ダンジョン・ザ・チョイス
224.硝子の魔法使いマリナ
「貴女……どういうつもりですか?」
ご主人様に向かって放たれた蹴りを、左脚の“爆速のロイヤルグリーブ”で受け止める。
「……私の事を忘れていたバカ男に、ちょっとお灸を据えてやろうと思っただけだ」
「ご主人様?」
「スマン、本当に分からない」
彼女の顔に、不機嫌が滲んでいく。
これは……ご主人様に対していじけているよう。
「……ご主人様ってなに? ユウダイの事をそう呼んだの?」
「私の主であり夫であるご主人様を、ご主人様と呼んではいけないと?」
「へ? …………夫? ……今、夫って言った?」
……なんだか、途轍もなくショックを受けている?
この人……もしかしなくても、ご主人様に気がある?
「そんなにショックを受ける必要は無いよ、マリナ」
シレイアが、ショックから立ち直れない様子のマリナに話し掛ける。
「ここに居るほとんどの女は、コセの妻だから」
シレイア……わざと誤解を招く言い方を。
「シレイア、それだと全員がマスターの女みたいに聞こえるじゃん。厳密には、まだ九人だけなんだから」
メルシュまで、わざと煽るような言い方をした!?
「九人……あのユウダイが……そんなふしだらに…………」
「「「あ」」」
マリナが気絶し、倒れそうになったのをご主人様が抱き止めた。
●●●
メルシュ達の言葉によって、なぜか気絶してしまったマリナを抱き止める。
「なにをやっているんだ、お前らは」
それにしても、この子は誰なんだろう?
思い出せそうな気もするんだけれど、思い出せない部分が致命的となって、答えに辿り着けない……そんな歯痒い感覚に襲われている。
「マリナ……なんで気絶しちゃったの? なんか面白い!」
なぜか、コトリがはしゃぎだした。
始まりの村で一緒に戦ったって事は、この子の年は俺とそう変わらないはずなんだけれど。
「すみません、ギルマス。私の方で引き取ります」
「ああ、頼む」
申し出てくれたケルフェに、マリナを預ける。
「……ねー、ほぼ全員と結婚してるのに、女は九人だけってどういう意味だと思う?」
「私達みたいに、婚姻の指輪のために結婚した人がほとんどだけれど、そのうち九人とは正式に付き合っているという事では?」
リョウのパーティーの異世界人と、鹿の獣人と思われる二人がヒソヒソと話している。
「さすがギルマス……男としての格が違うんですね!」
リョウのその、俺を全面肯定しようとする姿勢はなんなの? 普通に怖いよ。
「リョウさん……一対一じゃなくても良いってこと?」
「私達獣人は一夫多妻制が珍しくもなかったので……私は構いませんよ、シホ」
「……確かに、私達が争っている場合じゃないわね」
俺をダシに、二人がなんらかの協定を結んだ様子……リョウのパーティーメンバー、なんか怖い!
「気絶した人が出て来ちゃったし、続きは明日の二十時くらいにしようか」
「……そうだな」
結局、マリナの正体が分からないまま、その場はお開きとなった。
●●●
「一昨日は出来てたのに……」
「そうは言ってもな」
リョウ達と話した次の日、館の外の草原で、メルシュに監修されながら藍色の光を出現させようとしてみたが、全然どうしたら良いのか分からない。
「十二文字までなら、なんとか維持できるようにはなったんだけれど……さすがに、三つ全てはまだ無理そう」
それでも、ドラコニアンとの戦い以前よりもノイズが……感覚に引っ掛かる感じがしない。
青い奔流を、ある程度自然に受け入れられる。
「“サムシンググレートソード”一本なら?」
「…………無理そうだな」
むしろ、更に文字数を増やす方が行けそうな気がしてきた。
「なあ、あの彩藍色の光ってなんなんだ? 十二文字より先に行こうとすると自然とああなると思い込んでいたけれど、なんだかまったくの別物って気がしてきたんだけれど?」
「……順序で言うと、本来は二十四文字刻めるようになった先の現象……私達はそれをアセンションって呼んでるんだけれど」
「アセンション?」
正直、あの彩藍色の力を使っているとき、意識がとても薄弱だった気がする。
自分という個が薄れて、別の俺が俺の身体を操縦しているような……まるで、他人が戦っているのを追体験しているような……白昼夢を見ていたような不思議な感覚。
思い出そうとすればするほど、あの時の感覚がよく分からなくなってくる。
「あの時、自分が口にしていた事とかも覚えてないんだね……ある意味安心かな」
「ん?」
メルシュ、この件でなにか隠してるのか?
「ま、アレは段階を踏まないと危険な能力だし、まずは二十四文字刻めるようになるのを目指そっか」
「……そうだな」
メルシュが隠すって事は、今は教えない方が良いと判断したのだろう。
「じゃ、トゥスカ達と同じ訓練をやろう」
「ちょっと休憩してからで良いか? みんなの様子を見て参考にしたいし」
「マスターの判断で構わないよ」
神代文字の光を静かに消し、俺とは別の訓練をしているトゥスカ達を見る。
「トゥスカさんは惜しいですね。マイマスターの方は、さっきより少し良くなりましたよ」
ヨシノが監督していたのは、トゥスカとユリカ。
今トゥスカ達がやっているのは、神代文字の力を神代文字対応以外の武器に注いで、威力を強化する方法。
トゥスカは、“荒野の黄昏の目覚め”から“古代王の転剣”に文字の光を纏わせようとして、ある程度上手くいっているように見える。
ユリカは、“煉獄は罪過を払いけり”から別の黒い杖に力を送ろうとするも、途中で光が明後日の方向に流れ、上手くいっていない。
「ジュリーとルイーサはこの前の戦闘で使っていたけれど……今はダメか」
フェルナンダが見ているのは、ジュリーとルイーサの二人。
二人はトゥスカと同程度は出来ているけれど、この前の戦いの時のようなスムーズ感はまるでない。
「難しいな」
「もっと簡単だった気がするんだけれど」
ルイーサもジュリーも困惑している。
「なんであの時は自然に出来たんだよ? そもそも、なぜ文字の力を他の武器に注ぎ込めると思ったんだ?」
「コセが、同時に複数の武器に神代文字を刻んでいたからか、なんとなく真似をしたって感じかな?」
「あの時、同じ感じでやれば出来るって思い込んでいたんだよ」
「……神代文字の共鳴によって、コセを通して無意識にやり方が分かったって事か……なら、コセと共鳴するつもりでやってみたら?」
「と言われても、よく思い出せないな」
「あ、出来た」
ルイーサが困っていた横で、ジュリーが“明星の遣いの嘆き”から“避雷針の魔光剣”に力を注ぎ込み続けている。
「……フー! かなり疲れるな、これ」
「ジュリー、どうやって成功させたんだ? 良かったらコツを教えてくれ」
「へ? …………耳を貸して」
「おう」
赤面しているジュリーがルイーサに耳打ちすると、ルイーサの顔も羞恥に染まる。
「……ジュリーは変態だな」
「うるさい! 教えろって言うから教えたのに!」
ジュリー、いったいどんな話をしたの?
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