ダンジョン・ザ・チョイス
264.洗脳された化け物共
ヨシノと一緒におまもりを探している、お淑やかそうな黒髪の華奢な少女を見ながら、サキお姉さんに尋ねる。
「そうそう。昨日、私と契約したの。だから、まだおまもりを採取していないのはあの子……シェーレだけだったのよ」
今回の隠れNPCは契約せず、固有スキルだけ手に入れるつもりだったけれど……。
「じゃあ、明日にはボス戦?」
「そう思っていたんだけれど……私達でボス戦のタイミングを合わせない?」
観測者を警戒して……か。
「ジュリーちゃんの仲間なら、信用しても大丈夫って思ってね」
「それは、むしろありがたいけれど……サキお姉さんは、どうして人類の破滅を望むの?」
正直、聞くのが怖い質問だった。
あの優しかったサキお姉さんが、人類の滅びを望むなんて。
「引っ越した後、私にも色々あったの。まあ、それとは関係なく、昔から違和感みたいな物を感じてた」
「違和感?」
「物心付いた頃から、テレビや新聞が嫌いだった。周りの人間の一般的な価値観が酷く歪で、偽善を振りかざす卑怯者にしか見えない。芸能人の顔、特に報道関係の人間の顔がトカゲに見える。病院や薬、医者がキモい」
最後のは、なんか違う気が……でも、メグミさんが薬や食べ物に毒が混入されてるとかなんとか言ってたような……。
それ以外なら、私も少なからず、漠然と似たような事を思っていた。
「アテルやデボラから話を聞いて、私は確信したの。私の世界に対する認識は、間違っていなかったんだって」
「サキお姉さん……」
その顔には、憎悪が宿っているように見える。
「世界中の人間が、デルタやその関係者達に洗脳され、無意識レベルで操られている事に気付いていない。なのに――あの化け物共は、本当にまともな人間を異常者扱いして死に追いやろうとしてくる!!」
腕に爪を立てるように掴んで、ワナワナと震え出す……サキお姉さん。
「笑えるわ。本物の異常者共が、正常者面してまともな人間を異常者呼ばわりし、自殺に追い込んだり、最終的に死に追いやってるんだから」
今のサキお姉さんは、両親が誰かに殺されたにも関わらず、只の事故として処理された当時の私に……似ているのかもしれない。
「あんな奴ら――みんな死ねば良いのよ」
……ぁぁ……遠い。あの頃よりもずっと、サキお姉さんが遠い場所に居る気がする。
「もちろん貴女は別よ、ジュリーちゃん。貴女は目覚める側の人間、スターシードだって確信してるから」
「……スターシード?」
最近、似たような言葉を聞いた気がするけれど。
「ライトワーカー、インディゴチルドレン、ワンダラー、その他にも色んな言い方があって、厳密には同じなのか違うのかもよく分からないけれど……私達は特別な存在なの」
誰かが、コセはライトワーカーだって言っていたような……それに、デルタはライトワーカーを苦しめて殺すために、わざわざ異世界に送り込んでこのゲームに参加させてるって……。
「本来は、どうしようもない程に負の業を背負い込み、そこから抜け出せなくなった未熟な魂を、わざわざ救ってやるために私達は送り込まれた……その記憶は無いけれどね」
「未熟な魂を救うため……」
コセと出会ってから、みんな少しずつ良い方向に変わってきた気がする。
私達が……彼に救われてるって事なのかな。
コセを実際に死の淵まで追い詰めた私を……彼はなんの見返りも求めずに許してくれた……受け容れてくれた。
少なくとも、彼が私にとって救世主なのは間違いない……だからこそ尚更、私自身はそっち側の人間とは思えない。
サキお姉さんやコセのように、誰かを救って生きてきたわけではないから。
「でも、だからってどうして私達が、そんな出来損ない共をわざわざ救ってやらなきゃならないの?」
「お姉さん……」
サキお姉さんが……別人に見えてくる。
「散々バカにされて、無意識に平気で他者の心を傷つけてきて……私達とは比べ物にならないくらい下劣な精神性しか持たない第三次元の劣等種、地球人……あんな奴等に、救われる価値なんて無いわ」
「姉さん……私は――」
「そろそろその子に挨拶しても良いかい、サキ?」
声を掛けてきたのは、サキお姉さんの後ろの方にいたやたら背の高い女性………………へ?
「アタシはマサコ、見ての通りの美少女JK。これから宜しくな、ジュリー!」
――――幾度も私の家庭に離婚の危機をもたらしたあの二つの装備――モモカと同じ”魔法少女の脳筋ロッド”と”魔法少女の究極ドレス”を、長身の美女が装備しているだとッッッッ!!!?
「………………無理」
視界が急に青く……ザラザラして……寒気が…………。
「ジュリーちゃん? 急にどうしたの――ジュリーちゃん!?」
サキお姉さんに抱き止められながら……私の意識が遠退いて………………。
●●●
「ドレスアップしないと入れないとか……しかも、なんか如何わしいデザインのしかねーし」
ザッカルがなにやらごねている。
艶のある黒いヘソ出しドレスを着たザッカルは、普段の男勝りな空気を払拭し、格好いい系のお姉さま的な色気を振り撒いている。
「ほら、さっさと行くよ」
そう言うシレイアさんは、長い薄紫色のスカーフを巻き付けたようなドレスを着こなし、ノーザンちゃんは脇や肩が見える薄い青の可愛らしいドレスを、ユイちゃんは藍染めのような色の、ノーザンちゃんに似たドレスを。
私は濃い灰色のドレスで……ちょっと横のおっぱいとおへそが見えちゃってるタイプ……シレイアさんを信じずに、ちゃんと自分で選べば良かった!
それにしても、レンタルされてたドレス全てに、首に巻くように白いスカーフみたいなのが共通で付いているのはなんでなんだろう?
「い、いい一気に怪しい雰囲気になりましたね」
ホテルのロビー向かいのレンタルドレス店で着替え、ロビー横の入り口から、煉瓦造りの通路を地下に向かって降りていっている私達。
夜に、旅行ルートを通った女魔法使いだけが参加出来るという、魔女達が開くオークション。
私達は、そのオークション会場へと向かっているのです。
「甘い匂い?」
ユイちゃんがそう言うと、私も微かに綿飴のような匂いを感じ取る。
「……す、すす凄い数ですね」
「シレイアさん」
「プレーヤーは……今のところは見当たらないね」
私も念のため探したけれど、生きているって感じがしないNPCばかり。
この会場で焚かれているお香が、このむせ返るような甘ったるい香りの正体か。
紫の煙を壁の各所からモウモウと撒きながら、臭いを充満させている。
「これなら、良い物が出て来てもプレーヤーと取り合いにならずに済むね」
今から私達は、ランダムに出て来る魔法使い向け装備を競り落とすことになる。
プレーヤーが居ないなら、ジュリーちゃんから聞いたようにやれば上手くいくはず!
『時間となりましたので、これより、今宵の魔女オークションを開催致します!』
「じゃあ頼んだよ、カナ」
「……はい」
このオークションに参加できるのは、魔法使いの女性だけ。ドレスアップさえすれば、戦士でも入場出来るけれど。
ジュリーちゃんの言っていることを理解できた者が多くない事もあって、私が競り落とす役目を担う羽目に…………ハァー、緊張する!
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