜の六翼”を競り落としました。

 来た通路を上りながら思う。

 大金を掛けて物を競り落とす……この行為に悦を見出し、それ故に嫌悪感を感じる私は……どこかおかしいのだろうかと。

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