ダンジョン・ザ・チョイス
247.嵐の豪華客船
「後悔してますかぁ?」
「いや……」
プールの中で、俺にもたれ掛かっているクリス。
流されてヤった感は否めないため、彼女の肩に手を置きながらつい尋ねてしまった。
「狡い真似してぇ……すみまぁせん」
「そうだな。詫びを貰わないと」
肩に置いていた手で顎をこちらに向けさせ、唇を奪う。
互いに唇を這わせ、○リウッド映画で見たような濃いめのキスを続ける。
「クリスはもう俺の物だ。そっちから誘ってきておいて、勝手に居なくなったりしたら許さないからな」
そんな気無かったはずなのに、なぜこうも人の心は移ろいやすいのか。
以前に一度だけ、ドキッとさせられた事はあった。
またトゥスカが地味に嫉妬しそうだが、誘いに応じてしまっても良いと思った時には、クリスが自分の人生に最後まで居ても良いって……そう思ってしまってたんだよな。
「嬉しいです……正妻のトゥスカさんにはぁ、詫び、入れなきゃですねぇ」
「仲よくしてくれると助かる」
トゥスカは俺に隠れて他の妻に陰湿な嫌がらせをするような人間じゃないし、俺次第で許してはくれるんだけれど……それに甘えてしまったら、あっという間に愛想を尽かされそうだ。
ふとした時に、そういう予感を憶える事が少なくない。
「プール、汚してしまいましたねぇ……どしましょう?」
「ダメ元で、NPCに頼んでみるか」
銃の撃ち方を習うはずが、プールでの青姦に発展してしまうなんて……さすがにハメを外し過ぎてしまっている気がする。
「……空が」
「スーパーセルでもぉ、発生しそうな勢いですねぇ」
船の進行方向に、大きな黒雲が刻々と成長していく様が見えた。
「早く中に入ろう」
船が転覆することは無いだろうけれど、雷に打たれて死ぬなんて事は、普通に有り得そうだからな。
「そですね」
雷の音が轟き始める中、船内に入ろうとする俺達――の前に……顔を真っ赤にしたクマムが居た。
………………やば。
●●●
「風が強くなって来たと思ったら、雨まで降ってきたか。控え目に言っても、これは中々の豪雨だな」
「お外、全然見えないね」
窓の外を眺めていた、メグミさんとモモカちゃんの会話が耳に届く。
万が一の時のために、私達は一カ所に集まっていた方が良いということになり、これと言った落下物の無い、最上階にある簡素なラウンジ一緒にいる事となりました。
……非常事態なのに、私の頭の中は一時間ほど前の光景がずっとループしている!
どうしてナオさんから逃げようとすると、エッチな現場に遭遇してしまうんですか……ぅう!
相手がコセさんだったから、まだ良いような物を…………良いんだ、私。
「食糧や毛布を持ってきました。毛布を敷き詰めるのを手伝ってください」
トゥスカさん達が、大量の毛布やらを持ってラウンジに入ってくる。
船の揺れが激しくなってきたため、怪我を防止するための処置なのだそうだ。
この船の物は、購入した物以外はチョイスプレートにしまえないそうで、私達は手分けして、各所から集めた毛布やらをこのラウンジへと運び込んで居たのです。
「て、手伝います」
煩悩を退けようと大量の毛布を抱えたトゥスカさんに駆け寄ると――その後方に居たコセさんと目が合ってしまう!
「「あ……」」
凄く……気まずい。
「ああ……この毛布を頼む。俺は植木とか、危ない物を運び出すから」
「は、はい――わ!!?」
急な船の揺れに、よろけてしまう私!!
「その……大丈夫か、クマム?」
偶然だけれど、コセさんが受け止めてくれた。
「あ、ありがとうございます……」
「いや……気を付けてな」
私……日増しにコセさんを男性として意識してしまっている。
●●●
「うぇぇ……」
「大丈夫ですか、サトミ様……ぅう!」
サトミさんとリンピョンが、船酔いで完全にダウン。
部屋の端っこで、毛布にくるまりながら吐き気に耐えている。
今の状況じゃ窓なんて開けられないし……頼むから吐かないでくれよ。
今なら、貰いゲロする自信があるから。
モモカはメグミの傍で揺れる船を楽しんでおり、ナオはこれまた部屋の端っこというか、俺から最大限に距離を取っているクマムの傍に。
そりゃまあ……現場を見てしまったら、さすがに引くよな。
向こうの世界の善良な人間にとって、複数の女性に手を出している時点で俺は最低なのだから、普通に嫌われて当然。
むしろ、なぜそれでも行動を共にしてくれている女子がこんなにも居るのか……正直、とても不思議だ。
「船の中って、二十四時間電気が付けっぱなしなんだな」
全員が簡素なラウンジに集まってから、既に六時間以上。
船の揺れも雨音も、時間の経過と共に酷くなっている。
「ご主人様は、真っ暗にしないと眠れないタイプですもんね」
トゥスカに指摘される。
真っ暗と言っても、月明かりは全然問題ないんだけれど。
「トゥスカは、明るくても平気なんだっけ?」
「焚き火の近くで眠る事もあったので、少しは慣れてますけど、部屋全体が半端に暗いのは好きじゃないですね」
昔は豆電球じゃないと怖かったけれど、一人で眠るようになってからは光源があると苦痛に感じるようになった。
それからは、雷鳴や風、雨音は、世の中のどんな音楽よりも自分を癒してくれる物になっていたな。
逆に、人の声や機械音、生活音、人が作り出す音を益々不快に感じるようになっていって……。
それらを良い物と定義しようとすると、自分が物心つくまえから大切にしていた物が……自分の中から消えてしまう感覚に襲われた。
だから、この世界に来る前までの俺は……なんていうか……とても不安定な存在だったように思う。
トゥスカと出会ったあの時から、俺はより俺らしくなれた気がしてならないのだ。
「ご主人様?」
「いや、なんでもな――」
―――突然、船の灯りが消えた?
「この部屋だけじゃないな。船全体の灯りが消えたみたいだ」
メグミの言葉で外を見ると、稲光以外の灯りは一切見えない。
つまり、あるはずの船の無数の灯りが、一切海を照らしていないと言うこと。
「揺れ……収まってきた?」
「……そう言えば」
サトミさん達の言うとおり、揺れが少し小さくなった気がする。
「メルシュ、なにか分かるか?」
「船が完全に停止したみたい。嵐が起きるだけでもおかしいのに……これは、間違いなく仕掛けて来ると思うよ」
――メルシュがそう言った瞬間、船全体に大音量の声が響く。
『これより突発クエスト、魔の海域を脱出せよを開始する。死にたくなければ、ありがたく俺の言葉を聞くが良い!』
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