ダンジョン・ザ・チョイス
227.貧村の地下へ
「そろそろ攻略を再開しようと思うんだけれど、なにか問題がある者はいるか?」
荒野の貧村に辿り着いてから四日目の朝、朝食の場でみんなに尋ねる。
「だ、だだ、大丈夫です!」
「私も問題ない」
「そろそろ腕が鈍りそう」
「マスター、昨日の訓練はサボっていたくせに」
カナ、ルイーサ、ユイの順に、全員から問題ないという旨が伝えられた。
「攻略を再開するのは良いけれどよ、この前の突発クエストのなんとかジュエルっていう報酬はどうなってるんだ? 装備アイテムなら、なんでもランクが上げられるって代物なんだろう?」
ザッカルが尋ねてきた。
「そうなんだけれど、四十個しか無いから慎重に使いたいんだよね。ランクアップジュエルを持っている人は、取り敢えずそっちから使って欲しいかな」
”オールランクアップジュエル”だからな。武器か防具、指輪と、種類別に分けられている他のランクアップジュエルよりも便利な分、残しておいた方が後々困らないだろう。
「んで、オールランクアップジュエルが欲しい人は私と要相談で。神代文字対応の武器に優先的に使って欲しいんだけれど、これまでで一度も武器の名前が変わっていない人も居るよね?」
「私はまだです」
「私もです」
タマ、スゥーシャ、ザッカル、ジュリー、ノーザン、ルイーサはまだだったかな?
「名前が変わるのは、その人に最適化された証みたいなんだよね。逆に言うと、もしかしたら武器との相性が悪い可能性もあるんだよ」
俺の“グレートソード”、最初は強者って付いただけで形状とか変化しなかったけれど?
「そう言えば、ランクが上がるってつまりどういう事なの? 漠然と、能力が上がっているのは分かるのだけれど?」
「言ってしまうと、性能が上昇するだけですね。あと、武術スキルを使うときの威力の増加幅が、武器の性能とランクで計算されるので、地味に大切な要素になります」
サトミの質問に、ジュリーが答える。
「魔法使いの杖のように、魔法に関連した物は魔法の威力に結びつく。私の“黒魔法使いの短剣”ならば、魔法と剣術系スキルの両方だな」
「私の杖だと、煉獄属性が特に強化されるわけね」
フェルナンダの発言に、ユリカが補足じみた事を口にした。
「じゃあ、私の“紺碧の空は憂いて”は?」
「水と風を強化するから、“颶風魔法”を使うサトミには合ってるよ」
「そう……なんだ」
最近、自分だけ神代文字を刻めない事に落ち込んでいるように見えるサトミさん。
「では、今日一日準備に費やして、明日の朝に出発で宜しいですか?」
ヨシノが全員に尋ねる。
「そう言えば、今回、村に着いてからなにもしていない気がしますが……宜しいのですか?」
「ああ、この荒野の貧村の地上部分では、なにもイベントが無いんだよ」
クマムの質問にメルシュが答えるが……今までに無かったパターンだけれど、ゲームとしては手抜きになるんじゃないのか?
「パラディンリザードマンが出て来た穴があったでしょう? あの中に、この村の住民は暮らしているの」
「と言っても、隠れNPCのイベントを除けばなにも無いはず。鍛冶屋も無ければ売り物の品揃えも悪いし、他の場所で買うより十倍も高い」
「その分、食料品は高く売れるよ。今回は売らないけれど。ああ、みんなも売らないでね」
「……そう言えばあのイベント、隠れNPCのスライムと関連してたな。条件が緩いから、誰かに取られている可能性が高いけれど」
メルシュとジュリーが交互に語る。
ジュリーが言ったあのイベントというのが、なんだか怖いんだけれど。
★
「……暗いな」
翌日の早朝、俺達は全員で洞穴の中へ。
普通に立てるくらい縦には広いけれど、横はなんとかすれ違える程度しかない。
「他にも幾つか穴があったけれど、全員ここからで良いのか?」
「洞穴は地上の穴に沿って中で一周してるから、ここからでも全部見て回れるよ。私達は、このまま目的地に真っ直ぐ向かうけれど」
ルイーサの問いに、ジュリーが答えた。
最近、あの二人は一緒に居ることが増えたな。
「おお、冒険者……わしらに、食いもんを恵んでくれぇぇ!」
「お願いします! お願いします!」
「この子だけでも、なにか食べさせてあげたいんです! どうか!」
すれ違うNPC達が、次々と物乞いをしてくる。
「ね、ねぇ……少しくらい売っても……NPCではあるんでしょうけれど……」
「うん……心苦しい」
「ダメよ、アヤナちゃん、アオイちゃん。売らないって約束でしょう」
サトミさんが窘める。
「けど……」
「情けは人のためならず。半端な優しさは、むしろ犯罪に巻き込まれるきっかけになるぞ」
メグミさんが、サトミさんの援護に入った。
「わ、分かったわよ」
「お姉ちゃん……昔の彼氏に、可愛そうだからって数万円渡したことあったんだっけ」
「言わないでよ! ……四股掛けるようなクソ野郎だって知って、本気で落ち込んだんだから」
「大してイケメンでもないのにね。やたら被害者ぶって、優しい人ほど同情心煽られて渡しちゃってたんだよね?」
「アオイ……お願いだから、その話はもう止めて」
なんで、そんな生々しい話を俺が聞かなきゃいけないの?
そんな話が繰り広げられる中、道の横に穴を掘っ作ったような、カウンターしかない店らしき場所の正面を通りすぎていく。
「頼む……この”古代のインゴット”と食糧を交換してくれ! 肉となら幾らでも交換するから!!」
やたら必死に訴え掛けてくる、髭だらけのNPCのおじさん。
「サトミ、これとインゴットを百個程交換してちょうだい」
チョイスプレートを操作して、お肉をサトミさんに渡すメルシュ。
なんでわざわざサトさんミにやらせるんだ?
「メルシュ?」
「“古代のインゴット”は、古代属性の武器の素材になるんだよ」
「もしかして、私の武器の“古代王のブーメラン”のような物を作れるの?」
「トゥスカが持っている、“古生代の戦斧”の方が近いね。武器としての性能はイマイチだけれど、“古代の力”が付くから防具向きかな。素材を合成して出来る武具の中では、数少ないSランクを作れるから、序盤は心強いよ」
防具向きとなると、生かせる人間は限られるな。
「あんがとなぁ、あんがとなぁ! これを持って行きなさい。ここに居るときは、装備しておくと良いぞ」
「あら、ありがとう」
サトミさんがなにかを受け取り、チョイスプレートを操作して装備する。
首から下げるタイプの……青い貝殻?
「あれ?」
暫く進むと、今までと身なりの違う人間二人が、頑丈そうな扉の前に立っていた。
ここのNPC達はボロ布を巻き付けているだけなのに、この二人は頭にスカーフを巻き、ちゃんとズボンを履いている上に武器まで所持している。
「そこを通して貰える?」
「食糧を村の連中に売ったか?」
「ううん、売ってないよ」
メルシュと男達が会話を繰り返す。
「まあ良い。通って良いぞ」
男達が扉を開けてくれた?
「今の不穏な会話はなんだ?」
「みんな、ここからはダンジョンになるから、戦闘準備を整えてね。昨日も言ったけれど、ここを潜るとパーティーごとに同種の跳ばされることになるから」
なぜ答えてくれいないの、メルシュさん?
「では行きましょうか、ご主人様」
「ああ、うん」
トゥスカさんは全然気にしないのね。
荒野の貧村に辿り着いてから四日目の朝、朝食の場でみんなに尋ねる。
「だ、だだ、大丈夫です!」
「私も問題ない」
「そろそろ腕が鈍りそう」
「マスター、昨日の訓練はサボっていたくせに」
カナ、ルイーサ、ユイの順に、全員から問題ないという旨が伝えられた。
「攻略を再開するのは良いけれどよ、この前の突発クエストのなんとかジュエルっていう報酬はどうなってるんだ? 装備アイテムなら、なんでもランクが上げられるって代物なんだろう?」
ザッカルが尋ねてきた。
「そうなんだけれど、四十個しか無いから慎重に使いたいんだよね。ランクアップジュエルを持っている人は、取り敢えずそっちから使って欲しいかな」
”オールランクアップジュエル”だからな。武器か防具、指輪と、種類別に分けられている他のランクアップジュエルよりも便利な分、残しておいた方が後々困らないだろう。
「んで、オールランクアップジュエルが欲しい人は私と要相談で。神代文字対応の武器に優先的に使って欲しいんだけれど、これまでで一度も武器の名前が変わっていない人も居るよね?」
「私はまだです」
「私もです」
タマ、スゥーシャ、ザッカル、ジュリー、ノーザン、ルイーサはまだだったかな?
「名前が変わるのは、その人に最適化された証みたいなんだよね。逆に言うと、もしかしたら武器との相性が悪い可能性もあるんだよ」
俺の“グレートソード”、最初は強者って付いただけで形状とか変化しなかったけれど?
「そう言えば、ランクが上がるってつまりどういう事なの? 漠然と、能力が上がっているのは分かるのだけれど?」
「言ってしまうと、性能が上昇するだけですね。あと、武術スキルを使うときの威力の増加幅が、武器の性能とランクで計算されるので、地味に大切な要素になります」
サトミの質問に、ジュリーが答える。
「魔法使いの杖のように、魔法に関連した物は魔法の威力に結びつく。私の“黒魔法使いの短剣”ならば、魔法と剣術系スキルの両方だな」
「私の杖だと、煉獄属性が特に強化されるわけね」
フェルナンダの発言に、ユリカが補足じみた事を口にした。
「じゃあ、私の“紺碧の空は憂いて”は?」
「水と風を強化するから、“颶風魔法”を使うサトミには合ってるよ」
「そう……なんだ」
最近、自分だけ神代文字を刻めない事に落ち込んでいるように見えるサトミさん。
「では、今日一日準備に費やして、明日の朝に出発で宜しいですか?」
ヨシノが全員に尋ねる。
「そう言えば、今回、村に着いてからなにもしていない気がしますが……宜しいのですか?」
「ああ、この荒野の貧村の地上部分では、なにもイベントが無いんだよ」
クマムの質問にメルシュが答えるが……今までに無かったパターンだけれど、ゲームとしては手抜きになるんじゃないのか?
「パラディンリザードマンが出て来た穴があったでしょう? あの中に、この村の住民は暮らしているの」
「と言っても、隠れNPCのイベントを除けばなにも無いはず。鍛冶屋も無ければ売り物の品揃えも悪いし、他の場所で買うより十倍も高い」
「その分、食料品は高く売れるよ。今回は売らないけれど。ああ、みんなも売らないでね」
「……そう言えばあのイベント、隠れNPCのスライムと関連してたな。条件が緩いから、誰かに取られている可能性が高いけれど」
メルシュとジュリーが交互に語る。
ジュリーが言ったあのイベントというのが、なんだか怖いんだけれど。
★
「……暗いな」
翌日の早朝、俺達は全員で洞穴の中へ。
普通に立てるくらい縦には広いけれど、横はなんとかすれ違える程度しかない。
「他にも幾つか穴があったけれど、全員ここからで良いのか?」
「洞穴は地上の穴に沿って中で一周してるから、ここからでも全部見て回れるよ。私達は、このまま目的地に真っ直ぐ向かうけれど」
ルイーサの問いに、ジュリーが答えた。
最近、あの二人は一緒に居ることが増えたな。
「おお、冒険者……わしらに、食いもんを恵んでくれぇぇ!」
「お願いします! お願いします!」
「この子だけでも、なにか食べさせてあげたいんです! どうか!」
すれ違うNPC達が、次々と物乞いをしてくる。
「ね、ねぇ……少しくらい売っても……NPCではあるんでしょうけれど……」
「うん……心苦しい」
「ダメよ、アヤナちゃん、アオイちゃん。売らないって約束でしょう」
サトミさんが窘める。
「けど……」
「情けは人のためならず。半端な優しさは、むしろ犯罪に巻き込まれるきっかけになるぞ」
メグミさんが、サトミさんの援護に入った。
「わ、分かったわよ」
「お姉ちゃん……昔の彼氏に、可愛そうだからって数万円渡したことあったんだっけ」
「言わないでよ! ……四股掛けるようなクソ野郎だって知って、本気で落ち込んだんだから」
「大してイケメンでもないのにね。やたら被害者ぶって、優しい人ほど同情心煽られて渡しちゃってたんだよね?」
「アオイ……お願いだから、その話はもう止めて」
なんで、そんな生々しい話を俺が聞かなきゃいけないの?
そんな話が繰り広げられる中、道の横に穴を掘っ作ったような、カウンターしかない店らしき場所の正面を通りすぎていく。
「頼む……この”古代のインゴット”と食糧を交換してくれ! 肉となら幾らでも交換するから!!」
やたら必死に訴え掛けてくる、髭だらけのNPCのおじさん。
「サトミ、これとインゴットを百個程交換してちょうだい」
チョイスプレートを操作して、お肉をサトミさんに渡すメルシュ。
なんでわざわざサトさんミにやらせるんだ?
「メルシュ?」
「“古代のインゴット”は、古代属性の武器の素材になるんだよ」
「もしかして、私の武器の“古代王のブーメラン”のような物を作れるの?」
「トゥスカが持っている、“古生代の戦斧”の方が近いね。武器としての性能はイマイチだけれど、“古代の力”が付くから防具向きかな。素材を合成して出来る武具の中では、数少ないSランクを作れるから、序盤は心強いよ」
防具向きとなると、生かせる人間は限られるな。
「あんがとなぁ、あんがとなぁ! これを持って行きなさい。ここに居るときは、装備しておくと良いぞ」
「あら、ありがとう」
サトミさんがなにかを受け取り、チョイスプレートを操作して装備する。
首から下げるタイプの……青い貝殻?
「あれ?」
暫く進むと、今までと身なりの違う人間二人が、頑丈そうな扉の前に立っていた。
ここのNPC達はボロ布を巻き付けているだけなのに、この二人は頭にスカーフを巻き、ちゃんとズボンを履いている上に武器まで所持している。
「そこを通して貰える?」
「食糧を村の連中に売ったか?」
「ううん、売ってないよ」
メルシュと男達が会話を繰り返す。
「まあ良い。通って良いぞ」
男達が扉を開けてくれた?
「今の不穏な会話はなんだ?」
「みんな、ここからはダンジョンになるから、戦闘準備を整えてね。昨日も言ったけれど、ここを潜るとパーティーごとに同種の跳ばされることになるから」
なぜ答えてくれいないの、メルシュさん?
「では行きましょうか、ご主人様」
「ああ、うん」
トゥスカさんは全然気にしないのね。
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