ダンジョン・ザ・チョイス
225.異変
九文字刻んだ上、”泰然なる高潔竜の雄叫び”から“ドラゴンの顎”に力を注ぎ込んでいる。
「私はまだほとんど文字を刻めないので、メグミさんが羨ましいです」
リンピョンちゃん? 私に至っては、一文字すら出来ていないのよ?
「実戦で使うにはまだまださ。もしかしたら、複数の武器を使い分けられるリンピョンの方が上手いかもしれないな」
「この前の戦闘で三文字は安定して刻めるようになりましたけれど、まずは九文字目指せって言われちゃったんですよ」
メグミちゃんやトゥスカちゃん達がやっている訓練は、取り敢えず九文字引き出せてからって話になったのよね。
なぜかユリカちゃんは、トゥスカちゃんに対抗するように訓練しちゃってるけれど。
その他も、神代文字に対応したアイテムの持ち主は、文字を引き出す訓練をしていた。
「クリス、凄ーい!! 全部当たったよ!!」
「これくらい、かん簡単でーす!」
文字対応の武器を持っていないクリスちゃんは、昨日の赤い銃剣で的宛ての訓練をしている。
その様子を、モモカちゃんが見てはしゃいでいた。
「……私だけなのよね」
文字対応の武具を持ちながら、一文字も引き出せていないのって。
●●●
「見てみて、クマムちゃん! 六文字行けたわ!」
ナオさんが、赤と青の甲手に文字を刻んではしゃいでいる。
「あれ? ナオさん、甲手の形が……」
「へ?」
甲手の形が変わって、三重の花弁が少し咲き始めたかのように、腕部分のパーツが開いた?
「おわ!?」
花弁の隙間から、氷と炎が噴出!
「……“氷炎の競演を見よ”から、“氷炎の競演に魅せられよ”に変わったみたい!」
確かに、さっきまでの形状より、氷炎の噴出の仕方も華やかになった気がする。
「なんだか、クマムちゃんとお揃いみたいね!」
「へと……」
すみません……どの辺がお揃いなのか、私には全然分からないです。
「スゥーシャ! 私も六文字行けました!」
「私もです、それに、なんだかタマの気持ちが伝わってくる気がします!」
あの二人、数日くらい前から更に仲の良い友達みたいになってる。
私には……ああいう友達は居なかったな。
アイドルやってるって知って声を掛けてきた人も居たけれど、当時は有名じゃなくて……知名度が無いって知ったら、それを境に声を掛けてこなくなった。
仲良くしたかったわけじゃないけれど、あんな風に掌返されたら……自分の価値を否定されたみたいで……とても嫌な気分になった。
どうして私の価値を、そんな安い物差しで測られなきゃ行けないんだろうって。
「文字を通して、二人の意識が共振しているみたいですね。自然に共振して居るところを見るに、よっぽど相性が良いのでしょう」
テイマーのサキさんが褒めちぎる。
「神代文字……か」
もし私が文字を刻めるアイテムを手にしたとして……こんな心の穢い私が、文字の力を引き出せるのかな……。
「良い感じだね、マスター」
「ああ、思ったよりもスムーズに出来た」
白い宝珠の付いたブラウンの大剣から、横から見るとドラゴンの頭のように見える大剣に青い光が注ぎ込まれていく。
ルイーサさん達よりもスムーズに成功させており、その様子を見ていると、一昨日以前のコセさんとは雰囲気が大分違う気がする。
「……格好良かったな」
あの藍色の光を纏った時のコセさんは……まるで私の理想。
何者にも妨げられず、何者にも屈しない……孤高に生き抜いていける人間そのものだった。
もし、今コセさんに女として求められたら……断れる気がしない。
●●●
「文字を同時に刻むよりも楽だったな」
「その分、直接文字を刻める武具ほどの恩恵は受けられないけれどね」
確かに、込められる文字の力に限界がある気がするな。
「“グレイトドラゴンキャリバー”か……グレイトって偉大って意味だし、これも文字対応になれば良いのに」
“偉大なる英雄の光剣”は、刃が光だから全然重さが違くて、ちょっと同時には振りづらいし。
「……あれ?」
今一瞬、彩藍色の光が見えたような?
「どうかした、マスター?」
「いや……なんでもない」
メルシュが気付いてないって事は、俺の気のせいだろう。
「あ」
気を抜いたら神代文字が消えてしまった上、一気に疲労感が込み上げてきた!
「大丈夫、マスター!?」
「大丈夫、ちょっと疲れただけさ」
いきなり力が抜けたことにはさすがに驚いたけれど、膝を付いてしまったのは失敗だったな。
「大丈夫ですか、ご主人様!」
トゥスカにまで、心配を掛けてしまったから。
「ハハ、もう少し休みたいかな」
自分で思っていたほど、身体が回復していなかったのかもしれない。
◇◇◇
『やあ、カール。先日の生配信はご苦労だったね』
『お、オッペンハイマー……様』
わざわざ上司が作業部屋に出向いたというのに、酷い怯えようだ。
『アルバートは特に何も言ってきていないから、安心したまえ』
『う、上はなんと?』
上……ね。
『まず視聴者側だが、アセンションを知っている者達は怯えているようだ。知らぬ者は、これまでにない演出に歓喜しているよ。特に、いけ好かない最強種が日本人に殺されたのが、よっぽど嬉しかったらしい』
『……上は……上はなんと言っているのです!』
『アルファ・ドラコニアンは、大半が怒り狂っていたよ。同時に、ライトワーカーと戦いたいと声高に叫ぶ者も多くてね。裏切り者のシーカーの存在も、彼等の闘争心に火を付けたようだ』
『し、シーカー達は……他の人類はなんと……』
『クククク! 半ば恐慌状態だよ。あの異世界は半端に高次元を再現しているが、一時的にでもアセンションに成功したのは、奴等にとっても計算外だったようでね』
そういう奇跡を起こすからこそ、低周波の人類は、細胞レベルで高周波を発する人類を恐れるのだ。
『……私を……始末しに……来たのか』
『シーカー共がお怒りなのだ。取り敢えず――君の恐怖を奴等に捧げろ』
黒い靄を纏った者が二体現れ、カールの身体を拘束し、恐怖の感情を利用して心臓から生命エネルギーを吸い取っていく。
『やめろぉぉぉぉ!! やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! 死にたくない!! 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくなぁいッッッッ!!!! ……死にたく……ない…………』
『『jsg4hcqp』』
『ご苦労』
低周波に堕ちた存在を労うと、何処へともなく消えていく。
『悪いね、カール。先日の突発クエスト、個人的には君の働きに感謝していたのだが』
なにせ――こんなに早く、黄昏の翼に九文字刻んでくれたのだから。
それに、コセという少年のおかげで、ジュリーはますます文字を刻んで行くと確信出来た。
彼という導きがあれば、このゲームが終わる頃には……クククククク!!
『さて、私の計画の邪魔をされぬよう、シーカー共を黙らせなければ』
奴等、《龍意のケンシ》を追い詰めるのにちょうど良い駒も手に入った事だし……さて、ここからどうしてくれようか。
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