ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

209.荒野の貧村

「”二重魔法”、”氷炎魔法”――アイスフレイムバレット!!」

 ナオさんが、青と赤のガントレット……”氷炎の共演を見よ”に神代文字を三つ刻んで、魔法を強化して放っている。

 試しって事で、私とシレイアさん、ナオさん、クマムさんの四人で挑んでいた。

「ステージギミックが発動したようだね」

 両脇の壁の穴から、水が流れ込んで来る。

『ギュルウウワアアアアアアアア!!』

 両腕のワニ頭を回転させ始めた……アレが危険攻撃。

「マスター、水位が上がってくると高速で突っ込んで来るようになる! 急いで上がりな!」

 全員が各々の方法で空を飛ぶ……クマムさんとナオさんのパンツが見えてグッジョブ!

「まあ……大丈夫……たぶん」

 水位があっという間に上がってきて、私の身長を超える。

 でも、”潜水”スキルのおかげで呼吸、発声が出来るから問題ない。

『ギュルウウウワアアアアアアアアアアッ!!』

 魔神・死回転鰐が姿勢を低くして、身体を全て水中に投じた。

「……来い」

 ”波紋龍閃の太刀”に、九文字刻む。

 今なら……吞まれずに更に先へと行けるはず!!

 ――――昨夜のタマさんとスゥーシャさんの嬌声が、私を更なる高みへと押し上げる!


「”鬼人刀剣術”――――紅葉狩り」


 両腕を突き出しながら水中を猛スピードで突っ込んできた魔神を――この部屋の水ごと、一刀の元に斬り伏せた。

 瞬間的にだけれど、十二文字まで刻めた!

「……よし」

 魔神が光に変わると、水もあっという間に引いていく。

「す、凄いですね、ユイさん」
「さすが、規格外を地で行く女」
「うちのマスターは、ちょいと力に頼り過ぎだね」

 三人が地面に降りてくる。

「勝てたのは、タマさんとスゥーシャさんと
コセさんの夜の営みが、私に力を与えてくれたおかげ」

 三位一体のソレが、私の見識を更に広げてくれた。

「……へ、変な方ですね」
「ユイは万年スケベなの?」
「うちのマスターは……アマゾネスのアタシでも手に負えない」

 なんか……三人に呆れられてる?


●●●


「”颶風魔法”、ストームダウンバースト!」
「”氷獄魔法”、コキュートスカノン!!」

 サトミの魔法で魔神の動きが止まったところに、リンピョンの氷の魔法が炸裂して身体の大半を凍結させてしまう。

「試してみるか」

 ”泰然なる高潔の哮り”に意識を巡らせ――大いなる意思へと繋がる!!

 文字を六文字刻み、壁から水が流れ込んで来る中、砲身の付いた翠と黄金の盾を翳す!

「”竜光砲”!!」

 氷に覆われていない胸から上部分を、跡形もなく吹き飛ばす!

「”ホロケウカムイ”! ”跳躍”」

 リンピョンが青いオーラを纏って、”紫雲猿の靴”で空中を駆け跳ぶ!


「”氷獄剣術”――コキュートスブレイド!!」


 空高くから、禍々しい冷気纏う蛇の刀剣で、ワニの魔神を一刀両断にするリンピョン。

「うーん。ムカつくけれど、この剣は気に入ってしまったな。使えば使うほどしっくり来るし」

 どうやらリンピョンは、これからは剣と円鋸の両方をメインにしていくようだ。

 特殊クエストで手に入れたスキルカードで”闇属性強化”と”氷属性強化”を取得したようだし、サトミは魔法メインの風と水特化、私は竜属性のタンク、クリスは隠れNPCオリジナルのバランスの取れた能力。

 なかなか良いチームになってきたように思う。

 ……ここにアヤが残っていたら、どんなパーティーになっていたんだろうな。

「わたぁし、出番無い。皆さん、働き者でぇす。さすが、過労死で有名な日本人でぇす」

 ソレは喧嘩を売っているように聞こえるぞ、クリス。

 まあ、世界的に日本人が働き過ぎで有名なのは知っているが、一日八時間労働が基本になった事情には、アメリカが関わっていると聞いたことがあるんだが?

 バブルが弾けたのだって、日本がアメリカの経済を追い抜いて一位になるのを恐れ、不当に条約に署名させたからだろう。

 まあ、アメリカ政府の裏にいた存在を思えば、当然の流れだったのだろうが。

 やり方が露骨になったのは、バブル期という状況が日本人の精神性、ライトワーカーの高潔な魂を失墜させるのに丁度良いとでも思い、傍観していたからなのだろう。

 440Hzヘルツを世界基準にしたのも、分かりやすすぎるほど露骨だったようだし。

 2021年……かの大統領が暗殺されなければ、まだ希望もあったのだろうが。

 音楽も、食も、情報も、精神性を腐らせる物で溢れたあの世界で、コセ達はよくここまでの精神性を保てた物だ。

 私のように、少なからず前世の記憶があるわけでもないのに。

○これより、第十四ステージの荒野の貧村に転移します。


             ★


 光が消えて視界が良好になると、いつもの祭壇の上から景色が……。

「なんだか寂しいところね」

 サトミの意見はもっともで、見えるのは暗雲立ち込める空と、見窄らしい一階建ての家が八つほどまばらに建っている、見渡す限りの荒廃した痛々しい大地のみ。

 星と神の意志により、文明が淘汰され、土地が痛んだ直後を思い出させる光景だ。

 ……多くの仲間達と共に、荒廃した世界にアトランティスを築いたが、ソレも、のちに人心を堕落させ、滅ぶ事となった。

 レプティリアンとして生きた私の生に……果たして意味などあったのだろうか。

「四人とも、怪我は無いか?」

 最後にボス戦を終えた私達を、コセが心配してくれる。

「問題ないわよ~」
「特に疲れてもいませんし、早く祭壇を降りましょう」
「ここぉ……気味悪い。早くお家、ゴーしまぁしょう! ヒッ!!」

 稲光で暗雲が輝き、小さく雷が轟いた。

「クリスちゃんが怖がってるの、可愛いわ~♪」
「サトミ様……わ、私も、雷怖いです~」

 リンピョン……どれだけサトミが好きなんだ。

「高いところに居るのは危なそうだな。さっさと降りて、魔法の家に避難しよう」
「そうですね」

 二十五人全員で、急ぎ祭壇の階段を降りていく。

「上からパッと見た感じ、人どころかNPCすら見当たらなかったな」
「祭壇のすぐ下には居るみたいだけれど」

 いつも祭壇傍に居る、この場所を簡単に説明してくれるNPCか。

「あれ、消えたよ?」

 祭壇をもうすぐ降り終わるという所で、NPCが突如消えたことに気付くモモカ。

「これはもしや?」
「……突発クエストの前兆」

 ルイーサとカナの言葉を肯定するように、罅割れた大地に、人が一人余裕で通れそうな程の穴が拡大していく!!


『テステス、アー、アー……これより、突発クエストを開始する』


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