ダンジョン・ザ・チョイス
258.不安の中で彼女が求めたもの
知らない場所――だと気付き、勢いよく起き上がる!
「剣は!? ……あった」
隣のベッドの上に置いてあった……なんで?
「ここ、船の中?」
豪華客船で寝起きした時よりも、波の音が近い事に気付く。
ドアを開けて見ると、天井の低い薄暗い空間が広がっていた。
「コセさん?」
向こう側のドア近くの左ソファーをベッドにし……眠っているよう。
「へと……昨日は突発クエストで……脱出ボートで逃げようとして……ナオさんは残ったから……」
…………あれ、今この船には……私とコセさんの二人っきり?
この逃げ場のないボートの中、海のど真ん中で二人っきり?
ドアを開けて外に出てみると、雲が点々と浮かぶ青空が広がっていた!
「豪華客船が見当たらない……本当に二人っきりってこと?」
その時、船の見取り図のような物が目に入る。
「……シャワー室とか付いてるんだ」
寝室の上にキッチンとシャワー、トイレが付いているみたい。
――ふと昨日の……神代文字を刻んだ時に感じた、自分が消えていく感覚を思い出してしまう!
「…………私は」
あの感覚を思い出せば思い出すほど、自分という存在がちっぽけに……価値のない物に思えてきて……それどころか、本当に私という人間が――篠原クマムなんて人間がこの世に存在しているのかって……そういう漠然とした不安に襲われてしまう!
「……取り敢えず…………シャワーでも浴びよう」
一瞬、男性アイドルにレイプされかけた事を思い出したけれど……私は邪な感情を胸に秘めながら、身体を洗う事にした。
●●●
「……ん」
身体に不自然な重みを感じ、少しずつ意識を覚醒させていく。
昨日は高そうなボートで脱出して……そうだ、早く船を動かして皆に追い付かないと。
「……なんでこんなに重いんだ?」
などと思いながら寝ぼけまなこを原因に向けてみると…………クマムが俺のお腹に跨がっていた。
「……クマム? ん? ……へ?」
おかしいな……クマムが服を着ているように見えない。
「…………こんな夢を見るなんて……俺って、クマムをそういう対象として見てたのか?」
などと口にしている間に、どんどん意識が鮮明になっていく!
「あの……私と…………セックスしてくれませんか?」
「……へ?」
その言葉に、下半身に火が入ってしまう!
「……急にどうしたんだ?」
「分からない……けど…………貴方が欲しいの」
熱に浮かされたような表情を浮かべ、俺の胸に手を付いて……乳房を揺らしながら顔を近づけてくる。
「まだ、俺はなにも……」
クマムの瞳が、不安そうに……儚く揺れる。
その目は、自分の前世に引け目を感じていたメグミ、自分の遺伝子に恐怖を抱いていたクリスとも重なった。
「私は……ダメですか?」
ますます近付いてくるクマム!
やばい――このままじゃ流され……でも、クマムのこと、普通に嫌いじゃないんだよな。
最初の頃のユリカやナオに対してのような嫌悪感はなく、むしろジュリーやルイーサに対してのような安心感というか……そういう感覚を抱いていた。
性的対象として見ちゃいけないとすら思い込んでいたかもしれない。
「……本当に、俺で良いの?」
それはクマムに対してと言うよりも、自分に対して口にした言葉だった。
こんな調子で、どんどん色んな子に手を出していって良いのかと。
「分かんないです……でも、不安なんです……コセさんが私を求めてくれたら、ナオさんが言っていたように……この不安から逃れられるような気がするんです……だから」
その雰囲気が、皆の前から姿を消そうとした、自棄になったかつてのナオと重なって……それ程に、今のクマムが追い詰められているのだと理解してしまった。
「俺は、一度受け入れたら絶対に離したくなくなるタイプの人間だ」
「……へ?」
「もし今後、クマムが俺と別れたいって言っても――」
自分が、ここまで異性関係で強欲になれる人間だなんて……この世界に来るまで微塵にも思わなかったな。
「絶対に離さないから」
「……末永く、よろしくお願いします!」
クマムの背に腕を回し、強引に引き寄せ、乳房の圧を感じながら唇を貪る!
「ん……ぁん♡ クチャ、んッ♡♡!」
クマムの方も、情熱的に応えてくれる。
「ん♡ んっ♡♡!」
右手でクマムの綺麗な太股を撫で、お尻から背へと滑らせ、左手で彼女の後頭部をガードしながら――体勢を入れ替える!
「ハアハア、ハアハア♡」
熱に浮かされた黒髪ロングの美少女の身体に、新しい妻の綺麗でエッチな身体と心に――無遠慮に何度も何度も、俺を刻み込み続けた。
★
「ん……」
「ん……コセ……さん♡」
クマムとの行為ののち、眠ってしまっていたらしい。
密着くしながら眠っている可愛い新妻の髪を、軽く指で梳かす。
「……そうだ、船を動かさないと到着が遅れる!」
ただでさえ豪華客船の方が速く、ノンストップで進んで居るんだ! 俺が船を動かさない分、みんなを待たせることに――
「あれ? ……船が動いてる?」
微かなエンジン音と身体に感じる引力のような物により、船が高速で進んでいるのが分かった!
「お目覚めですか、ご主人様?」
「……トゥスカ? へ、どうやってここに!?」
昨夜、豪華客船と別れた時には居なかったはず!
「奴隷は、十二時間経つと主の元に強制的に転移させられる。お忘れですか?」
「そう言えば……そうだったな」
十二時間もトゥスカから離れた事なんてなかったから、すっかり忘れていた。
「船はメルシュが操縦してくれていますが……もしかして、私達に来て欲しくありませんでしたか?」
「いやいやいやいや、凄く助かってます!」
トゥスカさんからの圧が凄い!
「少し目を離すと次々と新しい女性に手を出して……この三日だけで三人も。さすが、私のご主人様ですね!」
これ……本気で嫉妬してるな。
よく考えたら、トゥスカを交えて以外で他の子と寝てる姿を見られたのは初めて……あれ?
「三人もって……知ってたのか」
「メグミとクリスの事ですね。むしろ、モモカをそちらに近付けないように気を遣ってましたよ」
「……すんません」
隠していた事を謝ったわけではない。別に隠す気なんてなかったし。
ただ、モモカが居る前でそういう報告をするのがどうかと思っただけで……むしろ、メグミがサトミさんに知られるのが怖かったみたいで、取り敢えず言わなかっただけなんですよ、本当に。
たから、今のは気を遣わせてしまった事に謝罪しただけです。
「ナオや皆は無事か?」
ふと、気になっていた事を思い出した!
「ええ、全員無事です」
「良かった……」
別れ際があんなだったから、万が一があるんじゃないかと心配だったんだ。
「……メルシュの話しだと、どんなに急いでも丸二日は掛かるそうです」
「本来なら、明日の朝には着いているはずだったのにな」
突発クエストで船が停止していた事と、このボートの速度が豪華客船ほどではないこと、ずっと走らせっぱなしには出来ないなどの理由から、到着が大幅に遅れるのだろう。
このボートに自動操縦機能なんて無いし。
「というわけで、丸々二日間は基本的に暇なわけです」
「……トゥスカさん?」
「私の気が済むまで相手をシて貰いますよ。楽しみにしていてくださいね、私のご主人様♡」
「……はい」
もう、どっちが本当の奴隷なのか分かんね。
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