ダンジョン・ザ・チョイス
237.レクチャーと釣り
ボス戦を終えてから数時間後の昼前、館の食堂にてジュリーから説明を受けている俺達。
「それで、ボス戦を終えた直後は転移先が選択制で、十六番港、十七番港、十八番港、十九番港の四つから選べる」
「もしかして、進むステージをショートカット出来るって事?」
アヤナが尋ねた。
「レギオンに所属していない状態、もしくは四人以下のパーティーで挑んだ場合、十六ステージに強制転移され、ステージを順番に回って行かないといけない。ただし、そのルートを通ると、選択した場合に出来るイベントに参加できないんだ」
「ちなみに、選択制ルートを通った場合、そのステージのボスを倒すと第二十ステージに転移しちゃうから、まあショートカットと言えばショートカットだね」
メルシュが補足。
「全てのステージを回ると特定のイベントに参加できず、特定のイベントに参加できる分自分では見て回れないステージもあると」
「更に言うと、二十ステージに進むまではレギオン戦が出来なくて、別ステージに居るパーティーは、魔法の家のある空間でも会えなくなるんだよね」
「そのため、ボス戦を始めると私達は暫く会うことが出来なくなるんだ」
これまでのような、小まめな情報交換が出来なくなると。
「一番複雑な要素がある第十六ステージには、メルシュの居るコセ達に言って貰うつもりだけれど……その他はパーティー編成も兼ねて話し合っておきたい」
俺のパーティーはメルシュが居るから問題ないけれど、その他のパーティーは今のうちに色々聞いて覚える必要があるから大変そうだな。
「ということは、このステージだとすぐにボス戦なのか?」
ルイーサが尋ねる。
「ちょっとしたクイズとか謎解きがあって、それを三問解けばボス戦が出来るよ」
「その答えを、メルシュさん達は知っているというわけですね」
メルシュの言葉に、スゥーシャが反応する。
「問題はたくさんあるから、全部教えるとなるととんでもない時間が掛かちゃっうんだよね」
「デルタ側からの妨害で、土壇場に問題を追加してくる可能性もありそうだけれど」
……ありそうだな。デルタの人間って陰険そうだし。
「覚えても無駄に終わるかもしれねーのかよ……正解できねーと、ボス戦には挑めねーって事か?」
「いや、正解出来るまで問題が出続けて、徐々に難易度が下がっていく。ちなみに、間違えるたびに罰金が加算されていって、一問間違うごとに1000Gずつ上がっていく。所持金が無くなったら強制終了。一度始めたら、三問正解するか所持金が無くなるまで終われないよ」
ザッカルの問いに、ジュリーが答えた。
「それ、所持金無くなったらどうすんの?」
今度はナオが尋ねる。
「所持品売るか、さっきの湖で魚を釣ってお金に変えて再挑戦だね」
一応、救済措置はあるんだ……いや、ゲームなら当たり前なんだけれどさ。
「まあ、幾つかの問題の答えは教えておくよ。難しい奴を中心に幾つか教えておけば、そのうち正解出来るでしょ。私達、隠れNPCは問題部屋に入れないし」
「間違えれば徐々に難易度は下がっていくから、所持金は気にせず、正解出来るまで続けてくれ」
そんなこんなで、メルシュとジュリーのレクチャーが進む。
●●●
「……釣れないな」
取り敢えず話が終わり、私は息抜きがてら湖に釣りに来ていた。
村で原始的な釣り竿とミミズを仕入れ、針にミミズを念入りに突き刺し、釣り糸を垂らすこと一時間……一匹も釣れない。
「メグミさん」
「……コセ」
なぜか、ヨシノとノーザンまで着いてきている。
だが、釣り竿を持っているのはコセだけ。
二人は私達から離れ、辺りを警戒し始めた。
「ヨシノとノーザンは、コセの護衛か」
「メグミさんが一人で釣りに行ったって聞いて、俺もやってみようかと思ったんだけれど……そうしたら、メルシュやトゥスカが護衛を付けるべきだって言いだしてな」
「それはそうだろう」
この世界で簡易アセンションを成功させてしまった以上、その意味を知る低周波の人間にとって、コセは水素爆弾よりも恐ろしい存在なのだから。
「まあ、一人で出歩くのが危険なのは分かってるんだけれど……たまには一人になりたいんだよ」
「その気持ちは分かるな」
人の気配のない場所で、一人しんみりと自然に身を委ねたい……己の存在すら忘れるほどに。
私自身、レプティリアンの因習から脱してからは、独りでいたいと思うことは増えた。
独りになることの大切さを感じてからは、他者をより身近に感じ、慈しむという感覚が芽生えていったように思う。
人に転生したあの世界では、他者を無駄に関わらせることで、己らしさを殺し合わせようとしていたように感じた。
偽善的なルールが満ちているのも、善人ほど心が壊れやすくするためだろう。
人類というものは、誰しも自分は善人だと思いたいようだからな……特に低周波の存在は、自分だけは正義だと思いたがる。
低周波の人間のやることは、生まれた星や国、環境が違えど大して変わらない。
他者を支配して搾取し、自分は善で、それ以外は自分の都合の良い悪にしたがる。
「「…………」」
私から二メートル程離れた場所で、釣りを始めるコセ。
意識を少し逸らすと、コセがそこに居るのを忘れそうになる。
それはつまり、コセがそれだけ高い周波数を発している……もしくは、私よりもかなり高い周波数を発しているからなのかもしれない。
「釣りは得意なのか?」
私の方から、心地の良い静寂を破ってしまう。
「小さい頃にお爺ちゃんに教えて貰っただけだから、得意ではないかな。釣り竿も、お爺ちゃんがその辺の木の棒で自作した奴だったし……それでも、かなり頑丈だった憶えがある」
「さすが、コセのお爺さんだな」
低周波の人間には、物を作れても猿マネしか出来ない。
道理や原理を理解し、自由な発想の元に新たな技術を生み出す。
他者に貢献するため、なにかを作り出したいと考える。
それが、高周波の人間の分かりやすい特徴の一つ。
「まあ……唯一、俺の漠然とした感覚を理解してくれた親族ではあったかな……」
親族か……私にとっては、特に意味のある言葉ではないな。
前世の記憶が少なからずあったから……家族という物に、言葉以上の特別な意味がほとんど無いと分かっていたからなのだろう。
「……メグミさんは、元の世界に帰りたい?」
「いや……こっちの世界の方が、まだ居心地が良いからな」
作られた歪な世界だが、時間に囚われずに大自然に身を委ねられるのは……素晴らしい事だ。
「コセ……あの時みたいに、メグミって呼んでくれないのか?」
「…………へ?」
間の抜けた表情を浮かべたコセの目を、小悪魔的な笑みを向けながら覗き見る。
「ドラコニアンと戦っていた時、私の事を呼び捨てにしてただろ?」
「ああ……なんというか、勢いでつい」
フフ……なんだか可愛いな。
「なら、今から呼び捨てにしてくれ」
「ああ……うん。分かったよ、メグミ」
――ッ!!
「メグミ?」
これは……たかが呼び捨てにされただけで、こんなにも心が踊るなんて。
……コセの子供を産むのも……悪くないかもな。
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