ダンジョン・ザ・チョイス
262.高周波岩の欠片刃
美味そうに、ガツガツと大きな貝や海老を口に放り込んでいくマリサ。
マリサ達と共に坂の上に立つ真っ白な宿泊所までやって来たのだが……ちょうど昼時という事で、一緒に地中海風の料理を食べている私達。
魚介系の料理は嫌いじゃないけれど、サトミが以前作ったパエリア風のご飯の方が口に合うな。
それにしても、お腹が空いているからなのか、不気味な格好の女性以外は良く食べる。
「ングング、ゴキュ! ルイーサ達は食べないのか? 今日は私の奢りだから、気にせず食え! ンガンガ、ング!」
魚介のダシが染みこんだスパイシーな米を、それはもう美味しそうに頬張って食い散らかすマリサ。
……見てたら食欲が失せてきた。
「それより、相談ていうのは?」
「なに、互いの装備で不要な物同士を交換出来たらなと思ってね。実は、探している武器があるんだ」
「探している武器?」
わざわざ特定の武器を探しているってことは、彼女はオリジナルのゲーム経験者だったりするのか?
「率直に言うよ。リリルが使っている短剣、”高周波岩の欠片刃”が欲しいんだ」
リリルの武器を思い出す。
「あれは、同じ物を多く所持していればいる程武器の性能が上がるから、リリルのために欲しいんだよ」
「フェルナンダ、分かるか?」
「……確か、リンピョンが黒昼村で幾つか手に入れていたはず。今はメルシュが管理しているだろう」
自分に合わないと思ったアイテムは、皆メルシュに渡すようにしているから、レギオンの所持品のほとんどは彼女が持っているのだ。
もしコセとメルシュが裏切ったら、私達は生き残れなくなるだろうな。
「つまり、ここには無いってわけだ……じゃあさ、第二十ステージまで一緒に行動しない?」
「マリサ!? アテル様にソイツらを近付ける気!!?」
リリルが突然騒ぎ出す……アテル様、か。
「それくらい、アテルは気にしないって。そう言えば、あんたらのリーダーって、もしかして第十六ステージに行ってたりする?」
「……ああ」
ここでバラしても特に問題は無いと判断し、正直に明かした。
「だったら、向こうで交渉してるかもね。なら、無理にこの場でアイテムを交換する必要は無いか」
それはつまり、敵対しない理由が無くなった……いや、むしろ殺した方が多くの物が手に入るのだから、こうして交渉の場を持つのはおかしいか。
「それで、どうかな? 次のステージに進むまで、一緒に行動する件については?」
「ッ!! …………」
怒りを堪えている様子のリリル……。
「お互いに、観測者に狙われているからか」
「良いね、話が早くて助かる。まあ、最近は突発クエストを仕掛けられることは減ったんだけれど、今が一番狙い目じゃん?」
向こうも私達も、レギオンメンバーが分散している状況だからな。
その事は、コセ達と別れる前から危惧されていたこと。
「第二十ステージ、無法の王都を出るまで互いに協力しあっても良い。すぐに仲間と合流できるとは限らないしね」
……マリサ達さえ裏切らなければ、とてもありがたい案だ。
「だが、それだけじゃないだろう。差し詰め、遺跡に厄介ななにかがあるんじゃ無いのか?」
朝にボロボロの姿で現れた事と、戦力を欲している理由が無関係とは思えない。
「……鋭いね」
「番人が居るからだろう。私達にとってのお目当てでもある、古代の宝具を守る番人が」
フェルナンダが指摘した。
「やっぱり知ってたか。色々あって、こっちにあんまり人数を割けられなくてさ。一人は戦力外だし」
「それは私に言っているのかしら、マリサ」
そう口にしながらフードを外したのは……確か、デボラとかいう元デルタ側の女。
「まあ、事実だしね」
「クッ!! なんて生意気な! これだからユダヤ以外の民族は!」
「自称ユダヤ人のくせに、生意気抜かすなよ」
もう一人の黒髪の女がそう言い、こちらを見据える。
「私はアムシェル。恥ずかしながら、そこの自称ユダヤ人の同族だ。デルタとは直接の関係はなく、父はユダヤ人で母は日本人のハーフ。一応ユダヤ教徒ではあるが、私自身は興味が無いので気にしないで欲しい」
黒い鎧に、腰に吊した黒い剣……まるで私と対照的な……ユダヤ人か。
「あ、ああ……私はルイーサだ」
ユダヤ人……ナチスによって虐殺され、それ以前からも世界各地で迫害され続けた人々。
ドイツ人である私の先祖は……もしかしたら、彼女の先祖に対して酷い行いをしたかもしれないのか。
「名前からしてドイツ人なのだろうが、気にするな。さっきも言ったが、私はハーフだし、日本育ちだからな」
「気を遣わせてすまない……いや、ありがとう」
まさか、異世界でこんな巡り合わせが起きるなんて。
私は仲間と相談したのち、彼女達と行動を共にすることにしたのだった。
●●●
「――”太刀風”」
振り抜いた刀剣から発生した斬撃で、巨大な蜘蛛、マジックパワースパイダーの胴体を両断するユイちゃん。
あれから私達は、魔女の避暑地にある森の中で、頼まれていた素材採取に勤しんでいた。
「蜘蛛さん、胴体は脚よりも柔らかいみたい。シレイアさん、”強靭な魔糸”は幾つ集まった?」
「まだ三つだね」
「全員が”素材確率アップの指輪”を着けてるっていうのに……もう結構倒したよな?」
「五十は倒して居るかと」
ザッカルの問いに、ノーザンちゃんが絶望的な答えを……。
正直、バカでかい蜘蛛に大分メンタルがやられているのに。
「レア素材だからね。ドロップ率が低いにも関わらず、需要が高いから頑張らんと」
そう言いながら、大刀を鞭のように振るってマジックパワースパイダーを両断するシレイアさん。
「最低でも十個だったかしら?」
”暗黒の大鎌”から”禍鎌切”で刃を伸ばし、飛び跳ねる蜘蛛の胴を切り裂く。
「今後もレギオンを拡大していくはずだから、一つでも多い方が良いんだけれどね」
確か、魔法使い向けの衣服に使う素材でしたっけ。
「今日はここまでにしよう。蜘蛛の数も減ったし、今から戻らないと暗くなっちゃう」
ユイちゃんの的確な意見に従い、ホテルに戻ることにする私達。
「シレイアさん?」
立ち止まりながら、なにかを考えている?
「いや、隠れNPCのサキュバスは、本当に取られてたんだなと思ってね」
ユイちゃんのお姉さんが、そう言ってたわね。
確か、マジックパワースパイダーを五十五体倒すとドロップするアイテムが必要だったんだっけ。
「サキュバスって、そんなに強い隠れNPCなの?」
「まあ…………相手が男限定なら、最強格の隠れNPCと言っても過言じゃないかもね~」
……男限定なら?
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