ダンジョン・ザ・チョイス
259.上陸
「メルシュ、昨日”グレイトドラゴンキャリバー”が変化して、神代文字に対応するようになったんだけれど」
一昨日の夜、プレーヤーの意識が入った深海の鬼のようなモンスターを倒す際に、俺の武器は形も能力も変わった。
この現象が分かるのはメルシュだけだろうと思い、高速で海上を行く”耐弾性クルーザー”の上で尋ねた。
どうやらこの脱出ボート、クルーザーだったらしい。
「……ちょっと分かんないかな~」
嘘っぽい笑顔……観測者に見られている現状では言い辛いと判断したのかな。
「そう言えば、手に入ったクエスト報酬のSランク装備はなんなのです?」
スタンデッキの上、水着姿で俺に胸を押し付けるように腕を組みながら、メルシュに尋ねるクマム。
……昨日の朝に関係を持ってから、凄くベタベタしてくるようになったな。
トゥスカの前だろうがなんだろうが、凄いアピールしてくる。
あまりの遠慮の無さに、トゥスカがそこはかとなくイライラしているほどだ。
だから、昨日は落ち着いて話すどころじゃなかったんだよな。
そのトゥスカはというと、今は船の操縦をしてくれていた。
「”変幻なるキラーグレイブリーブ”。脚甲タイプの鎧装備だね」
メルシュが黒い脚甲を実体化させ、見せてくれる。
ギラギラした銀の装飾が付いた、格好良くも危なそうな見た目。
脚甲は確か、鎧装備欄を使うんだったな。
だから魔法使いは脚甲を装備できず、俺のように鎧を装備してる者も使用できない。
つまり、脚甲というだけで、鎧を装備していない戦士職に使用者が限定されてしまうのだ。
「Sランクにしては地味な効果しか備わってなんだけれど……幸いな事に、うちのレギオンにはこれに合った装備と戦い方が出来る子が居るんだよねー」
メルシュが、悪い笑みを浮かべていた。
「そう言えば今頃、他の皆は島に上陸する頃か」
俺達は突発クエストで船が停止させられたため到着が遅れるけれど、順当に行けば出港から丸三日後に島に到着予定だったはず。
「みんな……無事で居てくれよ」
全員で、第二十ステージで会える事を強く願う。
●●●
「見えてきた」
早朝、デッキ上部から船の進行方向にある島を見詰めていた。
「ファーぁ……早起きね、ジュリー」
黒髪おさげの眼鏡美少女、美巨乳のユリカが眠たそうに声を掛けて来る。
「あと二時間で三日前の出港時間だから、そろそろ島に着くはず。今のうちにご飯を食べて、下船の準備をしましょう」
「りょうかーい」
ここまでは、なんのトラブルもなく来られた。
観測者側が……デルタが仕掛けて来るとしたら、島に上陸後のどこかか。
レギオン、《龍意のケンシ》がバラけている今こそが、私達を潰す最大のチャンスのはずだから。
巨大なダルマのような物が島の中心にある、第十七ステージのおまもり島。
レギオンのためにも、ここで一つでも多くのおまもりを入手する。
それが、ここに来た私達の役目。
●●●
「こ、ここが第十八ステージ…………魔女の避暑地」
辿り着いた島に上陸し、そこから少し歩いて見えたのは、綺麗な砂浜が広がるビーチ。そして……。
「裸の人達ばっかり……ヤバいね、カナさん」
ユイちゃんが、無表情でビーチを見渡しながら私にそう言ってきた。
「も、もしかしてここ……ぬ、ぬぬヌーディストビーチってやつでは?」
海外には、裸で居るのが当たり前のビーチがあるって聞いたことはあったけれど……。
「魔女の避暑地だからか、女しか居ないねー」
「女性だけで、ちょっと安心しました」
遠慮無く素っ裸になり、楽しそうにしているアマゾネスのシレイアさんと、牛獣人のノーザンちゃん。
「つまり、男が居ればプレーヤーと思って言い訳だ!」
拳をバチンと掌に叩き付け、不適な笑みを浮かべる黒ヒョウ獣人のザッカル。
そっか……基本的に魔女しか居ないって設定だから、男はプレーヤーである可能性が高いんだ。
「……あ」
島の端に、私達がいつも転移する祭壇が。
順当ルートだと、あの祭壇に転移して来るのかな?
「こっからどうするんだっけ?」
「まずは、あのホテルにチェックインだね」
ユイちゃんの質問にシレイアさんが指差したのは、一戸建てが距離を開けて乱立する場所?
その手前に一軒だけ、二階建ての南国風の建物があるけれど……あれがホテル?
「手前のがホテルのロビーで、好きな家を借りられるはずだよ。本来は大金を払わないと止まれないけれど、私らは旅行者だからタダで泊まれる」
「まだ暫く、豪華な日々が続くってか。どうせならコセと来たかったぜ!」
私は絶対に嫌だ。イチャイチャしているのを見せ付けられるって、分かりきっているから。
「さっさと行きましょう、皆さん」
ノーザンちゃんに促され、進み始めて間もなくの事だった。
「あら、こんな所で会うなんて奇遇ね、ユイ」
「……カオリ……お姉ちゃん」
長い黒髪の、ちょっと妖しい雰囲気の綺麗な人が、仲間を二人引き連れた状態でホテル側からやって来る!
この人達の顔……昆虫村で見掛けた覚えが。
へ? 声を掛けてきた子とユイちゃんて、本物の姉妹なんですか?
似ているような……似ていないような。
「……フーン、雰囲気が変わったわね。男でも出来た?」
「うん、コセさんとエッチした」
――そこでエッチしたって言うんだ!!
「お姉ちゃんも、アテルとエッチしちゃった。そのおかげか、以前よりも剣士として高見に昇れた気がするわ」
エッチを経験して高見にって……うん、意味が分からない。
「ここで……決着を着ける?」
「今のユイとは手合わせしてみたいけれど、私達は他のレギオンメンバーとの合流を優先しなきゃいけないから~」
「そうです。今はアテル様との合流を急ぐべき」
金髪のショートカットの女性が、強情な雰囲気でそう言ってきた。
「あ、紹介するわね。彼女はアデール。フランス生まれで、十四の時に日本に引っ越して来たんですって」
「カオリ、余計な事は言わないで頂きたい」
外人さんにしては、随分慇懃無礼な方ですね。
「相手は三人。いずれ敵対すると分かってるんだ――ここで雌雄を決するのもアリなんじゃねーか?」
ザッカルから、不適な敵意が!!
「調子に乗んな、ザッカル」
斧とハンマーの複合武器のような物を出現させ、威嚇してきたのは……白い角が生えたガタイの良い茶髪の獣人女性!
「お前……誰だ?」
「私だよ! 水牛獣人のバッファだ! お前よりも先にコイツに買われたバッファだよ!」
「…………ああ、やたら奴隷商館でイキってた奴!」
「お前……相変わらず腹立つな」
本当にザッカルの知り合いなんだ。
「まあ、そっちがその気なら――――仕方ないけれど」
カオリと言う人の途轍もない殺気に、思わず後退して戦闘態勢に移行してしまう私!!
て、後退したの私だけ!?
「フフ、冗談よ……でも、隠れNPCを除けば、ユイの次に強いのって貴女なのかしら?」
私に、妖しい視線を向けている!!
「ここの隠れNPCであるサキュバスは既に取られちゃっているみたいだから、私達はさっさとボス戦に挑むつもりだったの。そういうわけだから、じゃあね~」
終始つかみ所が無い雰囲気のまま、三人は私達に背中を晒し、島の奥へと去って行った。
一昨日の夜、プレーヤーの意識が入った深海の鬼のようなモンスターを倒す際に、俺の武器は形も能力も変わった。
この現象が分かるのはメルシュだけだろうと思い、高速で海上を行く”耐弾性クルーザー”の上で尋ねた。
どうやらこの脱出ボート、クルーザーだったらしい。
「……ちょっと分かんないかな~」
嘘っぽい笑顔……観測者に見られている現状では言い辛いと判断したのかな。
「そう言えば、手に入ったクエスト報酬のSランク装備はなんなのです?」
スタンデッキの上、水着姿で俺に胸を押し付けるように腕を組みながら、メルシュに尋ねるクマム。
……昨日の朝に関係を持ってから、凄くベタベタしてくるようになったな。
トゥスカの前だろうがなんだろうが、凄いアピールしてくる。
あまりの遠慮の無さに、トゥスカがそこはかとなくイライラしているほどだ。
だから、昨日は落ち着いて話すどころじゃなかったんだよな。
そのトゥスカはというと、今は船の操縦をしてくれていた。
「”変幻なるキラーグレイブリーブ”。脚甲タイプの鎧装備だね」
メルシュが黒い脚甲を実体化させ、見せてくれる。
ギラギラした銀の装飾が付いた、格好良くも危なそうな見た目。
脚甲は確か、鎧装備欄を使うんだったな。
だから魔法使いは脚甲を装備できず、俺のように鎧を装備してる者も使用できない。
つまり、脚甲というだけで、鎧を装備していない戦士職に使用者が限定されてしまうのだ。
「Sランクにしては地味な効果しか備わってなんだけれど……幸いな事に、うちのレギオンにはこれに合った装備と戦い方が出来る子が居るんだよねー」
メルシュが、悪い笑みを浮かべていた。
「そう言えば今頃、他の皆は島に上陸する頃か」
俺達は突発クエストで船が停止させられたため到着が遅れるけれど、順当に行けば出港から丸三日後に島に到着予定だったはず。
「みんな……無事で居てくれよ」
全員で、第二十ステージで会える事を強く願う。
●●●
「見えてきた」
早朝、デッキ上部から船の進行方向にある島を見詰めていた。
「ファーぁ……早起きね、ジュリー」
黒髪おさげの眼鏡美少女、美巨乳のユリカが眠たそうに声を掛けて来る。
「あと二時間で三日前の出港時間だから、そろそろ島に着くはず。今のうちにご飯を食べて、下船の準備をしましょう」
「りょうかーい」
ここまでは、なんのトラブルもなく来られた。
観測者側が……デルタが仕掛けて来るとしたら、島に上陸後のどこかか。
レギオン、《龍意のケンシ》がバラけている今こそが、私達を潰す最大のチャンスのはずだから。
巨大なダルマのような物が島の中心にある、第十七ステージのおまもり島。
レギオンのためにも、ここで一つでも多くのおまもりを入手する。
それが、ここに来た私達の役目。
●●●
「こ、ここが第十八ステージ…………魔女の避暑地」
辿り着いた島に上陸し、そこから少し歩いて見えたのは、綺麗な砂浜が広がるビーチ。そして……。
「裸の人達ばっかり……ヤバいね、カナさん」
ユイちゃんが、無表情でビーチを見渡しながら私にそう言ってきた。
「も、もしかしてここ……ぬ、ぬぬヌーディストビーチってやつでは?」
海外には、裸で居るのが当たり前のビーチがあるって聞いたことはあったけれど……。
「魔女の避暑地だからか、女しか居ないねー」
「女性だけで、ちょっと安心しました」
遠慮無く素っ裸になり、楽しそうにしているアマゾネスのシレイアさんと、牛獣人のノーザンちゃん。
「つまり、男が居ればプレーヤーと思って言い訳だ!」
拳をバチンと掌に叩き付け、不適な笑みを浮かべる黒ヒョウ獣人のザッカル。
そっか……基本的に魔女しか居ないって設定だから、男はプレーヤーである可能性が高いんだ。
「……あ」
島の端に、私達がいつも転移する祭壇が。
順当ルートだと、あの祭壇に転移して来るのかな?
「こっからどうするんだっけ?」
「まずは、あのホテルにチェックインだね」
ユイちゃんの質問にシレイアさんが指差したのは、一戸建てが距離を開けて乱立する場所?
その手前に一軒だけ、二階建ての南国風の建物があるけれど……あれがホテル?
「手前のがホテルのロビーで、好きな家を借りられるはずだよ。本来は大金を払わないと止まれないけれど、私らは旅行者だからタダで泊まれる」
「まだ暫く、豪華な日々が続くってか。どうせならコセと来たかったぜ!」
私は絶対に嫌だ。イチャイチャしているのを見せ付けられるって、分かりきっているから。
「さっさと行きましょう、皆さん」
ノーザンちゃんに促され、進み始めて間もなくの事だった。
「あら、こんな所で会うなんて奇遇ね、ユイ」
「……カオリ……お姉ちゃん」
長い黒髪の、ちょっと妖しい雰囲気の綺麗な人が、仲間を二人引き連れた状態でホテル側からやって来る!
この人達の顔……昆虫村で見掛けた覚えが。
へ? 声を掛けてきた子とユイちゃんて、本物の姉妹なんですか?
似ているような……似ていないような。
「……フーン、雰囲気が変わったわね。男でも出来た?」
「うん、コセさんとエッチした」
――そこでエッチしたって言うんだ!!
「お姉ちゃんも、アテルとエッチしちゃった。そのおかげか、以前よりも剣士として高見に昇れた気がするわ」
エッチを経験して高見にって……うん、意味が分からない。
「ここで……決着を着ける?」
「今のユイとは手合わせしてみたいけれど、私達は他のレギオンメンバーとの合流を優先しなきゃいけないから~」
「そうです。今はアテル様との合流を急ぐべき」
金髪のショートカットの女性が、強情な雰囲気でそう言ってきた。
「あ、紹介するわね。彼女はアデール。フランス生まれで、十四の時に日本に引っ越して来たんですって」
「カオリ、余計な事は言わないで頂きたい」
外人さんにしては、随分慇懃無礼な方ですね。
「相手は三人。いずれ敵対すると分かってるんだ――ここで雌雄を決するのもアリなんじゃねーか?」
ザッカルから、不適な敵意が!!
「調子に乗んな、ザッカル」
斧とハンマーの複合武器のような物を出現させ、威嚇してきたのは……白い角が生えたガタイの良い茶髪の獣人女性!
「お前……誰だ?」
「私だよ! 水牛獣人のバッファだ! お前よりも先にコイツに買われたバッファだよ!」
「…………ああ、やたら奴隷商館でイキってた奴!」
「お前……相変わらず腹立つな」
本当にザッカルの知り合いなんだ。
「まあ、そっちがその気なら――――仕方ないけれど」
カオリと言う人の途轍もない殺気に、思わず後退して戦闘態勢に移行してしまう私!!
て、後退したの私だけ!?
「フフ、冗談よ……でも、隠れNPCを除けば、ユイの次に強いのって貴女なのかしら?」
私に、妖しい視線を向けている!!
「ここの隠れNPCであるサキュバスは既に取られちゃっているみたいだから、私達はさっさとボス戦に挑むつもりだったの。そういうわけだから、じゃあね~」
終始つかみ所が無い雰囲気のまま、三人は私達に背中を晒し、島の奥へと去って行った。
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